※この作品はR-18です。

MIDNIGHT   作:Libby博士

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「どう?」

 レヴィにしては珍しい純白のワンピース。
 検査服を身にまとった彼女は【敗者】の肩に手を置き、モニターを覗き込むような動作を取る。

「ふむ……」

 【敗者】は片手でレヴィの頭をわしゃわしゃと撫でながらもう片手でモニターを凝視していた。
 観察していたのは眼球と脳のデータ。
 彼は示された数値の中から異常値を見つけ出しては試算を繰り返し、解を導いている。

「……」

 固唾を飲み、レヴィは静寂の中でキーボードの音だけを耳に入れた。
 【敗者】からの答えが出るまで、ずっと、ただひたすらに。
 しばらくの時間、淹れた紅茶が冷めるほどの時の後【敗者】は口を開く。

「……分かった」

「わかったの?」

 【敗者】は眉を顰め深刻そうな顔でモニターから目を離してレヴィの方へ視線を映した。
 光を吸収しない散大した瞳は【敗者】の姿を目に入れてもうんともすんとも動かないが、グラン類似エネルギーが僅かに活性した瞬間だけ瞳孔が細まる。
 まるで、彼女にとってグラン類似エネルギーだけが目に収めるべき光であるかのように……

「僕なら治せそうだ」

「ほんと……?!」

 レヴィの体は思わず強ばり、緊張した眼差しで彼を見つめる。

「とりあえず……原因から説明しようか」

 【敗者】はレヴィの体を離し椅子をぐるりと回すと、彼女の方に向き直り端末を操作した。
 レヴィの前に現れたモニターにはアクセシビリティ機能のハプティクスが付けられた、平面的だが立体的に感じられる画面が映っていた。

「まず、原因はエネルギーの変異だ」

「え、失明なのにエネルギー?」

 レヴィは渡されたデータに触れる。
 そこにはレヴィの体内に関する数値が並んでおり、グラン類似エネルギーと菌、【敗者】の因子と並んで未知の因子が表示されていた。

 そのデータを開いてみると、未知の因子が体内の、特に脳に多く定着し神経細胞を置換している旨の内容書かれている。

「前にダークファルスの肉体について説明したことを覚えているか?」

「えーっと……ダークファルスの体は人を依代にしてるけど、体内は細胞と同機能を持つ変異ダーカー因子によって書き換えられるって話?」

「そうだ。興味深いことに、お前の体でも同様のことが起きていた。つまり原因はダーカー因子、それもグラン類似エネルギーと融合したダーカー因子となっている」

 普通、LNPエンジンの解体で深刻な拒絶反応を起こしており、その状態を改善しないままさらに単独で船まで運搬していたのだから拒絶反応で偶然視神経だけやられたと考える方が自然だ。
 だがそうにしては眷属による治癒のテクニックでも器を変えても治らないのはおかしい。
 レヴィは驚きつつも妙に納得感のある答えに思わず感嘆した様子で唸る。

「フォトンアレルギーの症状じゃなくてダーカー因子だったんだ……でも、そうなるとどうして器を移しても失明状態が続いてるの?」

 だがレヴィからしてみれば、変異ダーカー因子だとわかったとしても器の移動すら意味が無いというのは少し疑問に思える事だった。
 【敗者】から渡されたデータの通り変異ダーカー因子は体に定着している。ならば器の移動によって因子は元の器に取り残され、魂や意識の引き継がれる新たな器にわざわざ因子が取り付いてくるものなのだろうか、と。
 だがこれは器の移動原理を理解出来ずテゾルを生み出してまでその技術を読み解こうとしたレヴィ故の疑問。

「それは、器を移す時に肉体を構成するエネルギーも全て移動させているからだ。そもそも、肉体を変えるシステムというのはよりフォトンを扱える器を求めてのこと。器を変えるにおいて魂の移動など所詮アイデンティティの保持に過ぎない。エネルギーを移さなければ意味が無いんだ」

 フォトナーは最初から永遠の命を求めて器を作った訳ではない。彼らはより精度の高いフォトン変換機構と蓄積機構を兼ね備えた究極の器を求め、高い技術力を得るために器を変えた結果、副次的な効果として肉体の老化と魂の維持が不老不死という現象を招いたに過ぎないのだ。
 だからアークスが思う永遠の命や権力のための器の移動というのは【敗者】からしてみれば浅ましい理屈であり、彼からすればそんなものならダーカーになるだけで終わる話でしかなかった。

「だから眷属での治療もダメで、器を変えても無意味だったってことね……」

 レヴィはその言葉で納得し満足していたが、【敗者】は教授している立場でありながらむしろ一層悩んでいる様子で。

「興味深いのは、変異ダーカー因子は悪意により変化したとは思えないことだ。
変異ダーカー因子に汚染された状態のレヴィにはフォトンに対する高い耐性がある事が確認できた。
つまり、エネルギーが変異したのはフォトンアレルギーによる激しい拒絶反応をきっかけに、肉体が防衛反応として体内のグラン類似エネルギーとダーカー因子の結合が促進され、フォトンに対して高い耐性を持つ状態を作り出すためだったということになる」

 ダーカー因子は負の感情に惹かれるのと同じくらい生への強い欲求を持っている。
 フォトンアレルギーという極限状態の中で、ダーカー因子がレヴィの体内で適応するためにさらに進化をする事になんら不自然なことはない。
 が、問題はそこではない。
 【敗者】は発生原因と結果の間に納得出来る理屈が見出だせないことに不快感を感じていた。

「だが、不可解なのはなぜそれで"失明"したかということだ。変異ダーカー因子を解析した結果、その因子自体に視神経や脳に対して信号を送る働きはなかった。
つまり、レヴィが変異ダーカー因子を蓄積した時に、高いフォトン耐性という力を発揮するために失明したという訳だ。
失明とフォトン耐性に関して、関連付けできるような要素はない」

「……フォトン耐性という観点において、失明してる方が適してると判断したってことね。確かにそれは変だ……」

 異常ダーカー因子によるレヴィの体への損傷は失明以外なかった。もし脳に住み着いた因子が神経などに働きかけているのなら、器を移したり変異因子の状況が変わる時に失明以外に何かしら変化が起きないとおかしい。それなのに変異因子は何故か的確にレヴィの視界だけを奪い、器が変わりエネルギーが移動しても寸分違わず視神経のみを塞いだ。
 それなのに変異因子に視界を意図的に奪うような性質は見当たらない。
 なら、一体なぜ、どうして、何がそうさせたのか。
 失明状態がレヴィにとって適していると定めたのは変異因子でないならなんだと言うのか。ただ生存と強化のために惹かれただけなら、レヴィの深層が盲目という強化を求めたのか……

 【敗者】は自分の思考が深い海の中に入っていく前に自らモニターを閉じ深遠にも思える未知を遮った。

「この点に関しては目下調査中だ。
とにかく、治療するには変異ダーカー因子を取り除く他ないということになる」

「分かってみれば単純か……」

「だが、お前の今の体は菌の汚染により損傷……特に浄化腺へのダメージが深刻な状態になっている。そのため、現在の肉体で変異ダーカー因子を取り除いてから、器を入れ替え肉体の状態が完全に治療されたことを確認するまで処置完了とはならない。変異ダーカー因子は特に脳の奥深くにまで侵食しているため、かなり大規模な外科手術が必要になる。
よって、明日全身麻酔を行い器の交換を行うことにしよう」

「わかった。よろしくね」

 その言葉の後、二人は一時解散した。
 【敗者】が手術の準備に取り掛かる中、レヴィは帰宅の為荷造りを続ける。

 オラクルに帰ったら屋敷に住み着いた猫を撫でてから、ジグとマグノリアに進捗の報告をして、シルンに宙技士の実務試験を教えて貰って、それから……

 と、レヴィはこれからの事を考えていた。
 技術を付け、力をつけ、設備を整え、宇宙の全てを【敗者】に差し出し、彼が全知存在になる。
 あまりにも遠いように思える目標だ。
 最弱と言われる自分が、宇宙を掌握する程の力を得るなど。
 人として生きることもままならないのに、本当にそれだけの力を得ることはできるのか。
 レヴィはプレッシャーを感じつつも、なんとなく【敗者】と一緒なら出来るかもしれない、と自信が出せる気がした。


 手術前の絶食の時間を荷造りと睡眠で終わらせたあと、レヴィは【敗者】に連れられ手術台の上に乗った。
 本当は眩しいほどの照明とホコリ一つない真っ白な壁が広がっているというのに、レヴィの視界は暗闇に包まれたまま。
 だが、それもこれで終わり。

 【敗者】の事も自分の事も信じられず、迷って逃げてを繰り返した罪の象徴はここで消える。
 今の彼女に、宇宙の全てと繋がる絶対感覚は不必要だ。



17話(1)

 

 ――一日と半分程の時間が経ったあと、レヴィは意識を取り戻した。

 瞼を開くと眩しいほどの照明が目に入り、白む天井のすぐ後に血よりも紅い瞳が彼女を覗き込む。

 薄い水色にビビッドピンクのグラデーション。眉目秀麗な面立ちの彼は間違いなく【敗者】そのひとであり、レヴィは彼と目を合わせると恍惚に頬を赤らめる。

 

「かっこいい……」

 

 【敗者】はレヴィの言葉にきょとんと目を丸くし、「僕の事を?」と言わんばかりに指で腮を撫でた。

 

「開口一番が顔か?」

 

 【敗者】は呆れたようにため息をついたがレヴィは彼の歪む表情を見てより一層感嘆し、思わずほろりと涙が零れる。

 

「なんか、目が見えて一番最初に見えるのが【敗者】なのって、なんか幸せっていうか……

わたしが赤ちゃんだったときも、最初に見た物が貴方だったら、多分嬉しくて、最初に喋る言葉も【敗者】だったと思う」

 

「おいおい、泣くほどじゃないだろう……」

 

「えへ、ごめんね、……でも、【敗者】のこといっぱい見れて嬉しくて……」

 

 レヴィは困ったように笑顔を浮かべるが、それでも目を閉じることはなくじっと彼の僅かな挙動の変化を凝視していた。

 見えることが泣くほど嬉しいというのは分からなくもないが、にしても相も変わらず含みのなさそうな言い方の割に常人じゃ出てこない言い回しだ。

 

「……」

 

 レヴィは自分の過去を深刻に話すことを嫌がる。同情して欲しくないとか、隠したいとか、そういうのを超えて、踏み込まれたくないような雰囲気を醸し出す。が、その割にこうやって言葉の節々で昔の事を匂わせる。

 

「お前が生まれて初めて喋った言葉は何なんだ?」

 

「……さっき言ったよ」

 

 だから、レヴィのあの言葉の裏に見える過去も勿論良いものなどではなく。

 

「ごめんなさい、って」

 

 レヴィは彼の瞳に映る自分の表情の情けなさを見てすぐに笑みを浮かべたが、【敗者】はそんな彼女を諭すようにぽんぽんと頭を撫でた。

 

「だったら【敗者】の方がいいな」

 

「でしょ?」

 

 レヴィの喜ばしそうな声に【敗者】も笑みを浮かべ、くすくすと笑い出す。

 

「僕もレヴィとか、もっと良いものだったら良かったものだが……」

 

「あんたはなんて言った?」

 

「覚えているわけがないだろう。数え切れない程の時を生きているんだ」

 

「それもそっか」

 

 レヴィはゆっくり体を起こし、水の入ったコップに手をつける。

 

「忘却とは残酷なものだな。全てを知りたいと望み、忘れないようにと器を変え記録を残し続けても、狂気は真理を奪い取る」

 

 【敗者】はそう言い、顎を撫で考え込んだ。

 

「きっと、"こんな解は間違っている"だったんじゃないか?」

 

「そうなの?」

 

「示された解が間違っていたからこそ、僕は正しい解を……全知を追い求めたんだ。となれば、ダークファルスになったきっかけはもちろん、嘆きだろう」

 

「確かに、合理的だね」

 

 レヴィはカラッとした言葉で返答したあと俯いた。彼のそれは合理的なんていう簡単な言葉で済ませていいものではない。

 己の中に抱える嘆きや苦しみをなかったようにしたり、軽々しく扱うのはそれほど酷く苦しんだ証……精神が壊れてしまう程抱えた大きな傷から自分を守るための、よくあるやり方だ。

 

「……」

 

 【敗者】は彼女と同様引きずることなく切り替え足を組み替えた。

 

「それでなんだが。今回のことを経てレヴィの体が整い次第、実験を行いたいんだ」

 

「実験……?失明で、なにか得られることがあるの?」

 

「大いに得られるものしかないが?」

 

 ここまで聞いてもたかが失明と片付けるレヴィのエネルギー研究への圧倒的無関心さに呆れつつ額を弾く。

 

「あうっ」

 

「レヴィがフォトンアレルギーの反応を示した際、グラン類似エネルギーはダーカー因子と結合し変異した。そしてダーカーもまた、グラン類似エネルギーを吸収すると結合し変異している。

つまり、この二つの因子は融合することでその性質を変化させるということだ。これをもう少し詳細に研究したい」

 

「……ユニゾン波とか言うやつ?」

 

「そうだ。ダーカーがユニゾン波の影響を受けて変異するという現象については説明したが、厳密に言えば変化をもたらしているのはユニゾン波ではなくグラン類似エネルギーだ。

ユニゾン波はあくまでエネルギーの伝達手段に過ぎない」

 

 ダーカー因子がフォトンを侵食し、フォトンがダーカー因子を浄化するようにこれらのエネルギーには通常親和性のようなものはなく、水と油のように混ざらないのが普通だ。

 だがグラン類似エネルギーはダーカー因子と融合することで性質やそれを宿す物の在り方を変える。それはエネルギー同士の融合という【敗者】にとって完全な未知に値する。

 

「また、今回の失明に関しても重度のフォトンアレルギー発作という極端な状況下においてダーカー因子とグラン類似エネルギーが融合した訳だが、実際この二つのエネルギーが融合すると、どのような性質を持つのかについてはよく分かっていないんだ」

 

「二つから察せられたりしないの?」

 

「グラン類似エネルギーには持つものの意思が強く関係している。

ダーカーであれば相手と良い交友を行いたいというレヴィの意思があり、失明の件であればフォトンに対抗するためのより強い力を備えなければならないという無意識下での意思がある。

だからこそ、完全に意思の介在しない、ニュートラルな状況で融合した場合のデータが必要になるという訳だ」

 

 そこまで言われればさしものレヴィもその特別さを解するが、かといってレヴィには疑問があった。

 

「ダーカー因子は簡単だけど、グラン類似エネルギーの採集って出来るの?生み出す時点で意思が込められているなら採集したサンプルにも既に意思が込められていて、完全にニュートラルな状況ってのは難しいんじゃ?」

 

 グラン類似エネルギーはレヴィの体内以外に存在しない力であり、フォトンと違って結晶化や液体化のようなエネルギー運用しやすい物質形態に変化することはなく、自然環境にも存在しない。

 そんな状況で、意思によって生まれるエネルギーを意思なく運用することなど果たして可能なのだろうか、とレヴィは思ったのだ。

 

「当然、それも考慮している。

結論から言えば、無意識下での採集ならば不可能では無いという試算だ」

 

「寝てる時ってこと?」

 

「あぁ。それで意思の問題はクリア出来る。

だが、少し前まで僕はある事で悩んでいた。

無意識下の採集を行うとしても、そもそも無意識下でグラン類似エネルギーが活性化するのか?という事だ。それは元々レヴィの体内に常にあるものだが、活性化しないと物質として捉えることが出来ない。

つまり、無意識下でありながら意思によって反応するグラン類似エネルギーを活性化させるのは難しい問題だと考えていた……」

 

 レヴィの疑問はもっともで、【敗者】はグラン類似エネルギーの活性状況が完全に意識を前提としていることから無意識下での収集というのを実現するには洗脳や泥酔、意識を失う直前など意識がありながらも同時に思考の低下している状態を作ろうとしていたのだが、その状況ではエネルギーは活性せず、レヴィが夢を見ている状態では活性化するかもしれないが意図しない方向に意思が加わるかもしれないと考えていた。

 だが、レヴィのフォトン耐性の向上は彼女が祈った訳ではなく無意識の内に起きたことであり、失明も当然願ったわけなどない。

 ということは、グラン類似エネルギーの活性は完全に精神的なものに依存する訳ではなく、肉体の本能でも起きうると示されている。

 それは【敗者】にとって、グラン類似エネルギーを実戦や性行為などの高コストを掛けて活性化させることなく実験に利用できるという非常に喜ばしい事だったのだ。

 

「つまり、無意識下で活性化して失明したから、寝てる時にも同じ状況を再現出来るって考えたってこと?」

 

「……」

 

(エネルギー研究に興味のないレヴィがここまできちんと理解してくれるとは……いや、偶然か?でも……)

 

 【敗者】は重なる不義理からついにレヴィの一言に感動するまでに至っており、赤子が立ち上がった時のような感慨深い気持ちでレヴィの頭をくるくると撫で回し始める。

 

「ちょ、そんな撫でたら頭から火花出るって」

 

「いや失礼。貴様の幼稚さの割にあまりにも鋭い答えで思わずだな……」

 

「一言余計なんですけど?」

 

「でも嬉しいんだろう?」

 

「まあ、それはそうだけど……」

 

 レヴィは頬を膨らませつつも【敗者】の施しを受け入れており、わしゃわしゃと撫でられた髪が毛流れにそってまた整えられると、最後にポンポンと頭を叩かれて手は離された。

 

「つまるところだな。採集まではレヴィの気にする範囲ではない。しかし実験時には付き合ってもらおうかと思っている」

 

「どうして?」

 

「僕はダーカー因子が多すぎる。融合エネルギーを取り込んだとしても、ほとんど効果が発揮されないだろう。それに対して貴様は融合エネルギーの効果をきちんと発揮していた。そしてグラン類似エネルギーはフォトンを拒絶する……」

 

「つまり選択肢がひとつってワケね」

 

「そういうことだ……」

 

 【敗者】は気怠げに声を漏らすと、レヴィの肩に体を預ける。

 彼はリラックスしたように脱力し、ぼんやりレヴィの方へ視線を向けていた。

 

「……なに、眠いの?」

 

 レヴィはお返しと言わんばかりに【敗者】の頭に手を置き、あやすように撫でる。

 

「ダークファルスに睡眠は必要ない」

 

「の割に、眠そうな顔しちゃって」

 

 【敗者】はいつものように素っ気ないような言葉を紡ぐが、目はほろんと蕩けてゆっくりと瞬きしていた。

 

「撫でるのをやめたらどうだ?」

 

 からかうように優しく笑みを浮かべる姿に【敗者】は眉を顰めるが、そんな様子も愛おしく感じレヴィはより一層柔らかく微笑む。

 彼は人の温もりや優しさからずっと遠い存在だ。

 そんな存在に、溢れんばかりの温もりを与えられ、そして彼がそれを受け入れてくれるならこれ程幸福なことはないだろう。

 

「ふふ……、撫でてるから眠くなっちゃったの?

いい子すぎでしょ、あんた」

 

「いい子と言われるほどの事を僕がしていると思うか?」

 

「当然。あんたはいい子だよ。間違いなくね」

 

 バッと、その言葉に【敗者】は思わず目を開き、唖然とした表情でレヴィを見つめる。

 

 いい子?流石に言い間違えだろう?

 なんて【敗者】は一瞬思うが、レヴィの眼差しは純然たる意思で100%【敗者】を"いい子"として見ていた。

 

「……僕からしたら悪い子だと思うが」

 

「は?悪い子に決まってんでしょ」

 

 【敗者】は苦虫を噛み潰したような顔でそう言うと、レヴィは何を言っているのか分からないと言わんばかりに首を傾げる。

 

「???」

 

 その言葉に【敗者】はレヴィの言葉を全く理解出来ず、彼はレヴィに頭をわしゃわしゃと撫でられる事にも抵抗出来ないまま受け入れていた。

 そんな彼を見てレヴィはふふ、と笑みを浮かべると、彼をそっと引き寄せる。

 

「あんたはいい所も悪い所もあるって事。

でもわたしはあんたのいい子な所も悪い子な所もどっちも好きなんだから、いい子だと思ったらいい子って言うし、悪い子だと思ったら悪い子って言うだけ」

 

 【敗者】の事を深く想う、心の底から優しい人みたいな言葉だ。

 【敗者】はそれを聞くと納得し、安堵したかのように再びレヴィに体を預け瞳を閉じる。

 

「……」

 

 レヴィの太ももの上に頬を乗せ、ぐったりと疲れたように脱力する【敗者】の姿を見て彼女は頭をそっと撫でながら、彼を愛おしそうに見下ろした。

 

「寝る?」

 

「……7時になったら起こしてくれ」

 

「いいよ。ほら、毛布掛けてあげる」

 

「あぁ……」

 

 【敗者】は体を乗り出し上半身だけ横たわる。

 彼の背に寝具を掛け、レヴィはずっと【敗者】の頭を撫でていた。

 

二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。

  • 続編として作品を分ける
  • 分けないで一つの作品でまとめる
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