「……」
レヴィは一見すると何も無いような船の壁を指差す。
「あそこにね、切れ目が見えるの」
レヴィの言葉は突拍子もない物で、彼女はさっきほどではないが少し緊張した様子である。
「切れ目?」
【敗者】はよく凝視してみたが、切れ目というような異様なものは一切見えなかった。
実際カメラか何かで撮ってみてもそこに切れ目なんてない。
しかしレヴィには見えていた。
「うん。なんて言ったらいいんだろうねー……こう、ふんわりした奴が見える」
普通の人間がそんなことを言っているなら幻覚か何かだろうと処理してしまうが、何せこの女はまともじゃないマジックユーザー。
彼女は本気でそれを言っていると受け取った。
「それは、何を見ているんだ?」
「んー……えーっと……多分、五」
「……五、とは」
「時空から時間を抜いて、それからえーっと……」
「時空から時間……次元の事か?!五、……はっ、五だと?!」
【敗者】は大きく身を乗り出しレヴィの方に顔を寄せた。
レヴィの別次元への認識は【敗者】の予想を大きく超えていたからである。
彼女が明確に景色の中に映る異物の次元とその性質を理解しているとは思えなかったし、【敗者】はトリリオン情報体は四次元だと仮説を立てていたからだ。
「言葉がないな、まあ、線を足して、その線でできたものを、また別の方向に線を作って、重ねて……的な。言葉が欲しいからちょっと待ってね」
「あ、……あぁ!待つ、待つぞ。好きなだけ出せ!気が済むまでだ!僕は何年でも待つ!」
レヴィはドライに振る舞うもののまだ不安げな様子を見せていたが、【敗者】は完全に興奮しきっており目を見開き赤ら顔で何度も激しく頷く。
「いやさすがにそんなには待たせないよ……?」
そんな様子にレヴィは思わず困惑し【敗者】の頭に手を伸ばしあやすようにぽんぽんと叩くが、【敗者】はそれにも嬉しそうに頬を緩ませニコニコと笑っていた。
三回か四回、【敗者】の頭を触れた後手を離すとその手でそのまま身振り手振りを使って説明のような物を始めた。
「えっと、時空を世界線方向に平行に伸ばすとさ、同じ時間で沢山の別の可能性で進行してる世界がいっぱい重なって、そこでえーっと……、まあ、その……うーん……この世界であるものに例えるなら、いろんなIFを書いた本が出来る。で、それを更に……、……異端物理法則線、って名付ければいいかな。そっちに伸ばすの。すると、また別のもの……そうだねぇ、肉体のない……意識だけで出来た世界?みたいなのが見えるんだよね」
「ハァハァ……つまり、レヴィは時空が観測出来る訳で、空間三次元に次ぐ四次元は世界線であり、五次元は異端物理法則線とやらのベクトルが存在すると?レヴィは、そう言いたいんだな?!」
【敗者】の体はどんどん近付いていきレヴィの匂いを嗅ぐように体を寄せ、右から左から覗き込む。
興奮しきった彼の西洋アニメか何かのような大振りな動きに流石のレヴィも驚き体を捩らせた。
「ちょ、その……ちょっと落ち着けないの?」
「僕は落ち着いているが?!」
「いや全然、……まあ、続きね?続き話すよ」
声を荒らげる時点で一切落ち着いてなどいない。
と言うのも【敗者】に伝えられないままレヴィは盛大にため息をつき、息を荒くして近付く【敗者】をさり気に離した。
「で、異端物理法則線とかさ、言葉が変だと思うんだけどね、上の方にあるやつって波みたいな、こう……音でもなくて、ゆらゆらしてるやつで言語とかじゃないから、なんて言えばいいのかわかんないの。並列化された世界が積み重なって、物質という形から解放されてる。
言語も存在しない電気信号だけの世界の概念なんて説明しようがないから、強いていえばそれかなみたいな造語を使うしかない。
五次元の状態を例えるとすれば、同じキャラクターが出てくるけど世界構成が全然違う作品……みたいな?」
「成程……。それで、現時点で一つ質問させてもらいたい。
普通、高次元にあるものはその体積や概念としては大きく差があれど、低次元にも存在しうる物のはずだが……その見えたものはなんだ?」
点と点が繋がって線になり、線と線が繋がって面になるように高次元の概念は低次元の概念ありきの存在だ。
だから【敗者】はレヴィの見る意識だけで出来た世界、五次元空間における"ふんわりしたやつ"が一体低次元においては何なのかが気になった。
レヴィは六次元空間の裂け目を見てから
「あれはね、あんただよ。あそこから見ると、赤いのがふわふわ〜ってしてるの」
「赤いのが……揺らめく?何故?」
「なぜって、あそこに見えてるのはあくまで表の中にある一つのポイントであって、そこにあるものは肉体とかそういうのってないの。物質とか粒子とかの結合が違くて、こう……インターネットに意識を入れて、そこを自由に飛び回るみたいな、そんな感じなの。だから、とどまってはいるけど、ユラユラ揺れてる」
「ふふ、……はははははっ!レヴィ、貴様は本当に優秀だな!非常に興味深い話だ……!」
【敗者】はニコニコずっと口角を上げて楽しそうに身振りしており、今までに見たことないほどの愉快な笑顔にレヴィも思わず本音を漏らす。
「……【敗者】、すっごく楽しそう……」
その発言に【敗者】は怒るかと思いきや「当然だろう!僕が観測しえない場所を観測できるのだから!」と叫びむしろ誇らしく胸を張った。
「それでだ、更に質問なんだが……貴様はどこまで上を観測できる?時間を除いた空間次元の話だ。十次元まで見れるか?どうだ?」
「いや、……多分七だと思う」
その言葉を聞くと彼の体がまた強ばる。
「七?!レッ、レヴィ、それは……
あぁぁあ……!この素晴らしさ、筆舌に尽くし難い……くっ、もう、言葉にすることも奢がましい程の優秀さだ……七次元、……そこまで高度な演算能力を持ち合わせていたとは……!!」
一瞬冷めたかと思ったのにそれを聞くとまた沸き上がり、【敗者】はもはや限界に至ったのか顔を抑え天を仰ぎ前髪を掻き分けながら熱くなった胸の情動をとめどなく吐き漏らし続けていた。
「ヤクでもキメてんの……?」
いつにも増して抑揚着いたミュージカルと勘違いするほど腹から出した軽やかに伸びるような声。彼を覆う恍惚とオーロラのような輝きに、レヴィは思わず顔を顰める。
今の【敗者】はどう見てもアンプラム・アンブラと戦っていた時よりもピカピカと神々しいほど輝いていた。それがまさか、心の底から湧き上がる覚悟でも強い意思と祈りや何物にも代えがたい愛情でもなく知的好奇心を存分に満たされている時とは、流石知欲の闇と言えばいいのか、知識を得ることと本能が結びつくことの恐ろしさを目の当たりにしたと怯えるべきなのか分からない。
「それで」
「急に正気に戻らないで」
「七と考えるものはなんの軸だ?」
あまりにも自分本位。レヴィは【敗者】のコロコロ変わる態度に振り回されついていけなくなるギリギリ一歩手前で振り切り、頭を横にブンブン降ると溜息を着く。感動されるのは想定内として、とにかく頭から飛ぶ前に説明しないといけない。
「その……軸っていうのかもよくわかんないんだよね。でも、何が見えるかはわかってて……」
「何が見えるんだ?」
「観測者。さっき言った、同じキャラクターが出る別作品があるなら、それを見る人がいる。
でも……それってなんの方向に伸びてるんだろう?みたいな……。
うーん、とりあえず順番に一個下の次元から考えていい?」
「あぁ。そっちの方が僕もメモが取りやすくて助かるよ……」
これはまるで研究者と実験素体だ。
だがレヴィはといえば実験素体にされているという不快感ではなく自分が知っているものを上手く表現できないもどかしさと、オーバーすぎるようなリアクションを取る【敗者】に困惑する動揺の感情が彼女を覆っていた。
「まあ、六次元はその……個人的に言うと、脳みたいなものなのかな?」
「脳?」
「えーっと、五次元から一個次元が上がるとさ、同じキャラクターが出る別世界の作品がさ、この……視覚や聴覚などから情報を受け取って多面的に情報を記憶するみたいに、もっと色々増えて、もうそこにあるものは同じキャラクターじゃなくなる。
別の要素を持つ別の作品になって、……えーっと、まあ、……色んな作者が色んなシチュエーションで書いた短編集みたいになる。で、そこに時間の情報を加えると、連続的に変化する別摂理で構成された宇宙がそこにそれぞれ広がってる。
うーん、……例えるなら、色んな作者から原稿を貰って毎週連載する漫画雑誌的な?そんな感じになる。とにかく、計算量が凄く多くて、わたしの知ってる限りこの世界にあるどんな法則でもどんな式でもその一座標にあるもの全ては演算しきれないんじゃないかなぁ……」
「成程。ふむふむ、そうだな……レヴィ、少し待ってほしい。僕はメモを取りたいんだ。平気か?」
「うん、大丈夫だよ。わたしもちょっと言葉をまとめてみる……」
「あぁ、ありがとうレヴィ。まるで天使のようだ」
「天使って……、からかってるんじゃなくて本気で言ってるならちょっと頭冷ました方がいいと思うよほんとに」
だが【敗者】は彼女の苦言を完全に無視し、懐からメモを取り出し書き込んでいた。
「はぁ……」
人として褒められたこともほとんどないのに、天使として崇められるなんて生まれて初めてのことだ。レヴィは上位だと思っている相手に崇められる違和感を拭うことは出来ず、嬉しいというより意味がわからない、頭が可笑しいといった冷めた考えしか出来なかった。
しばらくした後、【敗者】は顔を上げる。
彼はきらきらと輝いており、レヴィの手を取ってそこに頬を擦り付けていた。
「ハァハァ……よし、続きを話してくれ!君の話がもっと聞きたい!」
「うっ、ぐ、グイグイ来るじゃん……」
「いいから早くしろ!」
「分かったってば、もう……」
レヴィは自分の言ったことを一つずつ整理していた。
三次元は縦横奥行、我々が住む世界と同じ。
四次元は世界線方向に伸びる。新たな座標は同じ時間の同じ場所でありながら別の出来事が発生する、パラレルワールドのようになる。
五次元はさらに異端物理法則線方向に伸びる。新たな座標は算出された複雑な解によって非常にランダムになり、物質はその情報量に耐えきれず形を保てなくなり、その世界は高度なインターネットのファイルの一つのようになる。世界というフォルダを開いていき、一座標というファイルを開くことで世界が観測される。
さらに六次元になると情報量が増え、脳線方向に伸びる。そうすると五次元の一座標は神経細胞の一つのように矮小化され、様々な動きをするプログラムが一挙に集まるとそれは一つのコンピュータとして動くようになる。
レヴィは四次元が同じストーリー内のキャラクターが生きたIFや死んだIFが無数に描かれる作品だとすれば、五次元は世界の物理法則や種族や職業なども違う、世界観の変わったパロディ二次創作のようだと表現している。
また六次元は独立した別々の状態が時間経過による連続性を通じて変化する、言わば週刊連載の漫画雑誌のようだと表現しており、その一座標は同じキャラクターという二次創作ではなく様々に変化する別のキャラクター、一次創作のような状態になっているという。
「で、さっき漫画雑誌みたいなもんって言ったじゃん?それがね、一個上の七次元になると同じような違うものが本棚にいっぱい並んでるの。そこにまあ、人が来て、手に取って読むみたいな……そんな感じ。で、この軸はちょっとなんて表現していいのかわかんない。漫画雑誌って言っても、見える作品は別にひとつじゃない。座標によって別の可能性の別の物が見えるようになっている。まあ、……一旦観測軸って仮称してみたら?
そこがわたしが見える限界。それ以上はちょっとわかんない」
我々は現に様々な作者が書いた世界を楽しんでいる。
それは我々にとってはイラストや小説、ドラマや映画のような実際の経験ではなく観測のみの二次元的な情報になっているが、実際【敗者】達のような世界の人間から見れば、我々は自分の知らない同じ時間の
なぜなら、彼らは自分が今この瞬間に起きていることのIFを同時に考えることなど不可能だからだ。
我々もそれは同じ。一秒前に起きた出来事でもしかしたらこうなっていたかもしれない、別の場所ではこんなことが起きていたかもしれない、と考えることはできる。
だがこのゼロ秒、今貴方がこの小説を読んでいるこの瞬間、貴方は小説を読む以外の別の行動を同時に脳内で演算し、それを経験することはできるだろうか?
それは間違いなく不可能だ。
高次元とはそういうこと。
天地がひっくり返っても得られない、それが高次元であり、それを演算出来るからこそ全知存在は特別な存在なのだ。
だが惑星シオンはそれを観測出来る。
全知存在のように複数の出来事を同時に経験するようなことは出来ないが、高度な演算能力で高次元に伸びるベクトルを見定め、そこにあるものを低次元にコンバータすることが出来る。
レヴィもまた、生まれ持った特殊な感覚で同様の事が実現出来る。
「……となると、レヴィが観測出来る時空は……合計八次元か!素晴らしい……!あぁ、……そうかそうか、ふふっ、ふふふっ!」
レヴィは我らに向かって目線をじっと向けているが、彼女が此方に干渉してくることは基本的には無い。あくまで見えるだけであり、その肉体はオラクル宇宙における三次元的な物。
この世界に干渉することは出来ないのだ。彼女がそのまま高次元に干渉すると器である肉体が崩壊してしまうから。
でも、肉体を用いず意識のさらに***のような***を用いれば一応この次元に平面的に干渉することが出来る。
――例えばこんな風にね?言語レベルを合わせてみたけど、日本語上手いでしょ。きみはわたしのこと褒めてくれる?
で、【敗者】の方をよく見ればわかると思うけど、ソイツ結構興奮してるし、なんか一人でブツブツ語ってるけど多分すぐまた質問してくると思うから、こっちにあんま来れないんだよね。てか、器から離れると疲れるし。
例えるとすれば、ロボットアームを操縦してる時みたいな。自分の思うように動かせなくて、その動きってえーっと……
歯車とか……
そう、プログラムみたいなデジタル的な数値で制御されてるでしょ?それってすーっごく窮屈でさ。
つまりなんだけど、全然自由に動けなくてめんどくさいんだよね。あ、……これ、こうすると時間が進行してるのに映らないのか。
高次元からの観測を妨害したい時にはちょうどいいな。覚えとこ。まあ、どうせあんた達には止められないからね。へへ。どうせ高次元から見てるだけなんだから、低次元のやつがちょっとくらい復讐したって……
あ!それと!この【規制音】【規制音】野郎共!くれぐれも【敗者】にわたしが【敗者】で何回"抜いた"か教えないようにしてね!
ん……"【規制音】"って何?高次元の奴って書き換えできるの?
じゃあ、序章の特定の話数を消しても復活させられるか……。てか、【敗者】が全知存在とやらになったらもしかしてバレるんじゃない?!
だって全知存在って全次元の観測出来るよね多分?!ヤバッ!てかなんかわたしのこと見
――【敗者】は、此方を見たまま抜け殻のようになっているレヴィの顔を覗いていた。
心配している訳ではなくむしろ興奮しきった様子で、何かをしているレヴィを眺めていたが、すぐ彼女が戻ってくると【敗者】の方を凝視した。
「る、……【敗者】。あのさ、質問いい?」
「ん?どうした?」
「あんたって一瞬シオンとひとつになって、全知存在の記録を観測したって言ってたよね?」
「あぁ。そうだが?」
「【敗者】は、どこまで上の次元が見れた?」
【敗者】はレヴィの子供のような問いを理解すると、口を噤む。
彼女からしたら常に見えて当たり前のものかもしれないが、【敗者】からすれば一瞬ですらそんな暇はなかった。
「……。生憎だが、そんな長い時間観測出来た訳じゃないんだ。宇宙の始まりと終わりやシオンの記憶など……正直に言えば、シオンが特に観測していた情報に寄っていたように感じられる。
つまる所、この宇宙にとって重要な部分を一瞬垣間見ただけだ」
「そっか……てか、そうじゃないとわたしの話でそんな興奮しないしね。あーよかった……」
「全知存在になることに、何か不安な事があるのか?」
「んー……いや、なんでもない。あんたに見られないなら良かったホント……」
それでは特定の見られたくない情報があるような言い方だ。【敗者】は彼女が何を隠そうとしているのか訝しみ、眉を顰める。
「でも、僕はいずれ全知へと至るんだ。今のうちに見られたくないものは言っておいた方がいいんじゃないか?」
「……えー、言った方がいい?いや、……でも手に入らないかもしれないし……」
「馬鹿も休み休み言え。僕は全知を得られるに決まっている。そう解が出ているんだ」
解というか直感というか……。とにかくなんとなくでしかないもののはずだが、【敗者】は完璧な解のようにさも当然な口ぶりの為、レヴィは仕方なくブツブツと小声で言葉を漏らした。
「……じゃあ、その、……わたしがあんたの器で何回も……してた所とか……見ないでね」
「は?」
【敗者】はレヴィの言葉に目を丸くする。
彼は完全に聞き取れていたが、レヴィは聞き返したものだと勝手に勘違いし眉を尖らせた。
「何回もオナニーしてた所とか!見ないでって言ってるの!!」
レヴィの叫びの後、しんと空気が静まり返る。
レヴィは真っ赤な顔でふるふると震える中、【敗者】は先程までの輝きと笑顔はどこいったと言わんばかりに静まり返っており、じっと半目で見つめながら淡々と詰める。
「貴様は本当に逸脱した変態だな。僕としてはやはり貴様のような性的倫理観の外れ値を観測する必要があるわけだがその時期となるとどのレベルで……」
「いやだからやめてって話をしてるんだけど?!」
「断る。僕は絶対に観測する義務があるんだ」
「あるわけないでしょーが!もう!……話戻していいから!そんな話するくらいならさっきの話に戻して!」
「残念だな……僕としてはレヴィが一体どのように行ったのか聞きたいところなんだが。それにしても器に対してという事は僕と出会う前から……」
「ちょっほんとにやめて!ホントに!やめてってば!!」
にやり。【敗者】は揶揄うようにレヴィへ笑顔を見せると、端末を掴み彼女をポンと軽く叩いた。
「仕方ないな。今の僕は大変機嫌がいい。レヴィの言葉に合わせて話を終わらせてやる」
「機嫌が悪くても絶対話終わらせてると思うけど?」
はぁ、というレヴィのため息の後に【敗者】はまた機嫌を取り戻したか揶揄うのを辞めたか知的好奇心に満ちたきらきらとした瞳でレヴィを眺め、端末を開きメモを出す。
「さて、レヴィ。高次元観測者である君の推論を聞きたいのだが、現状君は空間七次元と時間一次元を観測していると言っている。それで、残りの空間三次元分に関しては一体何だと思う?あくまで推測で構わないから、良ければ僕に教えてくれないか?」
レヴィは思ってもない問いに戸惑い、辺りをきょろきょろと見渡した。確かに見える次元は下位二つと上位四つ。それ以上は想像したこともないため、七次元の状態を元になんとなくで妄想するしかない。
「えーー……えっと、……ちょっとアレなんだけど、多分……プラスとマイナスがある、……それで、力の強い弱いと、……数の多い少ないがある。多分、その上の二次元は強弱と量的なものになるんじゃないかなぁ?幅、高さ、奥行き、可能性、異端物理法則、脳、観測、強弱、数量、……あと時間」
「……つまり、11次元ではないのか?基本的にはこの宇宙は11次元だと言われているが……」
その言葉にレヴィは眉を顰めた。あと一個がピンと来ない。【敗者】がレヴィと同じ力を持っていたなら分かるのかもしれないが、レヴィは【敗者】の研究していたエネルギーも情報量の多い高次元の演算もどちらも分野外である。
「そうかもしれないけど、けど……、やっぱ、後1個は全然思いつかないの。ごめん……」
期待外れかも、としゅんとした様子に【敗者】は慌てて端末を手放し、レヴィを抱き抱えるとあやす様に背中を撫でた。
「なっ!!レヴィ!!謝らなくていいんだ。本当に君はいい子だ。素晴らしくて優秀で、ストイックで……、どこをとっても愛らしく……」
最早これでは【敗者】が幼稚園の先生だ。
「はぁ……【敗者】が楽しいならいいけど……」
【敗者】はレヴィを抱いてゆらゆらと揺らしながらメモを取り、最後まで書き終わると端末を閉じた。
「ふふ、……よし、これについては後で僕の中でよく整理させて貰おうか。ふふ、ふははははっ……!」
「……」
【敗者】の反応は予想外なものだった。
昔シルンに同じことを言った時は義眼を交換しろと言われ、拷問していた相手に言った時は化け物だと叫ばれた。訓練校の教師からもどこを見ているか分からなくて不気味だと言われ、説明すれば頭が可笑しい、悪魔に取り憑かれているだの言われた記憶が彼女の中にすっと流れていく。
「あのさ……その、わたしのこと変とか、気持ち悪いって思わないの?わたし、フォトンがないし、弱いし、変な物、見えるし」
レヴィは苦しそうにそう呟くが、【敗者】はその言葉にわけがわからないと言わんばかりに首を傾げ直ぐに言葉を返す。
「変、か。それは変化を受け入れられない愚者の意見だ。僕からすればフォトンが無いことも高次元が観測出来ることも全て素晴らしいものであり、レヴィの評価は何時だって最高で、失い難いものだ。本当に、本当に、僕は心の底からレヴィの事を大切に思っている」
「……ありがとう」
【敗者】の直球で真っ直ぐな言葉は、レヴィの奥深くまで確かに届いた。
先程までグラン類似エネルギーの力で輝いていたからか、彼は感情の制御が付いておらずレヴィを見るともっと幸せそうに微笑む。
「少しは幸せになれた?」
「僕は……」
【敗者】が言葉を紡ごうとした時、44番艦への接近アナウンスが船内に鳴り響いた。
二人はそれを合図として、そっと体を離す。
「レヴィと居ると、楽しいと感じている」
「そっか」
レヴィはニコニコと笑い、彼の頭を撫でる。
その感覚で【敗者】はなんとなく自分の感情の制御が出来ていないと自覚し、ユニゾン波に振り回される感覚を理解した。
(ここまで強い熱を周りに移さないように抑え込むのは確かに難しい……)
精神論で抑えられないとなるとユニゾン波を吸収する何かを作ればいいのでは?それとも熱を上げないように何かしらの対策をすればいいのでは?と悶々と考えていると、レヴィが肩を叩いていることに気付く。
「【敗者】?」
「あぁ、いや。ユニゾン波の制御方法について考えていたんだ。制御するためのアタッチメントを用意するのもいいが、なんらかの手段でユニゾン波を目視させた上で広範囲に薄く伝播出来るようにすればと……」
【敗者】はそこまで呟いているとレヴィを置いてけぼりにしていると感じ、口を閉じた。
しかし彼女は怒った様子もなく、【敗者】に手を伸ばすとつんと鼻に触れる。
「ほんといい子だね、わたしのバディは」
「そう言うのはお前だけだよ」
「いいんだよ、わたしだけでさ」
独占欲。
一言でいうとそう表現するしかない言葉だったが、それを聞いて【敗者】はむしろ嬉しそうだ。
「それもそうか。お前は飛び抜けて特別な奴だからな」
【敗者】は誇らしげな言葉の後手を伸ばし、レヴィと手を繋ぐ。
その手の温もりを、レヴィは慈しむように味わう。
この幸せを手放さないように、この幸せな気持ちよりももっと沢山【敗者】が幸せになれるように、レヴィは頑張りたいと思った。
誰にも見て貰えなかった才能も、不気味がられた力も、【敗者】は全て唯一無二の価値あるものとして評価してくれたのだから。
「あんたのバディになれるのは、この世界の中で一人だけだよ」
レヴィはそう言って、にっと歯を見せ微笑んだ。
二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。
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続編として作品を分ける
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分けないで一つの作品でまとめる