「わたしはッ……!!」
狭い牢檻の中。レヴィは叫びながら目を覚ます。
大きく息を吸おうとした瞬間なにかに邪魔され、レヴィは夢の状況も相まってパニックに陥っていた。
「苦しい、ぶはっ?!なに、……う……?」
息を阻害する布で真っ暗な景色の中、レヴィは慌てて体を起こし、その布を剥ぐとキョロキョロと辺りを見渡す。
「起きて早々忙しない奴だな。起床時くらい淑やかに行動出来ない物なのか?」
「る、……るー、さ?」
【敗者】はシワのない綺麗なシャツに身を包み、平常心マックスの顔で飄々と本を眺めている。
レヴィは彼と目が合うと夢の中のあれやこれやを思い出し、顔が真っ赤に染まる。
「如何にも。僕は貴様の主人であり、この世で現状最も賢き者。貴様のような下賎で愚かな思想の持ち主では天地がひっくり返っても敵わないであろう存在だ」
「っあ、あぅ、……」
相変わらずの憎まれ口、相変わらずの瞳……
レヴィは彼の平常な顔を見て、ようやく先程までの景色が夢であったことを自覚した。
(ど、どこから夢っ?!そういや途中ちょっと眠くなったような……あそこでわたし、寝落ちしてたの?!それで夢の中で【敗者】とセックスしてたって……?!わたしの性欲どういうことなの?!まるで超変態みたいじゃんこんなの……!!)
「……どうした?」
「ち、ちが、にゃんでもにゃ、わたしべべべべつになんでもにゃ」
「悪夢でも見たのか?」
【敗者】の問いに、レヴィは俯いて暫く迷った後、首を横に振った。
足を動かすと股ぐらからぬちゃ、と嫌な音がして、レヴィは視線をそのまま股の方に向けると、自分の恥部が愛液でぐちゃぐちゃになっていることに気付く。
もちろん精液はない。
「〜〜〜っ……と、……っ、と、いれ……」
レヴィは震えながらに言葉を紡ぐと、【敗者】は本を読んでいた手を止めすぐに立ち上がる。
【敗者】は牢の方に近付けば手を翳し、鍵を解き、扉を開く。
そこには雌臭い匂いと共に顔を真っ赤にし、潤んだ瞳で【敗者】を見上げふるふると僅かに身体を震わせた発情丸出しの女が座り込んでいた。
「……」
【敗者】は手を伸ばし、彼女の手首を掴んで無理やり立ち上がらせようとする。
しかしレヴィは反射的に彼の手を叩いて、それから己の愚かな行動に目を見開いて驚いてから、目を逸らしてボソボソと呟いた。
「ひ、……ひとりで、……たてるし、あるけるし、ひとりで、いける、から」
【敗者】は無言のまま返事をしない。
レヴィは恐る恐る立ち上がると、全裸のまま猫背で体を縮めて恥ずかしそうにしていた。
乳首やクリトリスは明らかに勃起して固くなっており、太ももには愛液が伝っている。
【敗者】が改めて手を伸ばし、レヴィの肩に触れると、彼女は蕩けるような声を出してから、【敗者】の手をじっと凝視していた。
「んぅ……」
レヴィはずっとモノ欲しげに【敗者】の手を見つめながら、モジモジと足を捩らせる。
【敗者】の手でいやらしい場所に触れられたこと、キスされたこと、セックスしたこと、それら全てが夢でただの嘘だというのに、レヴィは現実の【敗者】にすらそんな欲望を隠せず頭を溶かしていた。
「来い」
【敗者】は一言だけ発した。
己のプライドを考えれば、目の前のどう見てもセックスしたそうな女に手を出す訳にはいかなかった。別に女の方から誘っているわけでもなく、己は全知存在という圧倒的な知識を求めるだけの科学者だからだ。
「はい……♡」
そんな単純な言葉でも甘く返し、【敗者】が歩き始めると、レヴィは歩幅を合わせて早足で歩くが、肩に乗る【敗者】の手に頬を寄せて、バレないとでも思っているのかすりすりと動かしていた。
「るぅさー……、手、おっきぃ」
「体格差を考えたら当然の事だろう」
「おっきくて、……長くて、太くて、固い……♡」
レヴィは指と共に別の部位も想起しながら、蕩けた声で呟くと、トイレの扉の前にたどり着き二人は静止する。
「……」
「トイレ、……といれ、いかないと」
レヴィは扉を開き、すぐにパタンと閉じる。
【敗者】は目の前の女がこの状況で脱走するとは微塵も思えなかったが、逆に用を済ませたあと一人で部屋に帰れるとも思えなかったので必然的に扉の近くで待つことになった。
「……るぅさ、るぅさっ、るぅさっ」
案の定扉の中から聞こえてくる音に【敗者】は顔を顰めた。
引いている訳では無い。
「っるぅさ、あっ、るぅさーっ……ここぉ、ここ、っ、あっ、あっ♡あっ、ふぁああっ♡あーーっ♡きもちぃ♡きもちぃよぉ……♡」
「……クソッ」
【敗者】は顔が火照り、己の下半身中央が硬くなっているのを実感する。
彼は些細な事でこんな下賎な女に興奮している自分が嫌なのだ。
よりにもよってレヴィは【敗者】の名前を呼んで、必死に求めている。
トイレの中から聞こえてくるガタガタという不必要な異音と共に、嬌声が漏れて響く状況は今の【敗者】からすれば地獄としか言えなかった。トイレを開けて襲いかかる以外にこの性欲を晴らす手段はないのだから。
「きもちぃ……っ、はぁぁあ……手止まんない、るぅさ、……るぅさあ……っ♡」
(何故わざわざ僕の名前を呼ぶ……!好きな男でも性行為したことのある男の名前でもいいだろうが……!)
「るぅさー、っ、るぅさ、きもちぃ、やぁっ、やっ♡ふぁぁあ……っ♡」
【敗者】は衝動に任せて体が動いた。
トイレから離れ、早歩きで自室まで帰って行ったのだ。
あんな地獄に居続けるのは無理だ。しかし扉を開ける訳にもいかない。
プライドと理性がなんとか勝ち、自室にまで逃げ込んでなんとか声が聞こえない範囲内まで来たものの、バクバクとうるさい心臓と下半身の質量の抑え方は分からなかった。
ダークファルスだというのに、……自慰行為など。
「研究から基づくとすれば、純粋なダーカーは侵食する事で仲間を増やすため交配することはないが、侵食核がついた原生種の生殖本能が高まったという結果がある……」
【敗者】は己の中に沸き立つものが性欲なのかも分からず、生殖本能が働いて射精できるのかどうかも分からなかった。
所詮ダークファルスは依代の肉体に人間的な機能を依存してるだけの生物だ。
この器がレヴィ曰く魂なき物と言われているなら尚更だろう。
【敗者】はズボンを開き、下着をずらした。
しっかりと勃起した逸物が現れ、先走りの汁で下着を濡らしている。
「……ッ」
悔しい。あんな女に興奮するなど、性的興奮を覚えるなど――そう考えるほどより興奮し、より昂り、【敗者】はその手で逸物を握り締めると荒い息を吐いた。
「うっ、」
竿を握り動かすと緩い快楽が【敗者】を襲う。
実験が成功した時のような心の快楽ではない、肉体そのものの快楽だ。
皮が動き、上下に動かす度に、その快楽を強めようとどんどんと握る力は強くなっていき、己の手のゴツゴツとした感触が逸物に伝わっていく。
「アイツはなぜ僕の名前など呼ぶ。僕にこんなことをさせるためか?嫌がらせのつもりか?……あの女……ッ」
カリ首に皮が寄り、離れる瞬間がより気持ちいいと知る。裏筋に触れ擦り、竿に触れながら睾丸を撫でるとより気持ちいいと知る。
知る度に【敗者】は無駄な事を知っているという気になったが、それ以上に、頭の中は一人の女でいっぱいだ。
稲穂のような薄い金色の髪。風呂に入れてやってからキラキラと輝いて、絹糸のように揺れて、牢屋がまるで鳥籠のように見えるほど美しかった。
時々潤んだり焦点が合って光を持ったりするあの紅い瞳が【敗者】を見つめる度に、まるでアムドゥスキアの溶岩を頭から浴びせられているかのように体が熱くなり、胸が痛くなる。
あれほど性欲があるのに自分の肉体のいやらしさを理解せず、全裸のまま外に出ることも躊躇わない、あの己の顔も体も人の物に値しないと考えている馬鹿な女の、一番いやらしい肉体を思い出し、【敗者】はより固く、早く、逸物を扱く。
――そう、願わくばもう少し胸が小さかったら完璧なのだが……もっと密着して抱き締められるし、平たい胴体にゆるやかなカーブをもって胸と認識出来る脂肪が付いて、その癖乳首は立派にピンと立って上向き、胸よりも張っているかもしれないぽよぽよとした柔らかいお腹に己の逸物を収めて歪めることが出来れば……
「あぁぁぁぁあ……ッ」
喘ぎ声ではなく嗚咽。
【敗者】は今全宇宙のどの男よりも最悪に強い性欲を持って自慰行為をしていると実感し、苛立って足が勝手にカンカンと貧乏ゆすりを始める。
「はぁっ、はぁッ、エル、……エル、……」
人の気持ちいい所はわかっても、ダークファルスの気持ちいい所など分からない。
人が求めることは分かっても、ダークファルスの性欲が求めるものなど分からない。
「殺してやる、棄ててやる、殺してやる……絶対に、犯してやる……ッ」
頭の中がボンヤリと性欲に支配されていく。
何百年も続いていた全知存在の、シオンという知識の集合体への欲望が押しのけられ、代わりに彼女の柔らかい笑みや苦しむ顔、這い蹲る姿に、淫らな体つきが【敗者】の頭を埋め尽くす。
最低で最悪な、高尚な知識とは程遠い劣情だと分かっているのに、この手は止まらない。この思考も止まらない。
【敗者】を構成するダーカー因子の全てが今、彼女を本能で求めている。
「エル、……エル、……僕の、はぁはぁッ……」
ただの駒ということくらい理性で何万回も解が出ている。
それでも欲望には逆らえず、この理性だっていずれ消えゆくことはもう知っている。
あの女が欲しい。【敗者】がどんな提案をしても首を横に振り拒絶している事実など知っているが、それでも彼女が【敗者】の今の駒であり、今彼が一番求めている女だ。
どちらにせよ【敗者】は彼女が居ないと外で活動できないのだ。
絶対に彼女を離してなるものか。
どんな手を使ってでも従わせて、知識としても、戦力としても、そしてこの肉欲をぶつける相手としても使ってやる。
「エル、……ッ、はぁはぁっ、エル、エル、……あぁ……ッ、エル……ッ!!」
"愚かな夢"から解放されたのに、愚かな現実を突きつけられる。
【敗者】は濃い精を吐き出すと、一気に体が脱力しハァハァと荒い息を吐いた。
己の手に乗った精液に思わず鼻を寄せ嗅いでみる。
精液の基本的な異臭に混じるダーカー因子の匂い……
【敗者】は自分の精液が子種として働くかの確信はつかなかったが、何となくだがレヴィの避妊パッチを解いて中に出せば受精するのではないかと考えられた。
「何をやっているんだ僕は……本当に……ッ」
いそいそと事後処理をしたあと、【敗者】はため息をついてソファに座り込んだ。
二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。
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続編として作品を分ける
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分けないで一つの作品でまとめる