引き金を引こうとした瞬間、レヴィのその手が彼の大きな両の手で包まれたかと思えば顔が背後からすっと近付き、耳元で囁かれた。
「合格だ」
「合格って……まだ、わたし何も……」
目の前の"【敗者】の偽物"が、ダーカーの消える時と同じように霧散していくのを眺める。
ふらりと体が揺れてレヴィの視界は段々地面で満たされていく中、彼女の腰を【敗者】の腕が囲い、抱えると【敗者】はモニターを取り出し何かの文字を見つめる。
「う……」
「計測時間20分。総攻撃回数1365回、その内命中回数322回、攻撃が当たっていれば34箇所の被弾、人間であれば30回分は致死圏内だ」
「え……?」
「お前の弱点は体力配分が下手な所、少し当たりそうになると露骨に集中力が下がり調子に乗る所、武器の特性を活かしきれていない所だ」
【敗者】の手がレヴィの顔を包むと、彼女の身体中に走っていた痛みがじんわりと消えていく。
彼に手渡された水を飲めば口の中を埋めつくしていた血の味も消えていき、【敗者】はレヴィの服に手をかけてワンピースの首元のボタンを緩めた。
やはり、……これがいつもの【敗者】だ。
レヴィは彼の温かさに包まれながら、瞳の中に映る己の姿を見てようやく着ている服がメイド服であることに気付いた。
「この……ヘンタイ」
【敗者】はレヴィの体を持ち上げて運びながら、吐いた血で赤くなったエプロンを撫でる。
「戯言を吐く前に自分の肉体を気にしたらどうだ?創世器の性能を無理やり引き出して体に大きな負荷が掛かっているだろう」
「…でも…」
「でもじゃない」
ホールの階段を登り、部屋に戻るとレヴィをソファに座らせて、【敗者】は服に手をかけどんどん脱がしていく。
――さっき着せたばかりだというのに……
汚いから仕方ないといえば仕方ないんだけど……
「エル……」
【敗者】はレヴィの汗ばむ体を撫で、下着姿の彼女をじっと見つめると胸の下に顔を埋めすうと息を吸った。
「何、して」
「……良い匂いだ」
「あっ、……汗かいてるから辞めてよ馬鹿……!」
【敗者】は恍惚とした表情でレヴィの胸の下から顔を離すと次は首筋を嗅ぎ始める。
(こいつ、……匂いフェチ?)
「バカ、ホントやめて、やめてってば……!」
「悪い事はしていないし、悪いなどとは一言も言っていないだろう?唯のスキンシップだと思ってくれて構わない」
【敗者】の手はレヴィの肉体の側部をなぞり、腰を撫で、尻をぎゅっと揉む。
彼の足の間に体が挟まれ、疲労で軋む体を溶かされるように【敗者】の指がレヴィの体をなぞった。
「るぅ、……さあ」
「あの時でさえ、偽物と気付けたアークスは少ない。その肉体で創世器を扱える素質、様々な武器の変化や効果を同時に捌く技量と脳の処理能力の高さ、瞬間的な反応力もそこそこに高い。当たりさえすればほとんどの攻撃が致命傷になる所も暗殺者故か……。鍛えれば必ずあの女に勝てる筈だ」
「……ほんと?」
「嘘などつく理由はない。お前は十分な力を示した。今はそれで良い」
レヴィは【敗者】と目が合うと、彼はにっこりと微笑む。
そしてレヴィの頭に【敗者】の手を置かれ、優しく撫でられ、離れたかと思えば直ぐに抱きしめられた。
「……ッ、【敗者】……わたし」
「よく頑張った、エル。これは褒美だ」
【敗者】の褒美という言葉にレヴィは首を傾げていると、【敗者】の顔が突然近付き体が固まる。
レヴィは何が起きるのか分からず目をぱちくりとしたまま【敗者】を見つめていると、彼は彼女の前髪を掻き分けた。
そして、額になにか柔らかいものが当たると直ぐに離れ、またしつこく頭を撫でられる。
「……何したの?」
「恋愛脳の貴様にお似合いの褒美だ……」
【敗者】は己の唇に指を当てると、それをレヴィの額にぽんと置いた。
(唇を、……額に?)
「……そ、……それっ、ち、……ちゅー……」
「その体では眠れないだろう。風呂にでも行ってこい」
「へっ?」
「まだ歩けないなら連れて行ってやる」
【敗者】からの行為の返事はなく、ケロッと何事も無かったかのように淡々と告げられる。
レヴィは褒美と言ってこんなことをされて意識しているのが己だけでバカみたいだった。
そのせいなのか、レヴィの体はもう動く筈なのになんとなく心が動きたくなくて、ブツブツと文句を呟いた後に【敗者】に向かって声をかける。
「……連れてってよ」
【敗者】は頷くと、洗濯するためなのか脱いだレヴィの服を片手に持ち、もう片方の手で彼女を担ぐ。
「今日こそ一人で入れ」
「……はぁい」
――多分【敗者】はわたしが本当は歩けることくらい分かってるだろう。
それでもワガママを聞いてこうやって風呂まで連れて行ってくれてるのが、優しいって気がする……
風呂までの道は見慣れた景色で、【敗者】は洗面所の扉を蹴破って開けると服を洗濯機の上に置いてレヴィを下ろした。
「……ほら、脱がすぞ」
「へっ?別にそれくらい……自分で出来るけど……」
と言っても【敗者】は聞かず、レヴィの背中に回ってブラのホックを外し、ブラジャーを奪うと今度はショーツに手をかけた。
「まっ!ほ、ほんとに、それくらい自分でできるからっ!」
「煩い」
【敗者】はショーツをバッと下ろし、レヴィの足を持ち上げてそれも奪い去る。
生まれたままの姿になった彼女をじっと【敗者】は見つめた。
レヴィはボロボロの姿だというのにまだ淡く光を放つ。
血のついて乱れた髪と、衝動に侵され困惑した瞳。
その視線は甘く、見つめられただけで【敗者】の心臓は可笑しくなりそうだった。
【敗者】は、レヴィが血反吐を吐いた瞬間に己に走った焦燥を信じたくはない。しかし、【敗者】はダーカーという概念は本能に抗う事が人間以上に難しい生物だと分かっている。
ヒトになんて、恋愛になんて至極興味無いというのに……
【敗者】は無言のまま、膝を着いて座り込んだ。
「な、……なに」
レヴィは怪訝な目で【敗者】を見下ろしていたが、【敗者】は彼女の腕を掴んだかと思えば上に持ち上げ、脇の下に一瞬で顔を埋め込んだ。
「ひぃぃっ?!な、何してんのあんた?!」
「いや、……なんでもない」
すんすんと匂いを嗅ぐ音が聞こえるとレヴィの顔は真っ青になり、【敗者】を剥がそうとする。
「なんでもなくない!やめて!」
その言葉で【敗者】の顔が少し離れたかと思えば、脇に生温く柔らかい感触と共に唾液の滴る音が聞こえ、レヴィの体がビクンと跳ねた。
「ひゃぁあああっ?!わ、わき、脇、舐め、ッ、こいつ……?!」
「……そういう反応は僕を唆らせるだけだが?」
「やぁぁあーーん!!やばすぎるってーー!!」
【敗者】はしきりに匂いを嗅ぎながらベロベロと容赦なくレヴィの脇を舐めまくり、彼女は半泣きで彼の行為を拒絶し続ける。
しばらくしてから彼はようやく顔を離し、笑顔のまま舌なめずりをした。
「貴様のような野良犬は何処を舐めても良いな……」
「ぶっちゃけ今全然あんたの方が犬なんだけど?!」
「その血も、汗も、涙も……何を喰らっても実に甘美だ。砂糖菓子の擬人化であることを大いに喜ぶといい」
「誰が喜べるっていうのこのバカ!」
【敗者】はそれを聞くと溜息をつき、「こんなに褒めてやっているのに」と文句をぶつくさ垂れた後風呂の扉を開けてレヴィの体を押す。
「まっ!コラ!!まだ話は終わってな……」
バタン、と激しい扉の音が聞こえた後、【敗者】は背を向けて洗面所から出ていってしまった。
「……アイツ〜〜ッ!」
――風呂から出たあと、【敗者】がわたしを熱っぽく見下ろしながらも何故かスッキリとした表情をしていたのは気のせいだろう……
二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。
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続編として作品を分ける
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分けないで一つの作品でまとめる