【敗者】は彼女が突然謝り出したところを見て首を傾げた。
彼にとってはレヴィの行動が至極理解できなかった。
「なぜ謝る?」
「わ、わたしが挑発したせいで、あんたに怪我させたから」
【敗者】にとって、己の褥を守るものはいない。
むしろ寝首を掻かれる可能性を考えて、誰かから嫌われるのは当然だと思って生きていた。
だから、【敗者】は彼女の不安げな視線も彼女が謝る意味も分からなかった。
「はぁ……本当に訳が分からないな。貴様は僕のことを好きなように傷つけていいと思っているくせに自傷は謝る程なのか?むしろ自分が与えようとしていたダメージを相手自身の行動で与えさせたという立派な計略じゃないか」
「計略なんかであんたと話してるつもりはないっ!」
「だったら何のつもりだと?」
「わたしは外に出たいの、それに、アークスを皆殺しにしたい、だから……だから今は、それが出来ないから、暇潰しってだけ。あんたが言ってたことと同じこと!わたしも同じことを考えてるの!わかるでしょ?!」
そう。それは【敗者】にもわかること。
彼女の目的はアークスを皆殺しにすることで、そのために【敗者】から解放されて外に出ることを求めている。
わからないのは、
「分からないな。知性に欠けた回答だ」
「全知を手に入れるとか言うくせにわたしの言うことはなんでもかんでも分からない訳?!それってただの大バカじゃん!」
「僕は賢者の思考回路は理解出来る。馬鹿の思考回路も、低レベルなものとして考えれば十分に理解出来る」
【敗者】はレヴィをよく馬鹿だと言って罵るが、実際ハッキングの才能などを考えると本当の馬鹿とは言いきれないだろう。
しかし、そうなると、賢くも無いのに馬鹿でもなく、しかし行動予測が全く出来ない"意味不明"の存在になるだけだ。
それは【敗者】の目から見ると、未知という言葉で表現することになる。
「だったらなんで!」
「貴様は僕の理解の範疇を大きく超えた、極限の未知を抱えているという訳だ。そこにあるものは知性の有無関係ない」
「……何言ってるのか分からない」
「理解しようとしない、の間違いだろう?自分の中に他者の思考や感情を取り込んでも無駄だから貴様は拒絶して、その責任を他者に押し付けているだけだ」
「とっ……とにかく!もうこんな事しないで!あんたがそうやって傷付く位ならわたしは喋れなくなったってどんなに傷付いたって構わないから!」
レヴィは泣きそうな顔で【敗者】に縋り、彼の背に手を置くとぎゅっと抱きしめた。
「……貴様はなぜそうやって僕の身を案じる?」
「だって、【敗者】は……」
レヴィは【敗者】から目を逸らし、彼の大きな体に抱きついたままボソボソと呟く。
「【敗者】は、わたしみたいにならないで欲しいって思ったから……」
「はぁ……実に愚かだな。ならなぜ僕の取引に同意しない」
「それとこれとは別の問題でしょ?」
「同じ問題だ。僕に対する嫌がらせじゃないと取引を断る意味なんてないだろう」
「でも、……でも、わたしは……」
「まあ、どちらにせよ時期の問題だがな。貴様がいくら断ろうが此方の計画は進ませてもらう。貴様にメリットがあるかないかの違いでしかない」
「……」
黙ったまま、レヴィは彼に身体をくっつけて、ゆっくりと抱擁を剥がした。
「話は終わりか?」
「終わってなんか……!」
レヴィは【敗者】と顔を合わせ、口を開いてはみるものの、【敗者】に口喧嘩で勝てるプランはない。
「だったら貴様の中にあとどれだけの論理がある」
「……わ、わたし、……いや、とにかく!とにかくこんなこともう絶対しないで!絶対絶対何があってもしないで!やるくらいならわたしにやって!いい?!わかった?!」
「はぁ……」
がむしゃらに叫んだ言葉に【敗者】は溜息をつき、呆れた表情で彼女を見下ろしていたがそれをレヴィは許せなかった。
「もし破ったらあんたの嫌がることいっぱいするから!」
「すればどうだ?」
「へ?」
「僕は貴様の言う事など守るつもりはない。貴様のする嫌がらせとやらも所詮幼稚な子供の悪戯に過ぎないだろう。だから勝手にすればいいじゃないか」
「〜〜ッ!!」
ここまで挑発されて簡単に引き下がれる女でもなく、レヴィは頭の中で【敗者】に対する嫌がらせをとにかく考え続ける。
嫌がること、嫌なこと、嫌がってたこと……
「そんな脅しで僕の行動を邪魔できると思ったら大間違いだ」
「ほん、……とにッ……!あんたは……!!」
「は、……なんだ、目でも潰すか?無駄な事くらい知っているだろう」
「だったら今から嫌がらせするからね!するからっ!いい?!」
「さっさとしろ。この時間は無駄だ」
「あとから泣いても知らないから!」
【敗者】に対する嫌がらせが思いつくと、レヴィは彼の肩を掴み、思い切り顔を近づけ、唇を合わせる。
「……っ!」
「は?」
【敗者】は自分が今何をされたのか受け入れられず、レヴィが顔を離してからも惚けた顔で静止していた。
「あーあ、かわいそ!あれだけ噛んだだけのやつをちゅーだちゅーだって言って嫌がってたのにほんとにちゅーされちゃうなんてちょーカワイソ〜!泣けば?ねぇ泣く?泣いちゃう?こんな醜女にちゅーされてエンエン泣いちゃう?いいよエンエンしても。わたし録画したり広めたりしないよ?でも500回くらい笑ってもいい?」
対してレヴィは惚けた様子の【敗者】を見て大成功だと勘違いし、散々に煽り散らかし始める。
先程までの様子とは一変しにやにやと楽しそうで、色々な角度から彼の惚けた顔を覗いてはクスクスと笑い、頬をつつくとまた仰け反るほど笑っていた。
「……貴様……」
「あはっ、怒った!ばーか、やれって言ったのあんたの方で……」
彼の震えた拳が開かれ、レヴィの背を掴むと引き寄せ、【敗者】はもう一度彼女に唇を押し付ける。
「んっ?!」
「貴様はっ、……馬鹿だ、馬鹿だ、大馬鹿だ、何考えているんだ……ッ、これのどこか、嫌がらせだ……ッ!」
「んむっ!!んっ、ちょっ、んんっ!まっ、まっ!!……んんっ!これさっき見た……んっ!」
甘く蕩けるような接吻が嫌なわけが無い。そんなものは嫌がらせに該当しない。
むしろ、不快感や嫌悪感情がないというのなら嬉しいという方が適切で。
「貴様のような女からキスされることが嫌がらせな訳ないだろうが……!少しはそのない頭捻って考えろ……この犬畜生がッ!!」
【敗者】が唇を離すと、レヴィは蠱惑的な潤み目で彼を見つめており、息絶え絶えの声で静かに言葉を紡いだ。
「ふぁ、……はぁ、……はぁ……嫌がらせじゃ、ないの……?」
「僕への嫌がらせをしたいんだったら端末を奪い取って通報するくらいしたらどうだ。貴様にとっては潜伏しているダークファルスを見つけたという栄誉と僕からの解放を得られて少しはアークスとしての位も上がるんじゃないのか」
「ちゅー、嫌がらせじゃない……なら……」
【敗者】の嫌味は彼女の頭には入っておらず、レヴィはただ彼を見つめると、ぼんやりと彼に声を掛けた。
「もっとしたい……って言ってもいいの?」
「はっ、……なんだ、最初からそのつもりだったのか?」
レヴィとしては全く嫌がらせのつもりだったが、【敗者】のその誤った解釈は今のレヴィにとっては好都合だ。
「……そういうことにしておいていい?」
「調子に乗るな」
「むぅ……」
「したいなら貴様からしてこい。僕がそこまで貴様に労力を掛ける意味などない」
と言って、【敗者】は脱力して彼女から目を逸らす。
代わりにレヴィには力が入り、【敗者】に身を乗り上げるとキラキラとした目で彼を見つめた。
「……ッ!!それって!していいってこと?!」
「僕はしない」
「じゃあ……わたしからするね?いい?いいっていったよね?いいね?じゃあするね?」
「……はぁ…」
溜息を返事として受け取ったのか、レヴィは【敗者】の傷をなぞるように舐ると、そのまま唇を合わせはじめる。
【敗者】の真似をして角度を変えながら、何度も何度も、顔を離してはへにゃへにゃと微笑み、また【敗者】に身体を寄せて唇を合わせた。
「今だけだぞ……」
「あんたどうせこういうの慣れてるだろうからわたしの好き勝手にやるよ?ふふふっ……」
「エル……貴様の趣味は僕には理解出来ない……」
「理解しようとしないの間違いでしょ〜♡」
「クッ、……次の訓練の時は泣いても絶対辞めないからな……」
と言いながら、【敗者】はレヴィの頬に触れて彼女に口付けした。
二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。
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続編として作品を分ける
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分けないで一つの作品でまとめる