「……」
レヴィは手をパッと開き、寂しそうに【敗者】を凝視する。
その挙動は抱擁を求める幼子のようで、【敗者】は直ぐにレヴィを抱きしめると彼女は必死に【敗者】の背中へ手を回し抱擁を重ねた。
【敗者】は己のどんな知識を動員させても、レヴィの次の言葉の予測が出来なかった。
彼女が自分の嫌な場所を擽られたことに対する怒りか、それとも【敗者】の発言に対して荒唐無稽で理解できないと喚き散らすさまか、それとも単に快楽を享受して何も話を聞いていなかったか……
解はそのどれでもない。
「……貴方のことが知れて、うれしい」
「あ……?」
【敗者】は思わず腑抜けた声を漏らすが、レヴィはそんな【敗者】を笑うことはなく、抱きしめたまま彼の耳元で静かに言葉を続けた。
「【敗者】とは、あまり長い時間いたとはいえないけど……計画の話をするか、わたしの話をするか、っていうのが多いなって思ったの。
だから、わたしが信頼されていないっていうのは当たり前だけど……あんまり自分のこと、その……何が趣味とか、何が好きだとか、話したくないんだよね」
「……違う、いや、全て違う訳では無い……そうだ、恐らく……」
【敗者】は自分の事を話したくない、ということには概ね同意したが……
レヴィを信頼していないかと言われればそれは肯定しきれなかった。
しかし、レヴィはそこが話の本題とは思っていない故、彼のその言葉には踏み込まない。
「でも、今ちょっとだけ話してくれた」
「これは貴様の誤解を解いただけであり、話している内に入らない。単に怒っただけとも言えるだろうが……」
「それでも、知れて嬉しいの。貴方にならきっと分かるでしょ?何かを知った時の嬉しい気持ち」
「……」
【敗者】はその言葉に何も否定出来なかった。
だから、向けた矛先をどうにかして突き刺す為にレヴィから体を少し離し、鋭い口調で言葉を紡ぐ。
「余り僕を怒らせるな」
「うん、怒りだけが知る為の手段じゃないって分かってる、けど……これは言わせて?」
「……言ってみるといい」
レヴィは【敗者】の細まった目を見ると少し躊躇ったが、胸の間に手を置き、ゆっくりと深呼吸をしてから、【敗者】と目を合わせる。
「わたしは、【敗者】の新しい何かが知れたら凄く嬉しいと思う。
でも、貴方が話したくないって思うなら話さなくてもいいし、もし時間が経って、貴方が話してもいいって思えるなら、わたしはそれを聞きたいって思う。
……もちろん、一生聞けなくたっていいけど」
話をどこに着地するべきか迷って、兎に角彼をまた怒らせないように、自分の好意的な言葉で嫌な思いをさせないように、レヴィはその小さな頭で必死に考えて、【敗者】に意志を伝え続けた。
「つ、つまり……わたし、【敗者】の事が、もっと知りたい……けど、貴方が話したくなった時に……わたしに話してくれると、嬉しいなって……」
「……分かった」
その言葉にレヴィは分かりやすく安堵し、へにゃりと微笑む。
こんなに親の愛を知らない怯えた子供のような様子なのに、中身は二十歳も超えた女性……
その歪さは彼女の人生の過酷さと、それに反しレヴィが【敗者】に対してどれほど好意的に向き合おうとしているのかをひしひしと感じさせた。
「うん……聞いてくれて、良かった」
「ありがとうだ」
「……?」
「そういう時は、ありがとうで……その一言だけで構わない。わざわざ言葉を言い換えて、非効率だろう」
ありがとうも知らない女性。ありがとうと言ったこともないし、ありがとうと言われたこともない。
ただひたすらに蔑まれ、ごめんなさいと言い続けるしか無かった日々……
【敗者】に教えられる当たり前が、レヴィの中に大きく響く。
「あ、……あり、がとう?【敗者】……」
その言葉に【敗者】はレヴィの頭をよく撫でて、また唇を重ねる。
「……よく出来たな、エル」
「ん……」
「いい子だ」
「い、いい子じゃないけど……」
「僕の言う事に逆らうつもりか?」
そう言われてレヴィは顔を竦め、恐る恐る頷く。
しかし、彼女の頭の中では別の考えが浮かび始めていた。
「……分かった、けど、その……【敗者】って……三英雄とか虚空機関の手下にも、こんな対応……してたわけ……?」
会った時からの、あの観察するような手つき、不器用にも優しい挙動、今のこの端から少しづつ絡まった糸を解きほぐしていくかのような甘い戯れ……それら全てが、あまりにも尊くて、レヴィは【敗者】のやっている事が最早嘘か、博愛主義者のように感じてしまった。
「は?しないに決まってるだろう。貴様だけだ」
「っそ!それは、じゃあ、その、……るーさの……元カノとか?」
「はぁ……だから、そんな相手はいなかったといっているだろう。僕は昔から今までずっと誰とも交際もしなければ結婚もしない。人の胎に種を植え付けた事も無い」
厳密に言えば【敗者】の……いや、【敗者】の依代だったルーサーに彼の遺伝子を持った子供に近い何かがいなかった訳では無い。
しかし少なくとも女性となにか関係を紡いで、それによって子供を作って、恋愛感情を持ったりとかそういうことは無かった。
それは【敗者】が深い闇の中から生まれ、ルーサーに取り憑いてからも同じこと。
しかし……そうなるとまたレヴィには変な疑問が思い浮かぶ。
疑問というより、厳密に言えば期待だろうか。
【敗者】への変な期待。
その対象は、他のどの女でもなく……
「……こ」
「こ?」
「……な、なんでもない!」
(これからはそういうこともするのか、なんて……もう!アイツが変な事言うせいでわたしが勘違いしそうになったでしょ?!)
レヴィは一瞬頭の中に駆け巡った妄想に顔が真っ赤になり、暴れだしそうになったのをどうにか理性で抑える。
場所が床とはいえ裸体のまま裸で跨って抱きしめあって、甘い言葉を互いに囁きながらキスしあっていたらそりゃそんな妄想をしてもおかしくないが、【敗者】とレヴィの関係はあくまで駒と主人であり、取引するだけの利害関係であり、そういう感情を抱くのはいけない事だった。
いくら、【敗者】が知るよりも先にレヴィが彼を認知して、性的な目で見ていたとはいえそこまでは流石にありえないこと……
「で、でも、その……じゃあ、なんのつもりで、こんな……」
「僕の知る所ではない」
「るっ!るーさがやってることを何でやってるのって聞いてるだけだよ?!」
「はぁ……だから僕は知らないと言っているが……解をこじつけるとすれば、そうだな……」
レヴィはどうにか自分の妄想を真っ向から切り裂いてくれる【敗者】の毒舌を期待した。
彼はため息をついた後にふむ、と言いながら考え込む。
そして出した結論は。
「僕がお前を個人的に気に入ったから?」
「〜〜ッ?!!」
レヴィは頭の中で沢山の妄想が駆け巡る。
自分の事を好きだという【敗者】、自分に対して膝を着き、手の甲に口付け、一生を共にしたいという彼の姿、そして【敗者】とショップエリアのウェディングロビーの鈴を鳴らして、あの大きすぎるケーキの上でウェディングフォトを撮って、式場は教会?それから……ハネムーンはなんかすごく遠くの綺麗な惑星に行って、その後はラブラブ新婚生活とか――
「駒として」
「こっ、駒!捨て駒ってことだよねっ?!」
「あ、……あぁ」
「はっ、はっ、……は、はぁぁ……そ、そうだよね……安心した……」
【敗者】は自分から嬉々として捨て駒と言い出すレヴィに困惑していたが、彼女にとっては心の中でガッツポーズするほどの偉業だった。
レヴィの妄想は全て【敗者】のその単純な一言で泡となって消え、レヴィは落ち着く事が出来たからだ。
あのままだったら暴走して【敗者】に対して何を言っていたか分からない。
「安心も何も誤解させることなど言ったつもりないが」
「う、うるさい!……も、もうねる!」
「風呂に入ったあと……だが?」
「ううぅ……わかったよぅ……」
レヴィは【敗者】が離れていく姿を見ながら、盛大なため息をついた。
幕間多めでごめんなさい!機器の故障などもあり挿絵が全く追いついていないので挿絵なしの回になります><
二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。
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続編として作品を分ける
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分けないで一つの作品でまとめる