※この作品はR-18です。

MIDNIGHT   作:Libby博士

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10話(1)

 

「後ろ30前25…」

 

 ぶつぶつと呟きながら体は忙しなく動き、広いホールの中で走り回る。

 彼の攻撃は余りにも早く、レヴィはまるで自分が重くなったかのように錯覚してしまうほど、動きの遅さが目立っていた。

レヴィは手首をぐねぐねと動かしながら片手剣で攻撃を受け止め、銃を使って的を撃ち続ける。

 

「見てから避けるとは何のつもりだ!貴様はそんな反応速度で三英雄が相手出来ると本気で思っているのか!」

 

「この……ッ!」

 

 レヴィが剣を振り上げ、バチバチと伝播していくように攻撃の雨が一瞬止むと、その瞬間に剣を構え【敗者】に突っ込む。

 彼は何事も無かったかのように受け止め、レヴィの腕を掴むとぶん投げた。

 

「っ!!」

 

「いいかレヴィ。貴様の目指す道は最強の戦士だ。五感を全て潰されても感覚で避け、どんな状況にあっても攻撃を当てろ。貴様に最も欠けているのは戦闘のセンスだ!無いなら理解するまで体に叩き込め!」

 

 【敗者】の張った声が聞こえた瞬間、彼の背後を赤い剣が埋めつくし、容赦なくレヴィへ向かってくる。

 広いホールを埋め尽くすくらいの……50本以上の猛攻が、吹き飛ばされた直後の軋む体に降ってきた。

レヴィがあれに一本でも当たったとすれば……

 

「バカじゃないの〜〜ッ?!」

 

 レヴィは重い体を動かして必死に走り、剣で打ち返しながら避けていく。

 

(本気で殺すつもりじゃんアイツ!!)

 

 彼女はなんとか避け切り、遮蔽物の後ろに隠れゼェゼェと荒い呼吸を繰り返し整えると武器を銃に変え、【敗者】の様子を見ながら彼が背を向けた瞬間頭に向かって銃弾を放つ。

 

 彼は此方を見る事もなくそれをバリアで防いだが、そのキン、と言う音が響いた瞬間、レヴィは飛び上がると一気に接近した。

 

「はぁッ!」

 

 レヴィはそのむっちりとした太い脚を【敗者】の首に巻き付け、彼の顔を腕で覆いながらこめかみに銃口を押し付けて、躊躇うことも無く引き金を引く。

これで本当に【敗者】が死んだら、とレヴィが思ったのは引き金を引いた後で……

 

 そんな事を考えるのも愚かだと感じさせるように、【敗者】は目にも止まらぬ早さで彼女の手首を覆うと払い上げ、レヴィが握りしめる銃を彼女の耳の傍に持っていく。その一瞬で銃口は空を指し、撃ち抜かれて……

 彼女は不味いと思考する事もできないまま、耳の中に激しい銃声が響いた。

 

「〜〜〜っ?!!」

 

 レヴィの耳から血がほろほろと垂れながら、脱力して【敗者】から剥がれ頭から床に落ちる。

彼はくるりと振り返ると倒れたレヴィの頭を踏みつけ、グリグリと動かした。

 

 ――痛いのに……ぼんやりと、気持ちいい。

それに、耳の中がボーッと鳴っていて、周りの音が何も聞こえない。

 

「__」

 

 【敗者】が何か喋っているが、レヴィは聞こえないまま虚ろに見上げる。

 ダーカー因子が紡がれ彼の手に剣が握られ、それが振り上げられて、レヴィの方に向かって下ろされ……

 

「あぅあああっーー?!」

 

 慌てて転がり避けると、レヴィは何も聞こえない世界のままどうにか立ち上がり、武器をガトリングガンに変えて彼に打ち込みながら叫んだ。

 一応叫んだつもりなのだが、きちんと発声できている自信はレヴィにはなかった。

 

「あう、るーあ、……るー、さー!ずうい!ほむい……ほ、ん、き?で!こおすつもりらったれしょ!」

 

「__」

 

 レヴィに【敗者】の声は聞こえないが、これは確実に読唇術も無いやつが戦うなと馬鹿にされてるだろうと彼女は考えた。

 

(そんなこと言われたって母音くらいしか分からないし、読唇術なんか要らなかったんだから身につけている訳が無いでしょ!)

 

「るーさなうかきらいー!だいっきあい!」

 

 レヴィは思わず創世器縛りだと言うのに懐から爆弾を出して【敗者】に向けて飛ばした瞬間、彼が目の前から消えたと思えば後ろから羽交い締めにされていた。

 

「うあぅううーー!!!」

 

「……レヴィ」

 

 周りの音は聞こえないと言うのに、【敗者】の声がレヴィの内側から脳に向かって反響していく。

 

「鼓膜が破れた程度でその動揺か?目を潰した時のリアクションは実に期待出来るな。不合格だ」

 

「るーあ!」

 

 レヴィは【敗者】の声は聞こえるというのに、己の発声した声は聞こえない……

 

「ふふ、まるで言語未発達の赤子だな……可愛い」

 

「え?!」

 

 【敗者】の言葉に叫んだ瞬間、レヴィの全身に彼の手が這いずったかのように何かが蠢くと、彼は彼女を見上げてくすくすと笑っていた。

 彼が自分を見上げるのはおかしいとレヴィは体を見る。

全身に赤黒い蔦のようなものが絡み、レヴィを締め付けていた。

 

「お仕置きだ。そこから自力で脱出するんだな。出来なければ野良犬から苗床に降格だ」

 

 彼の声がレヴィの内側から響くように聞こえた……

 

「うえええ?!!」

 

 レヴィの周囲には赤い半球状の檻の様なものが囲み、蔦のような触手は背後からするりと服を脱がしていく。

 

「脱出にはどんな手段を使っても構わない。しかし貴様の周囲にはあのルビィでも破壊に苦労するであろう檻……ファンジがあり、貴様を責めるその触手はダーカー因子の爆弾、ベイゼによるものだ」

 

「な、なにいてうの?!」

 

「時間を過ぎればベイゼは爆発し、僕は空間を圧縮してその雨を全て貴様に振らせる。すると、貴様は死ぬか正気を失うかのどちらかになるという訳だ」

 

 実はこの男は本気でわたしを殺すつもりなんじゃないか。

駒にするつもりとか毛頭なくて、最初からこうやって、わたしを殺すつもりで……

 

 なんてレヴィが考えているうちに脚に触手がまとわりつき、下着が剥がされる。

 ふわりと風に乗って飛んだそれを【敗者】が掴み、これみよがしにレヴィに見せつけてくると彼女の顔が赤くなった。

 

「レヴィ、もう一度言う。手段は問わない。貴様の持てる全力でその仕掛けに足掻きたまえ……脱出出来たら貴様の耳を治してやって、休憩としよう」

 

「イヤ!たすけて……あぁぁっ?!」

 バチバチとレヴィの体にまとわりつく触手から何かが下腹部に流れると、股ぐらが湿り体が熱くなる。

 

 ――嘘でもなんでもなく本当に苗床ということなのだろうか。

苗床ということはつまり、ダーカーを産むと……?

 

「助けて?敵に助けを懇願するのか?貴様は本当に愚かだな」

 

 レヴィは何とかしようと腕や足を動かすと更に触手が絡んでいき、胸を擦ると己の喉から甘く声が上がったような気がした。

 

「あっ、あ、だえ、……るーさっ」

 

「ふむ、……相変わらず卑猥な脚をしているものだ。その体で色仕掛けを万回もしてきたのだろうが、金輪際僕以外の全ての男に対しての色仕掛けはご勘弁仕る、と言いたいよ」

 

「あっ…♡ぁっ、ふぁあ……っ♡」

 

 【敗者】は完全に助ける気はなく、レヴィをまるで芸術品のように鑑賞して笑っていた。

 

(アイツセックスしてなかったら絶対目の前でズボン下ろして扱いていたに決まってる……!この変態!ド変態!)

 

「おっと、ひとつ言い忘れていたが……今貴様に僕の声が聞こえるのは、貴様の中に僕の因子が入り込んでいるからだ。つまり、思考盗聴くらい容易いという事になる。このド変態」

 

(はぁぁあああー?!!)

 

 レヴィが彼の言葉に苛立つと力が入り、ギチギチと体を締め付ける触手を意地でも引き剥がそうとするが全く歯が立たない。

 

「〜〜ッ!もはやきもちいとかないし…!」

 

 武器は、……武器は一応このファンジの中にある。あれさえ手に取れればいいのだけれど……と、レヴィは歯を食いしばって考え込む。

 そこに、【敗者】からアドバイスが放たれた。

 

「いいか、貴様の持つ創世器の力は強大だ。

創世器とは天変地異の力を持つ程の武器。例えアイゼンハートに他の創世器が持つような星を砕き海を割る力がなくとも、別のベクトルで逸出した力を持っているはずだ。既に貴様はそれを知っているはずだろう?」

 

 そんなこと言われても、とレヴィは快楽で思考を著しく乱されながら霞む目でアイゼンハートを見つめる。

 アイゼンハートと言えば武器変化と転換だけで、今はそれが使えなくて……

 

「レヴィ。お前は元々人とは違う独特の考え方を持つ事が出来る女だ。武器も他者が持つような形に囚われなくてもいい。其れが刃を持ち弾を撃ち糸を張るように、他の誰も思いつかないような不可能の発想を持てば、其れは必ずや力となり答えるだろう」

 

(……使えなくない)

 

 レヴィは極限まで集中して外部からの感覚をシャットアウトさせ、己の思考で全身を支配する。

 地面に落ちているアイゼンハートはまだ星の輝きを放っていた。

それに対してレヴィの手から離れ【敗者】が持っていた時のアイゼンハートは鉄くずのように真っ黒な武器となっていた。

 

 ――この状態でも、アイゼンハートはまだ起動したままで、わたしはそれを扱う事が出来る……?

 

(武器変化はわたしの脳で考えた形に変化する。それはイメージさえ固まっていれば形は問わず、そして瞬間的に変化していく。

そして、アイゼンハートの変化はわたしが位置を指定する事が出来る……)

 

 パッと頭の中に思考が駆け巡り、レヴィの中で閃いた瞬間【敗者】はニンマリと笑顔を浮かべた。

 レヴィはアイゼンハートに目を向けて頷くと、瞼を閉じイメージを固める。

 

 耳は聞こえず、視界も真っ暗だと言うのに、間違いなく目の前の景色はレヴィの想像した通りに紡がれていると感じる事が出来る。

 

 武器がわざわざ人の持つものだなんて考える必要なんか特に無い。

アークスの標準装備であるマグだってレヴィには管理官から嫌がらせでずっと与えられていないが、あれは確か小動物の脳を使っていたものだ。

だったら、人の魂を作って作り上げたそれが人の持つ武器やマグ程度の大きさに収まる訳が無い。

 

人よりも大きく、鋼鉄のように固く、滾る力はこの空間の全てを支配するように。

 

「……上出来だ!それを保て!」

 

「言われなくても!」

 

 超限可変機構・アイゼンファイアとでも名付けてやろうか。

空間を割いて目の前に現れた巨大なロボットの手が剣を持ち、ファンジを丸ごとベイゼの触手を切り裂く。

 

「ッ!」

 

 レヴィは開いた瞳で更にイメージを固めるとアイゼンハートが霧となって消え、代わりにバイクになって現れ、彼女はそれに跨る。

 

 武器が武器の形をしている必要は無いなんて、最初から考えればわかる事だったのに――!!

 

 でも、そんな当たり前の事を土壇場で思い出せるかと言われたらそんな自信はない……とレヴィは思った。

 

 ――それを気付かせてくれた【敗者】はやっぱり、オラクルを支配し、アークスを発展させていただけの事はあると言ったところだろうか?

 いや、……わたしのことをずっと見て、本気で強くなって欲しいって考えていてくれたから?

 

「おりゃあああーーッ!!」

 

 レヴィは全速力で突っ込み、ぶち当たるその瞬間にジャンプで離れるとバイクはベイゼに全力で激突し、大爆発を起こす。

 レヴィは満足気にガッツポーズした後、彼女の浮いた体が支えもなく自由落下していく。

 そのまま地面にぶつかって倒れてやるか、なんて思っていると、レヴィの体を硬くて少しだけ柔らかい感触が包み、【敗者】の匂いがふわりと香った。




「……よくやった」

(【敗者】……)

 彼がレヴィに手を当て、頬を撫でると体が軽くなっていく。
 レヴィはゆっくりと少しずつ周りの音が聞こえ始め、さらさらと彼の髪が靡く音が耳に入ると、【敗者】は彼女を見て顔を綻ばせた。

 その些細な感覚だけで、レヴィの体は柔く快楽を覚える。
思わず顔が赤くなり、目線をチラチラと逸らして、レヴィは小さくつぶやく。

「あんた……殺すつもりだったでしょ」

「貴様こそ、僕を殺すつもりだっただろう?」

「あたりまえでしょ?敵想定なんだから」

「それは此方も同じ事だ」

 ぷっくりと頬をふくらませて苛立つレヴィをソファに寝かせ、【敗者】は膝を着いて座り彼女を眺めた。

「……味方なら、あーなった時助けてくれるわけ?」

「何を言っているんだ?自分で脱出できる能力があるなら僕をわざわざ煩わせる意味などないだろう」

「むぅぅーーっ!」

 しかし、と【敗者】は言葉を付け足して、レヴィの頬を撫でる。

「訓練中は敵の想定でも今は味方だ。貴様の命は僕も守る。殺すつもりなど早々ない」

「……うん」

 レヴィは軋む体を起こし、座り込むと横をポンポンと叩いた。
 【敗者】は隣に座り、レヴィの方をじっと向きながら肩を寄せる。

「わたし、少しは【敗者】の力になれそう?」

「あぁ。不可能を押し付けたつもりだったが、乗り越えてくるというのは正直想定外だ」

「どの辺が?」

「全て」

 【敗者】の言葉にレヴィはぽっと丸い瞳で彼を見上げながら首を傾げると、彼はその挙動をじっと凝視した。
 綻びそうになる唇をへの字に抑え込みながら、【敗者】は出来るだけ淡々と呟く。

「一つだけ言うとすれば、お仕置きで与えたあのトラップはルビィ一人で超えることは計算上不可能だ」

「エッ?!」

「勿論、ルビィがその創世器を持てば可能になる。
しかし創世器の性能を引き出すという面に特化した訓練では十分な成果を収めたと言えるだろう」

 【敗者】は出来る限りの言葉でレヴィを褒めると、彼女はぱあっと顔が明るくなり【敗者】に抱きつく。
 彼はそれを半分本気で喜んで受け止めたが、もう半分は不安を感じていた。
 まだ創世器に未知の部分が多いというのもあるが、それ以上に創世器が彼の無茶振りとレヴィの過負荷に損傷している所だった。
六芒均衡のマリアが持つ創世器は一撃で毎回使い物にならないくらい破損するが、あれは装者のパワーが余りにも強すぎる故であり、創世器本体は普段の武器よりも万倍も硬い。

 それに比べてこのアイゼンハートはレヴィが装備して扱うだけの負荷を請け負っておきながら、彼女の無茶振りな転換や変化にも答え、防御も行っている。
当然の始末と言えばそうだが武器としての揺らぎが強く、このままだとレヴィがまた内臓を損傷するような無茶をすれば、武器かレヴィのどちらかが取り返しのつかないレベルで損傷する。
 そうなれば当然ながら創世器に頼らない戦闘をする必要がある……。
他の創世器持ちと違い刀匠に頼って創世器を治す事が現状不可能な状況下では、これ以上の負荷を掛けることは一度抑えてレヴィの素の戦闘能力を高めるしかない。
となれば普通の武器を使わせて、その中で瞬間的な判断力や攻撃力を鍛える他、レヴィが持っている他の武器との組み合わせも考える必要が……

「……【敗者】?」

「あぁ、……どうした?」

「考え事?」

「貴様についてのことだ」

 レヴィはキョロキョロと周りを見渡したあと、【敗者】を見つめ、彼の頬にゆっくりと手を置く。

「仲間って、なんか……不思議な響きだね」

 【敗者】は頷いて、レヴィの小さな手に頬を寄せ、すりすりと頭を動かした。
彼から見ても、仲間という言葉は奇妙に感じた。

 もしあの時レヴィではなくレギアスと出会っていたら、レギアスに仲間になれ、……と乞うていたのだろうか……

 【敗者】はそんな事をぼんやり考えていると、レヴィが彼の頬を摘んで引っ張り、くすくすと笑った。

「ふふ、仲間だからってあんたそんなに油断しちゃっていいの?後ろから刺されても知らないよ?」

「…貴様に刺された程度で僕は死なない」

 【敗者】の無愛想な返事でもレヴィは楽しそうに彼に笑顔を向け、指で銃の形を作ると額に当てて笑いだした。

「こうやったらどうなるの?」

「塞がるだけだ。痛みも苦しみも損傷もない」

「ふーん……」

 レヴィは怪訝な目で彼を見上げた。
懐疑的な心情もあるが、それと同じくらい力を求める己の弱さを【敗者】の手によってこれでもかという位自覚させられて、少し不安にもなっていた。

「案ずることは無い。僕が本来の力を取り戻し、貴様がより適切な修練を積み力を得る事が出来れば、向かう先に敵無しと言っても過言ではないだろう」

 彼女の足が止まることは彼にとって一番不利になる事だ。
【敗者】は己の駒を不信無く最大限に活用するために、言葉を選んで励ましてやる。
 レヴィはそれを聞くとへにゃへにゃと顔が綻び、彼の言葉に素直に喜んだ。
 レヴィは褒められる事に慣れていない。
そして、【敗者】のような彼女が思う明確に強いと認識した相手に仲間だと認められることは、より幸福感を覚えた。

「わたし達の目標のために?」

「そうだ。……全知を手に入れる為に」

 そんなレヴィの様子を見て【敗者】は大きな満足感を覚える。
【敗者】が何百年もの時間を掛けて、ついぞ恒久的に得ることの無かった満足感が……

「ふふ、じゃあそれまでわたしとあんたは最高のバディって事で……ね?」

 レヴィがバン、と撃ち抜くジェスチャーをすると、【敗者】は彼女の手を取ると拳を開き、指を絡める。

「バディか……貴様は相も変わらずつまらない言い回しを好むようだ……」

 そう言いつつも【敗者】は目を閉じ、顔が柔らかく綻んだ。
バディは愚か友人という立場の人間すらいなかった【敗者】にその言葉は酷く滑稽で、同時に愛おしくも聞こえた。

「ルー。わたしの、……バディ……」

「……あぁ」

 彼女の甘い声が、【敗者】の奥底に響き渡る。

 ――僕はあんな風にこの女に手を出して……後からなんと言い訳すればいいんだ?
快楽に弱いこの女を好きなように操る為?
それとも我欲を満たす為?
その我欲が全知とは関係の無いことだと言うのに……?

 惚れてなどいない、恋愛感情など興味無い、この女が僕の恋人や、あまつさえ妃になるだと?
そんなもの、有り得ないはずだ、……有り得ないはず……、しかし……

「……【敗者】?」

 レヴィが【敗者】にぐっと顔を近付け、小さな手を彼の頭に乗せる。

「なんかぼーっとしてたけど……大丈夫?」

「貴様に心配される事ではない」

 彼がぶっきらぼうに言葉を告げても、レヴィは微笑んで、「そっか」と返した。
尽くまで【敗者】に狡い女な事だ。

 レヴィの手が【敗者】の頭上で動き、撫でられると彼は声を静かに上げた。

「そんなことをする暇があるなら再開するか?」

「……撫でられるの嫌?」

 【敗者】に返事など必要なかった。
静かに項垂れて、彼女の手に頭を任せる。

 【敗者】は彼女の手の感触を確かめながら、脳水泳に浸る。
少しずつ思っていたことだが、この女は戦闘好きの割には戦闘に関する天性の才能があるという訳では無い。
弱くは無いし、強くなれない訳では無いのだが、あと百年もすれば戦うことに飽きて、別の何か楽しい事を増やし其方の方で天才と呼ばれているかもしれない。
ハッキングが一番可能性の高い事だが、色々やらせてみればきっと他にも見つかることだろう。

 レヴィが望んでいるから彼女を強くさせ、戦うことを選んでいるが……もし彼女が諦めたとしても、【敗者】はそれを批難することは無いだろう。元々、その方向には使う必要のないものをどうにか使おうとしているのだから。

「【敗者】、……いい子」

「僕は少しも良いことをした覚えは無い」

「わたしがいい子って言ったからいい子なの!わたしに唯一優しくしてくれる、いい子!」

「貴様の言う良い子のハードルはあまりにも低いな……」

 【敗者】はそんな事を言いつつ、レヴィに抱きしめられてその胸の下の汗の匂いをこれでもかという位嗅がせられると頭が麻痺していった。
 この女のフェロモンは彼の数少ない弱点のうちのひとつだろう。
動き続けて汗だくになり、その姿で彼に甘えてくる所を見ると堪らなくいやらしく思うのだ。
しかし、こんな思考も、もう抑えなくていい。彼らは来るところまで来てしまったのだから。

(……やるべきことが終わったら……またセックスしてもいいだろうか?)

 レヴィの太ももに触れ、いやらしく撫で回しながら【敗者】はそんなことをぼんやり考えていた。

二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。

  • 続編として作品を分ける
  • 分けないで一つの作品でまとめる
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