レヴィと【敗者】はキャンプシップに乗って移動し、とあるアークスシップにやってきた。
――146番艦 063ブロック 市街地
「ここはね、結構悪いトコなの」
レヴィはあからさまに廃れた場所を早足で歩きながら【敗者】にそう声をかけた。
「あぁ、ここは……ライブ用のドームが丸ごと違法薬物の製造プラントになっている所か」
「そうそう、この辺に居るやつはみんなデストロラゲンを持ってる。体内フォトンの流れを狂わせて脳に過剰な刺激を与え、興奮状態へと陥らせる薬……ようは、わたしには意味が無いやつ」
「さて、ダークファルスでも効果はあるのだろうか」
「あはははっ!あれの最初の売り文句は"ダーカー因子汚染による肉体強化を安全に"だよ?ダークファルスなら肉体強化なんて元々されてるから無意味に決まってるじゃんね!」
「あぁ……分かりきったことか。それで?こんな所で何をするつもりだ?」
「任務の手伝いしてくれる人と待ち合わせしてるの。どうせこれから何回もお世話になるし、あんたも挨拶しときなよ。ちょっと頭の切れる曲者だから、全知存在がなんだとか言わないでね絶対。バレたら面倒だし」
「そこについてはどうでもいいが……任務内容に関しては気になることがある。宇宙探索を利用して対象の宙域に近づくのはいいが、貴様の作戦を見た限りだとレンタルしたシップをそのまま運航していくと書いてあった。
それでは容易に見つかってしまうだろう。
船内に宇宙空間活動用のブースター装備を搭載して生身で行くプランの方がいいんじゃないか?」
【敗者】がその言葉を吐くと、レヴィは彼から顔を逸らし、一言だけ呟いた。
「……生身は無理」
それだけ吐き捨てた後、直ぐに態度を変え、小走りになりながらわざとらしく声を張り上げる。
「その辺はちゃーんと考えてるの!一緒に宇宙探索に行ってるアークス気絶させてそいつの船乗っ取ればいいでしょー?それでハッキングしたり手を加えてもらったらちょっとの期間はバレないから、後はそいつらが謹慎食らう前に一緒の任務に入ってー、始末すればいいだけ」
「アークスの管理体制は既に変化している。そう上手くいくかどうかは分からないな」
「取ってきた資料あんたも見たんだっけ?確か総括管理職になったウルク?って奴が、ロビーの改修とか法整備とかを指揮してるって話。経歴を見る限りオペレーター試験を合格してはいるけど、士官ではないし……あんたの目はコイツになにか見出してるわけ?」
「いや。寧ろ僕が一番これの無能さを知っている。フォトン適性もなく、オペレーター試験の合格も不正。もちろんこの管理職も周りの熟練から指導を受けてている未熟な状態だろう」
「だったらなんでそんなに警戒するわけ?」
「バークス*1の下っ端が簡単に統括管理職になれる訳ないだろう?特例合格だ。裏に噛んでいるのは現マザーシップの核であり、アークスの実質的なトップである存在に違いない。コイツは僕の敵では無いが、マザーシップの核は危険だ」
「なるほどね……確か、ルビィの傍に居て抹殺命令が下ってたマトイって女も特例で入隊申請が提出されてたっけ。色々情報持ってきては居るけど全部に目通してないんだよね」
「その辺は全て向こうの策略だ。僕の居ないオラクルをまとめあげる為、支配下にいた上官の首を切って信頼出来る相手をトップに置いたのだろう。そして、同時に六芒均衡や三英雄の権力も削り民主的なアークスを作ろうとしている……実に愚かだな」
「ふふ、どうせ滅びるくせにね。何頑張ってんのかわたしにはわかんないや」
「全くだ。しかし、貴様のために後で要注意人物のリストも用意しておく必要があるようだな。先の一件もあり、特に警戒しなければいけない相手は知っておく必要がある」
「そうしてくれると嬉しいなぁ、わたし三英雄すらあやふやだから」
「殺す相手の顔くらい覚えておいたらどうだ?」
廃れた市街地の中を進んでいくと、レヴィはとある廃ビルの前に立った。
中には人が居るとは到底思えない程、おどろおどろしい気配がしている。
「あ、着いたよ。じゃあ連絡取って鍵開けてもらうからちょっとまっててね」
「あぁ……」
レヴィは端末を開いて軽くメッセージを送った後、廃ビルの中に入っていく。
カタン、カタン、と瓦礫や廃材にまみれた書類の隙間を縫って二階、三階と登っていく。
「よし。もう一回言うけどあんたの経歴とか種族がバレるような立ち回りしないでね。変装までしてるんだから」
「……」
五階。ようやく目的地までたどり着くと、レヴィは【敗者】を少し見つめたあと、扉を蹴った。
「もしもし、ナナシだけど」
「……入れ」
内側から聞こえるのは壮年の男の声。
恐らくは、40代や50代くらいだろう。
レヴィが扉を開いて先に入り、胸に手を当てて軽く会釈する。
その後に変装した【敗者】が入り、彼女の後ろに立ってぼんやりどこか遠くを見つめていた。
「ごきげんよう、シルン。今日はその……」
ソファにドカッと座って腕を組む、シルンと呼ばれた男。
目に皺が寄り、頬骨の目立つわかりやすい"オッサン"。胸元の空いた灰色のシャツに黒いズボンと随分シンプルな服装で、暗いくせっ毛の赤髪は軽く結ばれている。
しかし彼は挨拶したレヴィの方を見ることはなく、その後ろの変装した【敗者】に顔を向け、目を見開いていた。
「総長?」
「……」
【敗者】は軽く顔を向けたが、返事はしない。
無言の空間を突き破るようにレヴィが間に入り、【敗者】の方に振り返ってワチャワチャと忙しなく動いた。
「えッ?!もー!あんたなんかアイコンタクトでも送った?コラ!そういうのしないって約束して……」
忙しないレヴィとは対照的に【敗者】は酷く冷静で、変装を剥がしウィッグや変声機も消したダークファルス【敗者】の状態で向き合った。
「足音か?」
シルンは【敗者】を見るとコクンと頷き、すぐに立ち上がる。
「左様。全く、反フォトン姫と取引しようと思って来たら総長が来るとは驚きだ。いや……今はダークファルス、だっけか」
「反フォトン姫?」
"姫"など不相応だろう、なんて【敗者】は思いながら未だに動きが虫のようにワタワタとしてるレヴィの方を見た。
まあ確かに、【敗者】という存在の隣に並び立つ物として姫という概念を立てるのは悪くは無いのだが……姫か?この女が?
「そこの女がアンチフォトンないしアンチアークス組織から呼ばれてるあだ名だよ。姫というより寝床を襲う暗殺者にしか見えないがな」
「姫というより蛮族の方がいいんじゃないか?」
どう考えても蛮族か虫か獣だろう、と【敗者】は思って声を出すと、当然のようにレヴィから突っ込まれる。
「【敗者】!あんた本当にいっつもわたしのこと浮浪者とか蛮族とか散々言ってくれるけどわたしは真っ当なアークスでしょ?!」
「は?」
殺人窃盗犯罪上等の女が、非公認の違法任務に来ておきながら真っ当なアークスと。
【敗者】はこのままレヴィをぶん殴ってもいいと言わんばかりの解せない目線を送り、彼女を怯ませる。
「むぅぅぅ……!!」
「総長。少し時間を貰えないでしょうか」
「それはこの女がしている依頼と関係のある話か?」
「ええ」
「だったら……レヴィ。座っていろ。取引を楽に進めるために必要な事だ」
「はぁ……分かったよ」
想定を超えた現状にレヴィはまだ飲み込むことが出来ず、冷静に状況を判断するため今は二人の会話をしっかりと聞くことにした。
小石や砂を避けて近くの床に座り、向かい合う【敗者】とシルンをぼんやりと眺めながら、レヴィは不満げに口角を下げる。
「総長にまた会えるとは実に光栄だよ。それにしても、そこの女がそんなにうるさいのは初めて見たな。それが素なのか?」
「それでなんか悪い?」
「陰気臭い顔して殺気撒き散らしてるよりはマシかもな?で、総長にとって彼女は何だと?」
「貴様の予想を超えることは無い。ただの駒だ」
【敗者】はレヴィの方に近づき、屈んで彼女の脇の下を掴むと持ち上げてすぐにソファの方に下ろす。
【敗者】は会話を欠かさぬままレヴィを椅子に座らせるとすぐに彼女から離れた。
「駒……なんの為の?」
「以前と変わらない、僕の目的を達成するための物であり……復讐、でもある」
「復讐……あぁ、超新星アークスルビィ様への復讐か。横の妹と揃って意気投合というシナリオだな。読めた読めた」
「分かるでしょ【敗者】?……ムカつくんだよコイツ」
「愚者揃いのアークスの中では比較的マシな男だ。流石はフェオの艦橋指揮を務めていただけはある」
そう。シルンと呼ばれた男は表社会でも裏社会でも、ハッカーであるレヴィが頼る程の大物だ。
アークスシップ一番艦の艦橋に居座り、艦隊指揮の権利においては三英雄レギアス総督の次に偉いとも言われていたほどで、レヴィが"ムカつく"のも頷けるほどの超超超エリートである。
「ははは、俺はただの悪い士官だよ。そこの女みたいな奴から大金貰って悪いことしたり、総長から命令を受けて悪いことしたり……」
「つまりシルンは【敗者】の手先だったってワケね」
「艦橋指揮に関しては数年前に辞めたがね。
とはいえ、お前も知る通り老体相手にはいくらでも話を通せるし士官の座は残ったまま。もっと自由な立場で稼ぎ放題っていう訳だよ」
シルンは今現在新生されているアークスの云々には関与していない。
一番艦の艦隊指揮を取り、虚空機関総長や裏社会と繋がっているという所からわかる通り、とても分かりやすい"腐りきったアークス"だ。
「で、あんた達が知り合いなら分かるだろうけど……宇宙探索の担当オペレーターをシルンの手先に変えて殺る相手のアークスの不祥事を多少でもいいから隠してもらうってこと。
予約とか入れてないから相手は決まってないけど、決め次第わたしはそのアークスにデータが繋がる裏任務のアカウントを作成して、シルンは任務時のバックアップをしてもらう」
「あぁ……貴様の自信の原因がよく分かったよ」
「でしょ?で、一応聞くけどわたしと全く同じような任務を請け負ってたりは?」
「ナイショだ。仮にいるなら競争頑張れよ」
「……って感じ。特に誰にも肩を貸すことないわたしみたいなのと同タイプの人間。金さえ渡せば情報奪う依頼がライバル同士から来ても両方平気で請けるやつ。肩を持つとしたら、より多くの金を出した方」
「それが貴様なりの裏任務のやり方か」
「そういう訳。同業者の中には企業所属とかで露骨に寄った任務こなす奴いるけど、企業から金出てなきゃそういうことするやつは稼げないから。無所属の荒くれ者は見境無いのが最適解になる。まあ力がないと背中から撃たれるけどね」
「生き残ってる奴は殺すと自分の不利益にもなるような貴重な人材だけだ。俺のような奴とか、そこのルビィの妹のような今代唯一無二のハッカーとか」
レヴィの裏任務は"何でもやる"がスタンスだが、あまりにも怪しい依頼や割に合わない依頼は避けて稼げるものを選んでいる為、普段は外に出てこなすような暗殺や運搬などの物が多い。
しかし、自宅にいながら片手間でも出来るような依頼は最早裏任務というのも恥ずかしいと言わんばかりに片手間の小遣い稼ぎとしてやっている。
それがハッキングの依頼だ。
「……同業者向けのハッキングの依頼も受けているという事だな」
「情報盗んでこいみたいなやつの事?それならよくやるけど、地区の管理権限を乗っ取ったり管制にハッキングするようなやつは何億何兆出されてもやらないよ。リスクあるし、そういう時の相手の依頼って初等部の子供が夢で見るみたいな馬鹿依頼だからバレそうだし」
一貫して変わらないレヴィのスタンスは、「どんな犯罪もしていいがバレてはいけない」。
犯罪上等の裏社会であっても、そのスタンスは決して崩さない。
「それでなんだが、総長さえ良ければ俺はどんな事でも協力するぜ」
「……金出さないと協力しないやつの癖に富も権力もない宇宙の敵に無償で協力?バッカじゃないの?」
「足音で見分けるくらい気に入ってんだよ総長の事は。俺らみたいな捻くれ者はな、ずる賢い奴が好きなんだ」
シルンの言葉から嘘は読み取れなかったが、怪しさに関しては全開だ。
レヴィは一人では判断出来ないと【敗者】に目を向け、彼の出方を伺ってみることにした。
「【敗者】……あんたどうするわけ?わたしは全く信頼できないんだけど」
「僕から見ればこの男はこの場限りで処分しておいた方がいいと考えている。僕の事を悟られた以上、どう脅そうが裏切らない保証などどこにも無い。貴様のような恋愛脳と違って此奴は男に過ぎないからな」
「でも殺したら権限持ってるやつが居なくなって裏任務大変になっちゃうんだって〜……どうやって口封じする?生きたままのほうがいいんだけど……持ち帰って監禁とかする?タイピングに必要な指だけ残して切り落として、足も切っちゃえばそう簡単には裏切らないと思うけど……」
「……」
「あ、喉も潰しておこっか。シルンの喉仏って、なんかゴツゴツしてて良いから。潰したらギリギリ食べられそうじゃん」
「そんな男の首に噛み付く前にもっと周りに目を向けた方がいいんじゃないか?」
「周り……あんたを噛めってこと?ダメージない癖に何言ってんの」
「拉致するのは構わないが……僕ならともかく貴様が人を閉じ込めたら相手を裸体にして地面に食事をばらまいて寝る度に暴力を振るい牢屋に定期的に石を投げ込むだろう?」
「えっなんで分かったの?厳密に言うと檻は外ね。どうせアークスなんだから避雷針とか付けて雷に打たせてもいいかな。雨風強い日も全裸で放置しないと」
二人であれやこれや拷問話で盛り上がってるところだが、シルンからすると二人の異様な様子の方が目についた。
(総長は駒だと言っているが……コイツらそういう仲か?とはいえ妹の豹変ぶりから考えて絶対令が出てた日以前に交流はないだろう。ダークファルス相手にせよ総長相手にせよ落とすにしては時間が短すぎる……)
「あっそうだ、折角ならサイボーグ実験の被検体を…」
「盛り上がってるところ申し訳ないが俺は総長を裏切る気なんてない。というか、総長の居場所を伝えた時点で俺もまとめて終わりだ」
「なんで……?」
「裏にはアークス新生に対して反対してる奴もそれなり居るんだよ。今の指名手配って状況はそんな奴らにとっての希望なんだ。そんな中で士官の権限を使ってその芽を摘んだら、その時こそ奴らにとって俺の"利用価値が無くなり敵になる瞬間"だろう。そうすれば次に裏で指名手配されるのは俺。そんなリスクを背負うなんてごめんだね」
「ふーん……敵を作りたくないから、か。それは嘘じゃなさそうだけど……【敗者】はどう?」
「大衆層に対するアプローチが少し早くなりそうだ。アングラな方面から手を付けるという考えは間違いではなかったようだな。しかし、もっと広く浅く浸透させるにはやはりレヴィをパフォーマーとして……」
「あのー……【敗者】?」
先程までレヴィを除いてシルンと【敗者】が会話していた筈なのに、今の【敗者】は脳水泳に閉じこもっているようで中々浮上してこない。一応レヴィだから、非常に最低限の返事だけは返しておくようだが。
「僕は貴様に構っている暇は無い。貴様の方の手続きを進めておけ」
「あっそう……、じゃあシルン。これが今回の任務に使うアークスカードとパーソナルデータだから」
レヴィは【敗者】の分とまとめてデータを差し出すと、シルンは渡された物を眺めながら楽しげに笑った。
「パーソナルデータの偽造なんて相変わらず変なことやってるな、お前は」
「その辺の偽造依頼なら登竜門のようにやりまくってきたし、今更辞めるつもりもない。薬物運搬だって、死体処理だって、暗殺だって、出来るならなんでもやる。あんたと同じ金最優先な奴ってこと」
思考回路やスタンスは昔のレヴィと変わらないのに、容姿は異様に綺麗になっている。
シルンはレヴィのよく手入れされた髪や新品の綺麗な服や、きらきらと輝く韓紅の瞳を眺めて目を細めた。
「それにしても……随分と綺麗になったな」
「はぁ……、あそこに居る計算男には分からなかったんだけどね」
レヴィはシルンからの言葉には興味もなくひとりの世界に閉じこもってる【敗者】に顔を向ける。
シルンは、レヴィが彼を見る甘く焦がれたような目つきを少し気持ち悪く感じた。
あの総長に、この女がこんな目を向けると?
「お前は一体総長に何を求めているんだ?総長は人の顔や体の綺麗さなんて求めてない。皮の下の中身しか見てないような男だぞ」
「えっ……?そうなの?可笑しいな……【敗者】はわたしの見た目があーだこーだ言ってくるんだけど……」
「お前の中身は呪いで空っぽだからな。総長も外面でしか評価できないんだろう」
「矛盾してる。あんたはアイツが見てくれに興味ないとか言ったくせにその次にはわたしに中身がないから外を見るとか……本当に中身にしか興味無いならない時点で価値がなくなるに決まってんでしょ。
もしかして、頭の中呪われてる?だから考え無しに空っぽなの?」
「……そういう態度を総長にも取ってんのか?」
「当たり前……わたし、人によって態度変えるほど暇じゃない」
「嘘つけ。総長と話してる時のお前は猫撫で声でベタベタして気持ち悪い位だ。人の矛盾を指摘する前に自分の矛盾を自覚しな」
「……」
馴れ合いたい訳でもないが棘が過ぎる言葉。
シルンとレヴィの会話はギスギスとしていて、一触即発と言ってもおかしくない程だが二人の間には不干渉という明確なラインが引かれていた。
「俺は生憎女房は自然で朗らかな女を所望だからお前のような危険だらけの棘女は好みじゃないんだがな。それくらい真面目に化粧すれば総長に夢見なくても男を釣るくらい簡単だと思うぞ」
「【敗者】に夢……そうね」
「お前が総長に何を感じていようが所詮お前はアークスの底辺、スラム街のクズの一人。フォトナーであり虚空機関の総長であるあの男とは天地の差があるんだよ。お前は総長の高尚な思想を微塵も理解していない。だから薄っぺらい恋愛ごっこでキャーキャーして体をくっ付けて遊べるんだ」
「あんたに言われる筋合い……ない」
「お前より優秀な駒はこの世にいくらでもいる。幾らハッキング能力に優れていても、今総長の求める駒はアークスをひっくり返せる実力があるものだ。肉体サービスを与えてる暇があるなら、さっさとこの曖昧な時期に虚空機関を再建し権力を取り返したいと考えているだろう」
「【敗者】が上に立つの……無理。ダークファルスだから……」
レヴィは段々声が籠り、顔を下げ、昔の喋り方に戻っていく。シルンから目を逸らしてどこでもない地面を見つめながら、指を擦り合わせたり、義眼の片目を閉じたりしてあからさまにストレスを感じていた。
「総長が上に立つ必要は無い。虚空機関所属の忠実な奴隷や強く賢いアークスにその座を担わせて裏から操ればいいだけだ。お前にその才能はない」
(……こいつの言ってることは正論だ。【敗者】の行動はなるべく早くやるべきで、得られるものは多くあるべきで、そのためには基礎なんかをやらされてるわたしよりもっといい駒が居るはず……)
「そんなに恋愛ごっこがしたいなら胸でも出して街でも練り歩いたらどうだ。正体を隠してお淑やかな事さえ言ってれば男は直ぐにイチコロだ。あと、謙虚な態度も忘れずに」
「……弱い男は嫌い」
「お前にそんなワガママ言える暇あるか?土下座でもしてどうか構ってくださいって言うのが普通だろう。総長は選択肢がないからお前を選んだんだ。それくらい分かってるよな」
「うん……」
深い所まで受け止めたら、また道が見えなくなってしまいそうで。
怖くなって、レヴィはこれ以上シルンの言葉を聞きたくなかった。
それどころか、最早口からは嫌な弱音すら漏れてしまいそうだった。
レヴィは不安げに視線をあげると、【敗者】の方を見つめる。
彼は端末に夢中だったが、レヴィが暫く彼に視線を送っていると振り向いた。
「レヴィ」
【敗者】は直ぐにレヴィの元へ近付いて、彼女の首に手を触れる。
「あ、いや……用、ない。見てただけ。好きな事……してて」
「僕は今自分が望んだことをやっているつもりなんだがね」
「……やること捨ててわたしに構うことが?馬鹿?」
「やるべきことは先程丁度終わった。放棄したつもりも無い」
「わたしのやるべき事も終えた。行くよ。競争になるかもしれない」
「……」
レヴィは扉の方に体を向けて足を一歩踏み出してみたが、【敗者】は微動だにしない。
彼に急かすように催促して、さっさとこの空間から消えたかったのだが……
二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。
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続編として作品を分ける
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分けないで一つの作品でまとめる