相手を決めるとシルンにデータを送り、宇宙服のまま、また座席の方に戻ってきて【敗者】に声をかけた。
「行くから、これ持ってて」
レヴィは【敗者】に命綱の先を渡すと、懐から銃を取り出す。準備万端だ。
「あぁ……」
命綱を繋ぎ、ハッチを空け、キャンプシップから降りるレヴィは【敗者】から見れば旧人類どころか原人レベルであまりにも古臭い様相である。
しかし彼女はそんな彼からの感情を察知することも無く、端末を眺めながら素早く目的のキャンプシップまで向かった。
中のカメラのデータをハッキングでわざと分かりやすく無効にすると、扉を眺めてから、【敗者】をちらりと見る。
「命綱、そこに繋いでおいて」
そう言われると【敗者】は詳細を聞き返すことも無くキャンプシップに命綱を繋ぎ、空いた手で己の手のひらを眺める。
ダーカー因子を使えば、楽に切り抜けられるだろうが変装の意味が無くなる。
しかしレヴィ一人に任せるのは不安だとも思った。
「行くよ。わざわざ幸せそうなやつ選んだんだからちゃんとやってね、ルオン?」
「相手などどうでもいい……」
扉が開かれた瞬間、目の前に成人した男女と小さな子供が現れる。
幸せそうな奴。……家族という事だ。
「ッ?!」
突然キャンプシップが開き、よく分からない重装甲な格好で中に入り込んで来たことから中にいた家族は怯えていいのか驚いていいのかも分からず困惑していたが、レヴィは迷わず銃を取り出して、目で見て指を使いながら父親にしっかり照準を合わせた。
「じゃ、一旦成果発表ってことで……」
バン、と音を立てて、顔を一気に撃ち抜く。
眉間には当たっていないが、弾は大きく爆発力もあり、肌に銃弾がめり込んだ瞬間顔は破裂して床に貫通した。
「きゃあああッ?!」
愛する人の血を浴びながらも子を庇う母親。
どこまで行っても幸せで、まともで、普通の家族だ。
レヴィはそんな様子を見て苛立ち歯を食いしばる。
「ムカつくなぁ……そういうトコさ。親なんだったら子供置いてさっさと逃げなよ……子供なんか一人居なくたってまた繁殖出来るでしょ……?」
「この子は……この子だけは私の命に代えてでも……!」
「チッ……」
母親の声を聞くとレヴィはもっと不愉快になり、ダンダンと分かりやすく足踏みしながら銃を構えた。
「レヴィ、……僕がやる」
「え?」
【敗者】は己の足に視線を向け、数秒間の躊躇いを見せた後、母親が彼に視線を向ける前に思い切り顎から蹴り上げた。
「えっ?!へ、平気……?汚いよ……?」
「汚い事くらいわかっている……」
直接手を下すなど野蛮だ。ヒトの体は汚いし、武器も暴力もバカのすることだ。
【敗者】はそう思ってはいたが、実際蹴り上げてみると案外気持ちのいいものだった。
あの時ルビィ達と相対して戦い、新たな解を得た時から思っていたが……
手ずから虐待するのも、割かし悪くないのだ。
【敗者】はアークス全員を己の手で処したい気持ちはあれど余裕がないからその欲望は後回しになり、ルビィに復讐したいという気持ちばかりが前に前に出ているが、もし余裕が無限にあるというなら三英雄も
「あ、……」
レヴィは【敗者】がニタニタ嬉しそうに微笑んでいるのを見て彼への心配を捨てると、戸惑いの表情から一転微笑んだ。
「ふふっ、こう出来て嬉しい?こんな奴らに足元すくわれるなんて最悪だったでしょ?」
「あぁ当然だ。いずれはこうやって……、あのアークスも蹴り殺したくて堪らないよ」
【敗者】はもう一度、子供を蹴り上げると、親子まとめて壁に吹き飛び血を垂らした。
「〜〜ッ!!」
変装はしててもダークファルス。
彼からの蹴りはダーカーが爪で裂き、棍棒で叩くような攻撃のように破壊力があり、そして力はダーカーよりもずっとずっと大きい。
「フォトンがあっても、コイツからこうやってされたらたまんないね…?」
レヴィは相手のバイタルを覗き、まだ瀕死であることを確認すると彼女も足をふらふらと浮かせて楽しそうに顔を歪める。
「ね、ね、トドメわたしがいい、わたしでいい?」
「あぁ、好きにするといい。……こうしていると頭が晴れて、色々と思慮を巡らせたくなるものだからな」
「えへ、人殺すとさ……色々スッキリするよね。気持ちくてたまんないよねぇ〜……♡」
「あぁ……今までは考えていなかったが……こういう暴虐も研究者として必要な事なのかもしれないな、ふふふっ……」
レヴィはくるりと体を回して瀕死の相手を蹴ると、そのまま何度も何度も蹴り上げて、力を入れて殴り掛かり、髪を引きちぎると目を潰して徹底的に顔を潰していく。
「ムカつくなぁ、イラつくなぁ、家族揃ってこんな良い宙域まで来ちゃってさぁ、どこまで馬鹿な訳?愛し合って幸せですぅーって、フォトンがあれば得られるものな訳?本当に……しっかりきっかり不幸にしないとやってけないよねぇ」
レヴィは己の手を血で満たし、白い宇宙服を赤く染めると、【敗者】に顔を向ける。
「宙葬するから待ってて」
「あぁ」
【敗者】は端末を眺めて裏任務の内容を確認している中、レヴィはトイレで手を洗ってくると荷物置き場から棺桶を三つ取ってくる。
「折り曲げれば一つに全部入るんじゃないか?」
「え?やだ。一つずつ入れないと宇宙でバラバラにならないでしょ?」
レヴィはそう言いながら棺桶の中に死体をひとつずつ投げ込み、蓋が開かないように閉じる。
「じゃあ、予定した宙域の中入ったらこれ捨ててから箱探すから」
レヴィの服に着いた血は拭いただけで、引きずったような血の跡を残しながらも気にする様子はなく遠隔でキャンプシップを操作して安全な宙域から、瓦礫の舞う危険な宙域に入った。
彼女は【敗者】に声もかけないまま無言でキャンプシップの扉を開き、棺桶を捨てると自分の体も宇宙の広い空間へ放り出す。
「声くらい掛けたらどうだ……?」
呆れたため息をついてから【敗者】は彼女を追うとレヴィは既に命綱に繋がれたまま、目的のブツを探し始めていた。
「相変わらずどこもかしこも歪なやつだ……」
【敗者】はダークファルスだから当たり前だが、レヴィとは違ってその身一つで自由に活動ができる。
テレパイプも使えず、フォトンによる肉体の保護もないレヴィは命綱が無くなりキャンプシップから離れてしまえば宇宙を漂い帰ることが出来ないかもしれず、その状況下で酸素が切れれば一環の終わりだ。
【敗者】は彼女が行くことの出来ない範囲に進み、レヴィから見せられたデータを思い出しながら機密情報の入った箱を探すが、なかなか見つからない。
写真としてのデータには残されており、座標も合っている筈だが、既に見つけられて奪われてしまったのかもしれないと【敗者】とレヴィは考えながら、それでも破損した船の破片を避けて探す。
「ちゃっちい箱に機密情報なんか入れるの頭おかしいでしょうがぁ〜〜」
レヴィはいよいよ八つ当たりまでし始めて、グイグイと命綱を引っ張り奥へ奥へと進もうとする。
【敗者】は正直もう飽きており、彼女が受けた任務でありながら先に奪われたということにして任務を破棄するやり方ばかり考えていた。
命綱をピンと張って手を伸ばし、かき分けるレヴィの後ろをゆらゆらと破片が通っていく。
フォトンによる生身での船外活動が可能になる前は命綱が切れた時も戻れるように飛行ユニットを付けていたが、レヴィの使っている子供騙しのような宇宙服にはそんな機能はあるわけも無い。
命綱が切れることを、何一つ想定していないのだから。
「ぎゃッ?!」
バチン、という音と共に浮遊感が訪れた瞬間、レヴィは背後を振り返る。
鋭い破損した船の破片が命綱を切り、レヴィは投げ飛ばされていた。
「レヴィッ……」
レヴィの耳に【敗者】の驚いた声が聞こえた瞬間、彼女の中のパニックは死ぬかもしれない、帰れないかもしれないという命に関わる重大な問題より、自分の失敗を【敗者】に責められて怒られるかもしれないという問題の方が上回った。
普通のアークスなら、こんな問題は起きない。
普通のアークスなら宇宙空間において生身で活動できるのは当たり前のこと。
こんな問題が起きるのは、わたしの体のせい――
「は、……はぁ?!あんたに責められる理由なんてないけど?!これくらい、一人で戻れるに決まってるでしょうが!」
レヴィは衝動的に彼からの叱責を避けるため大丈夫でもないのに大丈夫なように声を張り上げ、そしてキャンプシップに戻るどころか逆に破片を蹴って遠のいた。
「あんたは飽きたなら中で待ってて!」
「アイツッ……!」
しかし【敗者】はレヴィの言葉が虚勢であることくらい分かっている。
【敗者】は寧ろ怒った顔でレヴィに近付こうとするが、レヴィは【敗者】の怒りの気配を察し探すどころか単に逃げていた。
レヴィは焦りに任せて声をあげても【敗者】には届かないと考え、深呼吸をすると冷静に声を上げた。
「……飽きたんでしょ?ならわたしについて来る必要は無い」
流されていく体がどこに向かうかも分かっていないのに、レヴィはその状況に対する焦りを覆い隠して【敗者】に淡々と告げる。
「巫山戯るな。僕はキャンプシップに戻る理由も貴様を放っておく理由も無い」
「じゃあ追っかけてないで探してくれます?」
「だったら貴様だって逃げてないで探せばどうだ?」
「あんたがぶん殴るような顔で追いかけてくるのが悪いんでしょ?!」
任務も意識もそっちのけで口論になり、二人は向かい合ってギャンギャンと叫び合う。
レヴィは酸素ボンベの容量も気にしないで、はぁはぁと荒く息を何度も吐きながらどうにかして【敗者】を追い返すことだけ考えていた。
「貴様が無茶して命綱が切れるような事をするのが悪いに決まってるだろうがこの単細胞がッ!」
「だからそれは大丈夫だって言ってるでしょ?!戻れるから平気だってさっき言ったの聞こえなかった?!」
「大丈夫な訳あるか馬鹿!僕が貴様の命を心配して何が悪い!」
「わたしの命なんかどうでもいいでしょ!」
「僕がお前をどれほど……」
【敗者】にギャンギャンと当たり散らし、怒りを振り撒いたままレヴィはまた逃げようとする。
しかし、酸素ボンベの容量低下を伝えるブザーが鳴った瞬間、レヴィの顔は青くなる。
「ッ?!」
レヴィが酸素ボンベの残量に目を向けると、もう1%しかなかった。
本来は30%と10%でブザーが鳴るように設定されている筈なのに、彼女は怒りに任せて叫び続けていたせいでブザーの音を聞き逃していた。
それで、レヴィの頭の中は【敗者】に怒られる、という事でいっぱいになった。
彼女は自分が死ぬことよりも、自分が彼の目の前で築き上げた虚勢を崩されて、彼に出来損ないだと罵られる方が嫌だった。
(わたしにもしフォトンがあれば、宇宙服なんて要らなかった。
わたしにもしフォトンがあれば、命綱が切れても問題なんてなかった。
わたしが間違うのはわたしにフォトンがないからだ。
わたしが出来損ないとして生まれたから、わたしはあんな目に遭って、何も成功しない今を生きていなきゃいけない。
そのせいで【敗者】は面倒なことに付き合わされて、必要のない相手の、必要のない面倒まて見させられる…)
レヴィは【敗者】になんと言われるか分かりきっていた。
『お前が失敗したのはお前が出来損ないだからだ。
フォトンがないのがいけないんだ。
お前のような忌み子が居なければよかった。
出来損ないはこの世に必要ない。生きている意味などない。
お前さえ居なければ、何も問題など起きなかった。お前のような愚図のためになぜ手を貸してやらなければならない?土下座して詫びろ』
レヴィはそんなことを言う【敗者】を見たくなかった。
彼女の中で既に【敗者】は希望だった。
レヴィの中の唯一の光だった。
だから、レヴィは【敗者】の前で失敗したくなかった。
誰にでも出来る失敗ならまだいいが、自分の体質のせいで発生する失敗など、絶対に【敗者】の前ではしたくなかった。
自分の中の唯一の光に裏切られて、苦しくて悲しい気持ちにはなりたくなかった。
そんな風になるくらいなら、レヴィはレヴィの中の【敗者】を美しくて綺麗な思い出にしたまま死んでしまう方がマシだった。
しかし、彼女にとっての唯一の光明はそのギリギリの状況下で遂に箱を見つけた事だった。
その瞬間、レヴィの頭の中でシナリオを組み、自分にとって都合のいいように事態を運ぶ術を考えた。
「……【敗者】!」
「これは…」
レヴィは手を伸ばし箱を掴んだかと思えば、それを【敗者】に向けて投げ飛ばした。
その衝動でレヴィは後ろへ飛んでいき、【敗者】から離れていく。
「それ、持って帰って」
「なら、貴様がそこにいる意味もないだろう?」
「あんたが帰ったらわたしも後ろから着いてくから平気」
レヴィは名役者のように状況に見合わない余裕の笑顔を見せ、【敗者】に向かって手を振る。
そのままどんどんと離れていき、レヴィの声は【敗者】に聞こえるかも怪しくなった。
「お願いね」
【敗者】が手を伸ばしても、レヴィは首を振る。
彼はこのまま意固地になっても目の前の頑固女は何も答えてはくれない、と判断し、レヴィから背を向けた。
「バイバイ」
レヴィはその視界に映る自分の爪の甘皮よりも小さな帰るべきキャンプシップを見て、乾いた笑いが零れた。
そして、レヴィは宇宙服のヘルメットを掴んだ。
受付でスタッフに言われた「オラクルで最も綺麗な銀河」なんていう言葉を思い出したからだ。
レヴィは捜し物に夢中で周りの景色になんて目をくれてなかった。
いつもポリカーボネート越しにしか見れない宇宙の景色。
アークスなら当たり前に肉眼で見ることの出来る景色。
レヴィは片目は義眼で、片目は本物。
だからヘルメットを外そうが普通のアークスの半分しか本物の景色は見れないとわかっていても、レヴィはヘルメットを外したかった。
――羨ましかった。
わざわざ走らなくてもテレパイプを使えば簡単に移動できることも、ディスプレイが消えることだって無いことも、どんな機械も自由に触れることだって、それに、死にかけたらレスタを使って、体を奮わせる時はシフタを使って、クラススキルやフォトンアーツを使って、ダーカーと正当に戦えるアークスが羨ましかった。
だからせめて。
「……ふ…」
レヴィは酸素ボンベの容量がなくなると同時に、ヘルメットを外した。
レヴィの肉体はほとんどサイボーグ化しており臓器も古いキャストのもので、その体も真空での急激な減圧に耐えられるようになっているが、酸素の欠乏は彼女を確実に死に追いやる。
とはいえ、真空で活動するために作られた体という訳でもなく、肉体に何かしらの損傷は受けるだろうし……意識は十秒持てばいい方だ。
レヴィは目を見開いて、その美しい銀河を目に焼き付けた。
鮮やかな色彩が混ざり、輝く宇宙はヘルメット越しでは感じられないほど美しく、レヴィは嬉しくて思わず柔らかく微笑む。
息苦しいがもがくことも無く、レヴィはそのまま視界を覆う銀河とノイズに身を任せようとした。
「……?」
しかし、レヴィの目の前が突然赤黒くなった。
そして、息苦しくもなくなったのだ。
銀河は無くなっても真空のふわふわとした感覚は消えなくて、体は寧ろ心地いい。
レヴィは"あぁ、死んだんだ"なんて思いながら振り向くと、そこには【敗者】がいた。
「なんで……?」
【敗者】はレヴィの胸倉を掴んだと思えばそのままぎゅうと強く抱き締める。
「何故ヘルメットを外した」
「
「あんな景色なんて、いつでもいつだって僕が見せてやれるだろう?!何故わざわざ自分から死ににいくような真似をしたと聞いている!こんな道半ばで……ッ!!」
「ふふ……」
レヴィは不思議と冷静で、そして【敗者】の泣きそうな声と、震える手に笑いが零れた。
「貴方はきっと頭の中では分かってるでしょ?普通のアークスなら、こんなことにはならないよね。なんでこんなことになるか。なんで貴方がそんな気持ちになるか。……それって誰のせいだと思う?」
「……貴様は本当に弱いな」
「あは、よく分かってるじゃん」
【敗者】は体を離したかと思えば、今度はレヴィと指を絡めて繋ぎ、じっと彼女の瞳を見つめた。
レヴィはそこでもう一度、自分は死んだかもしれないと思った。
彼は変装した姿ではなく、確実にいつも見なれているダークファルス【敗者】の姿そのままだったからだ。
「お前が生きるのに苦しくても最後に笑えればそれでいい、と言った時……僕はお前が、自分の身体を受け入れた上で、それを活かすことを考えていると思っていた。
しかし、……受け入れられていないんだな」
「自分の体を受け入れるなんてメリットがあるからでしょ?わたしは毎分毎秒いつだって、自分が本当のあるべき姿に戻れて、全ての苦しみから開放されることを求めてる」
「なら、これだけ覚えていろ」
【敗者】はその美しい紅い瞳をレヴィに向けて、ゆっくりと瞬きをした。
そして、彼は髪がふわふわと揺れる真空の中、彼女の額に口付けをする。
「貴様が自分の体に誇りが持てなくても、自分の体を受け入れることが出来なくても、僕は貴様の体を受け入れている」
「……え?」
「貴様がミスを犯したのは体の作り方のせいだとは考えていない。
フォトンを使えないから宇宙服を着て、宇宙服を着ているから他の奴ではありえないミスで命を危険に晒した、とは思っていない。
そんな事で僕は貴様を責めない」
「だったらなんであんなに怒ったの」
「貴様の肉体など関係ない。そうやって僕に怯えて逃げて、自分から生きることを諦めたから怒った。それだけだ」
レヴィは自分が嫌になった。
【敗者】がここまで言ってくれているのに、自分がそれを認めたくなくて、「誰かに大切にされる自分」が存在するわけが無いと思って、【敗者】の言葉が全部嘘かなにかだと認める為のロジックを探してしまっていた。
しかし対照的に、【敗者】はレヴィをもう一度抱きしめて、彼女の泣きそうな顔を【敗者】の胸板で隠した。
「レヴィ……僕とお前は、バディなんだろう?」
「……うん」
「だったら、一人で戦おうとしなくたっていい。僕に背中を預けてくれないか。それが貴様の言う相棒の形だ」
「背中を、預ける」
【敗者】の手がレヴィの頭を優しく撫でる。
レヴィのふわりと揺れたツインテールが星の光に照らされてキラキラと光り、まるで目の前で星が瞬いているようだ、と【敗者】は心の中で小さく呟いた。
「……わたしのこと、嫌いにならない?」
「あぁ……"
「うん…」
レヴィは腕を伸ばして、【敗者】の背に手を回した。
ぎゅうと抱きつくと、レヴィは【敗者】の胸元でボソボソと呟いた。
「【敗者】…」
「……レヴィ」
「あなたは優しいね…」
「そうか…」
【敗者】はレヴィを抱きしめたままキャンプシップに戻ろうとした。
しかし、レヴィは彼が動き出したのを感じると、すぐに声をあげる。
「一緒に、宙が見たいの」
「……分かった」
【敗者】は再び動き出したが、キャンプシップとは別の方向に向かった。
本来の宇宙探索の宙域にまで戻ってきたのだ。
遮る物のない銀河は先程の船の残骸が飛び散る宇宙よりもずっと綺麗で、レヴィは彼に解放されてその景色を見ると自然に口が綻んだ。
「【敗者】、……綺麗」
「……呼び方には気をつけろ」
「もう無駄なことくらいわかってんでしょ?わたしが今生きてられるのは、貴方がダーカー因子で体を包んでくれているから。でも、そのせいで貴方の変装は使えなくなっちゃった」
「……ああ」
「ハッキングして記録を消すから、大丈夫」
レヴィはニッコリと微笑むと、【敗者】の頬に触れて、顔を近づけた。
「ねぇ」
「なんだ」
「キス、してもいい?」
「もう十分しただろう…」
「ううん、さっきとは違うの。でも、キスしたい」
【敗者】はレヴィのモノ欲しげに見つめる顔に耳を赤くして、しょげたように曲げてから彼女から目を逸らし、一言呟いた。
「……好きにしろ」
しかしレヴィはその言葉の後にすぐ口付けすることはなく、おどけたように言葉を続ける。
「ここにはカメラが付いてるんでしょ?」
「分かりきった事だ。だから書き換えると自分で言ったのだろう」
「うん、でもわたしがあとから書き換えたら……カメラで撮られたものってみんな嘘で、みんな無かったことになるんだよね。だからさ…」
【敗者】はレヴィの言わんとしていることを薄々察しながら、違う言葉や違う選択肢を同時に考えていた。
受付でカップルだといわれたとき、【敗者】はそれを嘘だと言ってレヴィを納得させた。
2人の今の気持ちも、互いに向けた言葉も、やりたいことも、みんなみんな、ひとつに収束する。
「今言ったことも、今やった事も、みんなみんな嘘になる。なかったことになる」
レヴィはそこまで言って、ようやく【敗者】にキスをした。
彼の唇に自分の唇を押し当てるとすぐに離す。
「すき」
「僕は……」
【敗者】はその言葉の先をいえなかった。
嘘になるとわかっていても、なかったことになるとまで言われても、自分の中の何かが邪魔をして、とにかく、自分の感情を認めさせたくなかった。
だから行動で返した。
【敗者】は彼女の唇にキスをした。
何度も何度も触れては離し、角度を変えて、接吻をした。
「レヴィ」
「……【敗者】」
「レヴィ……レヴィ」
「……るー、……さー」
レヴィはキスが終わった瞬間【敗者】を抱きしめる。
心の中に思い浮かんだ言葉を話そうとして、止めて、とにかく抱きしめた。
自分の感情を正しく言葉にすれば、【敗者】とは一緒にいられなくなる。
誤魔化しているうちは相手も勘違いにしていられる。
【敗者】の作戦のための駒である事が正しい自分のあり方であり、自分と【敗者】はそのための利害関係で、相棒を許してくれたのはあくまで感情の関係ない利害関係の延長線上だからというだけだ。
「……【敗者】……」
このまま自分以外の時が止まって、永久に【敗者】が自分のものになればいいのに。
そんな卑しいことを考えながら、レヴィは【敗者】に体を委ねた。
「ただの吊り橋効果だったら、いいのにね」
「……そうだな」
「吊り橋効果だったら、勘違いで、みんな嘘になる」
瞬く星が、嘘で気持ちを隠そうとする二人をじっと見つめていた。
二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。
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続編として作品を分ける
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分けないで一つの作品でまとめる