前回任務後の二人
シルン「お前ら作戦と違うことやってんじゃねえよ、何殺してんだ」
レヴィ「あー……ついムカついちゃって。ごめんね?」
シルン「お陰様でこっちがわざわざ陰謀って事にして別のやつに罪なすり付ける手間が掛かったじゃねえか……」
レヴィ「まあ慣れてるでしょそういうの」
シルン「コイツ本当に反省しねぇな……」
19話(1)
「うりゃっ!うりゃりゃ!!」
「……」
大きく表示されたディスプレイの画面を食らいつくように眺めながら、両手にしっかりと握りしめたコントローラーを操作するレヴィ。
とその横で仏頂面に冷めた様子でコントローラーを操作する【敗者】。
「……あぁーー!!また負けた!!」
「ふん」
「ドヤ顔やめて!」
裏任務から数日後、【敗者】の休暇日と裏任務の無い日が重なり、二人で家に籠ってゲームをしていた。
容易に外には出られない指名手配犯と非公認でなければろくな任務も出来ない底辺アークスだと、むしろこちらの方が自然かもしれない。
「貴様のような初心者底辺ゲーマーが僕に勝てるとでも思っていたのか?」
「はぁ?!テレビゲームなんて下らん蛮族の遊びとか言ってたくせに何今更玄人ぶってるわけ?!」
「持つ者は全てを統べる、それだけだ」
あからさまなドヤ顔の【敗者】を叩こうとするも、はらりと回避されレヴィは更に苛立つ。
【敗者】の体にしがみつき、くすぐり攻撃を食らわせてもうんともすんとも言わない。
「むうううーー!」
「ゲームではなく体で戦いたいのか?余程不利になりたいと見える」
「じゃあカードゲームで勝負して!」
「何故わざわざ僕が不利になる方を選ばないといけないんだ?僕からすれば、このままで十分構わないがね」
そう言いながら【敗者】はレヴィにデコピンする。
痛みに悶え、その後も突進を繰り返しては追い返されるレヴィに【敗者】の口は罵倒を繰り返してはいたものの、顔はずっとにやけていた。
「貴様が運に自信があるからとわざわざ実力で決めるゲームを選んでやってるんだろう?そんなに勝ちたいなら、貴様の言う"運が決めるゲーム"で僕と戦ってみたらどうだ?」
単純に、【敗者】は彼女の異様な運について検証したいところもあった。
それが天性の才能ではなく、何かしらの影響を受けたものなのならば、その力は必中の槍であり、回避の女神であり、そして大規模かつ埒外な事象改変でもあるからだ。
「はん!わたしの事舐めたら痛い目見るんだからね?!その……ババ抜きとか!」
「幼稚な選択だな……」
「じゃあもっといいのがあるとでも?!」
「僕はあいにく貴様のガキの遊びに何時までも付き合う気は無い。これから先は"大人の遊び"で決めさせてもらおうじゃないか」
「……意外とノリノリ…?実はわたしに遊びを教えたいからわざわざそういう選択を…?」
「死にたいのか?」
「まあ、あんたに勝てるならわたしはなんでもいいんだけど!」
【敗者】はレヴィの頭をくしゃくしゃと撫で、髪を乱して遊ぶ。
と言っても、レヴィの髪を整えたのは他でもない【敗者】だから単に自分の作業量を増やしただけに過ぎないが彼にとってはレヴィを怒らせるより楽しい事は他になかった。
「んもぅ〜〜!!」
「ふふ……」
自分の掌の上で全てが上手く進むのは楽しい。
彼は今までそうだったし、これからもそうだ。
「で、どこ行くわけ?」
「行ってみたら分かるさ…」
「それもそっか」
ゲームを終了し、ディスプレイを閉じると目玉のようにギョロリと動く投影機が瞳を閉じ、電源が消えた。
それから二人は直ぐに外出の用意を始める。
普段【敗者】は日中たとえ家であってもスウェットのようなだらけた服装を着ることは無く、レヴィは整った服に着替える事で目を覚ましている都合上、二人は家の中でもアウターを着るだけで外出可能なくらいには整った服を着ている。
しかし【敗者】から耳打ちされた後、レヴィは別の服を渡された。
「……何これ」
「自分で着るか僕に着せられるか選べ」
「服の方を聞いてるんだけど」
「現時点で手に入る一番マシなものだ」
そんなことを言われてレヴィは服のタグを見ると、うっすらと聞いたことがあるような老舗ブランドのロリィタチックな服であることに気付く。タグが付いているということはあの時の通販のものではなく新しく買ったもののようだ。
通販で買ったものは届いた時に全てタグを外してクローゼットに入れたのを覚えている。
もちろんそれをやらされたのはレヴィなのだが、それよりも、タグに付いている値段を見ると前に買った服よりも高かった。
服の値段はピンキリなことくらい知っているが、それにしても前に買ったロリィタ服もシンプルなスカートだけで相当していたというのに、今回の服はそれの更に二倍くらいの値段だ。
レヴィからしたら喜べる訳もなく、どうせわたしの金で買ったんだろう……なんて冷たい目をするしか無かったが。
おまけにいかにも高そうなジャストサイズのスーツを瞬く間に着た【敗者】を発見し、レヴィは最早ため息以外着くことなど出来なかった。
「何を惚けている……自分で着ないのか」
【敗者】がレヴィの服に手をかけようとすると、レヴィはその手を素早く振り払って背を向けた。
「服くらい自分で着れるし!子供扱いしないで!」
「そう言うならさっさと着ろ。時間の無駄だ」
「うるさい!」
【敗者】の前で惜しげも無くバサバサと服を脱ぎ下着姿となり、レヴィはその上から【敗者】に渡されたロリィタワンピを着る。
ラメのついた黒のベルベット生地で、内側には何段にも重なる白いスカートとパニエが入っており、白のつけ襟を着用した上に大きなグラデーションの入ったリボンやボレロを着用し、明らかに高い生地に極彩色のリボンが映える豪華絢爛なロリィタファッションに包まれた。
最後に変装としてニューマンの耳のホログラムを付け、スプレーで顔周りの髪の色を薄くしたらあとはヘアセットだけだ。
「レヴィ」
レヴィは呼ばれた声に返事はせず髪を払い、【敗者】の方を振り返ると彼は手にジュエリーボックスを持っていた。
「はぁ?なに、……、……あの…」
「無駄な言い訳を並べる前にさっさとそれを付けろ」
「むう……」
レヴィの瞳の色にそっくりなレッドベリルが付いたブレスレットやイヤリングを見て、レヴィは頬を膨らませる。
こんなものわたしには似合わないなんて自己嫌悪の心の声を吐きながら、しかし【敗者】に逆らって何か得することは無いため大人しくアクセサリーを付けた。
「こんな高そうなやつをわたしなんかに…」
「そうなのか…?僕からしたらまだ足りないんだが」
「えぇ…」
「買い与えてやったカバンもたった一つ。アクセサリーも三セット。余りにも貧相だな」
【敗者】の態度は酷く傲慢で、自分がファッションデザイナーか、もしくは評論家になったようなつもりの言葉だが実際それを買うのは【敗者】ではなくレヴィだ。
厳密に言うと、レヴィの金だ。
「それわたしの金で買ってるんだからね?わたし結構貧乏だって言うのに!……でもなんか最近使ってるのに出費減った気がするけど…」
「貴様の出費でも振り返って考えてみたらどうだ」
【敗者】の淡々とした言葉でレヴィはすぐに思考を奪われ、深く過去を思い出して考え始める。
と言っても、振り返る過去はごく最近の、【敗者】と会う直前程だが。
それより前はこんな時には思い出したくもないものばかりだ。
「えー……なんかあったかなぁ……、……あー。紅茶と白衣買ってないからかも…?白衣も十数万メセタするもの何着も買ってたし、紅茶だって毎月毎月茶葉何種類も仕入れてたから…産地にも拘ってさ」
レヴィは椅子に座るとすぐにヘアセットが始まり、【敗者】はコテを暖めながら櫛で良く髪を梳いて、全体にセット用のスプレーを掛けた。
「食事に拘る奴は多いが、茶にこだわる奴はそこまで存在しないというデータがあるからな。ティーマシンで作れるものをわざわざ茶葉を買い求めるやつは富裕層のみ。貴様のような金の稼ぎ方が下手なやつのすることではない」
「金の稼ぎ方が下手ってなにー?!わたしはひと月千万くらい稼いでる時だってありますけど?!」
「それでいくら残る?」
レヴィは【敗者】から目を逸らし、静かに呟いた。
美しい服を身にまとう彼女は見てくれだけなら美女のように仕上がっても、動けばいつものレヴィのまま。
それが【敗者】にとっては良い事なのだが。
「……多くて十万」
「バカが。いくら稼いでいようが貴様の金の使い方が下手くそでそれをカバーできるほど稼げなければ意味などない」
「そんなこと言うならあんたは稼ぎ方とか知ってるんでしょうねぇーー?!」
「当たり前だろう。投資、株、経営……ギャンブルに取引まで資金調達の手段など幾らでも知っている」
綺麗に髪を巻き、ツインテールにして結ぶと、いつもつけている獣耳のようなヘッドギアとは違って小綺麗なレースの着いたリボンを付け、レヴィのファッションを完成させる。
「で、あんたは貯金いくら?」
「虚空機関さえあれば貯金など僕には必要ない。僕の研究機材と交渉の為の金以外に金の使い道などありもしないし、僕にとっての貯金、財産に等しきものは惑星ウォパルと虚空機関……それとこれから僕が支配するオラクル全てだ」
「そういう話じゃなくて。金は?単位はメセタ。それ以外興味無いから」
レヴィは彼のドヤ顔に怪訝な表情を見せ、半目で彼に聞く。
【敗者】はまゆひとつ動かさないまま、平常を保って言葉を紡いだ。
「1000」
「万?」
レヴィの言葉に【敗者】は一切動揺しない。
動揺しないまま、即答で返す。
「1000メセタ」
「……は?えっ……ちょっと、……待って……本当にそれ言ってる?」
「言っただろう?僕の財は虚空機関そのもの。研究所の成果を掠め取って権利を奪えばそれだけで何億もの金が発生する。虚空機関総長であるということは、生半可な富豪のウン百億という資産よりもずっと大きな価値がある。だから金で正しい価値を測れるほどではない」
レヴィは顔を引きつらせ、声は馬鹿にするを通り越して呆れ果てていた。
金に対する価値観において【敗者】とレヴィはあまりにも違いすぎる。
「だからっていって1000はないでしょうが……1万くらい入れときなよ」
「常にその金額という訳でもない。単純に最低金額だ。本当の僕の貯金が幾らかとなれば、全アークスの持つ金と釣り合いが取れるくらいだろうか」
レヴィは今使える金がいくらあるかが重要であり、【敗者】は必要な時に必要な分だけの金があるかどうかというのが重要だ。
だからレヴィは過剰に金を稼いで、沢山の金を持ちそれをほとんど溶かしてしまう。
代わりに【敗者】は手元の金も給料も無に近かったが好きなだけ研究資材を購入して、莫大な金を用いて取引をすることが出来ていた。
「そんなに自慢するならあんたの金で買ってくんない?全アークスの持つ金と釣り合いが取れるくらい貯金がある【敗者】さんはまさか貯金ない貧乏アークスであるわたしから金をせびるなんてしないですよね〜?」
「虚空機関が現在進行形で解体されているから仕方ないだろう」
「それ、あんたのレベルに合わせて話すと無一文になったってことと同じなんですけど」
「は?僕が再びオラクルの頂点に君臨すれば解体された虚空機関を再び作り直し貯金は僕の元に戻る。ようは僕の貯金はまだあるということだ」
シレッと嘘でもなく正しくもない言葉を呟く彼は屁理屈の天才だ。
レヴィはどちらかと言えば正論(と思っている適当な嘘)で相手を納得させ殴り倒すタイプの弁論者なので、【敗者】のような屁理屈で相手を否定しまくり無理やり捩じ伏せるタイプの弁論者の考えは理解できなかった。
もちろん【敗者】が正論を言う時の方が多いが、彼はレヴィの正論に追い詰められてもなお屁理屈で返せるほど余裕があるわけだ。
レヴィにはそれが出来ない。
「全員戻ってくる保証なんて出来ないと思うんだけど……虚空機関のやつで逮捕されてるのもいるし」
「そんなもの僕の権限で釈放すればいいだけだ。終了」
「はァ〜……あんたって本当に屁理屈しか言わないんだから」
「屁理屈などでは無い。正論、正しい解だ。デタラメしか言わない貴様と違ってな」
そして【敗者】は最悪レヴィを殴って言うことを聞かせればいいと思っているから、こんな風に余裕で話していられる訳だ。
「あーうるさいうるさい。こんなやつよりもっといいバディいませんかー募集中でーす」
「貴様のような阿呆についていける者などこの僕しかいないだろう」
「逆なんですけど?あんたのような最悪野郎にわたしは仕方なーく付き合ってやってるだけなんですけど?わたしがアークスを全員ぶっ殺して、最強のアークスになるための過程。あんたはただの駒」
レヴィは【敗者】と目を合わせるとキッと睨み付け、するすると流れるように暴言を吐き散らかす。
そうすると負けじと【敗者】も口論の体制に入り口喧嘩は進んでいくばかりだ。
「駒はどちらの方だ?貴様は僕の全知を手に入れるための過程にある駒の一人。それも三英雄やアークスの管制と違って社会的な地位が何も無い。オマケに金もない」
「はぁ?昨日の裏任務一日中働いて大口三千万稼ぎましたけど?あんたが家でぬくぬくしてる間にね」
「その大口の仕事が組織丸ごと暗殺と後始末の死体処理だろう?アークスに見つかったらどんな裁きを受けるだろうか楽しみだ」
「一番見付かっちゃいけないのはあんたの存在そのものだけど」
「言わなくても分かっている」
「だからこそ共犯者って事なんでしょ?わたしとあんたの契約はそういうもの」
はぁ、と【敗者】のため息が部屋に響く。
二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。
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続編として作品を分ける
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分けないで一つの作品でまとめる