ここは、カジノエリア(仮)。
アークス新生に合わせて改新されるアークスシップで、ショップエリア区画にある空き空間にアークス公式のクリーンなカジノを作ろうというアイデアが出た。
現在は試作用のアークスシップにて新生ロビーと共に建築、調整段階であるが、健全かつ面白いカジノの運営の為にアークスに向けて抽選を掛け、当選したアークスによる試遊会が行われることになり……それがちょうど今日なのだ。
そんなカジノエリアの試遊会兼セレモニーの当選券を何故【敗者】が持っているかというと……当然ブラックマーケット経由である。
「ここだ」
偽造したアークスカードを使い、違法に入手した当選券を持ち、【敗者】とレヴィは並ぶ。
アークスからすれば違法入手はたまったもんじゃないだろうが、二人は違法カジノを知っている。
フィードバックならむしろ普通のアークスより余程役に立つだろう。
「なーんでここに着くまで4時間かかってるのかなー」
「貴様が止まってさんざん話し込むからだろう。喉が渇いたと言って途中でカフェにまで入った」
「話し込んでるのはどっちかというと【敗者】なんだけど」
「カフェに入らなければあと一時間は早かったな。いや、二時間早かったかもしれない。」
「仕方ないじゃん!紅茶見ると嬉しくなっちゃってさぁ」
「茶葉の話はしばらく聞かせるな。少なくとも十年だ」
「えー!まだ1%も話してないのに…」
「辞めろ」
また話し込みそうになり【敗者】はレヴィから目を逸らしてカジノエリア(仮)の入口を見上げた。
ゴールドを基調としているのはいいが、子供向けなのかラッピーやリリーパなどのマスコットが強調されており、そのせいで随分とチープに見える。
「……ここは……カジノエリア?」
「あぁ。アークスが公式で作った場所だ」
ここに来るまで【敗者】は一言もカジノエリアの話をせず、レヴィにとっては目の前に広がる光景は予想外の完全初見だ。
レヴィにとってカジノと言えば、娯楽地区や市街地などにも建てられているものだ。しかしそこにあるのは全てアークスの手は掛かっていないブラックなカジノ。
「へぇ……ギャンブルって、裏側にはあったけど公式で出来たんだね」
「表向きではアークス向けの娯楽施設と謳っているが、裏側の金の使い方で問題になって対処するしか無くなったというのが現実だ」
「まあひっどいからねこっち。金を賭けるなんていいながら身内の女渡したりするし」
違法カジノは成人限定という制限があり、表向きはバーとして運営されている物がほとんどだ。そこはメセタをそのまま賭けるどころか、メセタに値するもの……人や土地も容易に賭け、その単位はうん百万うん千万とあまりにも大きい。
「貴様はギャンブルの経験があるのか?」
「カジノとか暗殺でしか入ったことないからサッパリ。煩いのは知ってるけど」
レヴィは裏社会での様々なことを知っているが、カジノを実際にプレイしたことはない。
裏社会で莫大な金を持っている企業の運営するカジノなど、なんだかんだといって儲けることなど出来ないだろうと思っているからだ。
しかしアークス公式でカジノを運営することにより、これからの裏社会でも随分影響が出るに違いない。
これからは少しでもいいからそういうものにだって触れるというのも悪くないのかもしれない、とレヴィは考えた。そういえばシルンはカジノに行ったことがあると言っていた気がする……
「……アンノウン」
レヴィが癖のように端末を開いて裏任務のサイトを開くと、そこに書かれてある名前に【敗者】の視線が集まった。
「なに、今更。あんたわたしの端末覗いた時わたしの名義くらい見てたんでしょ?」
「貴様には関係の無いことだ」
「はぁ?」
(僕が部下を通して依頼を出していた相手は……)
【敗者】は虚空機関総長だった頃の記憶を思い出した。
裏任務に依頼する場合でも、虚空機関は優秀な相手をリストアップして情報漏洩の危険のない確実な相手にのみ発注している。
その依頼相手候補としてのリストの中に、アンノウンという名前があった。
そのアンノウンは、側近がいたく褒めちぎっていたことは覚えている。実力を持つと同時に、どれだけ探っても正体が分からないと言われていた。
【敗者】は既に始末屋を持っていたし、部下を凌いでわざわざ調査するほどの興味はなかった。
しかし、今思えば……
その女を、【敗者】だけが占有している……
「ルオン…なに変な顔してるの?」
「いや、……なんでもない。とにかくセレモニー自体はもう終わっている。これからは試遊時間だな」
「またなんでもないって言うの……?」
そう言いつつ二人は道を進むと、豪華絢爛なゴールドカラーの景色と共にジャリジャリとした硬貨の擦り合わせるような音とアナウンスが響き、カジノ(仮)は大盛り上がりしていた。
【敗者】は仏頂面のまま景色を見上げていたが、レヴィは入った瞬間鞄の中を探ると何かを取りだし、すぐに耳に取り付ける。
「……耳栓か」
「ギャリギャリ言うんだもん」
レヴィはムスッと不機嫌な顔をして耳を叩き、あまり性能は良くないが代わりに外界の音を完全に遮ることはない耳栓を彼に見せつけた。
「貴様は近くで聞くと耳が鈍いのに遠くの音はよく聞こえるみたいだな。今度から10m離れて話してやろうか」
「耳すますのだって疲れるんだからヤダ!」
「……おまけに一人で歩かせていたら柱にぶつかるからな」
「そんなしょーもないこといつまでも掘り返さないでよもう……わたしの悪いところなんかアークス様方からみたらいくらでもあるんでしょう?」
「そうだな、馬鹿でアホで鈍感で、それから愚かで愚図で人に色目を使う変態な所が貴様の悪い所だ」
「そういう時はね、そんな事ないよ!っていう場所なの!もう……ルオン!」
「ふははははっ!」
二人は歩きながらカウンターに近付く。
景品があるようだが、試遊会である今は何も交換出来ないようだ。
振り向いてみると、ヴォルドラゴンの模型のようなものがあり……
そこには、コインエクスチェンジャーと書いてある機械があった。
「……ほら、ここでカジノコインを交換するんだ」
【敗者】は試遊会当選者向けに配布されたカジノコインパス100枚を見せつけながら、カジノコインパスを入れ込んだ。
「へぇ……顧客の登録もできるってワケね」
「公式のカジノエリアはクリーンな事をモットーとしているらしい。それ故にカジノコインを直接メセタに換金することは出来ず、景品を交換してそれをまた金にする……所謂三店方式が採用されている」
「賭博を違法としてるし仕方ないか……こっちのカジノなんか現ナマ賭けて現ナマ帰ってくるみたいだけど」
「そうなると自分の財産にまで影響が及ぶことになるだろう?だからカジノコインに交換出来る数にも限度がある。金を持っているかどうかというより、長く通って溜め込んだ奴の方が有利になる仕組みだ」
「ふーん……それこそただのゲームに完結するって話か」
100カジノコインの表示が連続する中で、レヴィもそわそわとした様子で見守る。
レヴィが【敗者】の手からパスをそっと取り、入れてみると随分過剰な演出があってからの、500カジノコインが連続して出続けた。
「わっ……」
一度だけで満足したのかレヴィはすぐに景品コーナーに行き、景品の内容をじっと見つめる。
「ほら、レヴィ」
【敗者】の端末には大量のカジノコインのデータがあり、レヴィは【敗者】からそれを受け取るとまた振り返って景品を眺め続けたが……
「……」
「レヴィ」
【敗者】は不機嫌そうな顔でレヴィの肩を叩くと、彼女を引き寄せる。
彼は唇に指を置きながら呟く。
「……貴様、……ここにキスしろ」
「は?」
「この僕がわざわざ動いてやっているというのに貴様には感謝の気持ちの欠片もないようだな。感謝の気持ちを示せないなら土下座するかキスするか好きな方を選べ」
ようは、レヴィの為にわざわざ95枚分のコインチェンジを負担してやったのに、礼のひとつもないのはどういうことか、という訳だ。
しかしレヴィは【敗者】の対価の意味のわからなさに意識が集い、彼の言葉の意味は解せなかった。
「意味わかんないんだけど……、でもどうせ拒否したら絶対土下座させられるし……」
とはいえ、こんな所で土下座など嫌だ。服の値段も見たら尚更。
となればキス一択で、【敗者】は腰を曲げるとレヴィが顔を近づけ、軽く唇を重ねる。
「ん……、フフ…」
レヴィは軽いキスのつもりでいたが、【敗者】は不思議と心が昂った。
「何笑ってんの?わたし先行くよ」
「……、あぁ、……フフ、……レヴィ」
「ちゅーされた位でニヤニヤしないでよ童貞」
「僕は貴様の惨めな姿に歓びを覚えているだけだ…」
「うっさい」
二人は長い階段を降りながら、イチャイチャとくっつき続けていたのだった……
_______
試遊会ということであるからか一通り見渡してはみたがスロットなどはどの台も埋まっており、二人は自販機の前で立っていた。
キャンプシップにあるメディカルセンター提供の自販機とは違いおみくじができるだけの普通の飲み物だ。
「あっ、美味しい!」
レヴィの好きなストレートのアイスティーだ。
運勢の所には大吉と書かれている。
「……」
【敗者】が飲んだのはよく分からない不味い栄養ドリンクのような味のもの。
運勢の所には末吉と書かれている……
「相変わらず運がいいな」
「おみくじの運なんか関係ある?美味しいもの飲みたかったからこれでいいの」
レヴィはカフェで飲んだばかりだというのに喉が渇いていたのか、2本目も頼み、また美味しい紅茶を飲んでいた。
【敗者】はすぐに飲み干してため息を着いた。
「ふふっ、あんたってば結構運悪いの?」
「運などこんな場所で使う必要は無いだろう?」
「あんたは相変わらずだね…」
と言っていると、ブラックニャックの方に運良く二人分の空きを発見し、二人で向かっていく。
「ブラックニャック……ねぇ」
「アークスの公式マスコットを起用しているらしいが……評判は悪いな。鬱陶しいと」
通り過ぎるアークスの声を聞くと、ディラーのニャウがウザいだのブラックニャックをディーラーが当てすぎなど散々な評価だった。恐らくその辺りは調整が入るのだろう。
「へぇ、でもネコじゃん。可愛いでしょネコ。にゃーって」
レヴィは猫の手を作りながらにゃんにゃん、と言って【敗者】に微笑むと、彼は足が露骨に遅くなる。
「……」
「ルオン?」
「なんだ、その下手くそな真似は」
「にゃー!にゃー、にゃー!ほら、下手じゃない!」
「ック……」
何故レヴィはここまで幼稚なのか。なぜ幼稚なのがここまで可愛く感じるのか。
そう思いながら【敗者】は胸を抑えているが、その様子は異様で、レヴィは首を傾げて彼に手を差し出そうとする。
「え、……何、……死んだ?」
「死ぬわけないだろう僕が、……クソ、……もう一回…」
しかし【敗者】の言葉を聞き、レヴィは彼がただのオーバーリアクションをしているだけだと知って呆れたため息をついた後、思い出したように鳴き真似をする。
「何言ってんの……にゃー」
「……ッ!全知の傍にはお前がいるべきだ……」
「へ?……は?ちょっと言ってる意味わかんないんだけど……、早く教えてよ」
「これからカジノを出るまでに全て語尾を付けたら考えてやる」
「そういうのウザイ」
「なら勝手にやれ。僕は帰る」
「なんの癇癪なのそれは?!……にゃー」
「犬が猫の真似か。アホが」
「なんで今罵倒されたのわたし」
「ほら、座れ。……ここが空いている」
「しかも完全に無視されたし」
二人はアークスに挟まれて不愉快な顔をしながらもブラックニャックの端の二席に座った。
「……」
【敗者】は無言で指を指す。
賭け金を決めろ、という意味合いだ。
変声機を使ってすらアークスの横であまり声を出したくなかったのか、【敗者】はレヴィにアイコンタクトを送りながら目を細めて喋りたくないという意志を示していた。
レヴィも変装してはいるが下手に声を出して絡まれたくないため、無言のまま互いに50枚ずつコインを賭ける。
ディーラーであるニャウがカードを配り、プレイヤーはそれを全て確認した。
「……!」
レヴィの手札にはスペシャルカードがあった。
手番はレヴィからの為、ニャウがサイコロを転がし、2が出た。
ヒット、ステイ、ダブルダウンと選べるが、レヴィはとりあえずヒットを選択してみる。
すると、またスペシャルカードがやってきた。出目は1。
(ん……?)
他の人間の手札を全て見ることは出来ないが、首を傾げたり項垂れたりしているところを見るとあまり良くないようだ。
【敗者】は表情を変えず、ダブルダウンを選択して賭け金を倍にし引いていた。
次のレヴィのターンがやってくると引いたカードは1。
他のアークスが22や26でBUSTになっている中、【敗者】はもうターンが回ってくることはなくずっとレヴィを見つめており、彼女の手番がまた回ってくるとまた引いてみる。
またスペシャルカードだ。出目は0。
これでスペシャルカードは3枚……レヴィはもうステイする以外選択肢はない。
そのままプレイヤーが処理を終えると、ニャウがカードを引いて処理をした。ニャウの合計は20。
そして結果が発表されることになる。
【敗者】は21。いわゆるブラックニャックと言うやつだ。
他のアークスはBUSTが2人と、19が一人。
それから、……レヴィがスリーSP。
「うおっ……あの台スリーSPとブラックニャックだ……」
「相当運がいいな…」
そんなひそひそ話を聴きながらレヴィはニヤニヤと笑って立ち上がり、すぐに【敗者】に手招きすると端末を見せつけた。
「ね、ね、ルオン。いいの当たったよねこれ?」
「良かったじゃないか」
「あんたもブラックニャックで勝ったんだからすごい!」
「それにしても、最初にやってすぐスリーSPか」
「あ、そうだね……わたしブラックニャック強いのかも」
ブラックニャックどころではないだろうというツッコミを抑えながら【敗者】はレヴィの手を引き、別の場所に移る。
あまりに当て続けていると目立ってしまうから抑えてほしいところはあるが、それでもレヴィの運はもっと見たかった。
それから、二人で空いたところに入っては遊んでみるが、レヴィは当てに当てに当て続け、最終的には最初に貰ったコインより15倍ほどまで膨らませて景品カウンターまで帰ってきた。
「こんなにコインあるのになんも交換できないなんて……」
「仕方ないな。所詮唯の試遊会だ」
「にしても、こんな整った格好する意味あったの?セレモニーだって出なかったでしょ」
「それは貴様があちこち寄って遅刻したからだろう?」
それでも、周りのアークスは普段着で来ている者もおり、畏まった格好をしているアークスの方がむしろ少なかった。
レヴィからしたら高いロリィタ服に身を包んで当てまくるなど悪い意味で目立つ要素しかないから嫌だったのだが、【敗者】には別の意図があるらしく。
「では、行くぞ」
「行くって……家に?」
「いや、ディナーだ」
「……?」
二人はカジノコインを返却し、カジノから出た後、ショップエリアからロビーに向かおうとするが、しかし。
二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。
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続編として作品を分ける
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分けないで一つの作品でまとめる