「あ、そこのアークスさん!」
「……?」
レヴィが振り返ると、そこには暗い髪にラフな格好をした女性が立っていた。
「私、ウルクって言います!今、アークスロビー改革の責任者としてカジノに視察に来ていて…良ければインタビューを受けて貰えないかなっ?」
「ウルク……」
【敗者】もレヴィもその名前には聞き覚えがある。
二人がハッキングから得た資料で見た、アークスになれる実力は無いが今のオラクルの実質的なトップに推薦されて統括管理職に抜擢され、アークスロビーの監修をしているというアークスだ。
目の前で見ると確かに六芒均衡などの優秀なアークスにあるようなオーラもなく、庶民的で、とても統括管理職には見えなかった。
レヴィはアークスが嫌いだしインタビューの類も不愉快なので無視してさっさと帰ろうとしたのだが、【敗者】は縦に頷いた。
「あぁ……いいだろう」
「えっ?!……ルオン?!」
「それくらい構わないじゃないか」
と言いつつ、彼の瞳の奥には何かの企みが見えており、レヴィは彼への信頼を持って口を噤むと足を止める。
【敗者】はそっとレヴィを後ろへ誘導し、そのまま流れるようにレヴィの端末を取ると、それをポケットに入れたままウルクと話し始めた。
「ありがとうございます!じゃあ、まず外観の印象からなんだけど……」
「アークス公営とだけあって、随分と子供向けに仕上がっているようだな」
「子供向け……うん!アークス皆の憩いの場として、そしてカジノという言葉で忌避されないように、なるべくカジュアルな、ゲームセンターのように仕上げてるんだ」
「ふむ……」
「めっちゃ真面目にインタビュー受けてるし……インタビューというか……フィードバック…?」
レヴィは【敗者】の後ろに隠れて控えているが、厚底のローファーを履いていてもレヴィの背丈が低く、年齢が低いように見える。
【敗者】がポケットに手を突っ込んだままウルクを見下ろす中、ウルクはレヴィを覗き込むと声をかけた。
「妹さんはどうだった?」
「妹……?!」
レヴィは「妹」という単語には非常に敏感で、しかも醜悪な比較対象となる相手が【敗者】だと思うと一気に嫌悪感が吹き上がり、怒鳴りそうになった。
しかし、そこを【敗者】が抑える。
彼はポケットから手を出すと彼女の小さな肩を掴みながら引き寄せて、堂々と胸を張った。
「妹ではない。僕の恋人だ」
「恋人……!ご、ごめんなさい!未来の夫婦さんだったんだね…」
「ちょっ……」
前回出かけた時もカップルを偽造していたが、この場では血の繋がりを否定すればそれだけで良かったというのに何故わざわざカップルという必要があったのかレヴィには全く分からなかった。
「これから二人でディナーでね……。カジノでは、随分楽しませて貰ったよ。ブラックニャックはディーラーが強くあまり評価が良くなかったようだが」
「ブラックニャックは法則を見抜けば細く確実に稼げるようになっているから、試遊会の段階だと評判が悪くなるだろうというのは既にこっちでもわかってる事なんだ」
「え?強かった……?なんか全部おもちゃみたいだったけど……」
「それは貴様の運が良すぎるからだろう」
それから、二人はインタビューに合わせて最終的なコインの枚数やプレイしたゲームとその感想を伝えながら、ウルクと会話を重ねていく。
「アークスロビーもショップエリアも、随分明るい印象になっているじゃないか」
この試作用アークスシップはカジノエリア以外にも調整中ではあるがショップエリアやロビーも改装中だ。
改装途中ではありながら雰囲気の明るさは【敗者】にもすぐ分かるものであり、彼は不意に目線を逸らし遠くを眺めていると、ウルクは小さな違和感を覚えた。
目の前に立つ男はアークスというよりかは艦橋にいる士官のような雰囲気がある。人として成熟していながらもどこか自分がエリートであるのが当然で、何かを深く知っているようで……招待したアークスにこんな名前はあったかと端末を開いて確認しようとする。
(ふーん……)
レヴィは【敗者】から離れると背中からウルクの肩を叩き、彼女を覗き込む。
「わっ!」
「あれの中身、もっと難しく出来ないワケ?」
「アークス皆の為に難易度は上げすぎないようにしようかと……」
「それにしても簡単すぎるんだけど。ブラックニャックは3回スリーSPに10回ファイブカード、あとはみんなブラックニャック……こんなぬるいギャンブルで遊んでも……ねぇ?」
「え……?」
「あと、ラッピースロットも余裕すぎ。手応えあったのはメセタンシューターくらい。もっとゲーム性のあるやつを増やせないわけ?」
レヴィはそのまま文句垂れのモードでアークスへの嫌悪感をむき出しにしようとしていたが、すぐに【敗者】が間に入り、ウルクに声をかけた。
「いや、彼女の意見は聞かなくていいよ」
「え……」
「彼女は少々運が良すぎるみたいでね。豪運にとって運勝負は面白くないと言っているだけだ」
それにしても、レヴィの言葉が嘘だと思うほど異常な運の良さがあった。
ウルクはカジノエリアのデータを開き、数値を確認してみるが、確かに当選券114番のアークスが異常な程に運が良く、ありとあらゆる場所で当てまくり彼女が報告した通りの異常な倍率に仕上がっていた。
「そ、……そうでしたか」
「ほら、……行くぞレヴィ。膨れて満足出来ないなら、後でいくらでも僕が満足させてやる。帰ってゲームでもしよう」
「あ、そうだけど……インタビューしたことになんか意味あんの?」
「
【敗者】はニヤリと微笑むと、そのままレヴィと手を繋いでロビーエリアまで進んでいった。
キャンプシップを呼び寄せ、乗り込むと、【敗者】は先程より比べ物にならないほどらしい笑顔になってレヴィに声をかける。
「あの市民もやはり愚かだな……」
「え?」
「僕の目の前に立つということがどういうことか、よく思い知るといい」
彼の手にはとあるデータが握られていた。
そこにあったのは、現オラクルの実質的なトップ……シャオのデータだ。
マザーシップシャオの内部や、シャオが持つ権限、それによって今どんな命令を下しているかなど……ウルクが知りうる情報の全てを今【敗者】が手に掴んでいた。
「わっ……す、すごっ!!」
「あの市民と話をしながら、裏で貴様の端末を使って市民が所持していた端末のデータをコピーしておいた。
安全が保証されており、ハッキングも出来る貴様の独自言語やソフトは実に素晴らしい。そのメリットを存分に使わせてもらったよ」
「これで結構……色々できたりするよね?」
「ポテンシャルで言えば無限だな。よくやった」
「よくやったのはあんただってば!もう、変なインタビュー真面目に受けてたから気が狂ったのかと思っちゃったし…」
「ふふふ、僕がそんな事をするように見えるか?」
「まぁ、全く見えないけどさ?それで……どうやって攻撃に移すわけ?」
「そうだな……いや、どちらかと言えば防御のための情報だろうか」
「防御……?」
「現在の問題として、僕が潜伏しながらどのようにアークスへ復讐するか考えている訳だが……現状のやり方で見つからないまま何百年も過ごせるとは思えない。となれば、向こうの力量や新生されたアークス全体の技術レベルを知り、それに対抗して此方が守りを固める必要も出てくるだろう」
「復讐より何よりまず、生きるために……」
「そうだ。どんなに壮大な計画も死んでは達成出来ないだろう?」
二人はそのままとあるシップへ移動すると、市街地の中を進んでいく。
「それにしても……、統括管理職だってのに、
「あぁ、……気配を抑えてるとはいえ、ここまで気取られないとは……不自然にすら思えるよ」
「ふふっ、わたしと一緒だからだったり?」
「冗談じゃないな」
「えっ…」
レヴィは彼が共にいることを嫌がっていると言っているように受けとり、足がすくみそうになった。
しかしすぐに彼は言葉を付け足した。
「貴様のオーラか力か何かが周囲を洗脳しているとか、僕を無意識下で守護しているとか……色々有り得そうじゃないか」
「あっ……そっちの冗談じゃない、って方か」
「仮にそうだとしても、それをここで露呈させる意味はあるか?」
「まあ、ないね」
レヴィは【敗者】に連れられたまま、とあるビルを登っていき、最上階にある明らかに高そうなレストランの前に立つ。
レヴィは手鏡で己にホログラムのニューマン耳が着いてあることを再度確認し、ドキドキとした気持ちで少し焦っていたが……、ふと、【敗者】がレヴィの腰に触れた。
「ひゃっ?!」
「少し待て……」
【敗者】はそのままレヴィを多目的トイレに引きずり込み、鍵を閉める。
「ちょっ!ちょっと!」
「動くな」
【敗者】はレヴィの腕を掴み無理やり腕を広げて真っ直ぐ立たせると、次々に体に付いた邪魔な装飾を外していく。
ボレロに着いていたフリルの襟は裏からボタンで外し、つけ襟から腰や胸元の大きなリボンも取ってはアイテムパックの中に閉まっていく。
クリップを外し、オーバースカートのたくしあげていた布を下ろしてからフリルを外すとロリィタ服の印象は随分落ち着き、内側の白いスカートはパニエのようにワンピースを膨らませながらも隠れる。
おまけに、靴まで厚底のローファーから洒落たリボンの付いたハイヒールのパンプスに履き替える始末だ。
レヴィは布量の多い豪華絢爛なロリィタ服から一転、少し豪華なお嬢様の纏うようなドレス風に変身した。
「これができるから高かったんだこの服……」
「このブランドの服は元からこれくらいの価格帯だ」
「えぇ……」
そう言いながらも【敗者】はレヴィに何度もキスをし、抱きしめて、体を撫で回す。
「ふふっ、……どうしたの、……くすぐったいってば……」
「明日からまた仕事で互いに離れるだろう?今のうちにこうしたって許されると思ったんだがね……」
「こうするって、全く、……場所のこと言ってんの。わざわざトイレなんかでやらなくたって……」
そう言いながらも二人は唇を合わせ、舌を入れると甘とろく絡めてキスをする。
「んっ……、こりゃ、……るぅ……♡」
「ッレヴィ、……好きだ……」
「っん?!何言って、んんっ……!!」
「あぁ……レヴィッ……!」
レヴィの体を裂いてしまうくらい強く抱き締め、体をピッタリくっつけると【敗者】は彼女の耳元でボソボソと囁いた。
「カメラ……」
「あぅ……」
「気を付けろ」
【敗者】は小さな声を発してそれだけ言い、離れる。
どうやらこのトイレに建物の管理人の物か違法な設置か知らないが監視カメラがあるらしく、【敗者】はそれを察知してわざとらしい絡みをしたようだ。
しかし、レヴィはそのわざとらしい絡みでも本気にしてしまって……
「で、……終わり、なの?」
「あぁ、ここでの目的は達成したが……」
「もしかして、ヤりたくなったか?」
「違っ、そんなこと考えてな……」
「……愛しい女から求められるのであれば、僕は構わないが」
レヴィの中で愛しいなどというのが嘘だということくらい重々分かっているが、それでもそんなことを言われると……
「あっ……あんたがやりたいなら、やれば?」
「僕はどうだっていい。貴様が望むのなら相手してやろう」
レヴィは彼を見て顔を顰めると、ワンピースをたくしあげ、彼に生脚を押し付けた。
「そういうのがずるいんだって……いっつも言ってんじゃん」
二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。
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続編として作品を分ける
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分けないで一つの作品でまとめる