「むぅう……」
レヴィは己の部屋の机にしがみつき、紙に何かを書き込んではすぐに手が止まる。
深呼吸をして横にあるキーボードに手を置き、少し打つも、また手が止まって。
「ダメダメすぎるーーっ!!」
座り心地のいいワーキングチェアをグルグルと回りながら、レヴィは嘆きの叫びを上げた。
レヴィは今、創世器修理の交渉の為、相手の刀匠に提出するための資料を作りながら、同時に新しい武器のアイデア出しもしていた。
アイゼンハートの方は【敗者】が分析していた訓練時や起動状態、転換や変化のデータはもちろん、レヴィが知っている限りの使用条件、武器使用者としての体感なども全て書き込み、3Dスキャンしたデータのファイルや破損状態の写真、虚空機関が昔研究しようとした時のデータまで全てをまとめた資料を作らないといけない。
そして、アイゼンハートの代わりになるような新しい武器の構想もだ。
破って捨てたりせず没案でも全て残しておくように、と【敗者】に言われた為、どれほど滑稽で無様なアイデアでも全部紙に描いてはいるのだが、全くしっくりこない。
アイゼンハートの代わりになるような、それを上回るような武器を作るなどあまりにも不可能だ。
「もうこうなったら一回紅茶飲んでやる……頭のリセットしかないっての……!」
74番艦の自宅からしっかり荷物を全て持ち出して、茶葉も今の家に置いといたのだ。
なので今は紅茶飲み放題のやり放題。
ゆっくりと呼吸したあとレヴィは何の茶葉で飲もうかと考え込んでいた。
たまにはチャイティーを飲んでみるのもいいだろうか。
いや、そういえば昔ディナンと出会ったばかりの時、ディンブラをねだって買って貰えなかったか。
その後自分で淹れて飲んだが、茶葉はまだ余っていたはず……
レヴィは頭の中にふととある光景が思い浮かんだ。
キッチンに立つ自分。
作りすぎたと思うほど紅茶を淹れており、2リットルほどの濃く入れた熱い紅茶を氷で満たしたタンブラーへと注いでいく。
カチカチと液体にぶつかっては溶けていく氷の音と、ディンブラのいい匂いがして……
「そう、こういうの……こういうのがいいんだよね……」
レヴィは思わず
そして、そのまま引き寄せて一口……
「あぁ……おいしい……」
――転位反応はなし。空間のゆらぎもなし。フォトンによる事象改変も計測出来ず。
レヴィは何も無い空間から出した紅茶を恍惚とした表情で飲み干し、タンブラーを置くと立ち上がる。
「ん……?」
いつの間に自分は紅茶を作ってきたのだろうか、と飲み終わったタンブラーを見てレヴィは思った。
あまりにも紅茶が飲みたすぎて記憶が飛んで、今作ってきた所なのかもしれない。
レヴィは特に気にせず扉を開き、外に出ると何かにぶつかった。
「レヴィ」
「うわっ!?……【敗者】?」
すると、扉の前に偶然【敗者】がおり、レヴィは慌てて後ろに下がったが彼の姿を視界に収めるとゆっくりと近づいていった。
「進捗はどうだ」
「あー……どっちも全然ダメ。資料はデータを全部入れるだけはしたけどどれもこれも長ったらしくて要項集めるのが時間かかるし、アイデアの方は出てこない」
一応、レヴィは【敗者】から他の創世器に関する情報やデータを貰ってはいたのだが、上手く進まない。
【敗者】は安全性の保証が出来れば模造創世器を倉庫から取り出してレヴィに見せられるとは言っているが、それでもだ。
素材の選定とか重量とか、そういうのは後回しで、とにかくその武器のコンセプトや大まかな形、強みを考えることさえ出来ればいいとまで言われてもデザインが上手く固まらなかった。
「じゃあわたし、もう一杯お茶……」
【敗者】は難航している様子のレヴィを見て少し考え込むと、声を出してみる。
「散歩でもしないか」
「え?」
「思いつかないんだろう?」
「まあ、そうだけども……」
レヴィは【敗者】に上着を渡され、着ながら外を眺めた。
夏の終わり。雨が降っており、じっとりと生ぬるい空気と共に緩やかな風で青い木が揺れている。
二人は手を繋ぎ、【敗者】はフードを被ると傘を持って外に出る。
「雨だね」
「傘の使い方は知っているか?」
「当たり前でしょ」
「前の外出の事も忘れた真性の阿呆なようだ」
「はぁ…?」
【敗者】は黒い大きなフリルの傘を広げると、レヴィを寄せて二人で入った。
44番艦の人の少ない街は雨では人も動物もおらず、二人で水を踏む音だけが響く。
忙しさの間に垣間見える平穏な日常……
今までの二人の人生からは考えられないほど平凡で、そして心落ち着く時間だった。
「こうやって人の前に出て、外を歩くようになったのもここ一年だ」
「そうなの……?」
「それまでは虚空機関の本部と惑星ウォパルの往復。表舞台に出ることもなく、市街地への立ち入りも数度あればいい方だ」
「ふーん…」
彼はフォトナーと謳われている事から非常に長寿であるのはレヴィでも知っているが、新光歴になってから長い間研究室にこもりきりで、交流も少なかったという事実を受け止めると、色々考え深い所もある。
「今も【敗者】は忙しいんじゃないの?なんというか、【敗者】は色々固まってるんだしさ」
先が何も見えていないレヴィとは違って、【敗者】はゴールも見えている上でただ環境が整っておらず時間がかかる部分で詰まっている。だからアイデアが思いつかないと休憩を取る意味はなく、本来ならずっと作業していてもいいはずではないかとレヴィは考えたが、【敗者】は違った。
「いや、固まっていない部分もあるんだ。分からない所を解析するために、こうやって交流する事でその糸口を探ろうとしているのだが……」
【敗者】は特に貴様、という目線をレヴィに送ったが、レヴィはそれを読み取ることはなく相槌を打った後【敗者】に歩幅を合わせ、森の中を抜けて開けた道を進んでいく。
「あっちの方にさ、デパートあったよねー」
それはこのゴーストタウンが栄えていた頃建てられていたが今は店員もおらず、ロボットだけで運営されていて広さの割に物もあまり置かれていないシャッターまみれのデパートの事だ。
一応食材や軽い日用品を取り扱う店とか、フードコートの成れ果ての有料ドリンクバー程度は残されているのだが、利用者は一日二人いればいい方。
「行きたいのか?」
「まあ気にならない訳では無いけど……」
レヴィは首を横に振り、「見るだけ」と口にした。
散歩のために出てきているのにデパートに入ったら何時間も居座ってしまうというのは分かっていた。
「いいだろう」
【敗者】はレヴィの向いた方向に合わせて歩き出した。
彼の左手が光った、と思いレヴィは目を向けると、彼は前に見せた指輪をしっかり付けていた。3000万メセタする指輪……
「……」
「僕の方ばかり見てもつまらないんじゃないか?」
「あ、いやその……指輪、付けてるなぁって」
「当然だ。任務以外は付けるように、と言っただろう?僕も同じ制約を持っている。貴様がただ付け忘れているだけだ」
「だってただの散歩だし……」
レヴィはぼんやりと記憶を甦らせる。
確か、指輪はつける位置に意味があったはずだ。
だから左手の薬指というのも何かあったはずなのだが、そういう事に興味が無さすぎて思い出せない……
「わたしはどうして指につけないの?」
「……失くしそうじゃないか?」
「別に失くしたりなんかしないし!」
と言いつつも、【敗者】は何か納得のいってない様子で顔を顰めた。
「それは偽物……なんだぞ?」
「だから……?」
「本物のない僕にとっては何を付けようがどうでもいいんだが……貴様にとってその差は大きいんじゃないか?」
レヴィは【敗者】の回りくどい言葉は理解出来ず、コテンと首を傾げてとぼけた顔で見ていると、【敗者】はなるべく淡々と話す。
「貴様に本気でそれを渡す男が居るのならそれこそが本物になりうる筈……だ……」
【敗者】は自分で言っておきながら、どうでもいいはずの目の前の女が他の有象無象と交際し、笑顔を向け、婚約指輪を受け取って結婚するという様を想像してみた。
「う゛ッ……」
「ちょっ……ど、どうしたの?」
吐き気。
何故か分からないが、【敗者】は心の底から吐きそうになるほどの憎悪が沸き立ち、胸の痛みと苛立ちで頭がおかしくなってしまいそうだった。
「訂正する、貴様と婚約するのは僕だけでいい」
「はっ?ちょっ……婚約ってない話じゃ……」
二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。
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続編として作品を分ける
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分けないで一つの作品でまとめる