そもそも、アークスというのは兵士。ダーカーと戦う為に造られ、存在している生物。
それ故に市民とは違って家庭を持ち、婚約し……という概念には程遠く、アークスにとって結婚する、という概念は非常に重い。
家を守る存在と戦う存在は対極なのだ。
アークス同士の結婚というのは、兵士の宿命として付き纏う死でも突き放せぬ深く重い愛の証明。
この身が尽き果て、死んでも一生一人にのみ心を捧げるという意味であり……
レヴィにとってそんな相手が、現れるわけがなかった。
「貴様がこの家に他の男を連れてきたり僕とバディでありながら他の男と交際したら死刑にするという事だ!」
「えっ……」
レヴィは別に他者と恋愛するつもりなどなかったからどうでもいい事なのだが、契約という面でこんな所まで縛られなければいけないのかという事実は少し面倒に感じる。
そもそもそんなものを制約する必要すら感じない。
(あーでも、恋人のフリをするっていうのに他に作ったら破綻するってことだもんね……)
「【敗者】安心して?わたし、そういう馬鹿らしいものに一切興味無いから」
レヴィはそう言いながら、目の前の【敗者】という男に感じていたたくさんの感情を全て胸の中に押し込めて否定した。
【敗者】のことなんて好きじゃない。恋してない。愛してなんかない。
そうやって何度も何度も心の中で呟いていないと、気が狂ってしまいそうだった。
「……そうか」
「うん、だからわたしたちの終わりはバディの終わり。大丈夫だよ【敗者】。どうせ終わる頃には人もみんな死んでるし、わたし達だって死ぬんだし。一生恋愛になんて縁がないんだよ。そういう幸せを与えられてないのが、わたし達でしょ?」
レヴィの言葉に【敗者】も安堵し、ニヤリと口角を上げて返事する。
「あぁ、……ふふっ、それもそうだな。こんな思考をしても全て無意味だ。
唯の杞憂……いや、気の間違いだった」
【敗者】は己の濡れる肩もどうでもよく、楽しそうにクスクスと笑うとふと思い出したかのように声をかけた。
「そういえばだが……家に出る前は紅茶を飲んでいたのか?」
「あ、うん。アイスティー飲んでたの」
「キッチンになど来ていなかったはずだが……デリバリーを頼んだのか?」
「え?」
「……?」
「わたしキッチンに行って淹れたんじゃ……?」
「何を他人事のように……」
【敗者】はリビングやキッチンに付けた監視カメラを開き、直近のデータを確認するがやはりレヴィは居ない。
「別に、怒っている訳では無い。玄関に置く設定であっても一報入れなければ配達ロボットの監視カメラに僕が映るかもしれな……」
「え?……え……?」
【敗者】はつらつらと言葉を紡いでいたが、何故か横にいるレヴィが静止して顔を青くしているのを眺めると怪訝な顔になり見下ろした。
「……どうした?」
「あれ、……じゃあ、……わたし……」
【敗者】は部屋の監視カメラの映像を開き、データを確かめてみる。
資料作り等が上手くいっていないのかあれこれと椅子の上で体を動かしていた先に、頬杖をついて目を閉じ、そして手を伸ばすと無の空間から紅茶を出して……
「……レヴィ、少し聞きたい事が」
「あっ……!」
【敗者】の声を遮るようにレヴィの声が降りかかると、傘の隙間から眩しいほどの光が差す。
「ねぇ【敗者】、虹出てるよ」
「あぁ……」
見上げてみると、暗雲を掻き分けるかのように太陽が現れ、空には虹がかかっていた。
オラクルの雨上がりではいつもの事なのだが、レヴィは空を見ながら歩いたことがなかったのだろう。
「雨止んだし、傘も閉じれば……」
レヴィは【敗者】から傘を取り、閉じようとすると建物の上からピチャンと雫が垂れてくる。
「わっ!びっくりした……傘広げておけば防げたのに……」
「その反射神経ではろくに戦えないぞ」
「もう!傘差してる時に戦う事なんて……」
レヴィは傘を閉じ、地面に突き立てる。
二人分の大きな傘の重さとレヴィの力が重なって鋭い傘の先が地面にヒビを入れた瞬間、レヴィの中にインスピレーションが走る。
この感触。重量、長さ、防御と攻撃を兼ね備える新型の変形武器……
「……っ!お、思いついた……!」
「ほう…?」
【敗者】は閃きで頭が冴えてたまらない今のレヴィに先程観測した異常に口を出すのは良くないと頭の中で抑え込み、慌てふためくように動く彼女を見守る。
「思いついた思いついた思いついた!紙!っ紙!紙どこ?!」
「とりあえず端末で描いたらどうだ?」
「あっそうだ!うん!」
レヴィは端末を取り出し、慌ててペンを使って描き始めると、【敗者】はレヴィが落とした傘を取り、彼女の肩を持ってゆっくりとベンチの方に誘導する。
「ほら、こっちに来るといい」
居住区が晴れモードになる事で自動的に清掃され乾いたベンチは雨上がりの二人を快く受け入れ、座り込むと【敗者】は静かにレヴィを眺めていた。
「こんな感じで……こうで……」
「成程……」
【敗者】は己の持っていた傘を見ると、それをレヴィに渡して見守る。
「こういう感じ!こういうの……こうっ!」
レヴィは傘を振り回し、バッと開いて中に隠れ、それからまた閉じて振り回してみる。
「ふふふっ、いい発想なんじゃないか?」
「ほんと?!ほんとっ?!」
「あぁ、しかし戦闘用にするとしたら……」
二人のアイデアはいい所まで詰まっていき、ベンチの上で会話が広がっていく。
「この武器は隠し球として用意するには発想も能力も十分だ。刀匠に習う為の武器は別の物がいいだろう」
「別のとなると……、うーん……最早アイゼンハートを模倣するくらいしか……?」
「あぁ、別にそれでもいいんじゃないか?模倣というよりブラッシュアップになるだろうが……基礎的な構造が分かっている武器だとあの刀匠の方も教えやすいだろう」
「うん……、これでいけそうな気がする、うん!」
「そういえば、僕に武器を作るだとか言っていたが……」
「あ、それについてはもう思いついてるの」
レヴィは【敗者】の手に己の手を乗せ、ゆっくりとなぞる。
「あんたがルビィを超えるために……いや、どんな相手でも安全に倒せるように、武器を作りたいと思ったの」
「安全に……か」
「そう。安全に、確実に。……良いでしょ?」
「あぁ……悪くない」
レヴィがどのような構想をしているのかはまだ全く予測出来ないが、レヴィは【敗者】の思想を理解しているためゴテゴテの大型の武器のような物は用意してこないはずだ。
アークスのマグに値するものか、かなり小型の武器、アクセサリーなどになるのではないか。
「まあ、やると言ったのだから任せてやるか」
「うんっ!」
「それよりも……」
「ん?」
レヴィのキラキラと輝く目を見て、【敗者】は知識の濁流に呑まれそうな思考を整理して頷いた。
「いや、なんでもない」
【敗者】はレヴィに傘を持たせたまま、その背を押すと他愛もなくいつものように声を掛ける。
「帰るぞ、レヴィ。もう作業したくてたまらないだろう?」
「あっうん!うん!作業したい!」
「僕も同じ気持ちだ」
【敗者】は端末で初代クラリスクレイスの資料を見ながら、レヴィと共にゆっくりと屋敷への帰路を進めていった。
二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。
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続編として作品を分ける
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分けないで一つの作品でまとめる