駄々広い屋敷の中で二人きり。
時々野良猫や【敗者】の眷属が現れるだけの静かな家で、ジュークボックスの軽快な音楽が流れる。
「よし……」
レヴィは最初一人で全て進めようとしていたので相談も全てどうしようものかと思っていたが、【敗者】からの進言でシルンを使って刀匠ジグにも予約を入れて、武器のアイデアも半分ほどはまとまり、進捗は随分良くなった。
「今日は休みだーー!」
一週間に一日の休み。
任務も何も入れず、やるべき事も一旦考えず休んでもいい日。
レヴィは【敗者】と違って休み無しで働き続けることなんて出来ないので、そういう休みは必須だった。
そして【敗者】の方も、己のヒトという肉体の窮屈さや脆さを理解しているため、休暇という概念は入れざるを得なかったのだ。
所詮今の器は初代カスラという【巨躯】とも戦えるほどのフォトン適正に恵まれた器とは違う、どこかの虚空機関研究員が遊びで作っただけの粗末な肉体に過ぎないのだから。
「で、休暇って何するんだっけ……」
シルンを誘って違法カジノで丸儲けするも良し、やっていたゲームをクリアするのも良し、自室にあるよく分からないアイテムを使って作曲して遊んでいてもいいのだが、レヴィにとって今一番欲しい癒しはそれらのアイテムではなく【敗者】という男だけだった。
という訳なので、レヴィは直ぐにリビングへ向かい【敗者】のことを探そうとするが彼は居ない。
寝室にも居ない。
となれば研究室?となって歩き回ってみるがそこにも居らず。
あと考えられるとすれば見たことは無いが【敗者】専用の自室くらいだろう。
「そう遠く無いはず……」
レヴィは再びリビングの前に戻ってから扉を一つ一つ開けて回り、【敗者】が居ないか探す。
何部屋か見た先に開けた部屋は真っ暗な空間の中にモニターが妖しく光る部屋で。
「ん……?」
「あっ、居た」
【敗者】の前にあるモニターには沢山の試算や情報と共に何故かいつ撮ったかも分からないレヴィの写真や映像が何個かあり、よく目を凝らしてみるとダマスク柄の部屋の壁に本当にどこで作ったかも分からないようなレヴィの写真で出来た大きな全身ポスターが貼られ、全身くまなく文字が書き込まれている。
"反フォトン体質"、"常識知らずで知能指数は平均的だが同時並行処理能力は異常"、"60%左40%右の両利き"……どうやらレヴィの身体的な情報が無数に書き込まれているようだ。
「あぁ……今日は休みか?」
「うん、【敗者】は……今日休みじゃなかったっけ?」
【敗者】はそう言われて時計を見ると、徹夜していたのかあぁ、と声を出して椅子をぐるりと回しレヴィに体を向けた。
「もうそんな時間か……」
「うん、……10時だよ、ご飯食べよ」
「……あぁ」
【敗者】は食事の必要などないが、レヴィは一人だとついつい食事を忘れたり、【敗者】が何も食べずに見ているだけだと不安そうに何度も「食べないの?」と聞いて食事が進まないため、【敗者】も一緒に食べることにしている。
「今日は何にしようか」
「あ、シチュー。ホワイトシチューがいい」
「昨日も食べただろう?」
「えー……」
「そんなにスープが食べたいなら、スープパスタとかでいいんじゃないか」
「まあ……うーん」
レヴィはホワイトシチューがいたく気に入ったようで、何日かおきにシチューを強請って大量に作っては消費してのループを続けようとするが、もちろん【敗者】がそれを止めて別の物を食べさせる。
「毎日食べたら飽きて嫌いになるかもしれないぞ?」
「え、でも【敗者】は毎日居ても飽きないよ?」
「僕と食べ物を同列に見ないでもらおうか」
「ふふっ、わたしにとってはシチューを食べる時もすっごく幸せなの」
レヴィはリビングに座り、ぼんやりと待っていると【敗者】がキッチンに立ってレシピを読み込み、手早く作り始める。
「ねぇー、調理ロボット使わないの?めんどくさいでしょ」
「めんどくさいなら貴様が作ったらどうだ?」
「え、それはわたしがめんどいもん。でなんでロボット導入しない訳?」
「ハッキングする事を前提としたとしても、記録が流出したら面倒だろう?あまりアークス製のロボットの類は導入したくない」
「じゃあ作るしかないのかなぁ……」
「それよりもいい方法を思いついている。まあ少し待て」
「ふぅーん…」
確かに、ロボットを導入するのは怖い物だ。
購入した時点で中古であっても新品であっても製品番号と住所が結びつくし、服やアクセを買うのとは違ってロボットは常にアークスシップの娯楽地区……正式名称で言う情報地区と繋がって、常に位置や顧客の情報を送り続けている。
中のプログラムを全部抜いて1から組み直してもいいが、その手間を全てのロボットに処置するのは面倒だ。
なので、レヴィは【敗者】の言ういい方法に委ね今は不便を受け取る事にした。
「……あ、いい匂い」
トマト系なのだろうか。ほんのり魚介の匂いもして良い……
と思っていたところ、直ぐに完成品がやってくる。
トマトのスープパスタだ。カットトマトやアサリが覗く、柔らかめに茹でられた物で、オリーブオイルと塩コショウ、それからイタリアンパセリが使われたシンプルな味わいだ。
「えへへ……超美味しい」
【敗者】はレヴィの半分ほどの量だけを取ってきて、彼女を眺めながらゆっくりと食事を進める。
「【敗者】も美味しい?」
「味などどうでもいい……所詮、貴様に合わせてやっているだけだ」
「でも、わたしに合わせて一緒に食べてくれて嬉しい!」
「全く……口はいつまで経っても減らないな。僕の駒ながら実に素晴らしい」
「なにそれ……褒めてんの?」
「あぁ。どいつもこいつも、言葉を重ね能力の差を分からせてやれば沈黙を選ぶ者ばかりだ。そんな中で貴様は唯一、いつまで経っても口を挟まないと気が済まない阿呆という訳だ」
しかし、こんな捻くれた言い方をしているが【敗者】はレヴィとの会話を随分楽しんでいた。
レヴィが彼のツンケンとした罵詈雑言や回りくどい言葉を掻き分けていきながら真っ直ぐに好意を示し、良いも悪いも全て受け止める姿は【敗者】という罪深き老獪な男の心すら魅了する魔性の悪人堕としである。
「ふふっ、だって【敗者】はちゃんと話してくれるんだもん♡」
レヴィは一滴残さず隅々まで食べ終わり、立ち上がると【敗者】の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「ね、外行かない?【敗者】と一緒にお出かけしたい」
「貴様はまともに休むことも出来ないのか?」
「でも、ずっと閉じこもってるのも疲れちゃうでしょ?体の中いっぱい換気しよ」
「……はぁ」
溜息をつきながらも次の瞬間【敗者】は笑みを浮かべ、彼女の手を掴んでそこに頬擦りした。
二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。
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続編として作品を分ける
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分けないで一つの作品でまとめる