※この作品はR-18です。

MIDNIGHT   作:Libby博士

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幕間⑥(2)

◇◇◇

 

 ――時計は14時を回った。

25番艦の市街地は多くの人で賑わっており、平和なだけの世界だと誤解してしまうほど呑気な広告が辺りを彩っていた。

 

 そんな中でも周囲から良き注目を集めていたのは、最近話題沸騰中のアークス二人だ。

 傷も残さずモデルのような美しい見た目をした二人の女性は、辺りをキョロキョロと見渡しながら、整った足取りで街を進む。

 

「あっルビィ、あれはどう……?」

 

 マトイはふと立ち止まり、視線の先に見える大きな服屋へ手を向けた。

白い髪を下ろし、ふわふわと柔らかいワンピースに身を包み、赤い瞳を興味に凝らす甘い表情の彼女は、かつて創世器白錫クラリッサを持ち宇宙を駆けていたアークス有数の武人、二代目クラリスクレイスだったとは誰も思えない。

 

「服屋か?いいなぁ。私の服は皆が選んだり、貰ったりするものばかりだからマトイの選んだ服も着てみたいんだ」

 

 その代わりにオフの状態でもカリスマのオーラが漂うのがルビィだ。

輝く金色のサイドテールを揺らし、何よりも純粋な青の瞳を煌めかせ、一つの欠点も見当たらない美しい体を彩る中性的なファッションはまるで世界的なファッションモデルか大女優のようだ。

 

「ええっ……ルビィの服を私が?でも、ふふっ……すごく楽しみ……」

 

 マトイの柔らかく微笑む顔を見てルビィも釣られて笑い、二人は楽しそうに店の中へ入っていく。

 

 ――その遥か後方に、二人の足跡を追うように怪しい男女が歩いていた。

 

「……あれはどうだ?」

 

 顔も見えないほど深くフードを被り、ゆったりとした上着を着ながらも筋骨隆々とした体格と長身は隠せていない怪しい男。

 モニターでは未だに全アークスに向けてダークファルス【敗者】の指名手配がされており、主に惑星ウォパルやマザーシップにて調査が行われているが未だその尻尾は見えていない。

 ……が、実際のダークファルス【敗者】はこんな所で、小さな女と手を繋ぎながら買い物に来ているところだ。

 

「えぇ……?あれ有人スタッフの店じゃん…気になるなら夜に空き巣しに行かない…?」

 

 そんな【敗者】に怪訝な目を向けるのがレヴィ。

ルビィと同じ稲穂のような金色の髪を持ち、しかし彼女と対称的な韓紅色の瞳を細めながら、セックスシンボルかグラビアモデルのような淫猥な肉体を溢れんばかりの真っ黒なフリルで包んで、揃って黒ずくめのファッションで歩みを進める。

 

「正規の手段で行くことが出来るのに、なぜわざわざそんなことをする必要がある?何かあれば僕が貴様を守る。行くぞ」

 

 感触を確かめるように擦り合わせていたその手を、【敗者】はギュウと握り強引に足を進めた。

 【敗者】の何も意識していないような言葉にレヴィは心臓が跳ね、顔を赤らめる。

 

「〜ッ、素でそういうこと言うのが……もう、あんた守るとか言ってるけど顔出したらダメだからね?あと守ったらダメだから!」

 

「僕の気分次第だ」

 

「もーーっ!!」

 

 レヴィは端末を取りだして軽く操作をすると、縺れた足を何とか転ばないように整えて、店の中へ進んでいった。

 

◇◇◇

 

 

 

 

 そこはアークスに向けた服を取り扱うチェーン店の本店であり、他のどんな服屋とも比べ物にならない程の大規模で、高層でありながら一つの建物丸ごと領域を占めていた。

 

 レヴィは「ここは初めて入った店だ」、と思いながら、練り歩くスタッフに顔が見えないようにフードを被り、【敗者】の後ろを着いていく。

 

「目的の場所でもあるの?」

 

「学習能力に欠ける奴には殆(ほとほと)呆れるものだ。僕が選ぶ物に捻りを入れたことなどないだろう?」

 

「もう十分買ったでしょ?」

 

「十分?どこが十分だ。僕は移ろう長い時の中で溢れる程の知を得てきた。そんな僕に言わせてみれば、お前の魅力はまだ赤子も同然。毎日違う服を纏えど、十分に達するのにあと三百年は必要だろう」

 

「なんて?」

 

「あと五百年くらい生きればお前にも分かるだろう」

 

「えぇー……」

 

 【敗者】の言葉をレヴィは理解できなかったがそれもそのはず、彼は相も変わらず遠回りな言葉でレヴィに全力の好意を表現していたからだ。

冷静沈着で高圧的なクールを演出しているのに、彼の奥にある悪意に染まった熱情が所々から漏れ出ている。

ようは、自分の前に与えられた無限のポテンシャルを持つ女を見て好奇心が収まる所を知らないと言いたいだけだ。

 

 【敗者】は流れるようにロリィタ服の売り場に辿り着くと、さっそくマネキンの近くに寄り、レヴィに似合うと彼が判断したであろう服を幾つか掴んでレヴィに差し出す。

 

「……これとこれ、……全部着てこい」

 

 せっかく二人で買い物に来たというのにレヴィは一度も【敗者】の服を買わせてくれない。

 そんな隙も与えるまいと【敗者】がどんどん服を増やしていく様を見て、レヴィは彼の腕を掴んで止めた。

 

「もう!たまにはわたしがあんたの服選ばせてよ!」

 

「僕が洒落た服を着ても意味などない。貴様が着ろ」

 

 それもそうだ。【敗者】は元々服装にこだわる趣味など無いし、服に拘りたければダーカー因子を使って服を紡げばいい。

彼が布の服を着る理由は極力ダーカー因子を抑えて潜伏する為であり、彼にとってなんの意味もない布切れをいくつも集める意味などない。

 がレヴィは違う。レヴィは彼をダークファルスだと分かっているが、同時に意思疎通の出来る人であるとも思っているからだ。

 

「はぁあーー?!何言って、……どうしたの?」

 

 しかし、レヴィが怒りを向けかけたところ……彼はそっぽを向いていた。

 それもいつものあしらいや無関心と違う、何か警戒のような物を感じ、狩人が静かに息を潜めるかのような目線に思わずレヴィも口を止める。

 

「あれ…?」

 

 彼の視線の先にいたのはマトイだ。

 マトイはキョロキョロと周りを見渡して、耳をすませる。彼女は優れた狩人のように直感と五感に優れ、直ぐにその気配に反応した。

 

「……マトイ?」

 

ルビィはマトイの様子か突然変化したことに反応し、近付いて同じくどこか遠くの何も無い場所を見る。

 

「ううん、その、聞き覚えがある声がして……」

 

「そうか?六芒の奴がお忍びで来てるのかもな」

 

「だったら、いいんだけど……」

 

 マトイの顔はどちらかと言えばネガティブな方に寄っており、あまりいいことのようには思えなかった。

 ルビィはそんなマトイの頭をくしゃくしゃと撫でて微笑みかけると、マトイはそれを見て安堵してまた服に向き直る。

 

 

 ――そして、そうはならなかったのが【敗者】で、彼は咳払いをした後にフードを深く被り直した。

 

「いや、……コホン。少し静かにするか」

 

 【敗者】はまだマトイの方を見ており、ルビィを見ると顔を顰め拳をギュウと握りしめた。

 

「はぁ?あんたともあろうやつが珍しいこと言うじゃん。まあいいけどさ」

 

「まあ……」

 

 そんな【敗者】の様子を好機と受け取り、レヴィはそそくさと【敗者】から離れる。

 そしてレヴィ好みの服をいくつか掴むと、ぼんやりと遠くを眺めている【敗者】に向かってハンガーを押し付けた。

 

「……隙あり!」

 

「ッ、……おい、これは……」

 

「えへへ!わたしの押し付けタックル攻撃!これであんたは服を試着することが確定しました〜!」

 

 レヴィに目線を向け、【敗者】は押し付けられた服をじっと見つめる。

 男のものは乱雑とした俗人臭い服ばかりが並ぶ中、光るものを見つけたのか燦爛かつ美しいスーツをベースにしたような服は着たくないと拒絶するほどのものでもなかった。

 

「ガキみたいな事するな」

 

「あんたが素直に着ないのが悪いの!ほらさっさと!試着室入って!」

 

 レヴィがグイグイと彼を試着室の方へ進めようとするが【敗者】は微動だにしない。

 だが、レヴィの様子を見て彼は溜息をつき、レヴィの手からハンガーにかかった服を貰い受けるとそのまま歩き出した。

 

「貴様が言うなら……仕方ないな」

 

「やったー!」

 

 【敗者】が試着室の中に消えたあと、レヴィはウキウキとしばらく小躍りをしてから、追いかけるように同じ試着室の中へ入っていった。

 

 

二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。

  • 続編として作品を分ける
  • 分けないで一つの作品でまとめる
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