その頃、ルビィとマトイはと言えばショッピングを全力で楽しんでおり、色々なフロアを巡っては服を眺めて、自分達の知る誰かにそれを当てはめた想定の話をして……とよく盛り上がっていた。
上のフロアには小規模のフードコートもある。疲れた時にはカフェで一杯コーヒーを飲むのも悪くないだろう。
「友人カップル家族ソロ、三者三葉って感じだな」
「なんか……お洋服の店なのにテーマパークみたいだね」
これ程大規模な店に入るのは初めてで、階層が変わる度に服の種類も、なんなら服ですらない布団やベビーカーなども並ぶ店は奇妙に映りルビィとマトイは静かに心を躍らせていた。
「マトイはそろそろ決まったか?」
「ううん、その……ルビィに着せたい服ってすごく多くて……もうちょっと、時間が欲しいな……」
ショッピング用に開かれた画面には既に沢山の服がカートに入っており、また試着用の服を眺めては追加してを繰り返す。
対してルビィはいくつかのシャツと店員に勧められて入れたマネキン買いの服だけで、あとは選んでいなかった。
「そうかー、私は人の服を選ぶなって両親に言われてるからなぁ。見てくれのいい服は皆がくれるからパジャマとかしか買わないんだよな。選び終わったし、店内でも回って遊んでくるよ」
マトイにあげる服、として選んだ服ですらよく分からない文字が書かれたTシャツや、極彩色のズボンなどどうも合わせにくくセンスに欠けたものばかり。
まるで50代の女が選んだ古臭いような服が入っており、ルビィ自身服選びが苦手だというのを自覚しており軽く選んだあと止めたのだった。
「あっうん!行ってらっしゃい!決まったら教えるね!」
あまり話しかけても時間を無駄に浪費させてしまうだけだ、とルビィはマトイに声をかけ、手を振って歩き出す。
「またなー」
ルビィが歩き出した方は偶然か運命か、【敗者】とレヴィがいる方だった……
◇◇◇
更衣室――狭いそこに二人の男女が収まり、大きな全身鏡には薄青にビビッドピンクのグラデーションがかかった髪の、赤い瞳を見せた【敗者】がじっとレヴィを見下ろして、彼女に体を任せていた。
「いちにーさん……」
「そうやって数えないとボタンもろくに締められないのか?」
カッチリと整った彼の試着する服の最後のボタンを締めながら、レヴィは首筋と鎖骨をむき出しにして彼の服をじっと見つめる。
その柔く白い肌を見ると胸が高鳴り、レヴィが【敗者】の服から手を離した瞬間、【敗者】は腰を曲げてレヴィの首筋に噛み付いた。
「うるさい……ひゃっ!?なんで噛んだの?!」
「何故とは……そこに貴様の首があったから?」
「そんなの理由になってないし……、コラッ!」
【敗者】はレヴィを抱えると噛んだ場所を舌で舐め上げ、また別の場所に噛み跡を付ける。
「今、怒ったのに、……なんでまたそうやって、甘噛みするわけ……」
「……レヴィ」
【敗者】の湿った声がレヴィの耳の奥まで響き、レヴィは自分の性にあわないとは思いつつ顔が真っ赤に腫れ上がり、自分の感情が完全に恋情へと傾いていた。
「むぅう!そ、そんなことされたら仕返ししちゃうんだからっ!」
レヴィは【敗者】の首をガバッと開けばそこに噛みつき、はむはむと口を動かすも【敗者】は仏頂面のまま。
「痛くも痒くもない」
「なら全力で噛むよ?!」
レヴィは勢いよく強く噛むと、【敗者】は甘く目を細め、レヴィの頭を撫でながら呟いた。
「……寧ろ気持ちいい」
彼女の顔が焦燥に染まり離れた瞬間、【敗者】はまたレヴィの首に噛み付く。
「むっ、……きゃんっ!まだ噛むつもり?あんたがそんな態度ならこっちにだって考えはあるんだからね!」
「どんな考えだ?やってみろ」
彼はレヴィの企みに関心を持ち、彼女を抱き留める手を離して彼女をじっと見つめる。
得意げな顔で【敗者】にウインクした後、狭いその更衣室の中でレヴィは【敗者】にぎゅっと抱きつき、にんまりと笑った。
「この一撃であんたをメロメロにしてやる!」
そうして【敗者】の期待が最高潮にまで達した瞬間、彼の唇に柔らかい感触が当たる。
ちゅ、という小さな音が響き、そしてそれはあっという間に離れた。
「……は?」
「なっ、効いてない……?!」
「当たり前だ。何を接吻一つで誇った気になっているんだ貴様は」
「だってちゅーしたらたまに動揺してるし……」
「必殺の攻撃に値するものではない」
呆れたため息をついてから、【敗者】はレヴィが乱した首周りを直し、レヴィの選んだ服を纏った自身と鏡を通して向き合った。
「あっ!自分で着ないでよ!わたしが着せるのー!」
「いつまでグダグダと非効率な駆け引きをしているつもりだ?このままでは日が暮れても終わらないだろう」
「それはそうだけど……」
「……ふん」
【敗者】は彼女の不慣れな手つきで着せられた服を整え、今度はレヴィに向き合う。
黒とワインレッドの豪華なジャガードと刺繍の目立つその服は、レヴィの目をくるみボタンのように丸めさせ、感嘆の声を零れさせた。
「わっ……結構似合ってるじゃん」
「……そうか」
レヴィのほんのりと赤く火照った顔に【敗者】は満足気になり、彼女から顔を逸らして思わずニヤつく。
レヴィはそんな【敗者】を気にしないのか服に着いていたフードを被せようとぴょんぴょんと跳ね、【敗者】の首の後ろに手を伸ばしていた。
「ほら、フード被って!あんたといるとここ窮屈だし、外でちょっと見せてよ」
「貴様もさっさと僕の選んだ服を着ろ」
「あんたのが終わってから!」
その言葉に【敗者】は仕方なくため息を着いてから、自分でフードを被り試着室の外へ出る。
慌ててレヴィも追いかけて、彼の姿を四方八方回りながら眺めていると、その余りの眉目秀麗な様子に思わず感嘆の声を上げて笑顔になった。
「ふふっ、わたしのセンスってもしかして完璧?最高の仕上がり……超カッコイイ〜♡」
「服が、だろう」
「何言ってんの?マネキンに着せてもなんにも面白くないんだから!あんたの顔あって、でしょ?」
「……そうかもな。貴様は周りが見えて無さすぎだ」
ルビィがふらふらと歩いていると、どこか見覚えのある体格と声をした男と、傍には自分とそっくりの髪色の小さな少女がいる。
(あれ……、いや、見間違いか?)
「わたしは普段からこういう所にいる時は周りを見ないように意識してるワケ!ふふ、今のあんたに似合う服をわたしが着たらお揃いとかになっちゃうのかなぁ。バディらしい?もしかしてこれって結構バディらしかったりする?」
「バディというより……、……」
「というより?」
「なんでもない」
レヴィは手を出してモノ欲しげに【敗者】を見上げると、彼は膝を着いて項垂れ、レヴィに撫でられていた。
正直に言えば、子犬と主人というよりかは子供と大きな猟犬という様子だ。
「わたしのこと飼い犬とか言いながら撫でられるのは素直に受け入れちゃうんだ?」
「殴るぞ」
「殴ったらあんたのこと蹴るから」
「……なら、こうさせてもらう」
【敗者】は頭を撫でるレヴィの手を掴むと無理やり下ろし、手の甲にキスをする。
「なっ……」
レヴィは顔を真っ赤にして静止し、目をぱちくりと瞬きさせながら彼を見つめていた。
「……は、傑作の表情だな。フリーズしたのか?そのまま檻の中にぶち込んでやろうか」
「ッ、〜〜ッ、るっ、すぁ……むぐぐっ!」
レヴィが慌てて【敗者】の名前を呼びそうになると直ぐに【敗者】によって口が塞がれ、しとしとと小さな声で囁かれる。
「間違えるな」
「あっ!……ルオン!」
「貴様の犬頭のせいで僕を殺すと思え」
「わたしはあんたのこと、殺したりなんかしないんだから!わたしの味方である限りしっかり守ってあげるよ?ふふっ」
「ボディガードを雇ったつもりは無い…」
「飼い犬って言いたいんでしょ?はいはい」
「……」
【敗者】は左手の薬指に着けた嘘で塗り固められた其れを見ながら、目を伏せた。
「もう、なんか言ってよバカ」
「いや、……、……早く、試着してこい」
「え?……あそっか!行ってくる!」
レヴィは【敗者】の言葉に照れてた様子も治り、服を掴むと直ぐに更衣室の中へ入っていく。
二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。
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続編として作品を分ける
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分けないで一つの作品でまとめる