――偽造されたパーソナルデータ。オークションで落札してから自分用に改造した士官服。罠抜け用の通信妨害小型端末に、範囲指定マーカーと中身に余裕のあるレンタル倉庫……
「よし、……」
レヴィは珍しくかなりしっかりとした装備を整えており、いつもより張り詰めた面立ちでゆっくりと深呼吸した。
彼女は、創世器を自らの愚かさで壊してしまった。
その罰は今新たな武器制作という事で償っているところだが、それは【敗者】から与えられたもの……
それで、レヴィの後ろめたい気持ちが消えた訳では無い。
「責任とかそういう言葉……一番似合わないもののつもりだったのに」
【敗者】に巻いてもらうことも無く軽くコテで先を巻くと士官服のコートや白衣を鞄の中に仕込みながら内側の服だけ着替え、上からアークスコートを羽織る。
そしていつものように変装用のニューマンの耳のホログラムを付ければ、外出する準備は完了だ。
レヴィはメモに乗せておいた今回の作戦を整理する。
目標はジャンク品をも躊躇わずVR訓練装置を盗み出すこと。
そのため、虚空機関本部にある倉庫内部のコンテナから目的のものを奪う必要があるのだが、虚空機関が解体されている中で目的の物品が倉庫に残っているとは限らない。
そうなると物流のルートを探して別の倉庫に向かうことになり、その段階で士官服が必要になるかもしれない。
「どちらにせよ……虚空機関本部とアークスの中枢、危険度は高過ぎる」
【敗者】が止めるのも当然だ。しかしやらなければいけないのがレヴィの取る責任……
「よし」
レヴィはフードを被り、一人で外に出る。
もう夏を超えて秋だ。
木の葉は枯れ始め、肌寒くなり、ロビーまでの道のりですれ違うアークスや市民も防寒着を纏い始めている。
無言でキャンプシップに乗り、一番艦に向かう景色の中レヴィは何度も何度も脳内でシミュレーションし続けた。
一番艦という事は、【敗者】から貰った要注意人物……六芒均衡などに会う可能性が高いだろう。
彼らはウルクのような一般人上がりではなく、シルンのような裏のあるコネで成り上がったようなずる賢いエリートでもなく、オーラとカリスマを持った本物の逸材。
特に、フォトンを扱う力に優れた……
「チッ……本当に不愉快」
【敗者】は、指名手配のニュースを見て三英雄に裏切られた、と言っていた。
三英雄を含む六芒均衡も皆、【敗者】に敵対し、【敗者】を傷付ける相手だ。
そして六芒均衡はみんな揃ってあの
本当は暗殺任務に変えてやりたい所なのだが、大事にして【敗者】の存在がバレてしまうのも良くない。
だから優先すべきは己の復讐心よりも目的。
レヴィはそれを何度も心の中で呟いてから、キャンプシップを降りた。
――新生されゆくアークス。今を生きる人々が、みんなを大切にするために、明るい未来を望んでいる。
そんな中、宇宙の敵であるダークファルスに骨の髄までゾッコンな、異端かつ違法なアークスがその中枢に降り立っていた……
(虚空機関……本部……)
レヴィは声には出さず、頭の中で考える。
内部にいるのは虚空機関内部調査の為の人員だというのが分かっている上、隠密や侵入などに使えていたアイゼンハートが一切使用不可能というのは、レヴィにとって少し苦しかった。
とはいえ、アイゼンハートが無ければ不可能ということはない。
レヴィはタクシーで学園地区まで向かうと、虚空機関本部に向かって歩き始める。
裏口から入るか、地下から潜入か……何か他の業者や研究員がいるのなら、彼らに成りすますというのもいいだろう。
虚空機関の解体が進んでいるということは外部の人間の立ち入りがあるはず。
それが管制側の人間であるならレヴィが持ってきた士官服が使えるし、清掃業者や運送業者のようなものなら誰か殺してそれらになりすませばいい。
とにかくは様子見だ。
――虚空機関本部の近くまで来ると、レヴィは路地裏に隠れ端末を開き直ぐにハッキングを仕掛けた。
虚空機関本部の内部は監視カメラが無数に設置されており、総長に隠れて出来ることなどないと言わんばかりにどんな場所のデータも見れるようになっている。
レヴィはそんな昔の【敗者】のお陰で施設の隅々までを把握できるようになり、どこに誰が居るか、どんな人間がいるかまでしっかりと分かった。
内部に居るのは虚空機関の所属ではない研究員達や、管制側であろう士官やアークスが数人、それからなんの業者だろうか分からないが工具を持った者たちがいる。
管制の人間は全員男だし人数も少ないから変装は難しそうだ。工具を持った業者は……内部工事なのだろうか?しかし仕事内容が分からないとなると誤魔化しが効かない。
この中だと流石に研究員になりすますのがもっともリスクが低いだろう。その服のまま倉庫に行くのは権限的に不可能かもしれないが、人を一瞬誤魔化せればそれでいい。
(人の出入りはなし。正面入口は勿論側面にも監視カメラがビッシリで、オマケに人も居るからピッキングするとめちゃくちゃ目立つ……)
【敗者】から虚空機関本部の設計図や内部のマップを貰ったことなどないので中の構造は知らないが、ここまで隅々監視カメラが仕掛けられているとなると逆に監視カメラを使ってマッピングが可能だ。
レヴィは監視カメラの映像を見比べながら端末の画像編集ツールを使って廊下や部屋を配置していく。
随分と高いビルだが一定の階層は全く同じ構造で、そこは省略してもいいだろう。
となると下の方の数階と足して上の方の何階かが違う構造になる訳だが……
(ん……?)
マッピングしていると、下の方の階層と上の方の階層に監視カメラがない空間を発見する。
中層の階だと部屋で埋められている部分だが、明らかにその空間だけ存在しないような、空いているような風になっていた。
もしかしたらここに緊急脱出用の裏ルートに繋がるテレポーターとか、秘密倉庫とかがあるのかもしれない。
レヴィにはそれを使うことは出来ないが、もしかしたら……
レヴィは歩き出してみるとその監視カメラがない空間の方に向かってみる。
一階に存在するようで、正面の入口とは離れた、不自然に植えられた木に隠れた場所だ。
(運良い……)
そこには扉があり、物理鍵は掛かっているが周りには誰もおらず、監視カメラも設置されていないようだ。
レヴィは直ぐにピッキング用の特殊なスライムを取り出すと、鍵穴を見て流し込む。
ピッタリと埋まったことが確認出来たところで取り出し、形状が保たれている時間で象られたスライムを見ながら特殊な粘土を固めて鍵を作っていく。
(この業者のこのタイプの鍵の形はこれで、変化する箇所はここだから……)
そんなことを心の中で呟きながらピッタリとはまるような鍵を作り、扉の鍵穴に差し込んだ。
電子鍵ならハッキングで一瞬なのだが、物理鍵はこういうめんどくさい所があるから少し嫌いだ。
しかしめんどくさいながらやった甲斐あって、扉はすぐに開く。
レヴィは中に入り鍵を締め直す。
中は内部に繋がる扉もない閉鎖された部屋で、テレポーターと小さな箱が置かれているだけだ。
概ね予測通り。
【敗者】は転移が使えたはずだから、このテレポーターは恐らく総長以外か……何かしらの手段で彼がフォトンの感知を切って逃げたい時くらいだろう。
ただ、どちらにせよ扉がなくテレポーターも使えないのでレヴィは普通ならここから内部に入ることは出来ないのだが……
(やっぱりあった)
天井には通気口があり、蓋の隙間からはダクトが見える。
こんな窓もない狭い空間で扉もピッチリ閉まっているが、だからこそ通気口はあるに決まっている。
レヴィは足に力を入れてサッと飛び上がり、通気口の蓋にしがみついて体を揺らし外すとすぐダクトの中に入り込んだ。
マッピングが正確ならダクトを使ってもある程度の場所には行けるだろうが、それでも全ての倉庫をダクト伝いに……というのは体力的にも無茶な話だ。
それ故に、ダクトで行ける範囲は限界がある。
(さて……最初はトイレとかでいいか)
レヴィは一階の女子トイレの中に降りると、直ぐに個室の扉を閉めて研究員が着ている服と同じ物に着替える。レヴィの白衣コレクションの中に同じアウターがある上に、内部のベースウェアは人それぞれ。故に白衣一枚で研究員になりすませる為、後は偽造パーソナルデータを昔から使っている研究員用のそれに切り替えるだけである。
周りを見渡しながら直ぐにまたダクトの方に逃げ込むと、倉庫との距離や人の数を考えながら階層を一つ一つ上がる。
そもそも、該当する倉庫がどこにあるのか分からないのだ。
データ端末か何かで探す事が出来ればいいのだが、在庫管理用のクラウドデータはハッキングして見る限りだと消耗品等が多く、具体的な機械や試作品の類は見つからなかった。
そのため、倉庫内部にある管理用端末ごとにデータ管理をしているか、そもそもそのようなデータを作っていないかの二択……
一言で言うと、虱潰しという訳だ。
(虚空機関って棚卸しとかしない訳?汎用品以外の資材は全部倉庫にある端末全部巡ってカウントしてるとか?アナログ過ぎない?)
と思いつつも、多分見つけられてないだけなのだろうとレヴィは考えた。
しかし、倉庫の中身や在庫管理等の資材に関するものはマッピングする前に閲覧したから、それで全てのはず。
虚空機関程の組織が変な場所に変なフォルダを入れているわけなどないし……
「む」
レヴィは思わず声を出すと、体を止める。
ここは一つ目の倉庫の中だ。
該当する監視カメラを確認して人が居ないことを確認してからハッキング、その後通気口を開け中に降りる。
倉庫の情報端末は入口から一番見やすい場所……非常に危険極まりないが、端末の裏側に書いてある製品番号さえ分かれば何とかなる。
(……良し、あった)
音を殺して素早く近づき製品番号を素早く入力すると、画面を共有し確認する。
どうやらこの倉庫にはないようだ。
なればレヴィのする事は、体力的に怪しくなるまでダクトに戻って限界までこの作業を繰り返すだけなのだが……
二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。
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続編として作品を分ける
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分けないで一つの作品でまとめる