「……?!」
突然、頭上で音がしたかと思えば通気口の蓋が動きダクトも見えない程完全に閉鎖される。
レヴィは思わずコンテナの影に隠れじっと待っていると、少しした後に再び通気口として機能するように蓋が動いたが、再び閉じる可能性もあるかもしれない……
(そうだ!)
そういえば、研究員など以外にも工具を持った業者がいたはず。
あの業者は虚空機関本部を研究部施設として利用するため、施設のメンテナンスをしに来た工事業者という事らしい。
レヴィは急いで監視カメラから管理者がいる場所を覗くと、会話が聞こえる。
「これから、強制換気機能の確認をします。もし換気に滞りがあれば原因を調査し、修理致しますので」
「お願いします」
強制換気機能ということは、もちろんダクトを使用するだろう。
そこでもしレヴィという人が居れば、換気量が減り彼らの言う異常になるかもしれない。
そうすれば管理者達は一斉にそちらに向かい、下手すればダクトを隅々まで覗かれる可能性も……
(ダクトはもう使えないみたい。仮に使えたとしても、脱出するタイミングでまた機能点検とか言って締め出されたらヤバいし……)
「チッ……」
レヴィは体の汚れを払い、名札を整えるとニューマンの耳が付いていることを確かめてから外の部屋のカメラを覗く。
これから一定の場所まで人が居なければ、隠密だけで済むのだが。
(よし、運良い)
レヴィが望んだ通り人はおらず、レヴィはゆっくりと扉を開けて外に出ると歩く度に監視カメラを順番にハッキングしては解除しを繰り返しながら進んでいく。
そして倉庫に入り、端末を確認しては外に出て、また階層を上がりというのを何度も何度も繰り返すが……十数箇所覗いても見つからない。
そして上に登るほど彼らの進捗と合うようで、どんどんと人が増えてきて、知らない研究員とすれ違うことも増えていく。
あまりに人が多いからなのか平凡な研究員はレヴィの顔を見ても何も思うことはないみたいで無言で通り過ぎ、レヴィは倉庫の近くに来ると人の流れを見て人がいないタイミングで慎重に入っていく。
(むぅう……)
しかしやはり見つからない。もう十五階まで来ているが、ここまで無いとなると寧ろ最上階付近にあるという方が自然なのだろうか。
一応階層ごとの部署は確認しているのだが、戦力増強部門の倉庫にも無く、アークスシップ・市街地防衛部門の倉庫にも無かったためもう分からない。後はキャストなどのサイボーグ研究や原生生物等の生物研究など無関係な階層と、それから上層の数階は具体的な中身は記載されておらず不明。総長室や特別研究室……みたいな感じの名前で誤魔化されている。
レヴィがまた倉庫から出ると、人のゾロゾロとした足音が聞こえる。
慌てて早足で逃げるように歩きだし、進行方向を予測しながら見つからないように逃げようとするが、倉庫に行ったタイミングで壁の点検として壁が下ろされたのか行き止まり。
近くには業者の壁入れ工具だけがあったが、そうであってもこのままではかち合ってしまう。
レヴィは瞬間で思いつき改めて監視カメラのハッキングをしながら近くの部屋に入り込むと、そこは給湯室だった。
(はぁあ……)
隠密するのも一苦労だ。
外では立ち止まって長い会話が始まり、キャストや研究員の声が沢山聞こえてくる。
この様子では暫く留まりそうだ。
(長居するのは良くないのに……)
レヴィの頭には、ふとあるデータが過ぎる。
【敗者】から貰った要注意人物リストの一人……六芒均衡の零、クーナの事だ。
彼女はかつての【敗者】……虚空機関総長が直接命令を下していた諜報員らしく、創世器である透刃マイを持ってその力で体を透明化することが出来るらしい。
もし、この任務をクーナがやったとすれば創世器の力で難なくこなせるのだろう。
それだけではない。
戦闘訓練だって、創世器を持っているというのにレヴィの実力は六芒均衡に手も足も出ず、情報だって虚空機関の研究員じゃなかったレヴィには端くれ程度しか知らないし、武器を作る技術だってないのだから刀匠に縋りに行こうとしている……
(わたしだってもっと強くなりたい、もっと力が欲しい……【敗者】の為でもあるし……わたしがアークスを殺すためでもある……!)
どす黒い殺意と明るい希望の間に挟まれて、レヴィの感情はどんどん膨らんでいく。
(あ、……見える……!)
レヴィは意識をシャットアウトし、頭の中でゆっくりと倉庫を思い浮かべる。
入ったことの無い場所だが、随分と鮮明に感じた。
コンテナの中に、たくさんの箱がある。
箱は白く、様々な大きさがあるが、どれも試作品のラベルが付けられていた。
そして、虚空機関の研究員の制服を着た男たちがずらずらと入ってくると、一緒に
チームルームで見た時と同じような、空色で埋め尽くされた髪。瞳やタトゥーは青く、白を基調とした知らない服を着て、その倉庫の中を歩いていく。
『総長、それで……何をお探しですか?』
『今、いい感じに使えそうな
『あぁ、あの対人想定の的とVR投影装置ですか!試作品3号機から5号機までは廃棄せずに残してありますよ!』
『では、一番出来のいい5号機を貰おうか。あれは感覚再現の部分で少々問題があったはずだが……フフ、僕には関係の無い事だ』
『確かに、3号機は内部コンピュータが一世代前で所有者登録をすると解除出来ないバグ付きですし、4号機はテスト段階でめちゃくちゃに破壊してしまって修理しても再起動しないジャンク品ですからね』
レヴィは頷きながら考え込んだ。
この中で選べるとしたら4号機は論外。5号機は既に倉庫にない。となれば問題点が些細なものである3号機を手に入れて、自分でバグを治すか新しいコンピュータを搭載して1からプログラムを組み直した方がいい。
『5号機はこのA-04に入っていますよ』
『ふむ。3号機と4号機もこの中に?』
『いえ、3号機は半年前の物なのでほかの試作品とまとめてA-03、4号機はジャンク入れです』
『僕の指示した管理マニュアルと違うようだが……まあいいさ』
『あっ!確かこれはバイトにやらせたもので……こっちの方でやり直しましょうか?』
『いや、僕が今把握したという事実で十分だよ。そんな手間を割く時間があるくらいなら、結果を一つでも増やしたまえ』
『わっ……分かりました、すみません』
研究員がコンテナの内部を開くと、中からプラネタリウムのような球体型の機械を取り出す。
なるほど、VR投影装置はあんな形なのか。
レヴィはそう思いながら、青い【敗者】の方に目を向けた。
あれが、【敗者】の言っていたかつての彼……虚空機関の総長なのだろう。
もしもレヴィが研究員になれていれば、あの場所にいたのはレヴィだったかもしれないし、もっと前から【敗者】と出会っていて、彼が苦しまないようにルビィを先に殺すことだって出来たはずだ。
でも、それが出来ないから今があるわけで……
「もっと……もっとわたしは出来るのに……!!わたしは研究者にだってなれたのに……!」
青い【敗者】と研究員が消えていく背を見て、レヴィの体はぶわりと熱くなる。
――レヴィは思わず
3号機の入っているA-03コンテナ……あれが欲しい、あれが手に入ったら、あとはキャンプシップに乗って、44番艦に帰るんだ。テレパイプの類は使えないし、ダーカーワープも使えないから、何とかして頑張って……
自分でも転移出来ればいいのだが。
例えば、フォトンを使わない転移……なにか魔法の様なものでパッとサッと転移出来たら。
「欲しい……」
創世器さえ壊してなければ、もしかしたら、創世器を持って昔の彼に会いに行けば六芒均衡になれたかもしれないし、彼が雇っていた始末屋は自分だったかもしれない……
そんな風に、レヴィはどんどん具体的なイメージと非現実的な妄想と己の欲望が絡みついて力を成していく。
――そう、手を伸ばして、もっと、もっともっと……立ち上がって、手を伸ばして……
「貴方……見ない顔ですね。そんな所で何をやっているんです?」
人が、レヴィの顔を覗いていた。
人はどこか見覚えがあって。そう、要注意人物リストの写真にあったような。
しかし、男のことなど最早風景同然で。
「返事を……」
レヴィは構えるように胸の前に手を置くと、頭の中でとある言葉が思い浮かんだ。
それはレヴィの迸る思考を一気にまとめ、一気に解き放つ。
「ルシェラ」
――瞬間、レヴィの体が最初から居なかったように消失する。
転移反応無し。空間の揺らぎも、フォトンの変化も一切無し。この世に存在しうる全てのテクニックにも該当せず。
人に反応せず、知らぬ言葉を唱えて消えていく、フォトンの感知にも一切引っかからなかったそれは、もはや人というより。
「……幽霊……?」
毛ひとつ残されていない空虚の中で、二代目カスラはそんな言葉を呟いた。
・・・・
――キャンプシップ、ブリーフィングルーム
「うわっ!」
レヴィは突然宙から飛び出すと、思い切り転がり込んだ。
テレプールに突っ込むギリギリの場所で止まり、立ち上がると周りを見渡す。
「あれ……?」
キャンプシップの中には見知らぬコンテナが一つと、レヴィの体だけあった。
慌てて端末を開くと、キャンプシップの行先は44番艦で。
「ど、……どういうこと?」
先程まで、レヴィは虚空機関本部に居たはずだ。
そこでどうすればいいのか考え込みながら座ってて、これからやるべき事を組み立てていたらいつの間にか意識が飛んでいた。
「また、これ……?」
前もそうだ。
最近、意識が知らないタイミングで飛ぶようになっている。
そうすると頭の中で思い浮かべていた事が叶っていて、知らないうちに終わっている。
「あっ、そうだ、コンテナ……」
A-03と書かれたコンテナを開き、中を開いてみる。
そこには想像で見たVR投影装置に似た機械や、他にもいくつかの大きさの違う白い箱が入っている。
「これは……シンパシー?あと、クラス測定器……、それからフォトン変換装置(仮)……」
色々なガラクタが入っているようだが、とにかく目的は果たした。
VR投影装置3号機は所有者登録の面に難があると言っていたが、そのバグは新しくコンピュータを搭載して1からプログラムを作ればいいだけだろう。なんなら、ハッキングすればデータベースにVR装置の内部プログラムのソースコードがあるかもしれない。
「ふふっ……上手くいっちゃった!ふふっ、ふふふふっ!」
心臓部の保証は出来たということは、後は空間を手に入れるだけだろう。
レヴィは頭の中で思いついたアイデアをメモに残してから、【敗者】に電話を掛ける。
ワンコールも満たないうちに彼が応答すると、レヴィは手短に話した。
「あ、虚空機関から使い道がよく分からない機械をいっぱい手に入れたんだけど……欲しいものある?帰ったら見せるね」
二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。
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続編として作品を分ける
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分けないで一つの作品でまとめる