「今日は交渉の日、……武器が直せる日、フフッ」
「ギャッ、あ゛、ッ、ああぁぁあッ!!」
そして、一定のリズムで響くうめき声と電撃のバチバチとした音。
「わたしってほんと運がいい。あの中に電気椅子の装置が入ってるなんてさ、おかげでリラックス出来る……」
軽快なバックミュージックと鼻歌のメロディ、そしてその辺から迷い込んできた少年のうめき声。
体を揺らし気持ちよくなりながら新たな武器のデザインをと筆を滑らせているが、ふとゼェゼェと枯れた音が聞こえたかと思うと電気を流しても声が聞こえなくなっていた。
「んー……?」
レヴィはご機嫌な表情のまま振り返り、白い養生に足を踏み入れる。
カシャカシャとした無数の破音が部屋を埋めつくし、足を乗せる度に皺を寄せて歪む。
「……」
赤い液がポタポタと零れる椅子の上で、名も知らぬ少年は項垂れて気絶していた。
「もぉー、……コラ、ダメでしょ?」
レヴィはジュークボックスの音に身を任せながら、硬くしなる鞭を取り出して思い切り少年を叩きつけた。
「ッ!!あ゛ッ?!」
「わたし言ったよね?リズムに合わせて歌ってねって……歌えるようにいい物用意したのに、どうして辞めちゃうのかな?」
「ごぇ……なさ……」
「えー?なんて言ってるか聞こえないなぁ」
レヴィは何度か鞭を振るい、鳴かせてみるが声は掠れている。
それもそうだ。もうこうしてから半日ほどが経過している……
苦痛を感じるが死なないギリギリのラインで調整しなるべく長く声を上げさせていたが、そこまで叫んでは命の限界より喉の限界の方が早い。
「んー……まあいいや。ちょっと早いけど、休憩してから【敗者】のトコ行く予定だし。キミは捨てていっか」
それから先の枯れた声はレヴィの耳には届かなかった。
椅子が倒れる程少年がもがき苦しむ様を見ながらレヴィはくすくすと笑い、その後彼をわざわざ電気椅子から離してやる。
このまま電気で処分しても痛みは薄いだろうから。
「ぁ……!!ッ!!……ぅあ……!!」
少年は一気に這いずり、扉を叩こうとするが足が折られていて立ち上がれない。
レヴィはゆらりゆらりと彼に近付いたあと、小さく柔らかい手で彼のズボンに手を掛け、下着ごと脱がす。
体を返し、思春期にも満たない子供の生殖器を見て、レヴィは目を細め笑う。
「あはっ、……ちっさ……」
股関節をなぞるとナイフを取り出してゆっくり切り裂いていき、鼻歌を歌いながら生殖器を囲って切り取る。
「ふふっ、みっともない……っ、あは、……ふふっ……」
疲弊とショックから少年は息絶えるが、彼の心臓の音が止まる瞬間、レヴィはその生暖かい感触に思わず下着を濡らして酷く興奮していた。
死後、弔いの一言もなく白い養生シートが真っ赤になるまで体にナイフで線を入れては切り取り、体の形や内部を見て批評していく。
「ここ、ひょろひょろでダメだね。体も小さいし、全然ダメ。ダメったらダメ。ダメすぎ」
レヴィがこの少年を攫った理由は一つだけで、単に「玩具を持って親を探していたから」だ。
たったそれだけだが、レヴィの中では幸せな家族という概念が至極気に食わず、衝動的に屋敷に連れ込んで楽器代わりにしていた。
自分より圧倒的に強く大きな男に支配されたい、性的な目で見られたい……そして、自分よりも弱い全てを好きなように嬲り、痛めつけ、苦しめたい……
「ふふっ、ふふふっ、あははははっ、……はははははっ」
レヴィは血と骨と臓物と肉を分け、焼いて灰を庭に埋める為薬品を使って溶かしたり腐敗を遅らせたりなど徹底的に処理していく。
スラム街や外で爆破解体した時は処理など知ったこっちゃないが、自宅は処理しなきゃいけないというのが面倒でレヴィはあまり選んでこなかった。
腐敗ガスが発生するのも嫌だし、異臭が漂うのも嫌だし、どう解体しようが温かみの失った死体など醜くてたまらなかったから。
食肉になる為の処理された動物の死体も醜くて嫌だから、当然カニバリズムをする気にもなれなかった。
とにかく、レヴィは人を殺すことは大好きだが死ぬまでの過程とその直後にしか興味は無いのだ。強姦しようだとか、死体を何らかの見える形で保存しようという気は一切ない。
ヒトの人生が崩壊する瞬間を見たいだけ。
レヴィの行いを人が見れば、一体人類のことをなんだと思っているんだ、と叱責するのであろう。
しかしレヴィは思う。
人如きという存在は、自分に虐げられて当然である。
己の目的のために他者の不幸を気にしないのではなく、他者を不幸に突き落とすために己は力を持っているのだ。
「さて、燃やしに行こっかな」
養生に包んだ死体ごと窓の外から庭の方へ逃げるとなんてことない顔で部屋の外に出ていった。
_______
レヴィはフードを被り、44番艦の屋敷から酷く平常な軽い足取りで128番艦へ向かう。
キャンプシップに乗る中でもカバンの中に収まる破損したアイゼンハートや資料には目もくれず、ずっと端末で携帯ゲームをしていた。
128番艦。ジグの工房へ進む道もレヴィは愉快そうで、フードを被っていた事から周囲からは誰も彼女がルビィの妹だとは思わなかった。
レヴィは至極楽しそうに寂れた市街地を進んでいき、明るい笑顔で扉の前に立つと鏡を見て表情を変える。
(こんな……自責って感じのカオ?)
レヴィは少し鬱屈とした、緊張した面立ちに変わり、カバンを持つ手を僅かに震わせ恐る恐るノックで扉を叩いた。
「……あの」
「少し待っとれ……」
中からは嗄れたキャストの声が響き、レヴィは一歩後ろに引いて待つ。
扉が開くと、そこには黒と赤を貴重にした大きな男性のキャストがいた。
彼は創世器を修繕できる凄腕の武器職人、刀匠ジグ。
アークスの中で唯一レヴィのアイゼンハートを治すことが出来、そして彼女の狂人そのものなアイデアを形に出来る天才だ。
「あっ、こ、こんにちは。わたしその、シルンの知り合いで来た……」
「シルンの親戚の子、じゃな?わしじゃないと直せないような武器が壊れたと……どれ、見せてみるといい」
「はっはい!ありがとうございます!」
レヴィはとっつきやすいような弱者を演じながら、ジグに導かれて工房の中へ入る。
その中は全体的に少し汚れており、お世辞にも整然とはしていないものの生活感で済む程度の乱雑さだ。
工房らしく武器のホログラムや内部構造?の画像があり、透明な修理ポッドの中には創世器である閻斧ラビュリスが入っていた。
「わっ、すご、……すごっ、すごい……めっちゃすごい……!」
初めて目の前で見る他の創世器はレヴィも思わず素に戻るほどの凄さで、ラビュリスは破損している状態でありながらもレヴィの好奇心を擽った。
「それは六芒均衡の二、マリアが持つ閻斧ラビュリスじゃ。マリアはよく創世器を壊すからのう……ここに持ち込まれるのも何度目やら」
「へぇ……そうなんだ……、ですね」
レヴィは工房の何も載っていないテーブルに鞄を置くと、中から武器を取り出す。
鍔を境に持ち手と刃が割れて分離した、光を失った真っ黒い剣。
これが、変化のない本来の弾刃アイゼンハートの姿だ。
「それは……」
その剣は華もない無骨なガラクタのようだが、刀匠ジグの目にはすぐに分かった。
表面に刻まれた複雑な模様、鈍く光を反射する未知の素材。剣のようだが物理的な何かとは程遠い、見る者の視界によって変化する虹のような儚さ。
「驚いた……これは正しく創世器じゃ。所有者は……お主か?」
レヴィはこくりと頷いた後、話を続けた。
「拾った物なんです。でも、その……知り合いのおじさんに見せたら、絶対誰にも持ってることを言っちゃダメだよ、って言われて」
【敗者】の事をおじさん呼ばわりしている所は置いといて、流れるように嘘をついていく。
「確かに、創世器であればわししか修繕出来るものはおらんじゃろう。しかし、これは全く見た事がない……」
「あの、……これ、直すのに役立つと思って」
レヴィはアイゼンハートを持ち悩ましく見つめるジグに、データを差し出した。
中身はアイゼンハートの詳細な情報だ。
名前や先天能力、特性、ポテンシャルの高さにそれなりに嘘をついてはいるが壊れた時の状況など。
これはレヴィのような見てくれ子供の女が作るものではなく、老獪な研究者が作るような洗練された非常にわかりやすいデータだ。
「弾刃、アイゼンハート……アークスのデータベースと照合してみると……フム、研究所からは創世器として保護していたものの起動不可とされており、その後25年ほど前の研究所の襲撃によって盗難され行方不明と……その後、お主が捨てられていたアイゼンハートを拾ったということじゃな」
「うん」
レヴィは背後からひょっこりと顔を出し、ジグの大きな手に触れるとアイゼンハートを撫でる。
(キャストって……おっきくていいな……指もゴツゴツしてて……あっでも、【敗者】の方が触り心地いいし減点……)
「お代はシルンからチップ付きで払われておる。お主から受け取る物は他にない」
もちろん、シルンが良心で払ったわけなどない。レヴィ側の持っていた金をシルンに好きなだけ渡して、シルン経由でジグに払っただけだ。
限界まで出したので追加は無いが同時におつりも不要、余りはシルンへのチップでという契約の筈だが、守銭奴のシルンがジグにチップまで渡せるほど余っていたとは……
その上でシルンがかなり喜んでいたということは、レヴィが相場をわかっておらず払いすぎたのかジグが安く請け負いすぎているだけなのだろう。
仲介手数料込でも9800万メセタは多すぎた……
「あの……」
とはいえ、レヴィの目的はこれだけでは無い。
話を終わらせ、レヴィを帰そうとするジグに彼女は寄って体を付け、静かに見上げた。
「治すところ……見てても、いいですか」
「見たい、じゃと?」
「あっ、えっと……わたしの武器だから、どうやって治っていくのか気になって……みたいな」
ジグは少し悩んだ後、「茶は出せないが」と付けた上でレヴィの提案を呑んだ。
「ありがとう……ございます!」
「しかし……一つだけ懸念点がある」
「……?」
「創世器の修繕はとても技術がいるものでのう。先にラビュリスの修繕が終わらないとお主の武器には取り掛かれないのじゃ」
「ふぅん……」
とりあえず今日は追い出そうというわけか。
レヴィはジグの心の底が分かっていながらも、分かっていないふりをしてニッコリと笑った。
「じゃあ、その武器の修繕も見てみたいです!わたしすっごく興味あります!」
「そこまでとは……武器職人志望なのか?」
「あっまあ、武器制作にも興味あります!それと、なんというか……わたしはドジで、いっつも危なっかしいって怒られるので……またアイゼンハートを壊してジグさんに頼るのも申し訳ないので、最終的には自分で直せるようになれたらな、と」
ジグはその提案もまた酷く悩んでいたが、彼がアイゼンハートにかなり興味を示していてご機嫌だったのか、もしかしたら弟子を取ってみたい気分になったのか、最終的には頷いた。
「ちょっと待っとれ。椅子を取ってくる。お主は随分小さいな……子供用の椅子なんかあったかのう」
レヴィは別に大人用の椅子でも全然良かったのだが、ジグは善人なのかわざわざレヴィの身長に合うような古ぼけた椅子を取ってきて、ホコリを払ったあとその上にクッションを載せた。
「ほら」
「あ、ありがとうございます」
レヴィは普段アークスから与えられる差別虐待仕草とはかけ離れた良心的な対応を目の当たりにし、少し困惑しながらなんとか受け入れた。
だが、同時に憎悪感情が湧くのは止められないもので。
(わたしがあの女の妹じゃなければ他のアークスからもこうやって対応されたのに……)
レヴィは椅子に座るとようやくフードを脱ぎ、明らかに高級そうなアクセサリーを身に纏った、稲穂のような薄い金色の髪と韓紅の瞳を晒すとジグの体が止まる。
似ている。
雰囲気はかけ離れているし、溢れ出るカリスマもなくむしろ怪しげで泡沫の花弁のようだが、ジグが随分仲良くしてクラフトまで教えているあのアークス……ルビィと何故か何かが似ている。
「?」
「ああいや、……なんでもない。しかし、わしは修繕の依頼を請け負っただけであって弟子を取りに来た訳じゃないぞ。上手く教えたり、育てるような事は出来ん」
「大丈夫。見て飲み込むよ」
二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。
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続編として作品を分ける
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分けないで一つの作品でまとめる