レヴィは胸元に付けたアンティークなブローチからこの工房のデータを吸い取っていく。
監視カメラで撮影しながら情報の解析、発刊されている武器職人のノウハウのデータと照合してジグの手つきや使用しているプログラムの差異を出し、彼の技術を盗んでいく。
もちろん、繊細な手の技術は一般人には再現不可能だし、完全に教えて貰わず独学と盗んだデータだけで完成させるというのは困難だ。
しかし、検証の前に初心者がやるような簡単な武器制作くらいは出来てないと話にならないだろう。
「……」
ジグはレヴィの異様な雰囲気に少し呑まれそうになった。
緊張しているという訳でもないし、見られているからといって手つきがブレる訳でもない。
しかし、レヴィは修繕ポッドに入ったラビュリスと修繕用のアーム、ジグの目線や操縦する手を観察するようにずっと見つめている。
「お主は……アークスじゃろう?」
「うん、そうだけど」
ジグの言葉に、レヴィは集中しているのか淡々と返す。
「普段から、創世器を使って任務をしておったのか?」
「ううん。資料にも書いたけど、知り合いのおじさんに言われてそれ使う時はソロで出てたの。集団で任務に行く時は隠してたよ。とにかく特別で、とにかく凄くて、研究所の人とか、強くなりたい泥棒みたいなアークスに命を狙われるかもしれないからって」
「ふむ……」
ジグもクラリッサを盗難されたのだ。泥棒のようなアークスにはかなり質感高く心当たりがあった。
「それにしても、修繕に興味があるとは随分珍しいアークスじゃ。アークスは戦うのが仕事で、裏方にはあまり興味が無いという者も多くてな。もし退役する程の魅力があったとしても、こんな武器職人などではなくメディカルセンターの看護官になる者が多い」
「ふぅん……わたしはこっちの方が面白いと思うけど」
レヴィは端末を取り出して見たものをしきりにメモし、たまに己の手を動かしてジグの動きを真似してみたりもする。
そして周りを見渡すと、並ぶ工具や武器のサンプルも凝視していた。
数時間経ち夜になってもレヴィは飲まず食わずで見続けて、ジグが休憩を取るタイミングでようやくレヴィは椅子から降りて軽く伸びをしていた。
「……まさか、終わるまで居座るつもりか?」
「え?当たり前でしょ」
「情熱はいいんじゃが保護者が……いや、確か成人しておったか。どちらにせよ、とにかく時間のかかる作業じゃ。長居しても冗長に感じるだけじゃろう」
「え?つまんなくないよ、だってこの辺とか直ってるじゃん」
レヴィはふわりと足を動かし、ロボットアームを操縦すると指を向けるようにラビュリスの一部を指した。
「……その距離から見てどこが直っているのか分かったのか?」
「うん」
その部分は遠くから肉眼で見てもとてもわかるものでは無い。レヴィはかなり視力がいい方だが、それは当然のことだ。
素人である彼女がわかる訳などなく、ブローチからのハッキング・解析データを彼女が端末で確認して理解していただけだが、ジグはそんなレヴィの様子に天性の才能があるように感じた。
レヴィのオドオドしているように見えたかと思えばフレンドリーだったり、職人気質だったりと一貫しない様子は摩訶不思議だが、そんな天然の異常さすらもはや逸脱したセンスのように感じられた。
「ふーーむ……」
ジグは彼女の持ってきたカバンに目を向けると、中にまだ白い紙が入っている事に気づく。
アイゼンハートのデータはデジタルで渡されたはずだが、わざわざ紙に書いて持ち運ぶような何かがあるのだろうか、と少し疑問に思った。
「おっと、触ったら大変。戻しておかないと」
レヴィはすぐにロボットアームを離し、元に戻すとニコニコと笑いながらジグに振り返った。
「休憩中だし、折角なら他の創世器のデータも……」
その瞬間、レヴィの端末から着信音が鳴り始める。
「……もー!アイツわざわざ着信音消してるのになんでいじってくる訳?」
レヴィは着信音を鳴らないように設定しているが、【敗者】がハッキングしてそれを解除したのか、デフォルトの着信音と共に端末が震えるとレヴィは膨れた顔で音声通話の画面を押し、通信を繋げる。
『遅い』
「遅くないしもう電話してこないで。じゃあ切る」
『そう簡単に切らせると思ったか?』
キャストのような……いや、キャストではない。しかしエフェクトの掛かった脳髄まで響くような声がレヴィの端末から漏れる。
レヴィは電話が好きではないのでさっさと切ろうとしたが、通話終了ボタンが消されていた。
「〜〜ッ!!このバカ!これじゃわたしから電話切れないでしょ?!」
『当たり前だ。何件送ろうが帰る直前までメッセージも返さない。電話すれば数時間経っても出ない。
ようやく繋がったと思えば電話してくるなと言って返事も待たずに即終了させるような特大の阿呆に何故僕が付き合ってやらなければならないんだ?』
レヴィは電話が嫌いだ。
着信音の規則的なリズムを最低5回は無視する。
電話は退屈だし、端末同士のフォトンを介して濁った音質は不愉快だし、電話の向こうで相手がどんな表情をして、どんな動作をして、どんなことを考えているのか見えないのが嫌だったから。
メッセージは既読を付けると返信を強要されているようで嫌だし、どんなにつまらない言葉やくだらない世間話でも気分でもないのに無理やり返事をしなければいけないのが面倒だからしたくないだけだ。
連絡は自分の入れたいタイミングでしか入れたくないがレヴィのスタンス。
「さっさと帰ってこいって話でしょ?寝るまでには帰ってくるから平気だってば!」
『寝る前とは具体的に何時だ?』
「もー!別に明日予定入れてるわけじゃないでしょ?あんただって忙しいんだから気にしなくていーのいーの!」
通話の向こうの【敗者】は明らかに苛立った唸り声を上げてからブツブツと呟く。
ただ怒鳴っているという訳ではなく寂寥感のある低い声で、ぶっきらぼうに告げていた。
『貴様が居ないと布団が冷たい』
「あ、秋だし涼しくなってきたからね。ヒーターでも入れたら?」
『貴様が居ないと寝室が暗いだろう。浴室には湯も入っていないし、それに……』
「電気付ければいいし、風呂なんか好きに入っていいし……あ、風呂に香水入れたら?わたし使ってるやつドレッサーの所に置いてるから。癒されるでしょ」
『なら貴様が帰ってくればいいだけの話だろうが!』
「はぁ?」
レヴィは【敗者】の言う事を微塵も聞くつもりがなくイヤホンを繋ぐとクッションの下に端末を入れ、上から座り込んで完全に封殺してしまう。
「ほら、急かされているじゃろう。今日は帰れ」
「明日来てすっごく変わってたら勿体ないじゃん……やだよ」
「しかし、兄弟か同棲相手かは知らないが随分甘えておったじゃろう?」
「甘え……?」
レヴィは首を傾げ、クッションの下にある端末をぼんやりと見つめる。
「直接的には言っていなかったが発言は全て一貫しておった。お主に会いたい、寂しいから早く帰ってこい。ずっとそう繰り返しているんじゃ」
(【敗者】が……わたしに甘えてる……?)
ジグの言っていることが正しいかどうかは分からないが、真偽関係なく【敗者】が甘えている、という言葉を聞くとレヴィは胸の底から熱くこみ上げるものがあった。
「う、……ううう……へへ……」
レヴィは顔を赤くしてへたり込み、指輪のついたネックレスを揺らしながら頭をフリフリと動かす。
「ほら、お主の荷物じゃ」
ジグはレヴィの鞄を取り、彼女に差し出す。
レヴィは【敗者】への愛おしさでいっぱいで、震えた手で鞄を取ると中にイヤホンごと端末を投げ込み中も閉じずにふらふらと立ち上がる。
「へへ、あっ、じゃあまた明日来るから……ぎゃっ!……えへへ……」
足元がおぼつかず、思わず床に足をひっかけて転ぶとまた鞄を掴んでフードを被り、早足で工房から出ていく。
ジグは駆けていく足の速さに彼女がアークスであることを思い出したが、足元を見ると紙が何枚か落ちていた。
「全く……忘れ物といってもあの速さじゃわしでは追いつかん。まあ、明日も来ると言っていたから……」
ジグは拾って紙を見ると、そこには……
「傘?いやっ、……これは……!?」
そこには数個のイラストと共に、文字が書かれていた。
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対人殺傷特化マルチウェポン(仮)
ブラックローズ
・傘は盾/閉じたら杖/石突きに銃口を作り弾も発射できる
+傘を鞘にして抜いたら剣が出てくるとイイかも!
・アイゼンハートみたいに変形したら剣無くす代わりに折りたたみ傘でハンマーとか出来るかも?(剣の方が絶対いいので多分採用しない!ただ折りたたみ傘だと小型になるのでそのメリットは良。小型化難しそうだけど素材の使い回しも出来るし、今後の為にアイデアは残すカモ)
・傘鞘内にプログラムを搭載し、エネルギー素材で出来た傘骨を消費することで防御力と引き換えに強大な力を引き出し応用にも優れ、場のコントロールを常に得られる。
(ついでに普通に傘としても使いたいので、傘部分の素材はかなり悩みどころ!フォトンだと使えなくなるからどうしよう?開閉時に柔らかくなって、傘として開いたら固くなるみたいな感じがいいのに…)
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――素早く書いたような少し雑で丸い文字と、デジタルのフォントそのままと言っても差し支えないとても達筆な文字が並んでいる。
「これが、武器だというのか……!アークスの過去クラスの中に該当するものは無い、非認可のワンオフ武器……!じゃあ、これは?!」
ジグがもう一枚紙を見てみると、そこにはアイゼンハートのメリットやデメリットが書かれた文字の後に、改良した武器を、とも書かれていた。アイゼンハートのマイナーチェンジのようなデザインで、同じ無限の武器変化を搭載したライデンシャフト。なるべく転換能力も、とも付け足されている。
ジグは紙を持つ手が震えた。
他の紙は武器の図案ではなく今日のメモや非常にデフォルメされた誰かの落書きだったが、そこにあるのは間違いなく彼女と協力している誰かが考えた武器だ。
「あぁ、たまらん……たまらん!わしは見たい、……これが形になったところを!」
二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。
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続編として作品を分ける
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分けないで一つの作品でまとめる