「ジグさん、来ました」
レヴィはノックをし、そう声を掛けると瞬間扉がこじあけられ、ジグが彼女に息荒く迫ってきた。
「おおっ!!待ってたぞ!!」
「お、……おはよう……ございます?」
ジグの様子にレヴィは困惑していたものの、彼が手に見覚えのある紙を持っていることに気づくと心の中で「あちゃー」と声を出した。
「これは間違いなくお主のものじゃな?!お主の設計した……新たな武器と!」
「え、……えぇ、まあ、……子供だましな物ですが」
「子供だましとは何たるや!この採算度外視した発想や能力……実現すれば、これは創世器になりうるものなのだぞ!特にこの……こっちの方じゃ!!」
刀匠ジグの目は誤魔化せないようで、二つの武器のうち圧倒的に非現実的な発想の傘の方を指した。
「ブラックローズ……見ただけで完成系のフォルムが想像できた。この内部構造はとても難解で、搭載するべきプログラムや素材の選定には非常に苦労しそうじゃが、これは妄想ではなく現実的なアイデアであろう!」
「え、……ほ、ほんとにいける?」
レヴィは【敗者】からブラックローズのアイデアに関してはこれくらいならぎりぎりいけそうだ、とは言われつつも、この天才【敗者】が作れそうなだけかもしれないと自信は半分半分だった。
しかしジグからも言われてはさすがに揺らぐ。
「確かに、これは一般の企業や凡人に出来るものでは到底ない。しかし、お主の前に立つのは武器職人の中で最も創世器をよく知る者じゃ。その実力はアークス上層部からもお墨付き。この武器は不可能と言って捨てるには勿体ない!」
「なら良かった……」
「それで、もっと話を聞かせてくれんか?ライデンシャフトの方はアイゼンハートの中身を見てみないと判断出来ない所じゃが、ブラックローズの方はとにかく全ての要望を叶えようとこだわるほど時間を湯水のように溶かす事になる。それゆえ、擦り合わせは早くしておいた方がいい」
レヴィが工房の中に再び入ると、修理ポッドの中からラビュリスが消えていることに気づく。
まさか昨日のあの後に全て修繕したのではないか……
「ラビュリスならもう修繕完了しておるぞ。今朝ショップエリアまで行ってマリアに引き渡してきた所なんじゃ。そして、修繕が完了したあとのわしは……」
ジグは近くにあった端末を開くと、キーボードに何かを打ち込む。
暫くすると棒のような何かが投影され、そこに少しづつディテールが増えていった。
「あっ、……こ、……これ!そう!これ!」
そこに出来たのは、丁度レヴィが想定していたブラックローズと同じくらいのサイズと見た目の武器だ。
「もちろん能力の類は無い。現状普通の傘の布地や傘骨としてシミュレーションしておるが、全体的なフォルムはこういう感じになると想定した」
「うんうん、これこれっ、こういうのこういうの!」
黒い布地にピンクのラインが入った傘。
ジグはスイッチを押して傘を開き、閉じると、銃口のようにくり抜かれた石突きを向けて撃つふりをし、そして傘を掴みながらゆっくりと中の刀身を抜いていく。
「わぁああああ〜〜っ!!すごいすごいっ!すごい!これだよこれ!ジグさんこれ!」
レヴィはあまりの喜びに辺りを駆け回り、ぴょんぴょんと跳ね、あちらこちらから見渡して恍惚に浸っていた。
「ほら、……お主の武器になる物じゃ。一つ確かめてみるといい」
レヴィは喜んで受け取ろうとしたが、ジグが持つそれを手で掴んだ瞬間、触れたそばから消えていく。
「あっ……」
ガラクタの偽物があっという間に消えてなくなると、レヴィはピタリと動きを止め、顔を青くした。
「……?何故じゃ、サンプルを構成するフォトンが霧散して、溶けていくとは……」
「わ、わたし、その……あの……」
レヴィはジグに一度もパーソナルデータを見せていなかった。なんなら名前すら名乗っていなかった。
だから、ジグは目の前にいる女がアークスの一部で有名なルビィの妹であることを知らなかった。
「案ずることは無い。これはひとつのバグかもしれない。もう一度出せば……」
「出しても、意味が無いの」
「意味が無い、とは……?」
レヴィは己の端末を握り締めながら、ゆっくりと呟いた。
「わたしの名前は、レヴィ。フォトン吸収・放出障害を持つ……反フォトン体質の人間なの」
「フォトン吸収障害……フォトンアレルギーの事か」
レヴィはこくりと頷いてから、ブラックローズとライデンシャフトのアイデア画を握りしめて鞄に入れ、振り返った。
こうなったらもう武器を教えて貰うというのは無理だ。アイゼンハートの修繕をきちんとしてくれることだけ祈って、あとは手に入れた情報をもとに工業地区に忍び込んでひたすら企業の技術などを盗んで作るしかない。
最悪、寝ずに器の制作も手伝ったら、少しは【敗者】も武器制作を手伝ってくれるかもしれな……
「待て。何処に行くつもりじゃ」
「ごめんなさい。でも、チップも払ったんだから修理だけはちゃんとやって」
「……?」
「わたしのようなアークスが、武器を作るなんて馬鹿らしいに決まってる。フォトンもろくに扱えないのに、こんな型にもはまらないような、子供のバカげた妄想みたいな武器を作るなんて、何もかもが非現実的で、悪魔に取り憑かれたような発想で……」
「逆じゃ」
ジグは静かに声を上げ、工房の扉の鍵を閉めた。
「人はより大きな力に圧倒された時こそ、武器を求めるんじゃ。もしアークスがフォトナーのようによりフォトンの扱いに優れていたのだとしたら、今よりも武器の種類は少なく、素手でテクニックを扱う者の方が多かったであろう。何故なら武器は荷物であり、極論素手の力が強ければ、邪魔にしかならないからじゃ」
「……」
「それでも、フォトナーの時代から兵器は作られてきた。それは、フォトナーの力でも敵わない存在がいるからなのだ。より強い力を持つ同族や、より大きく、より強大なダーカー等に面した時、人々は力を得る為に、武器を作った」
ジグも60年以上は生きたかなりの年配だ。
クラスの細分化や統合の事情、兵器開発の変化など、アークスに関することは武器職人という視点からよく見てきた。
そして、アルマのような身体が弱い代わりにフォトンを異様な程上手に使える存在や、レヴィのようなフォトンが全く使えない特異体質も、ジグにとっては考慮すべき要素のひとつにしかならない。
「フォトンが使えないから武器が必要ないのではない。フォトンが使えないからこそ、お主にはより適した武器が必要なのじゃ。それこそお主が持ち込んだアイゼンハートや、お主が今から作ろうとしている武器が、それに値する」
「……この体は、ただの呪い……」
「呪いであっても、お主はアイゼンハートを扱えるだけの素質はある。創世器は主を選ぶ武器なのだ。そしてお主はそれに選ばれた。今までの研究で、アイゼンハートはお主以外にどんな適性者も見つかっていない。
つまり、呪いの有無と素質の有無は関係ないという事になるとは思わんか?」
「……!!」
レヴィは、思わずジグに向かって振り返った。
彼の雰囲気からはレヴィへの嘲笑も恐怖もなく、ただ真摯に彼女のことを見つめていた。
「わたし、……その」
「フォトンによるサンプルが出来ないなら、ここにある廃材で軽く作ってみるというのはどうじゃ。傘を一つ用意すれば、後はどうにかなりそうであろう」
「……一つだけ、やり方がある」
レヴィは先程までのジグの言葉も忘れていなかった。
廃材を使ってサンプルを作るなんて、そんな時間は無駄だ。
レヴィが握っても消えないようになる確実な方法を彼女は知っている。
しかし、それはあまりにも許されないことなのだ。
「どういうやり方だと?」
「それをやったら、サンプルを作る無駄な時間は無くなる。でもその代わりに、あんたはわたしとひとつ約束をしなくちゃならない」
これは元々レヴィが今日やる予定だったことのひとつだ。
運が悪ければレヴィにとってこの行動は意味が無いため、まずひとつ確認を入れなくてはならない。
「約束……?」
「まず、最初に。あんたが朝マリアに会った時、マリアにアイゼンハートや武器のアイデアに関する話はした?」
「あぁ、……虚空機関の研究所から紛失していた創世器を保護している、という話は軽くしておる。それに関してはマリアではなくレギアスに話を通して、彼が来ることになっておるが……」
「つまり、アイゼンハートの話しかしていないという事でいい?」
ジグは不思議そうに頷く。
レヴィはゆっくりと深呼吸をして、どうしたらブラックローズを後ろめたい物品として扱われないようにするか、ゆっくり考えていた。
「アイゼンハートの話は……仕方ないや。元々アークスのものだから。なんだけども、ブラックローズは元々任務に使う予定のない趣味で考えてたの」
レヴィはかなり真剣な眼差しで、流れるように嘘をつく。
「ライデンシャフトはともかくブラックローズはアークス非認可であり、任務には持ち出すことの出来ない武器。殺傷能力のある武器を、アークス非認可の状況で作ると……」
「最悪、没収じゃな。特にブラックローズは対人殺傷能力に特化しておる。これは……」
「色々考えた末って感じ……この携帯サイズだと大型のエネミーに対処は出来ないし、エネミー向けにしちゃうと非認可なのが悔しくなっちゃうじゃん?自分の発想そのまんまに表現したら、対人戦特化にしかならなくて」
ジグはそれを聞いて納得すると、うんうんと考え込んでから声を出した。
「つまり、言いたいことは……」
「ブラックローズの存在はわたしとジグさんの秘密であって欲しいの。六芒均衡とか、他のアークスとか、とにかく誰にも言わないで欲しい。
この人なら処分しないだろうって信頼してるような相手にも絶対言わないで。良心で、口を滑らせてしまうかもしれないから……」
「うむ……」
「でも、ジグさんには完成したら見せる。だから、没収されるくらいなら、こっそり作った方が……」
「確かにそうじゃ。武器職人としては使っているところも見たいところじゃが、完全に使える仕様のインテリアというのもロマンがあっていいのう」
「うん、市街地強襲とかの時に使えるかもしれないしね」
「おお!それはアークスのためにもなるのう!最大限のパフォーマンスを出せるようにしなくては!」
「もちろん、完成させないといけないから武器としての耐久性を損なわせることは無いよ」
「それで……」
今日本来する予定だった情報統制の話は終わったので、ここからは話を戻して先程のサンプルについてだ。
二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。
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続編として作品を分ける
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分けないで一つの作品でまとめる