「わたしがフォトンで出来たものを扱えるようになる方法はひとつあるの。でも、それにちょっと良くないものを使わなきゃいけなくて……」
「よくないもの?良い。この際全て晒してしまえ。これから作るのは、わしとお主の秘蔵の宝物じゃ」
「ジグさん……」
レヴィは善人やアークスが大嫌いだったが、ジグはどうも嫌いになれそうにはなかった。どれくらいかと言うと、アークスの中で命乞いをするなら最後の方に回してやってもいいくらい。
彼は善の人間だと言うのに随分柔軟で、そして誇り高き武器職人として真っ直ぐに手を差し伸べてくる。
卑劣な悪であるレヴィは自分の悪意を隠すとっつきやすい嘘にいたく感謝した。
これがなければ、ジグのような相手とは上手く関われなかっただろうから。
「虚空機関の解体に合わせて、アークスでは研究部設立のため資材の回収が始まってる。その中で、虚空機関の資材を盗んでブラックマーケットに流す輩が一定数いるの。そこにあるものを使えば、わたしはあのサンプルを簡単に扱えるようになる」
「ブラックマーケット……」
「うん、お金を流すのは良くない事なんだけど、あまりにも秩序を乱すようなものは買い取って処分したり、盗品は元の持ち主に返してあげてるんだ。もちろん出品者は特定して通報してる」
「成程……一介のアークスで完全に取り締まることは難しいからのう。わしも、もし友人の大切な物が盗まれたとしたらブラックマーケットを使ってでも返したい、と思ってしまうものじゃ」
もちろん1から10まで全部嘘だ。
しかしレヴィの真剣な目付きと堂々とした喋り方はとても嘘には見えず、長年扱ってきた詭弁で嘘はかなり上手になった。
それに、真実だけ話していてもレヴィの思考は元々支離滅裂である。
「うん。ジグさんにやってほしいことは、もう一回サンプルを作り出してもらって、それをあっちの奥の部屋に置いてほしいの。目の前でやると危ないから」
「うむ、どういうものかの予測は出来ないが了解した。しかし、くれぐれも気をつけるんじゃぞ」
「ありがとう、ジグさん」
レヴィはそう言って柔和に微笑むと、相変わらず既に数件送られている【敗者】のメッセージのやり取りを開いて、文章を送った。
二分後に電話がしたい、と一言。
一瞬で既読が付き、レヴィは少し驚いたが動揺を隠して端末を使い素早く128番艦のシステムへのハッキングをしていると、ジグがブラックローズのサンプルを持って工房の奥の部屋にある倉庫へ進んでいく。
「人が目の前にいるとちょっと危ない感じってだけだから、物に対しての危険は無いと思うよ」
「ふむ……」
ジグが倉庫の一角にサンプルを置いたと同時に128番艦のダーカー因子観測装置へのハッキングが完了し、一日ほど反応がゼロになる。
「じゃあちょっと待っててね、ジグさん」
レヴィは癖のように手を出し、ジグの前に立つ。
「……?」
「あれ?ほら、腰曲げて」
ジグはレヴィの言われるがままに腰を曲げ、彼女に顔を近づけると、レヴィは慣れたようにジグの硬い頭を撫で回した。
「なぬっ……」
「すぐに戻ってくるね」
レヴィは何食わぬ顔で手を離すと、そのままからからと力を入れないまま振って倉庫の中に入っていく。
「頭に触れられたことなど何年ぶりじゃ……?」
ジグは自分の頭を照れ臭そうに撫でながら、倉庫の扉の方を眺めた。
_______
レヴィは倉庫の中に入ると、すぐに電話が掛かってきた。
『どうしたレヴィ。貴様の方から電話を掛けたいなどどういう風の吹き回しだ?』
「ん、頼み事があるの」
レヴィはジグに聞こえないよう小声でコソコソと話した。
「あんたの手下を端末を参考にしてわたしの座標のところに出してくれない?命令とか、出来る感じがいいな。あと直ぐに帰せるやつ……」
『眷属を利用したいのか?』
「うん、ちょっとフォトンで出来たものがあって、触りたいから……刀匠の方が触るものじゃないから、リスクに関しては大丈夫」
『しかし、侵食の方は……いや、いざという時は浄化腺があるか。ただし、みっともない姿は晒さないように』
「大丈夫だよ……仮に強制排出が機能するとしたら見えないところだから」
その言葉を聞くと、レヴィは通話を繋ぎながら待つ。
次の瞬間すぐ近くで空間侵食が発生し、有翼型ダーカーが出現した。
「あれ、……あんた、前の……」
そのダーカーは、前に風呂でレヴィを治療していたダーカーと同じ種類の物だった。
ダーカーはレヴィを見つめると翼をパタパタと開いて挨拶し、そして座り込む。
『そいつは貴様の命令を待っている』
「あ、そう?じゃあ急がないと」
レヴィはダーカーを見てからブラックローズのサンプルを指差す。
「あれ、侵食出来る?あのフォトンの奴だけ。分かるよね」
ダーカーは頷くと、直ぐに近くに寄って体を震わせた。
黒い布地は血のように赤黒く染まり、ピンクのラインはダーカーコアのように変質する。
ブラックローズの石突きまで染まりきるとダーカーは離れ、レヴィの方に近づいてきた。
「ありがとう……!えらいね、よしよし、いいこだね!」
レヴィはダーカーを抱きしめ、頭を抱えてわしゃわしゃと撫で回す。ダーカーは気持ちよさそうに目を細め、羽を閉じ、彼女の施しを受け入れていたが通話の向こうの【敗者】は不機嫌になっていた。
『僕の奉仕でなぜそいつを褒める?』
「え、だってあんたがした事じゃないし」
『僕が用意しなければ何も出来ない癖に何を宣っている!!』
「はぁ……あんたも偉いよ。ありがとう」
『足りない』
「えぇ……?じゃあ、帰ったらぎゅーってして、ちゅーってしてあげるから……それでいい?」
『頭はどうした』
「じゃあ、頭もなでなでする……?」
『ふん、よく分かってるじゃないか』
それだけ言うと【敗者】はレヴィが抱き抱えていた眷属を消した。
レヴィは侵食されたブラックローズに近づいた後、少し深呼吸をしてから意を決して握り締める。
ブラックローズの硬い感触が手にあたり、レヴィはそれを確かに手に取って眺めた。
「うん、いい感じ!ありがとうね」
『あぁ、……しかしこれからもっと忙しくなるようじゃないか』
「うん?そうだね、じゃあ切る」
レヴィは言い終わる前に通話を切った。恐らく【敗者】の方では切るの切の所で切られていることだろう。
レヴィは朝ぶりだが【敗者】の声が聞けたことは嬉しく、心を踊らせながら、ブラックローズのサンプルを握ってジグの元へ戻った。
「おお、戻った……か……」
ジグはレヴィの手に確かに握られていた物を見て驚いた。それは完全にダーカー因子によって侵食されていたからだ。
「これは、侵食弾を使ったの。ダーカー因子や浄化に関する研究においてよく使われるやつで、ダーカー因子や死んだダーカーの残滓を利用してダーカーを捕獲することなく低コストに侵食された状態を再現出来る」
「あぁ、侵食弾か……驚いた。背筋が震えるような感覚があって、ダーカーが現れたのかと思ったぞ」
「ふふ、そりゃね」
レヴィは一応侵食弾を使った経験はあるが、今現在侵食弾は所持していない。あれもこれも嘘まみれだ。
「ジグさんも分かるとおりこれはサンプル。刃も着いてないし傘も布で、弾も出ない。だから完全に物として暴走することは無いし、使い終わったらコアの所を破壊すれば平気だから」
「分かった。まあ、わしが暇な時間に作ったサンプルじゃ。軽い気持ちで扱って、サイズが気に食わないようであれば修正するだけくらいで行こうではないか」
「うん」
レヴィはブラックローズを持つと、ジグから離れて振るい始める。
重さも予想通り、長さも予想通り。
杖術のように扱い、足をタンタンと踊らせて淑やかに華やかにバリツを舞い、鮮やかに傘を開いて防御をし、閉じると剣を抜いて片手で振るいながら鞘となった傘の外側でガードする。
「おお……」
そしてまた納刀すると今度は両手で握り、杖術のように扱い出した。
「いいね、これ……我ながらよく馴染む」
レヴィは背も低く扱う武器に関してはかなり難しい所だが、このブラックローズは非常に良く馴染んでいる。
軽く舞踏する姿を見てもこれより馴染む武器は他に存在しないだろうと確信出来るほどレヴィにとってよく似合っており、初心者ながらよく扱えていた。
「サイズの調整は概ね必要なさそうじゃな」
ジグの声にレヴィは止まると、ブラックローズを下げてブツブツと呟き始める。
「いや、杖術用に長さの可変が出来たらいいな……もっと長いリーチで扱いたいけど、これ以上変形機構を入れられるかどうか……」
「そこまでの計算量となると、制作はかなり難しい事になりそうじゃ。かなり玄人の武器職人でも数年は掛けそうだが……」
「うーん、ちょっと考える事にする。まあ、大体はこのサイズ感でいいや」
レヴィは納得して、侵食されたブラックローズのコアを懐から取り出したナイフで割ると、ダーカー因子は霧散してレヴィの中に吸収され、跡形もなく消えていく。
その様子を見てジグは手を叩き、意気揚々に立ち上がった。
「それじゃあわしはアイゼンハートの修繕に取り掛かるとして、お主はまず工房にある素材のサンプルを見て考えるところからじゃな。後は、わしが業者に連絡を取って新しく入荷した素材のサンプルも取り寄せておく。ブラックローズに求める物は多いから、色々試してみて、慎重に考えるんじゃ」
「うん、わかった」
「それと、その他の部分に関してはわしも力を貸せそうじゃが、傘骨の機構に関しては素材もプログラムも到底思いつかん。それ程の芸当は創世器を作ったフォトナーくらいじゃないと多分無理じゃ。そこに関しては、シルンに頼めば虚空機関の創世器に関する資料を持ってきてくれるかもしれん」
「まあね。こんなの考えるやつフォトナーくらいしかいないよ」
何せ傘骨の機構について案を出したのは【敗者】だし、創世器に関する資料を持っているのも【敗者】だ。
そこに関しては本当に【敗者】に聞くしか択がないだろう。
しかし解決があまりにも早いとレヴィのバックにいる人間を怪しまれる可能性があるため、先に【敗者】に答えを聞くだけ聞いておいて、あとは迷ったふりで引っ張ってから試作品制作のギリギリで思いついたことにするのが無難か。
「よし、なんとかなりそう……上手くいきそう。これできっと……わたしはもっと強くなれる」
二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。
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続編として作品を分ける
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分けないで一つの作品でまとめる