日が暮れ、21時半頃、レヴィはようやくジグの工房から離れて帰路を歩んでいた。
今日の一日はジグが所持していた武器の素材のサンプルをひたすら見て、手で触ったり持ち上げたり、また特性を比較したリストをコピーし、そこから少しずつ厳選して候補を出していくという事を行っていた。
ジグは新たな素材のサンプルを取り寄せる他、エネミーの素材を収集してきてそこからヒントを探すのもいいかもしれない、とレヴィに告げた。
特異的な能力を持つ武器を作るには、似た性質を持つエネミーを利用するのが最も手っ取り早いからだ。そのエネミーの皮膚や骨は進化の過程で能力を扱うために最適化されており、耐久性や相性について悩む必要はほぼない。
また、最悪虱潰しにはなるが配合して合金を作るのも良い。工業地区ではボールミルなどの大型機械もあるし、大手企業では独自に配合演算ソフトを用いてシミュレーションし、大幅な工程や時間の削減を計っているのだそう。
とはいえ、サイズの可変まで考えてしまうと素材選定の聖域だった刃や傘の内部金属でさえ分からなくなる。
傘骨は埋め込んだ術式に耐えることが出来、尚且つ運用コストの面も考え、フォトンを使えないレヴィが使うためになんのエネルギーを利用するべきか考えなければならない。
素材だけで言えば現状耐久性に優れ状態変化しそれを固定することが出来る傘地が一番の壁だ。
「あとは……」
レヴィはいつの間にか44番艦のロビーまで来ており、自分が脳水泳に浸っている間で随分長い時間が経過していたことに気づく。
今の状況では周りの陰口も全く聞こえないほどだが。
レヴィに接近してくる競歩ほど早い足音が聞こえたかと思えば、彼女の視界を一気に暖かく包んで暗くする。
「わっ?!」
「レヴィ……」
その声ですぐに分かった。【敗者】だ。
「ちょっと……、こんな所でしなくたって……」
「貴様が一日でどれほど僕からの連絡を無視したのか分かっているのか?メッセージ302件着信26件だ」
「えっ……」
レヴィは昼頃から端末を見ておらず、今更見直そうと懐に手をかけたが、【敗者】にそれを拒否されてすぐにきつくきつく抱きしめられた。
「るぅ、……んんん……、くるしい……」
「どの口が苦しいなどと言う……」
「物理的に苦しいんだってば……!」
【敗者】は余程寂しかったようで、レヴィの事を暫く抱きしめ、離したかと思えばすぐに彼女とキスをする。
フードを被っているとはいえ公衆の場だ。
「ちょっ!やめ!……せめて、……赤部屋とか、んっ!ちょっと……!」
紅茶二リットルで一日中働いており、限界まで空腹を極めていたレヴィのお腹がくうくうと鳴り出したところで、【敗者】のキスはようやく止まるもののレヴィは恥ずかしくて顔を真っ赤に染めた。
「その……」
「貴様は言われなければ食事もとれないようだな」
「明日はパンとか……持ってく」
「あの刀匠は休憩していないのか?」
「いや、別作業だったから知らないや。話しかけたら答えてはくれるけど」
それから、二人は帰路を歩む中でゆっくりと会話を始めた。
うっかりミスでジグに武器の設計図を晒してしまったこと、刀匠ジグは自分の正体を知っても武器を教えてくれると差別しなかったこと、武器を作る中でジグでもレヴィでも分からないことがあるので【敗者】の助力が必要な事……
【敗者】は静かに彼女の話を聞きながら屋敷に着くと、食事を取ろうとリビングへ誘う。
「僕が提言した部分は実験動物風情には難しすぎたか。貴様はやはり発想に伴うだけの実力がないようだな」
「イチイチ分かりきったことを……」
「そのために貴様の部屋を用意してやったというのに、工房に入り浸っていては意味が無い。リモートワークでいいんじゃないか」
「いいわけないでしょ?!プログラム作るんじゃなくて武器作るんだから!いま倉庫にあるものとか借りてやってるワケ!」
それでも【敗者】は不貞腐れたままで、不機嫌が挙動に現れたのかいつもとは違いレヴィの食事だけ用意すると頬杖を突いてただ眺め続けた。
「そもそもあんたが半年とか意味わからない期限つけなければこんなに急がなくて良かったんだし。あと八個も新種の武器考えないといけないなんて無理に決まってるでしょうが……」
「武器の形に囚われる必要は無い。結果的にそれがアークスの認知の外にあり、殺傷に繋がればいいだけだ」
「だったらあんたが少しは案出してよ……」
リゾットを食べながらレヴィはまだ武器のことで頭がいっぱいになっていたが、【敗者】の頭の中ではどうやって目の前のテレポーターも使えない女と遠距離にいながら交流を取れるか考えていた。
「通話を繋いで会話をする、というのは不可能なのか?」
「ふざけるのもいい加減にして。刀匠にあんたの存在とあんたとの会話が筒抜けになるってことがどれほどのリスクか分からないわけないでしょ」
「分かった」
【敗者】はレヴィの通帳を開くと残高を確かめ、その後あれやこれやとなにかのデータを開いている。
「分かったって……何が?」
「ようは、あの刀匠の至近距離にいながらも、僕の姿や声が届かなければいいんだろう?」
「まあ、そういうことにはなるけど、そういうのって無理だから」
「刀匠ジグの工房の横は現在人が住んでいるようだが、先の市街地強襲にて甚大な被害を受け、工房を閉鎖しているようだな」
「え?……何を……」
「君にいい物をプレゼントしよう、という訳だよ、レヴィ」
【敗者】はわざとらしく優しげな口調で微笑むが、レヴィは彼の言葉の裏を察知し顔を青くした。
「隣を買い占めてそこでやれって言うワケ?!」
「悪くない取引だろう。そもそも、食事を忘れるのだって刀匠のパーソナルスペースに入れないことで料理も何も出来ないから、という部分もあるじゃないか。武器を多く作るのであればスペースも必要になるし、工房内の修理ポッドは一台のみでスペースの大半を圧迫している。
これでは術式の搭載段階においてポッドを設置出来なくなり、ジグの修理を邪魔して修理中のポッドを奪うか、もしくは部屋を窮屈にしてもポッドをひとつ増やさなければならない。
どちらにせよ、新たにスペースを求めるしかなくなる。これは最初から読めていた解という事なんだ」
「た、たしかに……」
レヴィは【敗者】の言葉に流されて納得し、ゆっくりと肯定していくモードに変化していく。
「上階に居住空間も確保出来るようになっているが、ここは倉庫でいいだろう。ベッドなど置いたらここに二度と帰ってこなくなるからな。使ってる機材に関しては刀匠の方から聞いて取り寄せてもらうといい。金に苦労していないという言葉を足せば、新型の取り寄せなども検討するだろう」
「あの刀匠がわたしに奉仕するって、随分自信満々なんだね」
「当然だろう?貴様は僕の物だからな」
【敗者】は連絡もまともに取らない彼女と逢い引きをして己の寂しさを埋めるための算段が着くと機嫌を取り戻した。
そもそも寂しさなど感じている方がおかしいのだが、相手の状況が分からず己の感情にも振り回され、作業に集中出来なくなるくらいなら五分の抱擁とそのための金は些細なものである。
【敗者】は現状レヴィの器を作るのに全てを注いでおり、同時に旧マザーシップの痕跡から一時的に己が全知存在と融合した時の情報や残留した知識の欠片のデータをかき集め、再び己が全知存在になる為の道を進んでいる。
それに対し、【敗者】自身がレヴィに対してまるで人のバカげた恋愛のような感情を覚えるのは愚かであると分かってはいたが、それでも本能が沸き立ち、彼女に対して強い愛執のようなものを覚えるとすぐに体がそれを中心にしてしまう。
それを切り離す為にレヴィと距離をとるのはいいのかもしれないと一瞬頭によぎった事があるのだが、結果はこれだ。
本当にレヴィへの感情を切り離したいのなら、その思考かレヴィそのものを失うしかないだろう。
「本当に……我ながら、この本能は厄介で仕方ない。癌のような物だ」
「……?」
「あぁ、いや……単なる思考の整理だ」
二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。
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続編として作品を分ける
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分けないで一つの作品でまとめる