※この作品はR-18です。

MIDNIGHT   作:Libby博士

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 それから一週間、ジグの横の工房が買い取られて引越されるまでレヴィは朝起きてからジグの工房に入り浸り、休憩なく夜まで武器の素材の選定や武器内に取り込むプログラムの構築を行い、夜には道中のキャンプシップで栄養を取ってから任務に行って、朝方に帰ってきて二時間程度睡眠する……の非常に多忙でやりすぎな程武器制作の生活に没頭していた。
 お陰で【敗者】と会うのは朝のおはようと次の日の朝方のおかえりのほんの少しだけで、スキンシップもセックスも休みもなく、一日ジグと過ごす時間の方が多いという有様となり、【敗者】は遂にレヴィに対し三日の強制休暇令を下すのだった――


_______

「はぁ……あの刀匠、工房に鍵を掛けて締め出すなんて酷くない?」

 レヴィは休みの日だと言うのに何故か朝っぱらから作業着を着て出かけていき、しばらくするとへたれた様子で帰ってきてソファの上でだらけていた。

「当然だろう、休みの日にまで押しかけるな」

「むぅ……」

 前日、レヴィは【敗者】から強制休暇令などという意味不明な命令を受けたものの全く納得できず、ジグに一言もその事を話さなかったのだ。
 そうすれば【敗者】から逃げ回っているだけで今日も作業が出来ると信じていたのだが、何故か今日は工房の扉も窓も完全に封鎖されており、善人のフリをしているゆえハッキングを仕掛ける訳にもいかないためレヴィは全く入ることが出来なかったのだ。

 それもそのはずだ。
 【敗者】はレヴィが工房から出て帰る道中、レヴィの同居人と言う名の匿名でジグにメールを送っていた。
 その内容は、毎日彼女はジグの元で作業を終えて工房から出たあとも任務に向かい、朝方4時から5時に帰ってきている、という密告だ。
それに付け足して三日間ほど強制的な休暇を入れるため、ジグには己の作業関係なく工房を閉じて絶対にレヴィを中に入れないようにして欲しいとお願いしていた。
 もちろんジグもレヴィの事を天才武器制作サイボーグなどとは微塵も思っていないため、その匿名のメールに二つ返事で了解した。

 何せレヴィは毎日休憩もろくに取っておらず、体の疲れで頻繁に薬を飲んだり目薬を差していた所はジグも見ていたからだ。
 しかしジグが何を言ってもレヴィは聞かず、キリのいいところで辞めるなどと言って結果的に工房から出るその瞬間まで手を止めなかった。
 だからジグにとってそのメールは願ったり叶ったりであり、ついでに彼はレヴィの同居人が彼女の言う「武器に詳しく資料作りが異様なほど正確な謎の親戚のおじさん」なのかもしれないと予測を立てそれについても送っていた。
 レヴィは交友関係が狭く世間話の類はカジノが弱いらしいシルンかお喋りな謎の同居人の二択だったのでそれしか有り得ないとジグは考えたのだが、当然【敗者】は返信しなかった。

「いいから命令した通り休め。休暇の重要性は何度も説いたはずなんだが?」

「でも……」

「でもでもと本当に飽きないな貴様は」

 【敗者】はレヴィの作業着を脱がし、クマの動物パジャマを着せるとベッドの方へ連れていく。

「起きたばっかなのにまた寝るワケ……?」

「取り返す必要があるだろう?今日はとにかく寝るんだ。明日は共に外でやりたい事があるからな」

「ふぅん……やりたい事ね……」

 レヴィがベッドの中に入るとすぐさま【敗者】が添い寝し、彼女の手を握って柔らかく包み込む。

 【敗者】の手は大きくゴツゴツとしていて、それでいて暖かい。
触れ合っているだけで心から暖かくなり、レヴィは自然に張り詰めていた緊張が解けて彼に体を委ねていた。

「レヴィ……」

 【敗者】がレヴィの頭を覆い、ゆっくりと抱きしめ、足を絡めて体を寄せる。

 レヴィはその甘い感覚が幸せでたまらなかった。
【敗者】が自分の名前を呼ぶと、心がぎゅうと締め付けられて、同時に凄く暖かくなる。
【敗者】の匂いを嗅ぐと、すごく落ち着く。
自分を見つめる【敗者】のその眼差しは、愛おしくてたまらなくて……

「【敗者】……」

 レヴィは分かっている。自分は【敗者】の事を仲間やバディととして見れるほど厳格ではない。
 【敗者】のことが好きだ。恋愛的に好きだ。【敗者】に恋している。【敗者】と一緒にいると落ち着くのに刺激的で、燃え上がるのに不愉快ではなくて、どこまでも想いが溢れ出して止まらないから、仕事に没頭してその意志を昇華していた。

 でも、休みと言われてこうやって抱きしめられたら、また愛おしさが膨らんで止まらない。

「【敗者】ね、……わたし、貴方と居れてよかったって思うの」

「そうか……」

「わたしはまだ、【敗者】のこと全然知らない。あなたが今何してるのか、今何を考えてるのか、どうして貴方まで休んでわたしと一緒に居るのか、全く分からない」

「……」

「でも、わたし【敗者】のこと全然知らないし分からないけど、一緒には居たい……」

 【敗者】は彼女の金色の髪をすくい、撫でて、愛おしそうに触れ回る。

「居たいなら、居ればいいじゃないか」

「うん、居たいよ、居たいけど……でも、わたしは貴方の役にもっと立ちたい……」

 ふんわりと部屋の中を甘い煙が囲む。
ベッドの傍で焚かれたアロマは少しずつ二人を包み、触れ合う体は絡み合ってくっついて、離れなくなる。

「レヴィ……」

 どれほど甘く絡みついて、どれほど優しい時間を過ごしたところで、自分が【敗者】にとっての知識を上回ることなどないなんて分かりきっている。
 それでも、ただ傍に居たい。
【敗者】の隣に立って、【敗者】と一緒に寝て、【敗者】の仲間と言われるのは自分でありたい。

「【敗者】は、もし宇宙が滅びるとしたら、その時はどうする?」

「いつかに限らず、それまでに望みを叶える必要があるな。滅亡とは、この宇宙全ての知識と歴史の損失を意味する」

「ふふ、そうだね……」

 レヴィは先程までは眠気などなかったのに、不思議と意識が朦朧として眠くなってきた。
睡眠不足なのは事実だし、暖かい布団にいれば眠くなるのも当然か……

「あのね、わたしはね、【敗者】と一緒にいたいの……何もできなくていいから、滅びて、消えてなくなるまで、ずっと【敗者】と居たい……」

「……貴様の願いは、最も強いアークスになることだろう?」

「うん、そうだよ……でも、それよりももっと、【敗者】と一緒にいたいの、もっともっと、【敗者】と一緒に、【敗者】の傍で死にたい……」

 レヴィは段々脱力し、眠気も限界になる。
 【敗者】は彼女の手を握るだけで、うとうとと眠そうな彼女の顔をじっと見つめていた。

「どうしてそこまでして貴様は僕に執着する……?」

 僕はダークファルスなのに、という【敗者】の言葉は喉の手前で抑え込まれ、声には出なかった。
 レヴィからのわかりやすい依存と執着を気持ち悪いとも不愉快だとも思えない自分の心が嫌だった。他のどのフォトナーや研究者やアークスにもそう思えたのに、レヴィだけはそう思えなかった。

「だってわたし、【敗者】が……」

 レヴィは言葉もふにゃふにゃで、もう寝る寸前だ。

「す……」

 彼女は己の発言すら言いきれず眠りにつくと、【敗者】はその後しばらくレヴィを抱きしめて温もりを味わってから、ゆっくりと離れる。
優しくて、甘くて、切ない。

 それは深淵とも思える知識の果てとは真逆の、未知の安息のように感じられた……




24話(1)

 

 次の日。

 

「んんぅうう……?」

 

 レヴィは目を擦りながら開くと、珈琲の香りと聞き慣れた食器の擦れ合う音がして起き上がる。

 

「おはよう、レヴィ」

 

「おはよ……」

 

 寝間着のままふらふらと歩き、ぬるま湯で顔を洗って歯を磨き、リビングに向かっていく。

 寝室と間仕切りで更衣室があり、その反対側には居間がある。そしてその隣には【敗者】がいつも作業をしている執務室があり、少し離れると【敗者】やレヴィの自室、そしてトイレや浴室といった部屋が現れる。

 普段だらだら休んでいるだけならこれ以上の部屋を使わないため、一階にある応接間やホールなどはもちろん、リビングで済んでしまうので大食堂で食事したことすら一度もない。この屋敷のほとんどは使用されていない部屋か倉庫ばかりだ。

 やはりいずれは引っ越して必要のない部屋は無くしたいところだが、それは同時にどんどん増えていく服を仕舞う大きな倉庫も必要になるわけだ……

 

「んー……」

 

 黒のテーブルクロスの上に歪みのない白い皿が載せられる。

 ヨーグルトとパンケーキ、沢山の果物に紅茶と比較的シンプルなモーニングだが、毎日2800メセタ払ってデリバリーで頼んだミルクとアサイーボウル片手に家から飛び出し、キャンプシップで頬張っていた数日と比較すれば涙が出るほど豪華だ。

 

「へへ、おいしい……」

 

 【敗者】は「この僕に無理やり食事を作らせ僕にまで食べさせているんだから美味しいのは当然だろう」と嫌味を言いたい気持ちを抑えながら、レヴィと同じものを食べる。

 久しぶりと言うほど長い期間でもないが、この日常の交友は森の中の仄暗い屋敷を明るく照らしており、目が合えば自然に笑みがこぼれた。

 

「今日は、どこに行きたいの?」

 

「惑星ウォパルだ」

 

「えっ!……大丈夫……?」

 

「リスクはあるがただの休暇だ。元々あの惑星はフォトナー時代、オラクル船団有数のリゾート地として栄えていた」

 

「それは……そうだけど……」

 

「もう時期が過ぎたからアークスが遊びに来ることは無いだろうが……そこが良い機会なんじゃないか?時期が過ぎてもウォパルの海は暖かい。湿臭い工房生活の休暇はひとつ、海水浴場で戯れるというのはどうだろうか」

 

「アークスの探索範囲外の外なら……あそこにいるダーカーは【敗者】の眷属だし、いけるかも?」

 

「あぁ。ジャミングをすれば変装すら必要ない程だ」

 

「水着……、あれ?【敗者】のは?」

 

「僕には水着など必要ない。泳ぐつもりなどない」

 

「えぇー……一緒に海入りたかったのに……」

 

「必要なら戦闘装束と同じようにフォトンを紡ぎ服を纏えばいいだけだ」

 

「じゃあ水着着てくれるってことね?うんうん、じゃあいこ!」

 

 食事を終えたあと身なりを整え揃っていつものフードを被った不審者モードになり、二人はあれやこれやとまた長い会話を繰り広げながら外に出る。

 いい加減このゴーストタウンにも双方慣れたものだ。

 

「武器だけど、今傘骨として候補に上がってる素材は四つくらい。プログラムした術式をちゃんと刻み込んで、それを繰り返し発動できるかどうかとか、耐久テストもしなくちゃいけないから機材の取り寄せはまだ必要かな」

 

「……そうか」

 

「後は、模造創世器に関して言うと……」

 

「今その話はいい」

 

「ん?」

 

「外で話すと聞かれるリスクがあるだろう?」

 

「あっ、まあそうだね」

 

 【敗者】はそんな言葉で流れるようにレヴィから責務を遠ざけ、この休暇を十全に楽しませようとしている。忙しいのも時間が無いのもわかっているから、せめて休暇くらいまともにやらないと脆弱な人は精神が壊れてしまうだろう。

 それは【敗者】の長年の経験で良く知っている事だ。

 

「ウォパルって、任務でしか行ったことないなぁ。リリーパやナベリウスはキャンプとかした事あるし、アムドゥスキアはあんまり近寄らないから任務すらあまり行かないし……」

 

「龍族が嫌いなのか?」

 

「というより、わたしはフォトンがないから溶岩に当たると普通に死んじゃうし火山行けないの。浮遊大陸もテレポーター使えないから狭い範囲でしか探索出来ないし、かといって龍祭壇の任務も別に特別金になる訳でもないし……他と比べれば圧倒的に少ない、って感じだね」

 

 宇宙空間と同じことだ。アークスは生物が生息出来る環境がない惑星でもフォトンのお陰で容易に立ち入れるようになっているが、レヴィからすればそうでは無い。

 【敗者】はそれを聞くと納得し、同時に彼女がもしダーカーになったとしたら、なんて事も考えてしまう。

レヴィがダーカー因子で出来たダーカーになれば、そのようなことに苦労することは無い。

【敗者】がレヴィを喰らってひとつになれば、フォトンがないと苦しむことは永劫に無くなる。だが……

 

「でも、龍族とかそんな興味無いしいい。今は【敗者】とウォパルに行けるから、ウォパルが一番行きたい場所」

 

「そうか、……ふふ」

 

 レヴィの甘美な匂いと雰囲気。【敗者】を見つめるその蜜のような視線は蠱惑的で、隣に居て手の先を繋げているその些細な挙動だけで【敗者】は奥底から何かを掴まれる感覚に襲われた。

 

「低俗な娯楽程度を楽しむという感覚は長らく忘れていたが……こういう戯れも、暇潰し程度には良さそうだ」

 

 クエストカウンターで海岸探索を受け、キャンプシップに乗っても二人は互いを見つめ続ける。

二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。

  • 続編として作品を分ける
  • 分けないで一つの作品でまとめる
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