そこはホテルの一室で、ベッドの上には花が置かれテーブルにはお菓子置き場があったが、中は空だ。
「そういえば、どんな水着なんだろう……」
十中八九【敗者】が買ったものだが、中身はまだ見ていない。
中から空気を入れて使う大きなボート型の浮き輪や水鉄砲が出てくる中、奥底に水着が入り込んでいた。
「わ……」
可愛さとセクシーを併せ持つ、フリルや紐の着いたビキニだ。
布面積はそこまで多くないものの、下はスカートなのでエッチすぎない。
パッと見てもどこもおかしくない、普通の可愛らしい水着だ。
「よし、早く着替えよっと」
着替えることを前提で来たため、今日の服はかなり脱ぎ着しやすい。
ぱっぱとブラウスやスカートを脱いで全裸になり、水着を着用すると全身鏡の前に立ってくるくると回った。
「わぁ……わたしがこんな水着着るなんて……」
レヴィは水着無経験という訳では無いが、泳ぎの練習の為に競泳用の水着を着たくらいだった。
それでもあの時は身分をわざわざ隠してプールに来たのに、練習もままならず男からセクハラされて面倒だったという記憶が蘇る。
その後は夜中に侵入して練習することで事なきを得たのだったか。
そういえばあの水着は、まだ倉庫に残っていたはず。
せっかくなら思い出として【敗者】に見せてみようと端末を操作して倉庫から取り出し、手に持つといそいそと外に出た。
「あ、【敗者】!水着着てくれたの?!」
レヴィは【敗者】の麗しい筋肉が露になるところを期待したのだが、実際の彼はレギンスやラッシュガードといった肌露出がほぼ無いスイムウェアを着ていた。
しかしかっこいい。
黒と赤の水着は彼の紅い瞳と調和し、独特のグラデーションがかかった髪色が綺麗に映えている。
レヴィをジロジロ見つめながらニヤつく姿も実に良かった。
「あ、【敗者】の選んだ水着どう?サイズはあってたけど……似合ってる?」
「悪くないんじゃないか」
「もー!可愛いって言わなきゃメッでしょ?!」
「くくくっ、いつまで無駄な期待をしているんだか……」
彼が目を閉じて楽しそうに笑う姿はレヴィにとって甘美なもので、思わずぼーっと見とれてしまう。
彼のこういう所はきっと、他の人間では見れないのだろう。
その表情はレヴィの独り占め……
「その手に持っているのはなんだ」
「あっ」
【敗者】の声で意識を取り戻すと、レヴィは持ってきた水着に目を向ける。
「これね、昔着てたやつなの。泳ぐ練習もしないとダメだなーって思って、通販で一番安い競泳水着買ってね、それでプールまで泳ぎに行ってたんだ!」
レヴィは肩の部分を掴み、その競泳水着を見せつける。
その瞬間、【敗者】は喉の奥にひゅうと息が通り絶句した。
「昼は人が多いし話しかけられもするから、夜中に入って静かなプールで泳ぐのは楽しかったなぁ……」
「れ、……レヴィ?それは……破れた状態、ではないのか?」
「え?違うよ。これで売ってたし保存もちゃんとしてたってば」
それは確かに競泳水着として売られていたものだ。
しかし白い生地というのに明らかに透けており、胸元や腹、背中はガッツリと空いていて、股はすごい角度のハイレグで着れば尻が丸見えの……
一番安い、エロ目的のコスプレ水着だった。
「……貴様……本当に、プールでそれを着たのか?人がいる場所で……?独りで……?」
「うん、金ないし水着に掛ける意味もないからこれだけ着てたけど?でもさ、ほら、さっきも言った通り昼に行くと話しかけられてめんどくさかったの。男が群がってきてさ、この穴のところに手を入れながらあっちの方に行こうって更衣室とか指さしてさ。わたし泳ぎに来てるのにほんとーに馬鹿だよね」
「馬鹿は貴様だ」
「え?」
そりゃこんなエロい水着きてたらそういう目的だと勘違いされて当然だ。どこからどう見てもエロいし、彼女のぷっくりとしたいやらしい乳首も皮で隠せない大きなクリトリスも、可愛らしい割れ目も丸見えで、その癖こんな幼い顔つきをして平然とした顔で歩いていたのだろう。
こんなムチムチの太い太ももと大きな胸をしたグラマラスな体型の少女が痴女みたいな格好で歩いていたらどんな男だってそうする。
【敗者】は過去に戻って彼女に本気で説教したいなどという思考に頭が埋め尽くされそうになり、落ち着いて深呼吸をすると、レヴィに声をかけた。
「兎に角……見る限り、サイズはそこまで変化ないように見えるが、今でも着れるのか?」
「んー……試してないけど体型の変化ないし着れるんじゃない?あっでも、最近よく食べてるしちょっと太ったかも」
「そうか……なら、後で着て見せてみろ」
「あっ気になったの?いいよ。今着てるみたいな水着も可愛いけど、こっちの方が泳ぎやすいから」
泳ぐために着せるわけがないだろうがと【敗者】の勃起した下半身が唸りを上げながら、彼は顔だけは澄ましてレヴィからエロ水着を取り上げる。
(あぁあ……この水着でセックスしようとしたのだがあれを見たら流石に好奇心が止まらない……この水着でするのは今度に回すしかないようだ……)
レヴィは不思議そうに首を傾げ懐から畳まれた浮き輪を取り出すと、【敗者】はそれを見て思い出しホテルのバックヤードへ入り込んだ。
「どうしたの……?」
「備品に空気入れがあるんだ。浮き輪もそうだがボートは相当大きい物だからな。これをそのまま持っていった方がいい」
【敗者】が持ってきたのはバッテリーで動くコードレスエアーポンプだ。
小型だがかなりパワフルである。
「ねぇねぇ、わたしもそっち覗いてみたい」
レヴィはフォトナー時代のホテルというものに興味を示し、【敗者】の横を通り過ぎてバックヤードに入っていく。
しかしオラクルよりハイテクな機械や失われた技術の結晶みたいなものは特に存在せず、普通のタオルや洗剤、あとは何故か大人の玩具やコンドームまで置いてあったくらいだ。
「あ……めちゃくちゃ普通だった」
「仮にこの中に歴史的な遺物があったとすれば研究所の方でとっくに回収されているに決まってるだろう。ウォパルはかつてのリゾート地でもあるが同時に大規模な虚空機関の実験場だぞ?」
「まあそうなんだけどさ……文明レベルは今の方が下がってるとはいえ数百年前の物品だよ?気になるに決まってんじゃん」
「好奇心を持つのは当然か……、しかし、盗るつもりだというならこれは持っていこうか」
【敗者】は一瞬で手元にティーカップとソーサーを寄せ、それを眺める。
透明な水晶に金と色とりどりの宝石で星座を表現した質のいい食器だ。
彼はカトラリーまで持ってくるとそれをまとめて倉庫に仕舞う。
「随分と美しいだろう」
「まあそうだね……あと、エッチなのもあったよ?いいのあれ?」
「そういう目的の利用も許可されていたからな。そして、見ればわかる通りアダルトグッズに関してはそこまで進化していない」
「まあ、エッチなのに関してはバイブと触手が強すぎちゃったか」
「……使ったことがあるのか?」
「え?数日前とか……」
【敗者】は彼女の過去の性体験を聞くつもりで発したのだが、レヴィはそこまで口を漏らしてから自分の言ったことのミスに気づき、思わず口を塞いで足を閉じる。
「数日前……?」
勿論、その言葉で【敗者】のオーラは変化した。彼は懐疑心で満ち溢れた状態になっている。
「あっ数年前と言い間違えただけ!ほら!こんなところで止まってたら何回夜が来るかわかんないでしょ!行くよっ!」
「事実確認次第では貴様の首が吹き飛ぶと思え」
「うるさいなーオナニーくらい人の自由でしょうが!そんな所までイチイチグチグチ口挟まない!」
レヴィは【敗者】の手首を掴んで全力で引っ張り、ホテルの外へ連れ出す。
青々と広がる海は随分広く、海がすぐ側のそのホテルから出て一分も立たないうちに二人は波打ち際までやってこれた。
「一応言うとそんなプロじゃないとはいえ泳げるんだからね?だから浮き輪は遊ぶ用なの。わかる?あとボートだって乗って遊ぶためなんだから!」
「はいはい」
レヴィはバラバラと遊ぶ為の玩具を落とすとその中にチープな銃のような形をしたパステルカラーの何かが見えて目を向けた。
「それとこの銃みたいなやつは何?」
「水を入れて噴射して遊ぶ玩具だ」
「え……何すんのそれで?」
「撃ち合いでもすればいいんじゃないか?」
「やだよこんな所来てまで訓練なんて!確かにここ数日やってないけどさぁー!」
一応武器制作もあってかなり時間は減っているが、週に二日の半日程度は戦闘訓練をするという約束になっている。ただ今週はレヴィが集中しすぎて忘れた為、その取り返しはつけなければならない。
というか、レヴィは元々この休暇の日に戦闘訓練や任務を行おうとしていたのだ。
【敗者】からしたらそれは休暇にならないため断固拒否したが、しかしレヴィの腕が鈍るというのは避けたかった。
「貴様は毎日毎日忙しいのだから仕方ないだろう」
「あんたは逆に忙しくないワケ?」
「心配せずともいつも研究に没頭している」
とはいえ【敗者】はその分野での経験は多いためレヴィよりは余裕がある。
最初はレヴィに武器制作や戦闘訓練、任務などをさせた上で器作りを手伝おうとさせていたのだが、今の状況ではとても出来ない。
彼女にそれをやらせるとしたら本当に今日のような休暇は二度と訪れず、武器の完成が先か、レヴィが過労死するのが先かという風になるだろう。
「ふふ、でも忙しいのは事実だしゆっくり海に浮かんで流されるってのもいいな」
ボート型の浮き輪に空気を入れ、海に浮かべると、彼女はゆっくりとそれに乗った。
レヴィが乗っても随分余裕があるほど大きく、屋根まで着いていることから浮き輪というよりテントだ。
「【敗者】、こっちこっち!」
【敗者】は無言で浮き輪に乗り、レヴィに体をくっつける。
幾度となく見たウォパルの景色だ。
もはや退屈さすら覚えるほどだが、その退屈さは逆にレヴィの可愛らしさを強調させている。
「わぁあ……、プカプカで……癒される……」
「そうか……」
「このまま寝ちゃいたいくらい……」
ウォパルの時間は狂っており、この惑星と融合した【敗者】の影響で一日は24時間よりもずっと短い。
あっという間に一度目の夜が訪れると、レヴィは海に浮かび流されながら目を閉じた。
惑星と融合とは言っても、ウォパルの全ての感覚が伝わってくるわけじゃない。
海中にあった施設を浮上させたり、自転速度を変えたり、水量や気温などの環境変化で海王種を容易に全滅させられる程度だ。
「寝てアークスの探索範囲内まで行ったらどうするつもりだ?」
「それを止めるのがあんたの仕事でしょ?」
「僕はそんな仕事を請け負ったつもりなどないが」
「むぅ……」
【敗者】は彼女から顔を背けて海を眺めた。
海を見るとシオンを思い出す。
もう二度と届かないし、そのチャンスも得られない。
それでも心も体も小さな細胞の一つまで、【敗者】の全てでシオンを求めていたのだ。
全知存在である、彼女を……
【敗者】が海に向かって手を伸ばそうとした瞬間、後ろからむにゅりと柔らかい感触を伴って彼の体が包まれる。
「ッ!」
「【敗者】?」
【敗者】は振り返ると、レヴィが彼の顔を覗き込んで不思議そうに首を傾げた。
薄い金色の髪に韓紅の瞳。
丸く柔らかい体が密着し、小さな手が【敗者】の首を覆って胸に触れる。
「……」
彼女は惑星でも演算装置でもない、紛れもない少女だ。
しかし、彼女に抱きしめられて包まれると、まるで銀河くらい大きな何かに覆われて、その柔らかい手が己の体の内側に貫通し、心の奥底をまさぐっているように感じるのだ。
「【敗者】は暖かいね……」
深い知識の洞穴の中で闇を求めると全ての知識を網羅する真理が在り、光を求めるとそこにはいつも何故かレヴィがいる。
全知と未知は表裏一体。
その光は人知どころか知を得る機械ですら解せないような神秘がある。
【敗者】は今、神秘に包まれている。
「レヴィ……」
「【敗者】の体はね、おっきくて、固くて、でもふわっと暖かくてね、すごく落ち着く……」
レヴィはそう言うともっと体を絡めて、【敗者】の肩に顔を埋め頬擦りした。
髪が当たりくすぐったかったが、何よりも彼女の甘ったるい声が【敗者】の中に刺さって抜けなかった。
朝日が登り、二人は眩しいほどの光に照らされる。
「レヴィも、とても暖かい」
「そう?」
「あぁ……」
二人はぼーっとしているだけで随分と沖に流されていたが、【敗者】が少し手を動かすと直ぐに奥から波がやって来て、二人を波打ち際へと引き戻していく。
「少しは疲れが取れたか?」
「うん、海ってなんかすごく癒されるね」
「癒しか……」
【敗者】にとって海は癒しではなかった。
静かな海であろうが、その奥には無数の知識が眠る、情報の濁流のように感じた。
だからこそ、二人で海に浮かんで彼が感じていた癒しは、揺らめく感覚でも波の音でもなく、隣にいたレヴィの存在そのものだった。
「帰ろ、ホテル。お腹すいちゃった。お昼何にするの?」
「生の食材を持ってきている。キッチンを借りて、オーブン焼きでも共に作ろうか」
「オーブン焼き!?いいなぁあ〜♡」
「あぁ、それと……前にした話を忘れないように」
「話って?」
「昔の水着、着るんだろう?」
「あっそうそう!着たら今度は泳ごうかなぁ〜」
二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。
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続編として作品を分ける
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分けないで一つの作品でまとめる