夢の先の景色 〜3年後のアイドル達とのハーレムな日常〜 作:tonoka
P「…………。」
ピピピピッ ピピピピッ
朝、小鳥のさえずりと共に早朝にセットされたアラームが鳴る。カーテンから差し込む強い光、今日は清々しい晴れ模様のようだ。爽やかな朝日と共に、素晴らしい一日が……。
P「…………無理。」
ピッ
始まらなかった。終わってしまった。昨日は飲み過ぎたのだ。こうしてPの一日は過ぎて行ったのである。
………
……………
ちゅっ
………
P(あれ、今なんか……。)
「こら、休日とは言えもう9時よ! いい加減に起きなさい!」
P「………う、うーん?」
「…………。」
P「……やっぱ、むり。」
伊織「良いから起きなさいっ! このぐーたら変態暇人間っっ!!」
げしっ!!
P「ぐえっ。」
お腹を思いっきり踏み付けられる。
どうやら一日は終わってくれなかったようだ。休日には睡魔より強力な援軍が居るのである。
いつの間にか開けられたカーテン。窓の外から差し込む強い光に照らされて瞼を開けると、ベッドの上に仁王立ちをしている美少女……18歳になった水瀬伊織の姿を下から覗き込む事になった。どうやら、随分お怒りのご様子だ。
昔よりも少しだけ身長が伸びたとはいえ、周りと比べるとまだまだ小柄な伊織だが、大人になるにつれて元の愛らしい顔立ちの面影を残したまま美人度が増しており、その怒った表情にもどこか迫力がある。本人は亜美真美に身長他発育で負けた事に愚痴ったりしていたが、大人びても愛らしさが勝るだけで、しっかりと色々と成長している彼女だった。
伊織「ほら、ちゃんと朝ごはん食べて、真人間らしい生活しないとダメでしょっ! この伊織ちゃんの目の黒い内は、そんなダラダラ駄目人間コース許さないんだからっ!!」
P「う……うぅっ……だ、だって昨日小鳥さんが飲みに誘って来るから……3件も回るから……っ。」
伊織「こ、小鳥までまだそんな事してるのね……でも関係ないわっ! ほら、タイムリミット……よっ!!」
バサッ!
P「うっ……寒っ。」
伊織「じゃあ起きなさい。今、朝ご飯作ってるから顔洗って……ほらっ! シャンとするっ!!」
P「……はい。」
伊織「それでよし。……にひひっ☆」
Pが伊織に布団を引っ剥がされながら、洗面所へと押し込まれると、程なくして朝食の良い匂いが部屋の中に漂ってくる。
そうしてPの、平日より規則正しい休日は始まるのであった。
………
……………
もぐもぐ ずずずっ……
P「ふうっ、御馳走様。お前ら本当に料理上手くなったよなあ。」
伊織「お粗末様。って……お前『ら』? 誰と比べてんのよ。……まあ私は自炊してるし、こんだけアンタの世話焼いてりゃ料理くらい自然に覚えるわよ。」
塩分の控えられた味噌汁に焼き魚、卵焼き、そして小さいサラダと白米。朝食としてはかなりしっかりとした献立を伊織とテーブルで向かい合って食べる……そんな朝の一幕。伊織の学校が休みの日は定番になっている光景だった。
Pが水瀬プリンセスホテルに住み始めてから約2年。Pの隣の部屋を借りている伊織は見た目も中身もしっかり成長していて、料理一つ取っても成長著しい。
……まあ料理に関してはその理由は明らかで、伊織はこう言ってはいるが、情報はちゃんと入って来ている。
P「自然にー? 聞いたぞー、管理栄養士の先生付けて料理勉強してるって。『プロデューサーがバランス取った食事にしないから、伊織ちゃん心配してますよー。』ってやよいが言ってた。」
伊織「…………。」
げしっ!!
P「痛っ。な、なんで蹴るんだよ。」
伊織「そ、そう言うのは言わなくていいのよっ! ほら、さっさと片付けるわよっ!」
P「えー……ゆっくりしようぜ、まだ午前中じゃないか。」
伊織「朝3時に出社してたやつのセリフとは思えないわね……まあ、あの頃の暮らしに戻って欲しいとは言えないけど。不健康過ぎだし。」
P「俺、良く生きてたよなあ。やっぱああいうのは若くないと無理だわ。二十代前半の特権。」
伊織「止めなさい、おじさん臭い。まだ二十代でしょ、一応。」
P「お前らからしたらオッサンだよ。相手にされてるのが不思議なくらいだ。」
伊織「まあ、周りから見たらそうでしょうね。」
そんな会話をしつつも、伊織は慣れた調子でテキパキと片付けを完了し、洗い物まで済ませ始める。
再び脳裏に囁く真美達の『ヒモデューサー』の声。いやいや、もうそう呼ばれても仕方あるまい。部屋がこんなに片付いているのも、健康的な食生活が送れているのも、無駄遣いしていないのも、大体全部伊織のお蔭である。
勿論他のアイドルや周りの人達のお世話になることもあるのだが、伊織は世話の焼き方が別格だ。休日や平日に関わらず、家事系は溜まる前に大体伊織が完結させてしまうので家事は殆どやっていない。前回自分でやった記憶は2ヶ月以上前と言う有り様だった。
そしてそれを、互いに今更口に出すことも無い。
伊織「そうだ。美希にもたまには学校来るように言ってよ。あの子やれば出来るんだから。もうちょっとで卒業じゃない。」
P「言ったけど『やなのっ!』って言われた。その暇があるならここに来るんだとさ。」
伊織「み、美希のやつ。折角同じ学校入れたのに。まあモデルも忙しいし分かるけどね。」
P「そういう伊織はどうなんだよ、大学行くんだろ?」
伊織「ええ、栄養学の短大だけどね。でも問題無いに決まってるでしょ。こういっちゃなんだけどアイドル時代の忙しさに比べたら何でもないわよ。偶にパパの会社に呼ばれて広告用の仕事手伝ったりしてるけど、それでも暇だからアンタの世話はこれからも焼いてあげる。」
P「やっぱりヒモだな……。」
伊織「……何よ、あんただって仕事してないわけじゃないでしょ。それとも何? パパの仕事手伝う? 歓迎されるわよ、営業でもデスクワークでも管理でも。ウチの経営陣にアンタの名前知らない奴なんていないわよ。ま、お兄様達は焦るかも知れないけどねっ、にひひっ☆」
P「いや、そういう訳じゃないけども。別に今の仕事に満足出来てないわけじゃないし。」
伊織「……あっそ、なら良いじゃない。満足出来なくなってから不満言いなさい。」
P「いおりん辛辣。」
伊織「い、いおりんって……ったく。ほら、洗い物終わったから外出るわよっ! 今日はテニス行くって言ったでしょ?」
P「……腰が。」
伊織「嘘つきなさい元気なくせに。じゃあショッピングにする?」
あ、ヤバイ。伊織の荷物持ちはテニス以上にハードだ。二日酔い後にやるもんじゃない。
P「テ、テニスにしようか。」
伊織「よろしいっ! にひひひっ☆」
…………
……………
P「おえええっ! ぜえっ、ぜぇっ!!」
伊織「な、情けないわね……元とは言え天下の765プロのプロデューサーが。」
P「よ、容赦なく左右に振るからだろうが! ブランクあってもダンスやってた伊織と同じにするなっ!」
水瀬の管理するテニスクラブ私有コートのスコアボードに表示されたゲーム数6-0、Pはそのコート上で座り込みながらグッタリとしていた。ワンサイドゲームにも程がある。いや、勝てないのは分かっていたがそれ以前に体力が持たなかった。デスクワークの体力と運動の体力は別物だ。これでもホテルのプールやジムで適度な運動はしているし、軽い筋トレくらいならやっているのにも関わらず完全に1試合でへとへとだった。容赦が無さすぎる。
伊織「ふふっ。やっぱり、慣れたプールやジムだけじゃダメって事ね。色々やらないと。来週は手始めに……そうね、登山とかから慣らしましょう。」
P「……それ、どの辺りが慣らしてるんだ?」
伊織「場所を選べば平気よ平気。私も慣れてないし、数時間で登って下山出来る簡単な場所を選んで行きましょ。」
P「マジか。」
伊織「……あんたねえ、シナリオ書くんでしょ? なら色んな経験しないとダメじゃない。」
P「そりゃ確かにそうだな……いや、でも体力を使わない経験だって。」
伊織「若い内にしなくてどうすんのよ。お爺ちゃんになってからじゃ出来ないでしょ。」
P「ぐぅっ。」
ぐうの音くらいは出たが、論破されてしまった。今日もまだ終わっていないのに来週は登山に決定らしい。健康的すぎて、伊織のスタイルと脚線美の理由がまざまざと見せつけられている気分だ。しかしまあ、今日すらまだ終わってはいないのである。
伊織「じゃ、ちょっと休んだら次行きましょ。次は半コートの中に打ち込んであげるわ……にひっ。」
P「絶対前後に動かすだろっ!!」
伊織「さて、どうかしらねー♪」
口ではそういってもそれも既に確定事項なのだろう。何といっても目的はPの運動不足解消なのだから。……先程はブランクがあるなどとは言ったが、伊織が今でもダンスの練習などを適度にやっているのは知っているし、基礎体力は男顔負けである。伊織には元々これくらいの運動はわけないのだ。
P「ち、ちなみに休憩時間は……?」
伊織「んー、じゃあ15分くらいかしら。」
P「鬼! 悪魔! 律っちゃん軍曹っ!!」
伊織「律子もアンタにだけは言われたくないと思うわよ。ほら、ちゃんと水分補給もしなさい?」
P「あ、どもども。」
伊織「………あ、ちょっと待って。」
P「ん? なんだ?」
伊織「んー……っと……。」
と、スポーツドリンクを手渡そうとした直前で伊織は辺りをキョロキョロと見回し始めた。伊織は現役引退後2年以上が経つとは言えまだまだ有名人である。だが既に一般人でもあるので、こんなにしっかりした設備の私有コートに来てまで隠し撮りはいないと思うが……。
伊織「…………。」
P「どうした? 知り合いでも居たか?」
伊織「違うわよ。」
パキュ
伊織は辺りを確認し終わってそう言うと、スポーツドリンクの蓋を開けて中身を少し口に含むと、そのままPに近付いた。
そして。
伊織「……んっ♡」
そのまま唇が重なり合う。
ちゅっ……こくっ
P「………。」
伊織「……ちょ、ちょっと頑張ったから……ご褒美よ。」
P「おお……いおりん顔真っ赤。」
伊織「う、うるさいわねっ。ほら、後は自分で飲むのっ!」
P「えー。」
伊織「きゅ、休憩時間減らすわよっ……?」
P「それは勘弁して下さいっ、いおりん閣下!!」
伊織「も、もうっ……休憩したら続きだからねっ!」
伊織はそう言ってスポーツドリンクを押し付けると、自分のしたことが恥ずかしかったのか顔を赤くしたままベンチに自分のタオルを取りにいってしまった。
……そして、その後の試合が先程よりもハードなものになったのは言うまでもないだろう。ま、代償としては安いものである。
…………
……………
『伊織、言っただろう。俺はもうプロデューサーじゃないんだ。』
『………分かってるわよ、そんな事。』
『分かってるわよっ………全部………全部っっ!!』
………
…………
P「ん……。」
伊織「あら、眼が覚めた? もう夜よ?」
P「おー……もうそんな時間か。悪いな、寝入っちまった。」
伊織「ほんとよ。この伊織ちゃんの膝枕なんて、嫉妬の視線が凄かったわよ? ……にひひっ☆」
眠りから目を覚ますと、そこにはこちらを覗き込む伊織の表情と、空に登った月の光が見えた。
ここは、水瀬プリンセスホテルの目の前にある自然公園。テニスを終えた後、早めの夕食をとってから二人で公園でのんびりと……なんて時に自分は寝てしまったのだと思い出す。周囲からの嫉妬の視線はさぞ凄まじかったものだろう。何といっても、隣にいるのは水瀬伊織だ。その名を知らなくても、その姿は今でもトップアイドルである。
伊織「ま、別に無理に起きなくても良いわよ。このままで。」
P「……伊織は優しいなあ。」
伊織「ふふっ、今更気付いたの?」
P「うーん……惚れ直す。」
伊織「っ……ば、ばかっ……。」
自然公園は夜でも沢山の灯りに照らされており、目の前に巨大なホテルがあることもあり伊織の表情はハッキリと見えた。女磨きを怠らない彼女は今でも変わらず可愛らしく、大人になるに連れて美しくなって来ているが、それでも根っこの部分のこういう所が一番魅力的だと思う。
しかしそんなことを思っている間に赤く染まった表情を見られたくないのか、伊織に顔に手を当てるようにして眼を塞がれてしまう。
P「うーん、勿体ない。可愛いのに。」
伊織「もうっ、いっつもからかうんだから。美希や雪歩の時みたいにデレデレしてればいいのよ。」
P「えー……。」
伊織「えー……じゃないのっ。」
まあ、美希と雪歩の時と同じく今も伊織にデレデレはしているとは思うのだが、伊織はからかうと可愛いのでつい言葉が出てしまうのだ。とは言え、それを言ったらまたからかっていると怒られそうなので、少し自重しておく。
伊織「……ふぅっ……。」
P「…………。」
伊織「………ねえ、大丈夫? 無理してない?」
P「ん? 何が?」
伊織「……最近、仕事とか、生活とか……本当に退屈じゃない?」
P「いや全然。寧ろ騒がしすぎるくらいだけど?」
伊織「そう? なら良いんだけど。」
P「………寝てる時、俺なんか言ってたか?」
伊織「ううん。ただちょっと……難しい顔してた。プロデューサーが、まだ765プロのプロデューサーをやってた時の感じ……かしら。」
伊織の表情は見えなかったが……本当に伊織といい美希達といい、この子達は俺の事に敏い。それだけ想われているのだと分かるし、それは嬉しい事だが……美希達はともかく、伊織は心配症だ。
P「さっきちょっと、昔の夢を見てた。辞める時に、伊織が後から着いてきた時の。」
伊織「……そう。」
P「もう2年以上前なんだよなあ。」
伊織「そうね。もう2年経つのね。私達が辞めてから………。」
伊織「私が、プロデューサーを此処に閉じ込めてから。」
P「………。」
閉じ込める。それは伊織にしては随分と直接的で重い言葉だった。だが、俺もそれを敢えて否定しようとは思わない。水瀬プリンセスホテルは商業用のリゾートホテルであり、別に伊織の為に建てられたわけではないが、最上階に住んでいるのはPと伊織の二人だけ。最上階には他にも数部屋はあるが、他の者は基本的に利用出来ない。完全に伊織の身内用になっている階層だ。そんなもの周りから見れば、どう見えるかなんて考えるまでもない。
伊織「どこにも行かせないわよ。私を置いてなんて、絶対。」
P「そういう約束だしな、辞める時の。もう今更、それがなくても此処から引っ越す理由もないけど。快適だし。」
伊織「アンタの夢の先っていうのが、此処から見えなくても?」
P「ああ。何も見付からなかったからって、それを場所や環境のせいにするほど子供じゃないさ。プロデューサーまで辞めたんだ。変化は充分だよ。何も見付からないとしたらそれは俺自身のせいだろ。」
伊織「……安心したわ。もしまた悩んでる様なら次はなんて言ってやろうかと思った。」
P「伊織はきっついからなあ……。皆にも辞める時は色々言われたけど、お前のが一番きつかった。」
伊織「それだけ愛してるって事よ、喜びなさい……にひひっ。」
茶化す様にそう言った伊織は、ようやく眼を塞いでいた手をゆっくりと外してくれた。少しずつ光が入り込み、微笑んでいる伊織の表情が見える。
あの時、伊織と交わした会話は今でも忘れられない。多分一生忘れられないだろう。
P「…………。」
『アンタがいなくなったら、私はこれからどうすればいいのよっ!! 誰とケンカして、誰に怒って、誰を好きになれば良いのっ!? ……私を置いて行かないでっ……行かないでよっ……。』
『辞めるなら辞めればいいじゃないっ。分かってるわよ、このままじゃ私達にこれ以上はないってっ! 心地良過ぎてアイドルの夢の先なんて見られないってっ! 言われなくても分かってるわよっ、知ってたわよっ!!』
『……でも、子供だからって舐めないでっ……私を置いていったら一生……一生泣いてやるからっ!! アイドルも全部辞めてっ、アンタの事も恨まないでっ……迎えに来てくれるって信じ続けてやるからっ!! それまでアンタの事好きなまま、独りになって、自分の殻に閉じこもってやるからっ!! 意地でもっ、どんなに苦しくても不幸になってもっ、夢の先なんて見つけてやらないからっ……だから、それが嫌ならっ。』
『私も一緒に連れてって!!』
伊織「……後悔してる? 私を振り払わなかったこと。」
P「してないよ。」
伊織「私の隣にアンタを閉じ込めてるのに? 我儘言って、アンタの邪魔してるのに?」
P「後悔も邪魔もしてないよ。それにお前、本気だったろ。お前らの本気くらい分かるつもりだ。振り払ってたら俺が後悔してた。」
伊織「……もし振り払われたら、本当にアンタが迎えに来るまで泣いてやるつもりだったわ。学校もやめて、何もしないつもりでいた。アンタが心配で迎えに来ないと居られないくらい、本気で後悔させてやるつもりだった。」
P「伊織があんなに重い事言うなんてなあ……正直足が竦んだよ。意地でも不幸になってやるとか、色々。なんだかんだ伊織は怒りながらも送り出してくれるって勝手に思ってたから。」
伊織「アンタの弱点くらい分かってるわよ。……アンタの……プロデューサーの言う事が正しいのは分かってたわ。私達はトップに居ても停滞してたし、きっと、熱は徐々に失われていた。でも私は、プロデューサーとの事を全部過去にしてまで次を見つけたいなんて思わないのよ。『退屈』って、そんなにいけない事? 私達は『夢』を見続けて、『先』を探し続けなければならないの? 私達の時間は、そんなに簡単なものだったの?」
P「……きっとそれは、人によるんだろうな。」
例えば、高木社長や黒井社長の担当したアイドルが夢の先を見失ってアイドルを続けられなくなったように。日高舞が退屈して辞めてしまったように。俺自身が現状に何か疑問を抱いてしまったように。変化を求める人はいる。停滞を恐れる人はいる。しかし。
伊織「少なくとも私は、あそこで全力で引き留めなきゃ後悔するって思ったわ。」
P「変わりたい人も、そうでない人も居るんだよな。アイドルもプロデューサーも……結局は皆『個人』だ。幸せは人それぞれだよ。俺もようやくそれが分かって来た気がする。アイドルやプロデューサーに幸せがあるんじゃない、『俺達』にあるんだ。」
伊織「……プロデューサー、美希に何か言われた?」
P「まあ、割と色々。自分の育てたアイドルに、色々と思い知らされたのかも知れない。」
伊織「……それ、私がアンタに言わせたかったのに。」
P「伊織にも随分色々言われたけどな。」
伊織「それでもよ。ったく、あの恋愛脳……だから美希は怖いのよ。私が追いすがってなかったら、今頃美希の一人勝ちだったかもね。」
P「…………。」
否定は出来ない。正直今の美希は、一人の女性として魅力的すぎる。アイドルを辞めて、大勢を魅了するアイドルの魅力から、一人を魅了する女性の魅力へと変化し……それが直接向けられていると分かる。何かが少し違っていたら、美希と結婚していた未来は容易に想像がつく。
伊織「……美希か、千早か……それとも雪歩か。まあ、良いけどね。そんなの絶対許さないし。」
伊織「アンタを繋ぎとめた責任、一生私が果たすって決めてるもの。にひひっ☆」
P「うーん、籠の鳥かぁ。」
伊織「男が言うとキモイわねそれ。」
P「酷いな……さっき自分で似た様な事言ってたのに。」
伊織「伊織ちゃんの檻なら歓迎でしょ? 大丈夫よ、私が調教してあげるわっ!!」
P「……調教? 伊織が?」
伊織「………うっ、な、何よっ……。」
P「いや、別に。」
伊織「うぅっ……じゃ、じゃあほら、リードの代わりに手を引かせて上げるわ。」
P「やっぱそれ立場逆じゃね? まあちょっと冷えて来たしな……帰るか。」
伊織「ええ、そうね。……ふふっ。」
伊織は手を差し伸べると、きゅっとそれを握った。立ち上がって伊織と共に、暖かい目の前のホテルへと戻って行く。
伊織「…………。」
………すきよ。ずっと。
P「ああ、俺もだよ。」
伊織「っ……!! ……こ、こういう時は、聞こえないふりしてもいいのよ……ばかっ。」
暖かい手を握りながら……握り返されながら、少しだけ寄り添って歩いた。互いに互いを繋ぎながら。