※この作品はR-18です。

Puberty ~宙(そら)の子供たち~   作:宇藤百足

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◇登場人物一覧◇

岡本 舞子(おかもとまいこ) 15歳 ♀ 高校一年生
田舎の素朴な芋ガールで気さくなお人よし。
密かに性への興味や憧れは人一倍強い。本編の主人公。

高田 敦(たかたあつし) 15歳 ♂ 高校一年生
ケンカがめっぽう強い。
不良たちの間では『狂犬』と恐れられる危険な少年。

氷川 沙弥(ひかわさや) 16歳 ♀ 高校一年生
良くも悪くも雪女を思わせる美少女。
舞子とは小学校時代からの親友。

叶浦 はじめ(かのうらはじめ) 16歳 ♀ 高校一年生
関西弁を話す、村の外の出身者。
気さくさでは舞子の上を行き、男女関わらず友達が多い。

長森 棗(ながもりなつめ) 16歳 ♀ 高校一年生
いつも悪い仲間を引き連れている不良少女。
沙弥とタメを張る美少女でもある。

郷田 太一郎(ごうだたいちろう) 42歳 ♂ 教師
リーゼントの素敵な体育教員。
昔は不良だったらしいが、今は頼れるおじさん。

花見 葉子(はなみようこ) 26歳 ♀ 教師
巨乳の美人教師で舞子たちの担任。
郷田との仲を噂されている。
 


□ Prologue 『思春期』 □

夏の夜空。

 

豊かな緑が作り出す新鮮な空気と、

昼間の日差しが未だ冷めやらぬ熱気が満点の星空を一層雄大に見せる。

 

瑞々しいまでに強く息づく田畑を湛えるこの山村は、

現代日本に残された数少ない自然の宝庫だ。

 

この山神村(さんじんむら)は、

今も昔も変わらず静かにここにあり続けている。

 

 

「んん~……綺麗に晴れたね~。」

 

「ふふ、きっと舞子の日頃の行いがいいからよ。」

 

「えぇ~?

 何よ、沙弥は日頃の行いよくないわけ?」

 

「ん~、私?

 私はほら、罪な女だから。」

 

「あはははは!

 な~に言ってんだか。」

 

 

山神村を見下ろす小高い山の頂に腰を下ろした二人の少女の姿がある。

 

この村が象徴するような純朴なお下げの少女と、

良くも悪くも美しい雪女を思わせるような長髪の少女。

 

この二人。

 

岡本舞子(おかもとまいこ)と氷川沙弥(ひかわさや)は、

この村唯一の高校に通う一年生のクラスメイトだ。

 

小学校からの仲のこの二人は

昔から時々こうやってここに星を見に来ていた。

 

 

「ねぇ、沙弥。」

 

「……」

 

「……沙弥?」

 

「……、あ?

 ああ……何?」

 

「入り口で見た大学生の人たち、来ないね?

 途中で引き返したのかな?」

 

 

ここは文字通り人里離れた場所だ。

 

村の中央から南西にかけて家屋が点々とある辺りから、

北東に向かうと広大な水田地帯に出る。

 

その水田地帯を村の外周沿いに囲む用水路の奥に、

山中へと続くか細い道が伸びており、それをいくらか登ると

山神村全体を一望できる小高い山の頂――開けた場所に出る。

 

ここは知るものの少ない、いや、それ以上に

訪れるもののいない二人のお気に入りの場所なのだ。

 

だが今日は山道の入り口辺りで、

男一人女二人の大学生くらいの三人組を見かけていた。

 

あの山道は一本道であり、ここ以外のどこにも繋がっていないはず。

 

舞子は当然その三人もここを知っており、

自分たちのあとからやってくるものだと思っていたのだが、

いつまで経っても来る気配はなかった。

 

 

「ああ、そうなんじゃない?」

 

 

そこに何テンポか遅れた返事。

 

どこか気の抜けたような沙弥の態度に、

舞子はオーバーに頬を膨らませる。

 

 

「ちょっと、沙弥!

 聞いてるの~!?」

 

「え、ああ……

 うん、聞いてるわよ?」

 

 

しかし、沙弥は相変わらずの生返事だ。

 

 

「……」

 

 

舞子はしばし次の言葉を出せなかった。

 

普段の沙弥はこんなではない。

 

持ち前の雰囲気の違いはあれど、

ツーといえば即座にカーと返ってくる仲だったのだ。

 

沙弥の様子がおかしくなり始めたのは、

ここ二~三ヶ月くらいからだ。

 

どうおかしくなったのかといえば、

妙に物思いに耽るのが多くなったこと。

 

何か悩みを抱えているのか。

 

もしそうならば何故自分に相談してくれないのか。

 

それとも自分のことなど、彼女の中では

もうそれほど大きな存在ではなくなってしまったのだろうか。

 

だが沈黙は不安を増大させるだけだ。

 

 

「ねえ、沙弥……

 最近、少し変だよ?」

 

「そっ、そんなことないわ!」

 

 

今度の沙弥の反応は異様に早く、大きかった。

 

あきらかに何かを隠している反応だ。

 

舞子はどこかに寂しさを覚えつつも無理して笑顔を作る。

 

 

「なら、いいんだけど……

 でも、もし何か悩みとかあるんだったら相談してね?」

 

「あ……うん。

 有難う、舞子……」

 

 

 

 

◆

 

 

 

 

「……ふぅ。」

 

 

肺の奥から一つ溜息をつき、舞子はゆっくりと夜空を見上げる。

 

長く座りすぎていたせいか臀部にじんわりとした痛みがある。

 

足に這い登ってきた蟻を払い落とすと、

吹き抜ける風に二つのお下げが小さく揺れる。

 

 

「……沙弥、何かあったのかな……」

 

 

これは舞子の独り言だ。

 

沙弥はもうここにはいない。

 

先程『少し調子が悪いから』と一人先に帰ってしまったのだ。

 

そして沙弥の言葉に何かを察した舞子も

それについていくようなことはしなかった。

 

 

(私も帰ろうかな……)

 

 

お気に入りのこの場所も一人ではさすがに寂しすぎる。

 

それにこんな時間に山の中に一人きりというのも、

よく考えれば大問題なのだ。

 

山神村は都会で流行っているような血生臭い事件とは無縁の場所だが、

逆に田舎ならではの危険が存在する。

 

真実かどうかは大変怪しいところだが――『神隠し伝説』だ。

 

 

 山神様の神隠し

 

 女は百回酒を注ぎ

 

 男は百の木を育て

 

 山神様に祈りなせ

 

 

神隠しにあった女は七日、男は一生戻って来れないというこんな唄も、

この村には江戸時代以前から伝わっている。

 

村の年長者たちは『昔はよくあった』等と語り、幼い子供たちを脅かす。

 

村育ちの舞子も当然その一人であり、

昔から刷り込まれてきた言葉は彼女に不安を植え付け、

それが帰宅を促させ始めたのだ。

 

 

(よっ……と。)

 

 

頭のもやもやを振り払うように舞子が勢いよく立ち上がると、

スカートについていた乾いた土がぱらりと落ちる。

 

更にその上からパンパンと手ではたき舞子はくるりと向き直る。

 

星明りでうっすらと浮かび上がるのは、

ぽっかりと口を開けた村へと続く山道の入り口。

 

舞子は徐にスカートのポケットから懐中電灯を取り出すと、

そのスイッチに手をかける。

 

 

――ボゥッ。

 

 

瞬間。

 

眩い輝きが舞子の視界を広げる。

 

 

(……えっ?)

 

 

舞子は一瞬何がなんだかわからなかった。

 

自分はまだスイッチをオンにしていないし、

これは明らかに懐中電灯の小規模な灯かりなどではない。

 

そもそも光は自分の真後ろから放たれているのだ。

 

浅い吐息を吐くと舞子は視線をゆっくりとそちらへ向けてゆく。

 

だが、その正体を視線が捉える前に舞子は走り出した。

 

目より先に耳が何かの異形を捉えたのだ。

 

それがどんな音だったのかは、もう思い出せなかった。

 

ただただ山道を駆け下りる。

 

普段の舞子だったなら少しは好奇心も働いたかもしれないが、

夜の山の中に一人という現状と例の神隠しの記憶が

彼女の冷静さを削いだのだ。

 

 

――ザッザッザッザッザッザザザ――ズザザ―――!

 

 

「きゃっ!」

 

 

足元のしっかりしていない山道を、

夜闇の中で駆け下りればこうなることも容易に想像はつくはずだった。

 

舞子は足を踏み外して急斜面を滑り落ちてしまったのだ。

 

 

「いったぁぁ……」

 

 

でんぐり返しを失敗したような間抜けな格好のまま舞子は声をあげる。

 

少しして、漸くスカートがめくれてショーツが

丸見えになっていることに気づくと慌てて体勢を立て直した。

 

痛みより羞恥心が先に立った辺り、

背中はだいぶ汚れてしまったものの大した怪我はないようだった。

 

そして、次に気づくのが自分のいる位置。

 

一緒に落ちた懐中電灯で辺りを照らしてみると、

まず飛び込んできたのが天然だか人工だかわからない洞穴。

 

だが逆側を照らせば、ここが山道入り口の近くであることがわかる。

 

迷う心配はないようだった。

 

 

(……あ。)

 

 

ここに来て一つ大事な記憶が戻る。

 

先程の謎の光だ。

 

見回すが近くにそれらしいものはない。

 

 

(……気のせいだったのかな?)

 

 

落ちたショックで逆に冷静さを取り戻したのか、

舞子はそう思うようになっていた。

 

いくら言い伝えはあれど、さすがに神隠しなど非現実的すぎる。

 

深く考えてもどうせ答えは出ないだろう。

 

 

「あーあ、汚れちゃった。」

 

 

とりあえず水田沿いの道路まで出ると、

舞子は改めて今の落下による被害をまじまじと感じていた。

 

背中で滑り落ちたせいで背中から尻にかけてが土だらけになっていた。

 

母親の怒り顔が目に浮かび舞子は一人肩をすくめる。

 

だがその時。

 

後ろの太ももの辺りにピチャリと何か液体がつくのがわかった。

 

 

(……ん?)

 

 

すぐにそこに手が伸びる。

 

怪我による出血とかではなさそうだし、

虫でも潰してしまったかなと内心ひやひやものだったが、

指先が探り当てたのはもっと別のものだった。

 

懐中電灯の灯かりはすぐにその正体を浮かび上がらせてゆく。

 

 

(あれ……っ?

 こ、これって、まさか……)

 

 

舞子の顔が夜闇の中でもわかるくらい紅潮してゆく。

 

それをつまむ指先が硬直して震えていた。

 

形容するなら『何かの粘液で濡れた小さなゴム風船』。

 

だが思春期の舞子にとっては強烈過ぎるインパクトを持つ代物であった。

 

 

(!!!!)

 

 

舞子はすぐに視線を走らせ、周りに誰もいないことを確認する。

 

そして、しばし考えた後。

 

それをポケットにしまい場を走り去ったのだった――




だいぶ思い出深い過去作品となりますが、
どうぞ応援のほどよろしくお願いいたします。
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