突き抜けるような大空の青。
燃え上がるような森の緑。
聞こえてくるのは、子供たちの笑い声とセミの声。
燦々と照りつける強烈な日差しが、山神村に新たなる夏の到来を告げる。
放課後、大山高校の校門で誰かを待っているのは、
今年二年生になった岡本舞子だ。
腕で額の汗を拭く仕草が妙に堂に入っている。
相変わらずトレードマークは二つのお下げ。
これは今年の春に一度イメチェンしたのだが、
彼氏に強い要望で元に戻したセカンド・お下げだったりする。
ただ今日はどこか体調でも悪いのか、その顔色はいまいち優れない。
「あっ、岡本だ。
なに、彼氏待ち?」
「ふぅっ……
……あ、長森さん。」
長森棗。
中学時代から去年の頭くらいにかけて有名なワルだった彼女も、
今はすっかり優等生で通っている。
美人で勉強ができて運動神経もいい。
向かうところ敵なしの彼女だが、
最近プライベートで左手の薬指に小さな銀の指輪を
はめるようになってからは、その美しさに一層磨きがかかった感がある。
「そっちも?」
「ううん。
大介、今日は部活で遅いし、さっさと帰る。」
「んっ……そ、そっか……
じゃ、また明日ね。」
舞子にとって、
去年はとにかくめまぐるしいくらい変化に富んだ年となった。
良いこともあったし、悪いこともあった。
特に人間関係だ。
郷田太一郎・葉子(旧姓:花見)。
大山高校を代表する人気教師だった二人は去年末に結婚した。
女子たちの噂では年齢差の関係で花見の家族が反対したらしく、
ゴールインまでこぎつけるのは大変だったらしい。
そして、今年からはもう郷田葉子を教壇で見ることもなくなっていた。
昨年度限りで結婚退職した葉子は、今はお腹を膨らませた専業主婦。
だが太一郎の持ってくる愛妻弁当は、
相変わらず女子たちの冷やかしの的だ。
叶浦はじめ。
あの事件以来、舞子と敦からは少し距離が離れた彼女だが、
相変わらず学校では気さくなキャラで通っている。
驚くべき彼女の秘密を知る舞子からすれば、ある意味恐ろしい光景だが、
それはそれでまったりとした関係だったりする。
暗躍を繰り返して新たなる獲物を狙う傍ら、舞子に困り事あらば、
頼りになる相談相手として胸を貸してくれるのだ。
だがさすがの舞子も、
はじめからの『うちに遊びにきいへん?』との誘いだけは断固断り続けている。
氷川沙弥。
もう彼女をこの村で見ることはできない。
去年彼女を襲った陰惨なレイプは、その心を引き裂いただけでなく、
肉体的にも大きな痛手を負わせていた。
事件のあと妊娠が発覚して沙弥は退学処分、
横の繋がりの強い村では家族ももうやっていけなくなった。
沙弥が子供を堕ろすことを決意すると、
氷川家はすぐに荷物をまとめ、ひっそりと村を出て行ったのだ。
長い間音信不通が続いていたが、
つい先週、舞子の元に『元気でやっている』と手紙が届いた。
この夏休みには感動の再会が予定されている。
そして――
「おう、待たせたな、舞子。」
ラフすぎる着こなし、ツンツン頭に野犬のようなギラつく目つき。
相変わらず、どこから見ても不良にしか見えない高田敦。
だが去年よりはずいぶん大人しくなっていた。
ケンカより楽しいことが見つかり、すっかりそっちにかかりっきりなのだ。
「う……ううん?
あんまり待ってないよ。」
「本当かぁ~?
じゃ、も少し待たせておいた方がよかったかな?」
「げげっ……そんなご無体なっ!」
敦には去年のあの事件の記憶はなかった。
恐らく『彼ら』に消されたのだろう。
だが舞子にはそれでもよかった。
こうして無事に帰れたのだから。
あの不思議な事件。
宇宙人たちの目的が一体なんだったのか、今でも舞子にはわからない。
あのあと再び目が覚めると家のベッドの上だった。
コンビニに買い物に行った日から七日間が過ぎていたが、
何故か両親にも学校の面々にも何も言われなかった。
体毛を溶かされた敦ですらも、
安易に『ちょっとした病気』で片付けられたのだ。
虚ろげに残る、液体の中での記憶。
激痛の中、下腹部から大量の血を吹き、
ぼーっとする頭の中で死を覚悟した、あの出来事。
あの時に『死の痛み』だと思ったあれが何だったのか、
今の彼女はどこかでわかっていた。
あれは出産だったのだ。
七日間という短期間の間にどんなプロセスを踏んだのかも、
宇宙人たちが何の目的でそんな事をさせたのかも一切謎だが、
――舞子はあの時、敦の子を出産していたのだ。
「(ところでよぉ。)」
一度辺りを見回してから、敦が声を細める。
「(『アレ』はちゃんと挿れてんのか?)」
「(う……うん、ちゃんとスイッチも入ってるよっ。)」
舞子に言われて敦が耳を澄ますと、
何か『ヴゥゥゥン……』と機械的な振動音が聞こえてくる。
その発生源は舞子のスカートの中だ。
急にニタニタ顔になる敦に、舞子は恥ずかしいような、
それでいて何かを期待するような表情を作る。
「じゃ、今日も神社寄ってくか!」
「う……うんっ!」
今にもスキップを始めそうな足取りでズンズン先を行く敦。
舞子は足早にそれに追いつくと、敦の耳元に小声で囁いた。
「(……ねぇ、敦。
今日は、お尻……して欲しいな。)」
「(いいぜぇ、ケツだったら遠慮なく中出しできるしな♪)」
「(もぅ、そればっかりなんだからっ。)」
「(べっ、別にいいじゃねぇかよぉ……
つか、いつになったら『膣出し』させてくれるんだよ~。)」
「(だからぁ……
いつも言ってるじゃない……)」
見上げる優しい瞳に映る、突き抜けるような紺碧。
喜びも痛みも苦しみも、全てを包み込む思春期の宙(そら)。
その広大な世界は、いつでも少年少女たちを静かに見守っている。
「――『膣出し』は結婚してから!」
~Fin~
というわけで、これにて短期集中連載終了です。
ここまでお付き合いいただいた方、誠にありがとうございました。
なにぶん私には他の方のような文章力がないため、
読みづらいところばかりだったかと思いますが
少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。