※この作品はR-18です。

Puberty ~宙(そら)の子供たち~   作:宇藤百足

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□ Page.2 『ラブレター』 □

舞子はあのあと、教室に向かう前に保健室に寄ってきていた。

 

焼印のあとを隠すために、無人の保健室から包帯を拝借してきたのだ。

 

先程のことを大げさに話題にするのは色々な点で問題ありと踏んだ彼女は、

この包帯の下を『今朝の台所での火傷』と偽ることに決めたのだった。

 

 

――ガラガラガラ……

 

 

舞子が教室に入ると、教室は妙にざわめいていた。

 

教室の後ろにある掲示板辺りに小さな人だかりができている。

 

早速興味を示した舞子は自分の机にカバンを置き、そこに向かった。

 

 

『一年C組 氷川沙弥 年上男性との乱れた交際?』

 

 

そこには一枚の貼り紙がしてあり、

そんな見出しの記事が書かれていた。

 

紙はA4のコピー用紙で証拠写真と思しき映像も一緒に焼き付けられている。

 

内容は大体見出しの通りで、

それが多角的に分析されて記事になっていた。

 

これはこの学年の名物で、こうして時々貼り出される新聞だ。

 

毎度きわどいネタばかりを取り上げ、

割と信憑性も高いので貼り出されるたびに話題になる。

 

だが。

 

誰がいつどこでそんなネタを仕入れ、記事にし、貼り付けているのか、

それを知るものはいなかった。

 

 

「うわぁ、マジかよ~!」

 

「あの氷川さんがねぇ……」

 

 

あちこちからそんなこそこそ話が聞こえてくる。

 

ふと席についている沙弥に目を向ければ、

彼女もやはり冷たい眼差しに不機嫌な色を乗せ、窓から外を眺めている。

 

これには舞子もさすがに気分を悪くしていた。

 

沙弥と付き合いが長いからこそ、

彼女がここまで垢抜けたことをするタイプではないと知っているし、

真実はどうあれ親友が辱められるのは忍びないのだ。

 

 

「ねえ、ちょっと皆。

 毎回毎回、こんな根も葉もない噂で

 他人の気分を悪くするのはどうかと思うよ!」

 

 

らしくなく、感情的に口にしてしまった言葉。

 

舞子はそのあとの対処をどうしようか考えていなかったことに気づき、

少し後悔するが、思いもしないところから助け舟が入れられた。

 

 

「岡本ちゃんの言う通りや。

 皆、ちょいとはしゃぎすぎなんちゃうん?」

 

 

他の生徒たちとは明らかにイントネーションの違うその発音は、

ある女生徒の口から放たれたものだ。

 

ボリュームのある髪をそれぞれ左右の耳の後ろ辺りで束ね、

大きな眼鏡と八重歯が特徴的な、この女生徒。

 

彼女は名前を叶浦はじめ(かのうらはじめ)といい、

数少ない山神村以外の出身者だ。

 

 

「大体、この写真かてコピーで画像も荒いし。

 パソコンで編集して作った捏造写真かもしれへんやろ?」

 

 

はじめの言葉にはいつも勢いがある。

 

一度その気になった彼女の勢いを削ぐのは、

なかなかできることではなかった。

 

 

「あんたたちは面白がっとるけど、

 書かれた側からすりゃ、ホンマ大迷惑や。

 こんなん悪質な嫌がらせやわ!」

 

 

はじめはずかずかと掲示板に歩み寄ると記事を破り取り、

ゴミ箱へと放り投げてしまった。

 

周りからは幾らか落胆したような声もあったが、

大体ははじめに賛同するようにそれ以上騒ぐことはしなかった。

 

 

「ほらほら、もう花見センセくるでー。」

 

 

さっさと話を流しにかかるはじめに、

舞子はアイコンタクトで『ありがとう』と伝える。

 

するとまたはじめもウインク一つ返して席に戻っていった。

 

はじめは、ある意味舞子に似ているといえる。

 

彼女はその言葉遣いや外見から多少目立つ存在ではあるが、

それ以上に気さくでとっつきやすい。

 

男女関わらず友達が多いのもそのおかげなのだ。

 

 

 

 

◆

 

 

 

 

その日の昼休み。

 

舞子が担任に頼まれた小用を済ませて教室に帰ると、

朝に沙弥の話題で沸いていた室内は、また別の話題に花を咲かせていた。

 

周囲の雰囲気から察するに話題の種類としては、

朝のものと近いのかもしれない。

 

しかし。

 

今度のものは舞子にとって前者と決定的に違うところがあった。

 

 

「ねぇ、どうしたの?

 何かあったの?」

 

 

舞子は手近なところにいる、女子三人のグループに声をかけた。

 

話に夢中になっていた三人は最初ギョッとしたが、

すぐに皆同じニヤニヤ顔を作る。

 

意味がわからず首をかしげる舞子に、

三人はなかなか話を切り出そうとしない。

 

 

「えっ、何?

 もしかして私に関係あることなの?」

 

 

舞子は一瞬、朝の事件絡みのことかと思いひやっとするが、

それにしては反応が変だ。

 

この三人は普段から舞子とも仲がいいし、

火傷を負わされたことを喜ぶような連中でないことは確かなのだ。

 

 

「んん~、なんかね?

 実は男子……」

 

「ちょ、ちょっと貴理子!」

 

 

やがて一人が口を開こうとするが、

すぐさま他の二人がそれを止めてしまう。

 

気になる部分で止められた舞子にはまさに蛇の生殺しだ。

 

 

「ちょっとぉ~、なによなによ~……

 お~し~え~て~よぉ~~!」

 

 

舞子が彼女特有の困り笑顔を作る。

 

何とも憎めないこの表情は、

彼女が人間関係を築く上での最大の武器であったりする。

 

人畜無害かつ愛嬌100%のこの表情で物を頼まれると、

相手はなかなかに断り辛いのだ。

 

 

「わかったわかったってば。

 んん~……えとね、男子トイレの壁にね……」

 

「……?」

 

「……落書きがしてあったんだって。」

 

「落書きって?

 ……どんな落書き??」

 

「……えっ……」

 

 

聞き返すと、相手の女生徒は何故か俯き加減に黙り込んでしまう。

 

こうなると舞子は逆に不安になってくる。

 

要は男子トイレの壁に自分に関する落書きがあったということだろう。

 

だが『男子トイレの壁』と聞けば、

どこをどうとってもいいイメージなどない。

 

真相を聞きたい気持ち自体は変わっていなかったが、

いつの間にかそれは怖いもの見たさに似たものへと変化していた。

 

 

「え? え?

 な、なんて書いてあったのよぉ……?」

 

「んん~……」

 

「ねぇ~、カナちゃぁ~ん!」

 

「……」

 

「ちょ、ちょっとぉ~……」

 

「よしっ、川田!!」

 

 

問い詰められていた女生徒は近くを通りかかった男子生徒を一人捕まえて

『盾っ!』とばかりに舞子の前に突き出す。

 

この男子に言わせようという魂胆なのだろう。

 

 

「なっ、なんだよ?」

 

「あんたが説明して、例のトイレの落書きの内容。」

 

「……あ?」

 

 

目の前の舞子を見て、その男子も一瞬ためらいはしたが、

そこは女子とは構造の違う男子だった。

 

「ああ、トイレの壁にな?

 何か『岡本とヤリたい』みたいな内容の落書きがしてあったんだよ。

 モロ名指しで、デカデカと。」

 

「……っ。」

 

 

そこで場に沈黙。

 

舞子の顔がカァッと赤くなる。

 

一瞬で頭の中が真っ白になり、

どんなリアクションをとるか考えるのにずいぶんと時間を要してしまった。

 

 

「あ、あははは……

 私って、そんなにセクシィかな……?」

 

 

苦笑気味にそんなことを言い、

舞子は何やらうねうねと腰を動かしてみる。

 

同じことをナイスバディの外人モデルがやればセクシーかもしれないが、

人並の舞子が恥ずかしそうにちょこちょこやっても何のことだかわからない。

 

 

「きゃははははは!

 岡本ちゃん可愛い~!」

 

「やべ、岡本……

 俺、ちょっと萌えたかも!」

 

「え……えぇぇ~~っっ!?」

 

「ま、でも、全然セクシーではないけどね……」

 

「あははー(泣」

 

 

こうして。

 

その場はどうにか流せたものの、

午後の授業では舞子は何かと人目が気になってしまい、

どうにも落ち着かない時間を過ごすこととなったのだった――

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