「さあ、フェル! 新しい呪印の実験よ!」
まだ掃除も途中だというのに、唐突にボクから箒を引っぺがしルビーはそう言い放ってきた。
ぐいぐいと言い迫るルビーにボクは何処か既視感を覚えつつも、流されるしかなかった。
いつものようにルビーの指先から放たれる、ふわりとした光の描く線が青紫の刻印に置き換わり、また一つボクに呪いが増えた。
しかし、まだどんな呪いなのかまでは自覚ができない。
「これは噴乳の呪印。これでフェルの出す精液はミルクのように美味しく飲めるようになるの。刻印が定着して消えたらいっぱいいっぱい生成できるようになるわ」
やっぱりろくでもない呪いだ。
とはいえ今さらうだうだ言っても仕方ないしそこは諦めるとして、とりあえずボクは一つ疑問を持った。
「つまりボクの精液がミルクになるってことですよね。でもそれってご主人様の分野外だったんじゃ」
結局魔法じゃできないようなことを言っていた割には、こうやってあっさりとできてしまうのだからやっぱり何でもできてしまうような気がする。
「言っとくけど魔法と呪いは違うわよ? 確かにそこにあるモノを別のモノに変える魔法というのは分野外だけど、あたしは別のフェルの精液をミルクに変えてるってわけじゃないの。正確にいうと、フェルの体質を作り変えただけ」
「あんまし変わらないような気もしますけど」
「全然。魔法はさっきも言ったけど魔力を媒体に命令を対象に差し込むだけ。呪いはその対象に直接命令を定着させるの。前者は時間とともに魔力自体が消滅するのに対して、後者はその命令自体がその対象のものになるから消えたりしないの。で、今回の呪いってのは厳密に言えば、フェルの身体に対して『精液で美味しいミルクを作れー作れー』っていう命令を刻み込んでるだけだから、実際に精液をミルクに変えてるのはフェル自身の身体なのよ」
「は、はぁー……」
「例えばさ、あたしがフェルに掃除の命令出したとするよね?」
まあ、今も掃除の続きをしたいわけだけど。
「今日それが初めてだったら、掃除道具の場所も分からないし、掃除する場所が何処なのか分からないよね」
「確かに初めてこの家で掃除したときは色々と散々でしたね」
「でも毎日続けていけば、何処に掃除する道具があるのかも、何処を掃除をすればいいのかも、ましてやどうやって掃除すればいいかなんていちいち命令しなくても、もう一人でできるようになっているでしょ? つまり呪いってのはそういうこと。そんな感じで対象に命令を定着させるの。だから魔法と違って時間が掛かるってわけ」
言われてみれば、もうずっとルビーに直接命令される前に掃除なり家事なりは勝手にやってる感じではある。不本意ながらだけど。
「ついでにいっちゃうと、呪いは術者と対象に因果関係を結んでいるから術者がいなくなれば定着した呪いも当然消えちゃうのよ。さっきの掃除の例えで言えば、掃除のやり方を全部覚えたところで、命令する人がいなくなれば掃除をする意義がなくなる。掃除をする必要がなくなる。だから掃除もしなくなる、ってところかしら」
「分かったような、分からないような……」
「ま、細かく説明したところでフェルには分からないだろうし、そう理解しときなさいな」
そりゃごもっともだ。ボクには魔法や呪いの教本を見たところでそれを学ぶことがまずできないし、知識として頭に置いていたところで魔力も人並みにだってないのだから使いようもない。それはそういうものだと理解するしかないんだ。
「じゃ、そういうことで」
ひとしきり説明し終えたルビーがボクの前に屈み込み、なんでもないような手際のよさでボクのおちんちんをおもむろに取り出した。変に真面目っぽいことを言っていたと思ったらすぐこれだ。
「何をするつもりですか?」
聞かなくても分かることをボクはあえて聞いてみた。
「ちゃんと美味しいミルクが出るか試すんじゃないの。さあ、出しなさい」
そんな簡単に出せるわけがない。そう言いたいところだったが、今のボクはそうでもなかった。
今のボクにはルビーをご主人様と呼ばないと強制的に射精してしまう、そんなふざけた呪いが掛かっている。だからただルビーの名前を呼ぶだけでいい。
「分かったよ、ルビー…………んっ」
ボクの身体は自然と仰け反り、ビュルル、ビュルルリと震わせた。
定着した呪いは消えることがない。一言発しただけでボクの前で口を空けて待機していたルビーにまっすぐそれが放たれた。
狙いなんてあったものじゃなくて、そのままルビーの顔中を汚してしまったが、ルビーはそれを指ですくい、ぺろりと舐めて見せた。
「別にさ、あたしの名前を呼ばなくてもいいんじゃない?」
ルビーがちょっとムッとする。
じゃあ前みたいに魔女とか悪女って呼べばいいのかな。そう思ったけれどさすがに新しい変な呪いを追加されることが目に見えたので言葉にはしないでおいた。
「そんなこと、別にどうでもいいでしょう。味は、どうだったんですか?」
「まーまー、かもね。まだ呪い掛けたばかりだし効き目もこんなもんでしょ」
ルビーがあっけらかんとそう答える。なんかちょっと傷つく言い方だ。
自分の精液がまあまあだと言われて喜ぶことはないだろう。逆に、美味だなんて言われることがそうそうないけれど。
「でもやっぱちょっと量が少ないかなー」
いじわるっぽくルビーが上目遣いに言ってくる。
冗談じゃない。
今のは自分の意思で発動したとはいえ強制的に射精させられるのはキツイ。
たとえ勃起していなくても強制的に勃たされて、何の刺激も与えられていなくても、急激に射精感に襲われる感覚は正直気持ち悪い。
二度と呼ぶものか。しかしさすがにルビーはそういうところを察したのか、ニヤリと手を構えた。
「もうちょっともらおっか。あんむぅ」
「ひぅ……っ!?」
不意を食らって、ボクは突然の刺激に咄嗟に反応できなかった。
射精した直後の敏感なおちんちんに吸いつかれてはたまったものじゃない。
悲しいことに二発目はすぐに訪れた。今度は狙いが外れることもなく、ルビーの口の中へ直接注がれるように射精された。
「んっふぅ……、この調子なら定着が楽しみね」
またボクの憂鬱の種が増えた。