「うーん、まだ疲れが残っててだるいなー」
朝食を終えて、眠気の抜けない気だるそうな顔で、ルビーは伸びをする。
「あんな夜遅くまで起きてたんだから当たり前ですよ」
おかげでまだボクのお腹の中は、まだ何か入っているような感じがする。
「そりゃまあ、そうだけどさ、もうちょっとフェルもノリノリになってもいいじゃない?」
「何を言ってるのかよく分かりませんね」
ツンと返しておく。
「だってずっとあたしばっかじゃない。面白くない面白くない」
だだをこねる子供のようだ。
大体はルビーがボクを玩具にしてるだけなのがほとんどだ。性欲を吐き出すための道具といっても過言ではない。
だからといってボクがルビーに何かするなんて考えたくもないし、むしろ考え出したら止まらなくなってしまいそうだ。
「奴隷なんだから奉仕くらいしてもいいんじゃない?」
思えば、奴隷として仕事をこなすことはあっても、ルビーにそっちの方での奉仕をしたことはあまりない。
苦手とかそういう理由ではない、単純にやりたくないからだ。
こういう態度をとっているからこそ、呪いを掛けられてどんどんボクの身体がいやらしい身体に改造されてしまうわけなのだけど。
「イヤ、です」
これにはやはり即答だ。断固として拒否する。
「奴隷っていってもボクには他にも色々と仕事があるんですからね。夜も眠れないなんてご免です」
夜が長引けば長引くほど翌朝に響くのは当然のこと。
そのくらいはルビーにも理解してほしいところだけれど、動物的な思考を持つルビーにそんなおあずけがまともに聞き入れられるかといえば、まあないか。
「夜くらいはちゃんと寝かせてくださいよ」
と、一先ずダメ押ししておく。
「まー、そうよねー……」
珍しく、ルビーが納得するように上の空を眺める。
ただ、あの顔はまだ完全に諦めた顔とは違う。
何かよからぬことを考えている顔だ。ろくなことにならないことはもう分かりきっている。でも、どうしてだろうか。
ルビーが企んでボクに何かをするのだろうと期待してしまっている自分がいた。いけないいけない、ルビーに毒されてきている。
「それじゃ、ボクはまだ洗濯が残っていますから」
それだけ告げて、食器を洗い場に移し、食卓にルビーを残したまま足早にボクはそこを逃げるように後にした。
願わくば、何も思いつかないでいてほしい。ボクはそう強く願った。
だって、そうしないとまたボクの中の何かが削れてしまうような気がしたから。
また変な呪いを掛けられて、ボクが少しずつまたボクじゃなくなっていくような気がしたから。
「……寝れればいいのよね」
窓越しに伝わってくるルビーのつぶやきは、とりあえず聞こえなかったことにしたかった。
※ ※ ※
なんの代わり映えもしない今日という日をいつものように過ごし、いつものように日が暮れていき、またいつものようにルビーと夕食を共にしていた。
今日の献立もいつもとあまり代わり映えしない。
せめて町に買い物に行ければ材料を揃えてもっと沢山の料理が作れるのだけれど、作れてせいぜい野菜のまかない程度。
腹に入ればそれでいいくらいにしか思っていなかったルビーだけど、そんなボクの料理は毎日おいしく食べてくれる。
ボク自身、そこまで料理の腕に自信があるわけでもないし、作れる料理だって多いわけでもない。
ただ、毎日食べていくものなのだからちょっとくらいは献立を改めたいとは思っている。けしてルビーにもっとおいしい料理を食べてもらいたいとかそういう意味ではない。
もっとルビーの喜ぶ顔が見てみたいとか、そんな従順な奴隷根性が染み付いているわけがない。
「ふぅ、ごちそうさま。……さてと」
鍋いっぱいの夕食をたいらげたルビーがご満悦の顔で立ち上がる。
食器の片付けはもう済んでいる。
この後に残っている予定といえばもう一つしかない。
ボクの中で自然と期待感のような何かが膨れていくのを感じた。背中のゾクゾクが止まらない。
昨晩の記憶が、毎晩の記憶が、否応なしにボクの頭の中を巡る。
「今日はなんだか疲れちゃったし、もう先に寝るわ。おやすみ~」
あまりにもあっけらかんとルビーはそう言って、さっさと寝室に入っていってしまった。
一人この場に取り残されたボクは呆然としてしまう。
どういうことなのか考える頭が動かない。
今日は、おあずけ?
それを理解した途端、どうしようもなく空虚な気分だった。
いや、確かに昨晩はいつもより激しかったかもしれないけれど、でもこんなことなんて今まであっただろうか。
いやいや、こういう日があってもいいんだ。
ルビーの相手をしなくて済むのだから。
別に、ボクは、寂しいとか、思って、ない。
ひょっとしたらこれはボクを誘うための罠のつもりなのかも。
そっけない態度をとっていればボクの方から求めてくるとかそんな安直なことを考えているのだろう。そんな誘いに乗るものか。
ただ、ボクの寝床はルビーの寝床でもあるから、仕方なく、ボクは本当に仕方なく、寝室へと足を踏み入れた。
そうしたらきっとあのベッドの上でほくそ笑んだルビーが待っているような気がしたから。
しかし予想は外れていた。
そこにいたのはベッドの上で静かに寝息を立てているルビーだけだ。
どうやら本当に眠ってしまったらしい。別に残念でもなんでもないけれど、ボクはホフゥっと小さくため息をついた。
ふてくされてないし、むしろホッとしてる。本当だ。
「本当に寝ているんですか?」
反応はない。寝たふりでもなさそう。
どちらにしても、ボクももう疲れていて眠い。
ベッドに身体を預けて、ゆっくりとボクも眠りに就くことにした。
よほど疲れがたまっていたのか、まだ横になったばかりなのに意識がふわりと落ちていくように、浮遊感にも似た心地よさと共に現実から切り離されていった。
※ ※ ※
ルビーが、立っていた。
何もない空間に、ルビーがただ一人立っていた。
どうしてこんな夢を見ているのだろう。もっと違う夢を見なきゃ。
そう思うも、強く願うもルビーの偶像は消えない。
「やっほー、フェル。どうやらこれたみたいね」
ルビーがこちらに向かって挨拶する。夢の中だというのにいやに現実味が強い。
まるでルビーがボクの夢の中にそのまま入り込んできたかのよう。