ボクは魔女のわんわん奴隷
『あひぃぃ……おちんちん……おちんちんきもちいれしゅぅぅ……っっ』
「くっくっく……可愛いねぇ、可愛いわねぇフェル」
「朝っぱらから何見てるんですか、ご主人様」
「うおっと!? 脅かさないでよフェル」
一応、ちゃんとノックはしたつもりだ。
「ボクの方が驚きですよ。ご主人様の部屋からボクの声が聞こえると思ったら……」
ルビーの部屋、中央のテーブルに怪しげな色を放つ水晶が置かれていた。
水晶を覗き込むと、その向こうにボクによく似た少年がものすごくバカっぽい顔してよだれをだらだらと垂らしている。
何をどうしたらこんな悦びにまみれた顔ができるのか不思議でしょうがない。
「これは一体なんなんです?」
「あーコレ? コレはね、未来水晶って呼んでるんだけど、言ってみれば別な未来が見通せるのよ」
「未来、ですか」
ボクはきょとんとしてしまう。
それってつまり、この水晶に映っている少年は未来のボクの姿だとでもいうのか。
「いやぁ、フェル最近生意気だからさ~、ちょっと素直になるような呪いかけたらどうなるのかなぁ、って」
なんてとんでもない。そんなことを考えていたのか。ということは一歩間違えたら本当にボクはこんなことになっていたのかもしれないのか。
というか、素直になるだけでどうしてこんなことになるんだろう。まさかボクの本心ではこんなアヘアヘした日常を望んでいるとでもいうのだろうか。
いやいや、そんなことあるはずがない。
「うぅん、このフェルも可愛いけど、これはちょっと行きすぎかなぁ。というかイキすぎかなぁ」
『あへぇ~……おちんちんミルクとまらないのぉぉ……ごしゅじんしゃまぁ、ひぅぅ、しぼってしぼってぇっ』
ビュルビュルと噴水のように噴出している。
よくもまあこんなに射精るもんだ。本当に自分の姿なのか疑いたい。
この様子だとまた変な呪印をつけられているのかもしれない。
こんな未来にならなくてホッとする一方、もしかしたらルビーの気まぐれで、こんな未来が待っていると思うとまた憂鬱だ。
「はいはい、そんな趣味の悪いものはしまって。朝食の準備ができましたよ」
「おっ、待ってました~。今日の朝ごはんは何かな~?」
どたどたと、まるで尻尾を振る犬みたいに、ルビーはボクを部屋に残して食卓へと駆け込んで行った。
そして、その水晶が視界に入ってしまう。
『ごしゅじんしゃまぁ……あひゃんっ! らいしゅきれしゅぅぅ……』
全く、勘弁してほしいものだ。
※ ※ ※
朝食をすませたボクは、畑の中にいた。
周囲を森に囲まれていて、あまり言うほど日差しの良いところではないけれど、この奴隷生活で最も平穏なひと時だ。
こうして仕事に没頭している間は嫌なことを忘れられる。
何より畑いじりは故郷にいた頃からやっていることだし、土を引っ掻き回しているだけでも、作物を収穫していくだけでも心が落ち着く。この狭い狭い畑がボクだけの空間なのだ。
一方のルビーはといえば、また部屋にこもって、魔法の研究なり新しい呪いの開発に勤しんでいるようだ。あんな締め切った部屋にこもっているから肌が色白になってしまうんだ。
ちょっと角度を変えてみると魔女というよりもお化けに見えるくらい。
生活観を見る限り、ルビーはとても不健康だ。そもそも死なない身体を持っているのだからそういう話とは無縁だからなのかもしれない。
きっと何十年、何百年もああやって過ごしてきたに違いない。
魔法は便利な反面、あまりにも便利すぎて、きっと色々なものをなくしてしまうのだろう。
食いたいときに食って、寝たいときに寝て、シたいときにする、あのルビーの動物的な行動を日々観察しているだけでそう思う。
普通の、一般的な人の、常識から外れている。魔女というのは大体そういうものなんだろうか。こうやって畑仕事して汗をかいて美味しい野菜を食べるという喜びも、ルビーには欠けている。ただただあくる日々を過ごしている。
ボクは訪れたことがないが、都会へ行けばルビーのような魔法使いと呼ばれる人は沢山いて、万病にも効く薬を開発していたり、干ばつに悩む土地に雨を降らせたりする真っ当な職業としてやっているらしい。
ただ全員が全員ではなく、やはりそういうことをするのはほんの一部と聞いたことがある。
そもそも魔法というものは理解が難しく、扱えるだけで化け物だなんて呼ばれることも珍しくない。ボクなんかみたいな田舎者には尚更だ。
いつ頭の中をおかしくされて今朝水晶で見たような忠実な奴隷に変えられてしまうか気が気でない。
ボクの故郷でも、ちょっとお年寄りとなると魔法使いなんてものは悪魔や化け物と大差ない言われようだ。
そのためか、魔法の道を歩むも、そういう迫害を受けたり、またはより有能な魔法使いに仕事を奪われたりして、ルビーのように孤立して、何処か人の少ない土地に隠れ住むはぐれ魔法使いみたいになってしまうとか。
これはこれで厄介な話だと思う。こんなルビーみたいのが大勢いるだなんて考えたくもない。
思えば、ルビーもその中の一人なんだろうか。
いろんな人から迫害されたり、優秀な魔法使いに負けていたりするんだろうか。他の魔法使いがどんなものなのかは知らない。
でもルビーの魔法や呪いは少なくともどれもおぞましいほどの影響力を持っている。その気になれば小さな村や町くらい支配できそうなくらい。
実はあれでいて優秀な魔女だったりするのだろうか。あのルビーが。しかし都会や城に勤めているような姿を想像するのは難しい。
薬を売っていてもどんな副作用があるのか恐ろしくて買えないし、雨を降らすにしても土地ごと洗い流す大洪水を引き起こしそうだ。
逆に迫害なんて受けていたらルビーに悪口を言った人々がみんなカエルやムカデに変身させられている光景なら容易に想像できる。
大体、ルビーがまともな魔法使いじゃないことくらいは分かっている。
突然ボクをさらって奴隷にしてしまうし、気軽に魔法や呪いの実験台にもされるし、今後もどんなことをされるか分かったもんじゃない。せいぜい、頭の中を弄くられないよう祈るしかない。
「ふぅ~……」
一通り、畑仕事を終えて、少し深いため息をつく。
祈ったところでここには神様もいないんだよな、と。