スーパー商人のおっちゃんと別れた俺は、早速ラニ様に会いに行くことにした。
おっちゃんが手掛けた地図には本当に事細かな詳細が書かれ、その中にはラニ様の拠点と思われる【ラニの魔術師塔】という場所が記されている。
現在地からかなり北に位置するようだから、道中地図に記された廃墟などにも立ち寄るつもりだ。
これまでの経験から、廃墟など何らかの建物があった場所に祝福がある可能性が高いし。
セーブは小まめにしないとな。
「ということで頼んだぞトレント」
「ヒィン!」
これからもお世話になるトレントに好物のフローズン・レーズンをプレゼント。
今いる場所は【湖のリエーニエ】というところで、中央に霧に囲まれた浅い湖があり、その周りを切り立った崖で覆っている。
おっちゃんがくれた地図を見るに、湖の中心には街があるようだ。
もしかしたら、湖から陸路に通じる道があるかもしれないため、今日は大雑把にだが湖の中を探索する!
「んで、お前さんはいつものように相乗りなのね」
なんか当然のような顔でしれっとトレントに相乗りしているメリナ。
なに言ってるのか分からないとでも言いたげな顔が、何だか腹が立つ……。
「まあ、いいけどさ。んぉ!? なんだありゃ!」
霧に包まれた湖の中をトレントが走っていると、前方に巨大なザリガニが見えた。
サイズが尋常じゃない! 余裕で騎乗出来るくらいデケェ! 成長期ですか!?
背中に苔まで生やした巨大ザリガニは俺たちを見るや否や、距離を狭めてくる。
「そういや、茹でエビの素材ってザリガニだったよな……狩るか!」
ここ数日で茹でエビとカニの在庫がかなり減ったし、良い機会だから調達しておこう。
まあ、自分で茹でるのは初めてだから、あの味を再現できるか分からないけどな!
「行くぞトレント!」
「ヒヒィン!」
普段使用している長牙ではなく、背中に括った【大刀】を抜き放つ。
斬馬刀くらいのサイズがあるこれなら、騎乗していても行けるだろう。
「──! 左に回れ!」
モーゴッドとゴドリック戦で使えるようになった見〇色──未来視の力で先読みしてトレントに指示を出すと、彼は攻撃しやすいようにザリガニに寄せてくれながら時計回りに駆けた。
本当に賢いし、それでいて勇猛だよ相棒。
「オラ、脚貰ったァ!」
横をすり抜けながら掬い上げるような軌道でザリガニの脚を断つ。
が、数ある脚のうちの一本だからか、あまり効いてないらしい。特に気にせず大きな鋏でぶん殴ってくる。
それを下から弾きながら一度トレントに距離を取ってもらった。
「機動力は無さそうだな……遠距離から攻めるか」
魔術の余波を食らう可能性が微在なためトレントから降りると、ポーチから【アズールの輝石杖】を取り出し、こちらに向かって前進してくるザリガニに向けて杖を構えた。
「死ねィ! アズール砲──んなにィ!?」
お気に入り魔術であるアズール砲こと【彗星アズール】を放とうとした俺に向かって上体を上げたザリガニは、その口から黒み掛かった汚い水鉄砲を放ってきたのだ!
未来視の発動には相手を注視する必要があり、この時の俺は魔術の発動の方に意識を割いていたため、この攻撃を予見できなかった……!
慌てて横っ飛びで回避すると、勢い良く飛び出した水は、背後の大木をへし折った。まるで規模の小さいアズール砲だ……!
「ザリガニ風情が、ちょっと格好いいじゃねぇか……!」
何だか無性に悔しく感じた俺は、奴に見劣りしない技を披露する。
ポーチの中でその出番を待ちわびていた大弓を掴むと、立て掛けるように構えた。
俺の身長に匹敵する大弓。その名も【エーゴンの大弓】。エーゴンが誰なのか分からないが、ポーチの中には持ち主不明の武器や防具がごまんと収まっているため、今更気にしても仕方ない。
弓の両端──
そして──。
「あぁあああああああアアア────ッ!!」
裂帛の雄叫びとともに捻りを加えた、大矢という名の銛が勢い良く放たれた。
空間をくり貫く、という表現はこの時に用いるのだと思うほど、大気を抉りながら突き進む大矢。
奇しくも同じタイミングで放ってきた水鉄砲を真っ向から穿ち、まったく速度を落とすことなくザリガニの頭から尻尾までをくり貫く。
水飛沫を上げながら倒れたザリガニは、体を粒子に変えて消えたのだった。
……。
茹でエビは!?
1
倒した場所に【白そぎ肉】なるものが落ちていた。
これはザリガニがドロップするアイテムで、見た目からして茹でエビの食材となる身なのだが。
「流石にこれは拾いたくないよな……」
汚れた水の上にぷっかりと浮かんでいた食材なんて、使いたくない。綺麗な水で洗ったとしてもだ。心情的にやっぱ、ね。
猛烈な勢いで頷いているメリナさんの後押しもあり、この【白そぎ肉】は見なかったことにしよう。
ていうか、今後この手のドロップする食材はどうすればいいんだろうか。俺的に地面に落ちた時点でアウト判定だから、消えて落ちる前に空中でキャッチ? 戦闘よりムズいだろそれ。
もしくは、もう完全にカーレたち商人ルートで入手するかだな。
「そういや、敵を倒す意味ないじゃん俺」
ふと気が付いたが、ステータスがカンストしていてアイテムも大体揃っているなら敵を倒す必要がない。
これまで出会った敵は全員倒していたし、ゲーム脳では倒さないとスッキリしないところがあるが、意思の疎通が図れる相手なら極力殺したくない。なら倒さないでいいんじゃね?
どうしても倒す必要があるボスとかなら話は別だけど、今後は無駄な戦闘は避けて行くべきかも。
「やってること野盗に近いしなー」
今のところ俺が倒した奴は話が通じない明確な敵および、逃げられないボス系のみだったけど。倒したら問答無用で持ち物奪ってたし。やってることが野盗や追剥ぎレベルだったし。
ラニ様の従者として主に恥を掻かせないように、行動を慎まなければ。
「もし、もし……。そこの御方……どうか、こちらへ……」
ゆったりとトレントを走らせながら、今後の振る舞いについて考えていると、囁き声が風に乗ってやって来た。
女性のものだ。澄んだ声をしている。
「もし、もし……。こちらでございます……」
周囲を見回していると、女性の石像が置かれた畔のような場所を見つけた。そこに少女が立っている。
近くに寄ってみると、少女は表現を緩める。
「初めまして。この辺りは少し寒いですね……」
金色の紙を結いた美しい顔立ちの少女。大体十六歳くらいだろうか。まだあどけなさが残っている。
飾り気のない服を着ており、背骨が悪いのか超猫背になっている彼女だが、よく目を凝らして視ると何だか可笑しい。
蛇人? とでも言うべきか、二足歩行する大きな蛇の姿が重なって視えるのだ。
……解析眼、故障した?
「えっと、キミは?」
「呼び止めてすみません。どうしてもお願いしたいことがありまして……」
申し訳なさそうな顔でペコリと頭を下げる少女。
言葉遣いに違わず丁寧な娘だ。
「私はラーヤ。主の使いで旅をしているのですが、ならず者に襲われて途方に暮れていまして。大事な首飾りを奪われてしまったのです……」
落ち着きがなさそうに、首もとに手を当てる。
ほう、ならず者ねぇ……。
「それで、貴方にお願いしたいのですが、それを取り返してほしいのです。ただ……彼は、貴方と同じ褪せ人です。同胞と争うことに抵抗があれば、無理にはお願いできませんが……」
なんか美人局感がするし何処と無く胡散臭い話だけど……こんな可愛い娘が嘘つく訳ないよな!
よっしゃ、ここはミステリアス系目隠しナイスガイなお兄さんがクールに事件を解決しようじゃないか!
同胞? そこに無ければ無いですね。
「もちろん!」
「ああ、ありがとうございます。貴方のような方に出会えてよかった」
余程嬉しかったのか、俺の手を両手で包み込むラーヤちゃん。あ、柔らかい……。
でも、相変わらず解析眼の方はバグってんだよな。
蛇人が俺の手を握っているという視覚情報と、手を包み込む女性的な柔らかさや暖かさという触覚情報が齟齬を発生させている。
脳がバグるぜ……!
「……ならず者は、この先の空き家で休んでいると思います。どうか、奪われた首飾りをよろしくお願いします、褪せ人様」
2
ラーヤちゃんの言う通り、少し進んだ先にボロボロの小屋があった。
小屋の前には鍋が置かれており、焚き火で熱せられたザリガニが赤く茹で上がっている。
そんな茹で上がっている鍋をジッと眺めている男が一人。
「……ああん? 誰だこの野郎」
なんか、ジ○ギ様のような被り物をした、柄の悪い男。絶対コイツがならず者だろ。
トレントに乗りながら近づくと、ドスの利いた声で脅してきた。
「何見下しやがる……。失せやがれ、ぶっ殺すぞ!」
「アンタ、金髪の女の子から首飾りを奪ったんだって?」
「妙な疑い吹っ掛けてくんじゃねえ! ぶっ殺すぞ!」
見下すなっていうから降りてやったのに、今度は言い訳か。見苦しい。
大体、悪いことしたやつは言い訳するって相場は決まってんだよ!
ここはやはり打ち首か、と愛刀に手を伸ばそうとした時だった。
「チッ、あの娘の知り合いか? あれはアイツが悪いんだぜ。人様のエビを勝手に食っておきながら、払うもんも払わねぇんだから」
「え?」
「──違います! その人は嘘をついています!」
「ラーヤちゃん!?」
振り返ると何故かラーヤちゃんがいた。ついて来たの? なんで!?
驚く俺に向かって再度ペコリと頭を下げたラーヤちゃんは、心配げな表情でこう言う。
「申し訳ありません。頼んでおいてなんですが、心配で付いてきてしまいました……」
しかし、それも束の間。
勢い良く顔を上げたラーヤちゃんが訴え掛けて来る。
「それはそうと、誰もいない上に放置されていたから食べたんです! 食べて下さいってザリガニさんが言っていました!」
「あぁん!? 嘘つくな、ぶっ殺すぞ! 調理されたもんがあったら人のだって気付くだろっ! あとエビは喋らねぇ!」
「茹でただけなのはお料理って言いません! それとエビじゃなくてザリガニです! エビって言いながらザリガニを食べてたんですよこの人!」
「はぁん!? 美味けりゃどっちでもいいんだよ!」
顔を付き合わせて言い合う二人。
すぐ手が出ると思いきや、物騒な発言や見た目とは裏腹に意外と我慢強いならず者。
そしてラーヤちゃんが、こう見えてかなり残念な娘であることが分かり、すごく意外だった。
ていうか、話を聞いてる限りラーヤちゃんが悪いじゃん……。
【悲報】美少女ラーヤちゃん残念属性【悲報】
そんなテロップが脳内で流れたのだった。
「いいかいラーヤちゃん。人がいなくて誰も手をつけてなかったとしても、勝手に食べちゃいけないよ。ならず者も悪気が無かったんだから、ザリガニの一尾くらい譲りなよ」
女の子相手にみっともない。
しかもルーン代わりに首飾りを没収するなんて、ちょっと陰湿だと思うぞ。
「誰がならず者だ! 俺様にはビッグ・ボギーっていう名があるんだ! ぶっ殺すぞ!」
ぶっ殺すぞが口癖のならず者は大きく溜め息を吐くと、胡乱な目を向けてきた。
「この首飾りが欲しいんだよな。相応の誠意ってのを見せてくれるんなら、考えてやらんでもないぜ?」
「言い値で買おう」
俺の札束ビンタを食らうがいい。
強気に出られるのは苦手なのか、やや怯んだ様子で値段を告げてきた。
「……景気のいい野郎じゃねえか。なら一万ルーン貰おうか。まずはお前からだ、下手な真似すんなよ」
「ほい、一万」
「野郎、まったく躊躇いがねぇ……」
躊躇う理由がないですし。
ちゃちゃっと一万ルーンを支払うと、ならず者は悔しそうに首飾りを投げて寄越した。最後の最後まで爪痕残すなコイツ……。
首飾りはペンダントタイプのもので、凛とした異国の女の肖像が浮き彫られている。
受け取ったそれを本来の持ち主に渡すと、ラーヤちゃんは大切そうに両手で包み込んだ。
余程、思い入れがあるのだろう。
「あぁ、ありがとうございます……。もう二度と返ってこないかと思うと心配で心配で」
「もう拾い食いしちゃダメだよ」
「はい」
本当に分かっているのだろうか。
残念な娘ラーヤちゃんの今後が心配になる俺だが、当の本人はのほほんとした笑顔を浮かべている。
「ケッ……んぁ? あれは──!」
そんな俺たちを前にそっぽを向いていたならず者だが、不意に勢い良く立ち上がった。
どこか興奮している様子のならず者。一体何があるのかと俺も視線を追うと、そこには先ほど会敵した巨大ザリガニと、それに匹敵するサイズのカニがいるではないか!
「へへっ! まさか向こうからやって来るとはな。しかもカニまでいやがる! コイツは絶好のチャンスだぜ、ぶっ殺す!」
両手に無骨な鉄球を装備したならず者が意気揚々と駆け出した。
通り過ぎていく背中を見送った俺はしばし考え、トレントに騎乗する。
何やら喧嘩しているザリガニたちの間に割って入ろうとするならず者へ声を掛けた。
「助太刀するぞ」
「コイツらは俺の獲物だ! 横取りすんな、ぶっ殺すぞ!」
「要らないよ。ただ、アンタの作った茹でエビを一つくれ」
「……なんだ、エビが喰いたいのか? まあ確かに、茹でたてだからなぁ」
どうせドロップした素材はまた汚れるだろうし、それなら彼が茹でていたエビの方がいい。
それに、何だかメッチャ美味しそうだ。茹で加減とかのコツとかあったら教えて欲しいな。
そう言うとならず者は小さく頷いた。
「分かったよ、お前にも譲ってやる。エビ好きに悪人はいないしな。だがカニはやらんぞ」
「おう!」
こうして俺とならず者の共闘戦が始まるのだった。
3
取りあえずカニは俺が受け持ち、早々に処理した後にならず者の援護に回った。
ならず者の戦闘スタイルはボクシングのインファイターに似ている。
基本的にその場から離れず相手の懐に潜り、鉄球のようなグローブを叩き込む。対人なら有効だが人以外の生物、それも巨大な動物には通用しないと思われたが、驚異的な粘り強さで真っ向から叩き潰してしまった。
巨大な鋏での打撃をブロックしきったのは“戦技・我慢”だろうか。
無事に巨大ザリガニとカニを倒し、ドロップした【白そぎ肉】と【蟹玉】をならず者に譲り。
報酬として彼が茹でたザリガニを受け取った。
絶妙な塩加減にプリプリな食感、間違いない。俺たちがこれまで食べていた茹でエビそのものである。
ならず者から茹でるコツなどを教わり、最終的に彼とは「エビ好きに悪い奴はいない」と握手を交わす仲になったのは俺自身意外だった。
「この度はありがとうございました」
ならず者と別れ、元いた場所の東屋に戻ったラーヤちゃんは改めてお礼を言ってきた。
良い娘なのには違いないんだけど、これで残念属性があるとは。人は見掛けによらないの典型例だろう。
まあ、ストライクゾーン超広めの俺にとっては萌えポイントでしかないんだけどね!
「あの、少しよろしいですか? 褪せ人様には是非、火山館にお越し頂きたいのです」
「火山館?」
お礼として家に招かれる、というシチュエーションは二次元か妄想の世界でしかない。
しかし、ここはファンタジーあふれるダークな世界。ラブコメ的な要素もあるよね、ていうかあってと願っていると、まさかのお家招待イベントが発生した。
少々、家の名前が物騒なことを除いては。
「はい。私は火山館のタニス様に仕えています。そして英雄たる褪せ人様を探し、館に誘う招き手です」
それはどういう理由でしょうか。北欧神話のワルキューレに勧誘される的な?
確かあれはラグナロクに向けての戦力として英雄がスカウトされてるんだよね。その代わりお付きのワルキューレで贅沢三昧させてくれるけど。
「貴方は強い方です。ただ戦いに優れているだけでなく、同胞に刃を向けることも厭わない、強い心をお持ちです。その強さこそ、我が主が求めるもの。どうか、これをお受け取り下さい」
そう言い、どこからともなく取り出したのは一通の黒い封書。
蝋で封をされたそこには、蛇のマークが施されている。
「まずは黄金の地【アルター高原】を目指してください。そこから火山館に向かうことが出来ます」
あの、俺これからラニ様の元へ向かうんですけど。
申し訳ないが用事があるため向かえないと伝える。俺にとってラニ様はすべてにおいて優先されるのだ。
招待状を返そうとするが、ラーヤちゃんはやんわりと手を押し返し「もちろん今すぐでなくとも構いません。時間がある時に立ち寄って頂けたらで良いので」と告げてきた。
俺の都合で良いなら、まあいっか。
「祝福に導かれながら、狭間の地の辺縁ばかりをうろつき、彼方の黄金樹をただ見上げるばかり……。ですが貴方は、そんな凡夫ではありません。それを確かに示した時、火山館は真に貴方をお招きするでしょう。共に戦い、英雄たる家族として」
そう言ってうすく微笑むラーヤちゃんに少しだけ背筋が寒くなる。
相変わらずバグっている解析眼は、獲物を前にした蛇といった姿が浮かんでいるし。
……後で、綺麗な水で目を洗おう。
エルデンリングはどこまで知っている?
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ストーリー考察含めて大体熟知している
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本編クリア済だが難しくてよく分からん
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本編未プレイだが、考察動画で大体履修済み
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大雑把な概要だけ知ってる
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タイトルは聞いたことがある