誤字・脱字報告も助かってます!
「ようやくケイリッドね」
師匠の元を離れてケイリッド方面に向かう俺たち。
道中の祝福で向こうについてからの行動を話し合おうと思ったら、メリナから話題を振ってきた。
表情からして安堵の色が大きいが。
「もしかして待ってた?」
「貴方の行動に口出ししない約束だもの。でも、エルデンリングを求めるのであれば、訪れるのは時間の問題だから」
なるほど、メリナは初めからラダーン将軍がそこに居ることを知っていたんだな。
それでも俺の行動に口を挟まず、自発的に動くのを待っていたその心遣いに、申し訳なさと嬉しさを感じる。
昼過ぎなため軽食として用意した、薄くスライスした干し肉で挟んだ茹でカニサンドを頬張る。
塩気がいい感じのアクセントを生んでるけど、まだ物足りないなぁ。
最低でもパンが欲しい。もし人里に辿り着いたら絶対に購入しよう。ポーチにもパンは入ってないし。
「ところで、一つ相談があるのだけれど」
食事の質をどうやって上げるか、色々と頭の中で考えていると、神妙な面持ちで姿勢を正したメリナから相談を持ちかけられた。
メリナからの相談とは珍しい。
「私、もっと貴方の役に立ちたいわ。戦闘でも」
何が飛び出してくるか、こちらも真剣な顔で居住いを正すが飛び出してきた内容は意外なものだった。
思わず間の抜けた顔になってしまう。
「今でもすごく助かってるぞ?」
「その気遣いは嬉しいけど、私自身そう思えない。当初契約していた性処理だって、最近は機会が減っているし」
いや、結構お世話になってるけどなぁ。
流石に毎日ヌいてもらうほどではないが、それでも三日に一度はお世話になってるし。いや、本音を言えば毎日お世話になりたいけど。
でも、がっつき過ぎて嫌われたくないからなぁ。
それに今はボックもいる。流石の俺もボックが居るところでヌくわけにはいかないし……。
「でも、メリナは祝福がないと実体化出来ないだろ。そもそも戦えるのかって疑問もあるけど」
「見くびらないで欲しいわね。戦闘の心得くらいあるわ。それと実体化についてなんだけど、少し確かめたいことがあるの」
腰に差した短剣を見せるメリナ。幽霊とはいえ俺と出会う前はトレントとの二人旅だったから、その辺は大丈夫か。
「私が思うに、祝福は黄金樹に由来するもの。だから、黄金樹関連の祈祷やアイテムでどうにかならないかしら」
「ふむ……」
ポーチに手を突っ込み『黄金樹に由来する物』と念じると、複数のアイテムを掴む感覚があった。
取り出してみると【ルーンの弧】と【黄金のルーン】が握られている。
なるほど、ルーンは黄金樹に由来するものなのか。そういえば【ルーンの弧】は大ルーンを活性化させるものだったな。ステータスカンストしてるから使ったことないけど。
「使ってみる?」
「いいの? ありがとう、頂くわ」
手渡すと早速、【黄金のルーン】を砕くメリナ。その状態で祝福から離れてみるが、光から遠ざかるとこれまでのように霊体化してしまう。
俺の眼は、砕いたルーンの粒子がメリナの中に吸い込まれず、散布されたのを見過ごさなかった。
そのことを報告すると「霊体だから吸収されないのかもしれないわね」と頷く。
続いて【ルーンの弧】を砕くと、今度は黄金の光がメリナを包み込む。
「……! 今度は正解みたいね」
「やりましたねメリナさん、ご主人さま!」
祝福の光が当たらなくとも実体化出来ている。
自分の仮説が正しかったことが嬉しいのか、薄く微笑むメリナにボックも我が事のように喜んでいた。
ええ子や……。
「よし、じゃあ検証するか」
黄金樹由来のものはまだまだあるし、祈祷も当て嵌まりそうだしな。
それにメリナがサポートについてくれれば、戦闘もよりスムーズになる。死んだ場合霊体に戻るのかどうか、そこが唯一の不安点だが……。
「取りあえず、これ食え」
【黄金のルーン】を両手一杯に取り出すのだった。
1
検証した結果、アイテムでは【ルーンの弧】の他にも【鳥脚の黄金漬け】も効果があることが分かった。
ストップウォッチがないから正確なタイムは計れていないが、体感として【鳥脚の黄金漬け】は三分。対して【ルーンの弧】は十分といったところか。
但し、難点としては霊体時は食べれないため、実体化している時に食べておかないといけないが。
一方、祈祷も【黄金樹】の名のついたものは効果があった。
中でも【黄金樹に誓って】と【黄金樹の恵み】は効果が絶大で、どちらも数時間は実体化出来るという結果を得た。
今後はこれらの祈祷で実体化し、戦闘などのサポートを行うという。
彼女の実力を測るため、試しに近くの雑魚敵と戦ってもらったのだが。
「こんなところね。雷斗から見て、どうかしら?」
「いや、予想以上だよ。正直驚いた」
三人の亜人と対峙したメリナは軽快なステップを踏みながら、まるで舞うように敵を翻弄する。
まさか、ここまで戦えるとは思わなかったわ。普通に俺ともいい勝負するんじゃね?
「でも、メリナも黄金樹系統の祈祷を使ってたよな。【黄金樹の回復】とか。なのに実体化出来ないのは何でだ?」
そう。戦闘の最中に祈祷を使うシーンが見られたのだが、どれも黄金樹に由来するものだった。
検証時では【黄金樹の回復】で三十分ほど実体化出来たというのに、何故自身で掛けると実体化しないんだろう。
「そればかりは私も分からないわね。もしかしたら、雷斗が特別なのかもしれないし……」
そう言われると何も言えなくなるじゃん。
「でも、これで戦闘でも貴方をサポートできるわ。……他の娘たちより二歩リードといったところかしら」
上機嫌で短剣を仕舞いながらボソッと呟くメリナ。
難聴系主人公ではない俺の耳は、バッチリとその独り言を捉えていたのだが。
正直、どんな顔をすればいいのか分からない……!
ローデリカとネフェリ・ルーにはハッキリと想いを告白され、メリナからも憎からず想われている自覚はあった。
複数の美女から好意を寄せられ、しかも全員と閨をともにしている。それを当人たちも知っているのに、浮気者と責められないこの関係。
まさに男の夢を体現したような、俺にとって都合の良すぎる環境に、頬が緩むのも仕方ないだろう。
だが、いつまでもこのぬるま湯に浸かることは許されない。いずれ正式な彼女を作って、爛れた四角関係に終止符を打たなければならないのだ。
メリナたちに向ける愛情は異性愛であるのは確かだが、誰が一番というのは俺の中には存在していない。
情けないことに全員魅力的だから、目が移ろいでしまうのだ。
しかも、セレン師匠にもそういった目を向けがちだし。
……節操のない褪せ人だと、いつかチ○コを斬られるかも。
前世はモテない人生だったから、余計にこの状況を楽しんでしまう自分に嫌気が差す。体は強くても心は弱いままだな……。
ネガティブな考えに囚われそうになるところを、首を振って切り替える。自分を騙すことだけは、前世から得意だった。
大きく深呼吸を繰り返してマインドリセット。大丈夫、俺にはラニ様がいるんだから。
ラニ様最高! ラニ様万歳!
──うん、調子が戻ってきたゾ!
「あ、そうだ雷斗。この周辺にはないけれど、封牢を見つけたら積極的に侵入してみるといいわ。ラダーンと戦うのでしょう? 流石の貴方でもラダーンが相手だと厳しい戦いになると思うわ。今から積極的に遺灰を集めた方がいいと思うの」
「そういえばローデリカが言ってたな。封牢には遺灰があるって」
俺が所有する遺灰はまだ二つしかない。単純な戦力強化としては結構ありかも。
「必ずしも遺灰があるわけじゃないけれど、何かしら得られるわ」
「んじゃあ、封牢は見つけ次第攻略していくか」
雑談を交えながらそんな話をしていると「おーい、誰かいないかー! 助けてくれ、嵌まってしまったんだー!」との声が聞こえてきた。
顔を見合わせた俺たちは、声がする方角に向かうのだが、何故かそこには大きな壺が埋まっているではないか。
怪しさ満点の壺だ。周囲に人影はない。
「おお! 貴公、よくきてくれた! 俺は戦士の壺、鉄拳アレキサンダー。見ての通り、穴に嵌ってしまってな。脱出を手伝って欲しいんだ」
「壺が喋った?」
「彼は生きている壺よ。狭間の地では彼のような種族もいるわ」
「マジか」
メリナを疑う訳じゃないが、流石に壺が生きているのは可笑しいだろ。
きっと中で誰かが喋っているに違いないと、透視をしてみるが、壺の中は暗く何も視えなかった。
そして、大変遺憾なことに壺そのものに宿っている生命力を解析してしまう。
混沌とした色だが、確かにこの壺は生きているようだ……。
「貴公、生き壺を見るのは初めてか? 初めて出会った壺が俺のような戦士とは、貴公は運が良いな! ワッハッハッ!」
渋い声で笑う、生きている壺ことアレキサンダー。
これまで目にしてきた異形種では、カエルみたいな顔をしたシロガネ人がナンバーワンだったが、たった今、順位が入れ替わった。
もう何が出てきても動揺しないくらいには、俺の中の非常識が更新されたぞ。
「俺の尻を何か大きなもので殴りつけてくれ。そのままスポッと抜けるようにな。なあに、俺は丈夫だ。鍛えているからな。思い切りやってくれていいぞ!」
さあ、やれ! とゴツゴツした岩の腕を組み衝撃に備えるアレキサンダー。
壺に尻なんてあるのか。新たな豆知識を得た俺は、では遠慮なくとポーチから【クラブ】を取り出した。
えーと、腕がこっちに付いてるから、後ろはここかな。
背後と思われる場所に回り込み、念のため手で触って確認する。
ザラザラした手触りは宛ら陶器のようで、手に馴染むような柔らかい触り心地がある。
仄かな暖かさは彼の体温だろうか。
「この辺?」
「そこは背中だ。もう少し下を頼む」
「ここ?」
「おっふ……そ、そこは違う! もう少し上だ!」
今どこを触ってたんだ俺は……。
ようやく壺のケツを探し当てた俺は、クラブを思いっきり振り被って──。
「待って。貴方の力だと割れてしまうわ。ここは私に任せて」
確かに、俺のカンストしたステータスでは下手すると……。
メリナのストップがなければ危うくアレキサンダのケツを粉砕してしまうところだった。
「──行くわよ」
クラブを受け取ったメリナは半身になると、まるで一流バッターのように棍棒を構える。
スッと上がる左足。一本の脚で体を支えながら足首・膝・骨盤・背中の順番で捻れていく。
大地から水を吸い上げるように足底から発生した力が各関節を通って腕へと伝わり、グッと塞き止められた。
片足立ちだというのに微塵も揺るがない。まるで大樹のようにどっしりとした安定感。
そして、鋭い呼気とともにすべての関節が連動的に回転し、塞き止められた力が解放された。
「おおう!」
世界の王○治を彷彿とさせる、見事な一本足打法。
目の前の壺が硬式ボールだったら確実にホームランだったであろうスイングは、腹の底に響くような重低音とともにアレキサンダーの体を揺すった。
「いいぞっ、もっとだ! もっと来い!」
しかし、現実ではホームランとはならず、アレキサンダーは穴に埋まったままだ。
いや、一センチほどズレてるか? でもまだ脱出出来るほどではない。
やはり、ここは俺が行くべきか。加減ミスったらごめんネ。
「まだよ。次があるわ」
クラブを受け取ろうとする俺にそう告げたメリナは、再びバッターボックス──いや、構えを取る。失敗は折り込み済みということか。
なるほど、賢しいメリナらしい。どのような作戦か見せてもらおう。
「むっ」
二度目も一本足打法かと思いきや、今度はフォームがガラリと変わった。
両足を地面に着けたまま左足をやや内側に引くと、踵を上げた爪先立ちのような姿勢でスイングする。これは、ノーステップ打法か!
脳天に一本の棒が突き刺さっていると思うほど、頭の位置がほとんど変わっていない。身体の軸もブレないため非常にフォームが安定している。
ヒールダウンを初動とした打法は、強靭な足腰によって力が増幅され、一切ロスすることなく各関節を通ってクラブへと伝わっていく。
そして──。
「おおぉうッ!」
ズドンッといった凄まじい音とともに穴から壺が弾き出された。
まさに彼の言うスポッとした擬音が聞こえて来そうな飛びっぷり。
大丈夫か? 割れてないよな……?
「ああ、貴公、見事な一撃だったぞ! このアレキサンダー、危うく割れるところであった。ワッハッハッハ!」
どうやら頑丈というのは本当のようで、プロも顔負けなメリナのスイングを食らってもけろっとしていた。
念のためお尻が割れていないか確認してみると、若干皹が入ってる。
……。
まあ、本人は気にしてないようだからいっか!
「貴公のおかげで何とか脱け出せた。ありがとう。感謝の印に、これを受け取って欲しい」
そう言って蓋を開けて取り出したのは、【勇者の肉塊】という名の骨付き肉だった。
香辛料と薬液に漬け込んだ獣肉で、味的にはアウトドア向けのスパイスが効いた肉かな。
人肉でなくてホッとした記憶があるが、振る舞う相手が勇者をしている亜人なんだよね。
材料となった獣も亜人だったりして。と嫌な想像を掻き立てられ、でも人間じゃないから俺的にノーカン判定が下った。
【勇者の肉塊】の在庫も残り三百ほどだから、素直にありがたい。
「改めて、俺は戦士の壺、鉄拳アレキサンダー。己を鍛えるため、東に向かっているんだ」
「俺は褪せ人の雷斗。こっちはメリナ」
「──! 貴公が大ルーン持ちの褪せ人か! デミゴッドの一人を打ち倒したという! なるほど、貴公ほどの戦士ならば、あの打撃にも納得した。まさにケツが割れるかと思ったぞ!」
「いや、あれはメリ──」
「貴公ほどの戦士が機を逃すとも思わん。貴公も出るのだろう? かの戦祭りに」
中々アレキサンダータイムが終わらない。顔がないから表情も読めないし、会話の区切りが見えねぇ。
「戦祭りが開かれると聞いて遥々足を運んでみているが、貴公のような戦士とともに戦えるのは、俺としても幸甚の至り! 戦祭りなど、伝承の中でしか知らなかったが、何とも胸の躍ることだと思わないか? ワッハッハッハ!」
渋い声で壺を震わせながら笑ったアレキサンダーは「さて、そろそろ向かうとするか」と呟くと、のそのそと歩き始める。
「ではな。次は戦祭りで会おう!」
俺にはトレントがいるけど、あの体で無事に祭りに間に合うのだろうか。
しかし、なんとも気持ちの良いヒトだったな。
ああいうヒトと肩を並べて戦うことが出来ると思うと胸が踊る。
格好良く背中を預けながら剣を振るう己を想像し、思わず相好を崩すのだった。
評価や感想もお待ちしております。
エルデンリングはどこまで知っている?
-
ストーリー考察含めて大体熟知している
-
本編クリア済だが難しくてよく分からん
-
本編未プレイだが、考察動画で大体履修済み
-
大雑把な概要だけ知ってる
-
タイトルは聞いたことがある