取りあえず【無垢金の針】を探しに行く前に、ヒロインに逢いに行こう! ということでミリセントちゃんが居る【腐れ病の教会】にやって来た。
教会の前には門番のように立つ腐敗の眷属たちがいたが、俺のことは既に周知されているのか、ジジッと鳴き声を上げるだけで襲って来ない。
俺も軽く手を上げて挨拶を交わし、中へ入る。
その少女は、壁際に寄り掛かるようにして座っていた。
右腕を欠損しており、結んだ袖が血で染まっている。整った顔立ちは苦痛で歪んでいて、脂汗が額に浮かんでいるのが見て取れた。
そして、少女を内側から蝕む腐敗。致死量とすら思えるほどの腐敗を宿しているのだから、相当辛いだろう。
今すぐ命がどうこうという話ではないが、これを見てのんびり事を構えるほど鬼畜ではない。
声を掛けるのは針を入手してからだ。
すぐにその場を離れた俺は、眼下に広がる赤黒い沼地へ向かった。
1
「こいつは、骨が折れるな……」
エオニアの沼と呼ばれる沼地は広大な面積を誇っており、学校のグラウンド並みに広い。
しかも沼そのものが腐敗と言えるほどカビが大量に繁殖していて、直接触れるのはもちろん靴越しでも感染するレベルだ。
こんな毒沼から針を探すのか。覚悟はしていたが、相当厳しいなオイ。
「──しゃあ! 男は度胸っ」
だが、これもミリセントちゃんを救うため。
そして、フラグを建ててベッドシーンを回収するためにも頑張るぞい!
腐敗対策として装備を一新。
鎧はボックに調整し直してもらわないと駄目なので、免疫力が向上する【免疫の角飾り】と【斑色の首飾り】、一度罹患した病気に対する免疫力を上げる【病のタリスマン】を装備。
腐敗状態を治す【腐敗の苔薬】というアイテムも、すぐに取り出せるように準備しておく。
一度、この状態で沼に触れてみるか……。
「……うへぇ」
靴越しとはいえ沼に触れた途端、何とも言えない気持ち悪さを感じる。例えるなら二日酔いのような感じか。
その状態で自分の体を視てみると、腐敗状態と判断できるボーダーラインに向けてジリジリと閾値が上がっていくのを確認できたが、予想以上にペースが遅い。
これなら十秒くらいなら触れていられそうだ。その間の不快感に目を瞑ればの話だけど!
しかし、やるしかない。俺がやらないで誰がミリセントちゃんを救うってんだ……!
メリナたちには陸で待機してもらい、なるべく触れないように気をつけながら慎重に沼の中を視ていく。
ケイリッドに来た当初も思ったが、腐敗の情報含有量が凄まじい。
例えるなら、武器に内包された情報量が薄い本くらいだとしたら、ラニ様の未来視暴走事件では単行本ラノベほど。
それらと比較すると、腐敗は百科事典並みの情報量を含んでいるのだ。深淵を覗くと頭パァンってなるかもしれない、マジで。
だから、透視に留まるよう加減をするのが地味に神経使う。コツはピントを合わせないようにすることです。
「お?」
不意に視界の端で人影を捉えた。赤い沼の上を元気よく駆けている人影。
この毒沼を走り抜けるとか豪胆過ぎるだろ、と思いながらその傑物に視線を向けると──。
ミリセントちゃんでした。
「アイエエエエエエエ!? ミリセントちゃん! ミリセントちゃんなんで!?」
息も絶え絶えな様子で教会に臥せていたよね! 殺意満々ですっげぇピンビンしてるんですけど!?
「──いや、ミリセントちゃんじゃない……!」
欠損していた右腕があるし、よく視るミリセントちゃんの腐敗だコイツ。
他の腐敗が朱色なのに黄色が混ざっているなんてミリセントちゃんの腐敗としか考えられない。
大方、ミリセントちゃんに宿る腐敗の防衛本能といったところか。此処に自分を封じ込める針があるから、沼に入る人は片っ端から撃退しているってところか?
カビに防衛本能があるか分からないけど、この情報含有量だからなぁ。
「くっ、結構強いなミリセントちゃん!」
宿主の動きを模倣しているのだろう。長牙すら勝る抜き身の刃は、流れる水のように淀みがない。技の起こりや継ぎ目がマジで見にくいんだけど!
ていうか、
沼に根差す捻れた大木の枝を足場に、俺も刀を振るう。
俺のスタンスは体に染み付いた我流剣術だが、ここ最近は葦名さんの流派である葦名流刀術に腐心している。
巻物には戦に勝つことを至上としている葦名さんが経験した戦いや、その対策などが書かれており、正眼構えが基本だ。
源の水の流れの如く、力強く実直な太刀筋を以て葦名流とする。だがその真髄は、他のあらゆる技を飲み込み絶えず変化してゆく、無心にあり。
「ちえぇええええええいッ!」
基本にして奥義“葦名一文字”。
正眼構えからの素早い面打ちで、葦名さんも戦祭りで度々使っていた技だ。
所謂、剣道の面打ちに相当するのだが、スポーツの側面もある剣道では判定を取るために竹刀を先行させて、そこから体が追い付く形が多い。
しかし、戦を至上とする……すなわち、如何に効率よく殺すか、または戦闘不能に追い込むかを理念とした【葦名流】は剣とともに体を動かす!
「“防ぐ”か。本物のミリセントちゃんなら、どう動いただろうなァッ!」
倣い始めだから“一文字”は完璧とは程遠く、高いスペックでそれっぽく動いてるだけに過ぎないだろう。
ミリセントちゃんほどの技量なら躱せた太刀であっただろうに、敢えて防ぐとは。本能で戦っている証拠だァ!
「これも“防いで”みせろッ!」
剣と衝突して生まれる反作用を利用して、次の技へ繋げる。
がら空きになった胴を狙うは“葦名横一文字”。
縦の一文字が面なら、横はもちろん胴打ち。だが、その高さは腰ではなく、脇腹だ!
「ハッハァ! やっぱり防ぎやがったな!」
無理な体勢で剣を立てて防ぐミリセントちゃん(腐)だが、それを待っていた!
防がれた瞬間、刀から手を離した俺はそのまま体を捌きながら踏み込んで、ミリセントちゃんの手の甲を掴む。
そのまま弧を描くように重心を崩し、たたらを踏む足を払えば──。
「制圧完了、てな。ミリセントちゃんの体だから傷つけるわけにゃいかないし、このまま寝てもらうぜ」
腕を背中側に捻って、力が緩んだところで剣を取り上げる。
武装解除が終わったら速やかに寝技へと移行し、頸動脈を絞めて気絶させた。
フッと体から力が抜け気絶したミリセントちゃんだが、その途端体が腐敗へと変わった。
「これって、ここの沼? でも、明らかに教会にいるミリセントちゃんと同じ体だったのに……え?」
先ほどまで戦っていたミリセントちゃんがご本人ではなく、ここの沼がメタ〇ンのように姿を模した存在だったと分かり、目が点になる。
体を構成する物質までは視てないけど、あれは教会で伏していたミリセントちゃんと同一の人物だった。ミリセントちゃん特有の黄色が混じった朱色のオーラを見間違うわけがないし。
考えられるのは二つ。
一つは、ミリセントちゃんに双子がいたケース。
その場合、ミリセントちゃんと同じ色を有していても見間違う可能性が無きにしも非ず。
だけど、ここの沼と同じ存在だったことが判明したから、双子ちゃんだった場合、ミリセントちゃんも腐敗が擬人化した可能性がある。
もう一つは、他でもないミリセントちゃんご本人だったケース。
俺の読み通り、腐敗の防衛本能で沼に近づく人を片っ端から撃退していたのだとしたら、あそこまで腐敗に侵されている理由も分かるし、右腕が無いのも戦いによるものだと納得──さっきのミリセントちゃん右腕あったわ。ほな、違うか……。
え? 結局、さっきのミリセントちゃんは何だったんだ??
シンエン『オ? ノゾイテイクカ?』
「……」
何だか気にしちゃいけない気がしたので、思考をカットする。
臭い物に蓋をするのは得意なんだ俺!
「お? これは……」
ミリセントちゃんが消えた場所に一本の針が落ちていた。
半ばでぽっきりと折れてしまっているが、状況的に考えてミリセントちゃん(腐)が持っていたに違いない。
「好敵手よ、ワシは覚えているぞ! 貴公の猛々しいあの姿を! ぐわっはっはっはっはっ!」
遠くで勇ましく旗を振るお爺さんを見掛けたが、絶対面倒なことになりそうだからスルーしておく。
あの人も腐敗に侵されてるっぽいけど、メッチャ元気だなぁ。
それはそうと、この針どうしよう。これが腐敗を封じるアイテムなのはわかるけど、折れても使えるんか?
「ご主人さまご主人さま、このボックめにお任せください!」
「ん? 直せるの?」
「はい! 針り子としてその辺りの技術も母さまから教わりました。数時間もあれば元に戻せると思います!」
「マジか。やるなボック」
ボックの針子としての技術はこれまでの付き合いでよく分かっている。
デミゴッドの衣装は流石に無理だったが、その他なら鎧でも調整出来るのだ。彼の技術と知識なら、針の修復が出来ても可笑しくない。
ここ最近は戦闘力もメキメキと上達しているし、何かと世話になる従者だ。
2
沼を出て、一旦【赤獅子城の広場】へ移動する。
祝福経由のファストトラベルは俺にしか出来ない移動法だったが、俺に触れた状態ならメリナとボックも移動できることが分かり、旅がかなり楽になった。
俺だけ先に現地入りするというのもかなり気が引けていたし。今後は気兼ねなく祝福で各地をショートカット出来るぜ。
城主のお爺さんに挨拶をしようと思ったが、どうやらやるべきことがあるということで不在とのこと。
不在の間、城を任されている坩堝の騎士さんに許可を貰い、しばらくボックとメリナを預けることに。
ボックによると修復には最低五時間は掛かるとの話なので、この時間を利用してラニ様の元へ進捗状況を報告することにした。
「ラニ様ラニ様ー!」
見て聞いて褒めて! あのラダーン将軍を倒してノクローンへの道を見つけたかもだよー!
久々に主に拝謁出来るためウキウキでラニ様がいらっしゃる最上階へ向かったのだが──。
「すぅ……すぅ……」
「あらま……」
いつもの椅子に腰かけたラニ様は、可愛らしい寝息を立てながら夢の世界へ旅立っていらっしゃった。
視てみると、本体のラニ様の呼吸に合わせて人形の胸が薄く上下に動いている。
息をする必要がない体だが、生身であった頃の癖というものはそう簡単に抜けないようだ。
「それにしても……」
やはりラニ様は美しい……。
いつもの冷笑を浮かべるラニ様も素敵だが、あどけない寝顔を見せるラニ様も非常にキュート。
本当に、この世界にカメラがないのが悔やまれる……! なんで単眼鏡はあるのにカメラがないんや!
そんな世界の理不尽に憤っていた俺の脳が、一つの真理に至った。
──カメラが無ければ、スケッチすればいいじゃない。
真理の扉を開いた俺は反射的にまっさらなスクロールと羽ペンを取り出し、側にあった木箱をラニ様の正面に置くとさっそくペンを走らせた。
羽ペンはセレン師匠の授業で頻繁に使うため、もうボールペン並みに扱える。
繊細なタッチでラニ様の輪郭を描いていく。
解析眼によるものだろう。覚えようと意識するだけで録画モードになるため、スクロールの上に被写体の映像を脳内で投影することでなぞり描きするように簡単に模写が出来る。
ちなみに授業中は、よくセレン師匠の顔を盗み見てはスケッチしているため、被写体の模写には慣れています。素顔だけでなく透視を使って裸体もスケッチしてるけど、そこにやましい気持ちは…………あるが、来たるべき時のために必要なことなのだ。
「眠れるラニ様も良いが……」
僅か五分で完成したスケッチ。
我ながら惚れ惚れするクオリティだ。色鉛筆があれば明暗を使い分けて更にクオリティを高めることが出来るのだが……。
色鉛筆は無理でも水彩画には手を出したい。各所で確認できた知られざる画伯である、名もなき画家が水彩画を描いているんだから、絵の具はある筈だ。
商人のおっちゃんたちのコネでなんとか手に入らないものか。
そんなことを考えながら、新たなスクロールに横チェキしながら可愛らしくウィンクをするラニ様の絵を描くのだった。
我が力作を見て貰いたかったが、わざわざ起こすのも忍びないためその場を後にした俺。
そのままセレン師匠の元へ向かおうとすると、一階の方から大きな鳴き声が聞こえてきた。
何事かと降りてみると、そこには入り口から首だけを突っ込んだアデューラが居るではないか。
首だけニョキッと生やしたその姿。しかも俺の姿に気づくと目を輝かせて嬉しそうに喉を震わせる。
まるで飼い主が帰ってきたのを待ちわびる動物のようで、雄々しいドラゴンとのギャップに思わず吹いた。
「グルルルルルル……」
「ドラゴンっていうよりハスキー犬じゃん」
友達の家にいたハスキーがまさにこんな感じでご主人の帰りを待っていた。
近寄ると『撫でて撫でてー!』と言うように更に首を伸ばしてくるから入り口がピキピキ鳴ってるぅうううう!
「ステイステイ! 壊れる! 入り口壊れるから!」
なんとかアデューラを宥めて外に出ると、俺と逢えたのがそんなに嬉しいのかベロンベロン顔を舐め回して来る。
そう言えばメリナから聞いた話だと、俺が竜の御子らしいが。良い機会だからアデューラに聞いてみよう。これまでの反応から人語解ってるみたいだし。
「なあアデューラ。俺って竜の御子なん?」
「──! グォオオオオオオオオッ!」
俺の言葉に物凄い勢いで首を縦に振るアデューラ。風圧で吹き飛ばされそうなんだけど!
竜語で何かを伝えようとしているアデューラだが、すまぬ。ちっとも分からん。
けど嬉しいといった感情は伝わってくるから、俺が御子であることは疑いようのない事実っぽい。
なお、記憶がない旨を伝えたらメッチャ凹んで、ぐでドラゴンになりました。
3
セレン師匠の元へやって来た俺。
番人のカボチャ頭に挨拶をして師匠の部屋に入る。
いつものように考える人のポーズを取っていた師匠は俺の姿を認めると、開口一番に褒め言葉を口にしてくる。
「彼の将軍ラダーンを倒したそうじゃないか。師匠として鼻が高いよ。まあ、その師が良かったんだがね」
被り物で隠れてるから分からないと思っているのだろうが、すごいドヤ顔のセレン師匠。
何気に褒めてくれるのって師匠くらいだから好き。頼んだらナデナデしてくれるだろうか。
自己肯定感が爆上がりする中、師匠とのベッドシーンでは存分に甘やかして貰おうと妄想していると。
「時に我が弟子よ、宿題の進捗は如何かな?」
「うっ……」
毎日、師匠の元へ通っている訳ではないため、毎度授業の後に宿題を渡されている。
通常なら新たな魔術を習得するタイプなのだが、例によって一度見るだけで完璧に術式を丸暗記出来るスペックのため方向転換。
知識を求めているのならこっちの方が良いだろうと、無駄のある術式を提示してそこから最適化させたり。
莫大な量の魔力を必要とする魔術を最小限の魔力で起動するようにお題を出したりと、中々高度な宿題を渡されている。
今回は基礎魔術である【輝石のつぶて】を断続的に放つためには、どのように術式を改良すれば良いか、という問題だ。
「一応、出来たんですけど……」
これまでの授業内容を振り返れば解けると言ってたけど、正直自信がない。
メリナも魔術に関しては素人だからアドバイスとか貰えなかったし。
記憶をビデオのように再生しても、それらしいことは確かに言ってたけど、明らかにこれは応用問題だ。
渡したスクロールを黙読する師匠からどんな反応が飛び出て来ることやら。
ドキドキしながら結果を待っていると──。
「うん、よく出来ているじゃないか。ただ、これだと単文が干渉してしまうから、ここの文を省略するともっと良くなるな」
及第点を貰えた!
優しい声で改善点を指摘してくれる師匠。
確かにスパルタだけど、きちんと褒めてくれるから、もっと期待に応えたいと思えてくる。
「師匠、今日もよろしくお願いします! 三時間コースで!」
「熱心な生徒は嫌いではないよ。よろしい。では早速、授業を始めよう」
この後みっちり授業した。
エルデンリングはどこまで知っている?
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ストーリー考察含めて大体熟知している
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本編クリア済だが難しくてよく分からん
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本編未プレイだが、考察動画で大体履修済み
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大雑把な概要だけ知ってる
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タイトルは聞いたことがある