その女性を一目見た途端、脳が痺れた。
彼女から目が離せない。
まさに運命と出逢ったような確信とも言える強い衝撃が、胸の内に響いた。
オフホワイトの尖り帽子に、同色のドレス。何の動物か分からないが灰色の毛皮コートを羽織った、青白い肌をした女性だ。
クールビューティーという言葉が似合う整った顔立ち。そよ風で靡いた群青色の髪は背中の半ばまであり、慎ましやかな胸の前で優雅に組まれた腕が四本。
そして、その体と重なり合う半透明の人物。幽霊のようなその人の顔立ちや体格は肉体と異なっている。
明らかに人ではない。生気が感じられないから、恐らく人形の類と思われる。
となると、重なり合う形で視えるあの人が本体か。
(――よく視たら幻術……)
彼女から魔力の糸が彼方へと伸びているのを確認したところで、軽い頭痛に見舞われた。目隠しである程度情報を遮断している状態でも解析は出来るようだが、やはり頭が痛くなる……。
ついでに彼女が人形であることのほかに、真名が【ラニ】ということと、デミゴッドとやらの一人ということも分かったが、後半は何のことかサッパリだ。
「私は魔女レナ。トレントという名の霊馬とは少し縁があってな、彼が気に入った褪せ人は久しく見なかった」
「えっ? ラニって名前じゃ……」
あ、やっべ。と思うも時遅し。
解析眼で思わず見抜いてしまった真名を口にしたら、小さく瞠目した。
「――待て、もしや私を何処かで見たのか? であれば隠しておいても致し方ない。確かに私はラニだ」
何かと狙われやすい身だからレナという偽名を名乗っていると説明したラニさんは、続けて当然の質問をしてきた。
「それで、何処で私の名を知り得た」
怪訝な目で俺を見下ろすラニさんは、何処からかステッキのようなものを取り出した。
先端に宝石らしきものが備え付けられたそれは、如何にも魔法の杖といった様相を呈しており、警戒心に満ちた目とともにステッキの先端を向けて来る。
だよねー! 会ったことのない人が本名知ってたら、そりゃ警戒されるよね!
「あー、えっと。信じてくれないかもだけど、その……視えるんだ」
「視える? 何がだ」
「色々と。その体が人形であることや、今ここに居る貴女が幻であること。人形に繋がった魔力があっちの方に伸びてるから、本人はそっちにいるのかな? あと、本名がラニという名前であることや、デミゴッドとやらの一人であることとか」
目隠しである程度情報を遮った状態だとこの辺が限度だけど、裸眼だとさらに読み取れると思う。
けど、やらない。すっげえ頭が痛くなるし、なんとなくだけど、読み取れる情報量が凄まじいことになりそうな予感がするから。
「……目を覆った状態で視界が利くのか? いや、待て……もしや」
取りあえずこちらに害意がないことは伝わったのか、ステッキを下ろしてくれるラニさん。
四本ある腕のうち一本が小さな顎に手を当てて、思案顔で首を傾げた。うぉおおおおお! か、可愛いィィィッ!
ヤバイ、ラニさん超可愛い過ぎる。お願いすれば一体譲ってくれないかな……。
ていうか、トレントさんはいつまで俺の髪をむしゃむしゃしてるんですか。懐かれているのは分かるけど、その理由はさっぱりだ。
あれか? 動物的フィーリングか?
「お前、その布の下にある眼を見せてみろ」
俺の解析眼が見たいと? いいぜ、他ならぬラニさんの頼みだ。結構頭が痛くなるが、見せてあげようではないか。
黒い布を外して今夜二度目となる裸眼を披露する。
その瞬間――。
――後は、私が行くだけだ。私だけの暗き路を。
――この度の、見事な働きの礼だ。奇妙な品だと思うだろうが、奇人のお前ならきっと気に入るだろう。
――少し、昔話をしようか。神人だった、かつての私の話を……。
――ブライヴとイジーに、伝えてくれ……愛していると。
突如、俺の脳内に溢れ出した、存在しない記憶。
目からドバっと涙が溢れる。少しの間だし、視たのも全てではないが、ラニ様が背負う業や待ち受けている未来を識ってしまい、涙が止まらない。
そして、同時に理解する。彼女は――彼女こそが、俺の主であるのだと。
「まさかとは思ったが、本物か……。お、おい。どうした?」
「な、なんでも、ないでしゅ……」
突然、涙を流し始めた俺を心配してくれるラニ様。優しい……いっぱいちゅき。
「こほん。その眼なら確かに、私の名を看破するなど容易いことだろう。褪せ人よ、名はなんという」
「ら、雷斗です、ラニ様ッ」
「そ、そうか。雷斗か。……トレントの古い主から託されたものがある。今の主であるお前に渡しておこう」
そう言うとラニ様は銀色のハンドベルと石造りの小箱を渡してきた。
やった、ラニ様から下賜されたぞ!
「それは【霊呼びの鈴】と言ってな、黄金樹に還ることのなかった遺灰から霊を呼ぶことが出来る。お前に今渡したのは、【はぐれ狼の遺灰】だ。呼び出された霊はお前を一時の主とし、かつての戦いを思い出すだろう」
遺灰って、えぇ……。
動物の遺灰とかならまあ別にいいが、名も知らぬオッサンの遺灰とか渡された時にはどうすりゃいいんだ。
狼の遺灰が入った小箱はルービックキューブほどの大きさで、蓋が取れないよう厳重に封がされている。
「ところで雷斗よ。お前、仕えている主はいるか?」
「――っ! いいえ、居ません」
大切なイベントが来たと直感的に感じた俺は背筋を正し、真剣な表情を作る。
このイベントを逃したら、終わりだ。
「雷斗よ、私に仕えぬか? なにかと人手不足でな、遣いに出した者も中々帰って来ぬ。優秀な駒が必要なのだよ」
その言葉が耳に入り、脳が理解した瞬間、一も二もなく頷いた。
「――是非ッ!」
「……物好きな奴だ。奇人とでもいうべきか、このような誘いにのるとはな。では、改めて名乗ろう」
奇妙なものを見る目を向けていたラニ様だったが、最初の涼しげな余裕のある表情に戻ると、大きな月を背に名乗る。
「私は魔女ラニ。かつて死を盗み、今も暗き路を探している。お前の眼なら本体の私をすぐに見つけられることだろう。再会の時を楽しみにしている」
よろしく頼む、我が臣下よ。そう言い残し夜露となって消えたラニ様。
晴れてラニ様ルートを開拓した俺は、無言でコロンビアポーズを取るのだった。
1
メリナが現れて正気に戻してくれるまでの間、男泣きしていた俺。
祝福の光が届く範囲なら姿を見せることが出来るらしいメリナも、ラニ様のお力添えになることには全面的に賛成とのこと。
というより、黄金樹の麓まで連れてくれるなら余程のことがない限り、俺の好きに動いていいみたい。
でも三本指ルートは全力で阻止してきそうな予感。
ラニ様の未来視で断片的にではあるが、この世界の情報を仕入れることができた。
とはいっても、二本指や三本指などの用語だけだったり、前後の背景が分からない超断片的光景だったりなど、その八割は意味を成さないものであるけど。
肝心のラニ様に関するものだって、放浪する狼人間の剣士と知的な巨人の鍛冶師、人形大好きな魔術師である三人組が近しい存在であることくらいだ、分かったことは。
この三人の他で有益な情報と言えば、戦技や魔術・祈祷術の使い方くらいだろう。
そう言えば断片的に視た未来の中で、ラニ様に仕える狼男に関する情報をカーレが持っていたな。
「カーレ、人狼の男を知らない?」
「ブライヴのことか? なんだ、ブライヴと知り合いなのか」
「そんなところ。今どこに居るか知っていたら教えて欲しいんだけど」
ふむ、と思案顔で宙を見上げたカーレは、少し間を開けると頷いた。
「まあいいだろう。どうせアイツのことだ、また迷子になっているだろうからな」
ここから東にある霧の森。もしそこで狼の遠吠えが聞こえたら、その真下で合図を送ってみると良い。アンタの探し人が現れるだろう。
そう言い、その合図を教えてくれるカーレ。
情報量としてルーンを渡した俺は、さっそくその霧の森へと向かってみることにした。
「おっしゃあ、地図ゲットォ! 駆けろトレント!」
「ヒヒィンッ!」
カーレが居を構える【エレ教会】の少し先にある、崖で挟まれた関門前の祝福に来た俺。
祝福の比較的近い場所にはストームヴィル城の兵士が建てた野営があり、十人以上の兵士が歩哨している。
色々と経験が足りていない俺にとって彼らを使った検証は何かと捗る。
「ふーむ、“回転斬り”はこんな感じか。横だからリーチは稼げるけど隙が多すぎるな」
当初、敵とはいえ改めて人を殺めることに多少の躊躇いはあったが、奴さんは「問答無用! 見敵必殺!」のスタイルで有無を言わずに殺しに掛かってきた。
何を言おうと無言で武器を振るい、死の間際まで敵を排除しようとする姿は、寒気すら覚えたね。確かに死にゲーのエネミーってこんな感じだけど、実際に遭遇したら恐怖しかないわ。
しかも、こっちはカンストステータスだというのに、敵がやけに硬い。心臓や首など致命傷を与える一撃を放っても平然と起き上がるし。
やっぱり人間じゃないのかもしれない……。
「結構試したけど、猟犬ステップが付いた長牙が一番使いやすいわ」
なまじ所有している武器が多すぎるため、戦技の確認だけでも一苦労だが、今のところ『猟犬ステップ』がついた長牙をメイン武器として扱っている。一瞬姿が消えるほどの速度で自由自在に間合いをコントロール出来るから使い勝手が良い。
それにしてもコイツら、被弾しようと気にも止めない。そんな兵士が五人も六人も一気につっこんでくるのだ。検証を始めてから十回は死んだね。
けど、やはりこの体は死ぬことに慣れているみたいで、死に対する忌避感が少ない。それに伴ってか、痛みに対する耐性もあり、死にすぎて精神崩壊を起こすといった予兆は今のところ見られないのはありがたいな。
「よし、今度は魔法を試すぞ~」
敵がそんなんだから俺も振りきっちゃって。今はもっぱら持ち合わせている戦技や魔術などの効果などを確認している。
戦技は武器その物に付与された『本来の持ち主が好んで使っていた技』の総称で、武器毎に扱える戦技が異なる。
使用方法は体が覚えているため感覚の話になるが、戦技を使うと身体が勝手にモーションをトレースし、技を放つといった感じだ。
大体、二、・三段目まであり、型を終えると動けるのだが、技を放っている途中はキャンセル利かない。変なところでゲーム的であり、これがあるせいで扱う武器もより慎重に厳選する羽目になった。
「炎系はメリナに見られるとヤバそうだから……まずは“ローレッタの大弓”!」
一方の魔術・祈祷術だが、こちらは触媒となる武器によって使用できる種類が異なるタイプだ。
例えば今、俺が数十回目の奇襲で使用した魔術は杖があれば使用できる。一方で魔術に似て非なる祈祷術は、聖印と呼ばれる触媒を介さないと発動しない。
掌に収まるサイズなためアクセサリーのように装備して使えないか検証したが、手で握らないと駄目だったのが地味に残念。
戦技と違って魔術・祈禱術はすでにかなりの量を覚えており、一々武器を取り替えないでも発動できるのが利点だ。まあ、握らないといけないから必然的に武器が片手持ちになっちゃうけど。
「んんー、良い感じに使えるな。ローレッタって誰だか知らんけど」
ちなみに祈祷の中には火に関するものが結構あったりするが、メリナから聞いた話だとこの世界にとって忌避すべきものらしい。あれかな、黄金樹を燃やせる可能性があるから避けてるのかな。
【火の祈祷】や【火の巨人の祈祷】なら百歩譲って許容するけど、【狂い火】だけは使わないでと懇願された。
まあ、極力要望には応えるようにするけど、それじゃないと厳しいようなら使うよ。死ぬの俺だし。
「よしよし、大分釣れたな……トレント、いつもの所まで戻るぞ!」
「ヒィンッ!」
何度も突撃をかまして分かったことだが、この兵士たちは戦略的な思考は持ち合わせていないらしい。皆、視界に入った敵に向かって猪突猛進するだけで、挟撃しようとかは一切ない。
ある程度の数を特定のポイントまで誘導するのは非常に楽だ。
一本道に誘導した俺はトレントから降り、【アズールの輝石杖】を掲げる。
「オラ死ねぇ!“彗星アズール”!」
杖の先端から翡翠色の極太ビームが放たれる。魔力が持つ限り継続可能なこのビームは俺のお気に入り魔術の一つだ。
トレイン状態だった敵兵たちは翡翠色の光線に飲まれ、跡形もなく消滅する。
ちなみに検証した結果、一分は撃ち続けることが出来ました。
エルデンリングはどこまで知っている?
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ストーリー考察含めて大体熟知している
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本編クリア済だが難しくてよく分からん
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本編未プレイだが、考察動画で大体履修済み
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大雑把な概要だけ知ってる
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タイトルは聞いたことがある