「ご主人さま! 見てください、できました!」
「おぉ、やるなボック」
どのような方法で修復したのか、ポッキリと折れていた針を見事に直したボック。溶接の跡すらなく、折れていた形跡も見られない。見事な仕事ぶりだ。
その頭を撫でてあげると嬉しそうに相好を崩した。
「オイラ、もっともっとご主人さまのお役に立てるように、がんばります!」
「今でも十分助かってるよ」
これは本当だ。針子としての腕は一流で、布地の服はもちろん兜や鎧、手甲、足甲の再調整まで行える。
その上、俺の戦闘訓練にも泣き言を言わずについてきて、二人程度の兵士なら単独で撃破出来る程までに成長した。
簡単な魔術や祈祷術も覚えようとしているし、正直彼の働きに見合う報酬が出せているかこっちが不安なくらいだ。
「報酬だなんてそんな! ボックはご主人さまの針子をさせていただいているだけで幸せです」
なんてええ子なんや……。
新たに考案した【エビのすり身団子揚げ】をもりもりと食べていたメリナも、ボックの純朴さに触れ相好を崩している。
ていうか、お前……それ一つ揚げるのに茹でエビ十尾分なんだからな! 腹ペコキャラみたいに全部食うなよ!?
グッと親指を立てているのは「分かっているわ」という意味なのだろうか。それとも「このエビ団子、案外いけるわよ」の意味なのだろうか……。
「──ご主人さま、ひとつお願いがあるんです。貴方様を、わが王と、お呼びしてもよいでしょうか?」
【ひび大壺】の中に保存してある茹でエビの在庫をチェックしていると、神妙な面持ちでボックが声を掛けて来た。
我が王って、どうした急に。
「……主人さまたち褪せ人は、エルデの王を目指すものと聞きました。オイラは、ご主人さまが王さまになると思ってますし……ご主人さまのような優しい人が、王さまになって欲しいと願っています。だから、お許しいただきたいのです。貴方を、わが王と呼ぶことを」
そこまで慕ってくれていたとは……。
成り行きで始めたエルデンリング修復の旅。それは同時にエルデの王を目指す旅路でもある。
現代社会で王への道を行こうとするなら、王族に産まれるか建国するしか方法がなく、前者は完全に出生ルーレットだし、後者は国際社会に認められる必要がある。
非常にハードルが高い現代に比べて、此処ではエルデンリングを修復した者が王になれるため、祝福が見えている褪せ人なら誰もが王になるチャンスがあるのだ。
とはいえ、王になるということは必然的に国を統治し政をするということ。現代社会で政治の面倒臭さはテレビ越しに嫌でも感じたので、王の座は他の人に譲ってトンズラしようと思っていたけど……。
「いいよ。好きなだけ呼びなさい」
「本当ですか! ありがとうございます! わが王、わが王、わが王よ……エルデの王に、おなりください。そしてお針子のボックを、どうかずっと、お側においてください」
こうまで真摯に願われちゃうと、なぁ。
ちょっと真剣に王になる道を考え始めた俺は、ボックが直してくれた針を手にミリセントちゃんの居る教会へ訪れた。
未だ苦しげに臥せている彼女の側へ歩み寄る。
「大丈夫?」
「う……き、君は? いや、誰であれ……すぐに私から、離れた方がいい……。私の身体の内には、朱い腐敗が蠢いている……。これは呪い……人が触れるべきものではないんだ……」
朦朧とした様子で目も合わないミリセントちゃん。病で相当体力を削られているようだ。
側に腰を下ろした俺は、ポーチから【温もり石】を取り出して体温を下げないように処置をする。
「ゴーリーというヒトに頼まれてね。キミのその病を鎮めに来たんだ」
「ゴーリー……? その針を、刺せと……いうのか……朱い腐敗を、抑えるために……君は、一体……」
ゴーリーのことを覚えていないのか? 彼が育ての親だと聞いたけど。
それとも、思い出せないくらい病が進行しているのか。なんにせよ、針を使わない限り病を鎮めるのは難しいだろう。
改めて視て思ったが、生きているのが不思議なくらいで、それほど彼女を蝕む腐敗は深刻だ。
さて、どうやって説得したものか。と頭を悩ませていると、頭を振うミリセントちゃん。
「……いや、分かった。このまま、ただ腐っていくよりは……君を信じよう。……少し、目を閉じていて、くれないか」
「うん。あ、でも刺す場所が分からないよね。彼女に教えておいたから、手伝ってもらって」
適当に刺してもある程度効果を発揮してくれるが、病巣に刺せば最大限の効果が見込める。
予めメリナに刺す場所を教えておいたから、彼女に処置してもらった方が良いだろう。
祈祷術【黄金樹の恵み】でメリナを実体化させる。
突然現れた彼女に少し驚いた様子のミリセントちゃんだが、女性である点からこちらの配慮を理解したようだ。
「……ありがとう」
「──背中、失礼するわね」
無事、処置が終わったようなので振り向く。
針はしっかりと指定した場所──心臓の背面に刺さっている。
血色も少しだけ良くなっているし、何より体の内側を蝕んでいた腐敗の活動が目に見えて下がっていた。
「……存外、すんなりと刺さるものだな。だがこれは……こんなに、も……」
腐敗が鎮まったのを感じ緊張の糸が解れたのか、気絶するミリセントちゃん。
彼女を抱き留めたメリナはその体を壁に寄り掛からせると、俺が手渡した羽毛のシーツを被せた。
「腐敗を宿していたなんて、大変だったわね……。まるでマレニアの様だわ……」
「マレニアって言うと、確かラダーン将軍と引き分けた?」
「ええ。兄ミケラの刃。腐敗のマレニアとも呼ばれていたわ。彼女も内なる腐敗に蝕まれ、どうにかしようと争ったみたいだけど……」
「むしろ破砕戦争で悪化した、というわけか。儘ならないなぁ……」
そんな他愛ない話をしているとミリセントちゃんの目が覚めた。
「ぅ……私、は……」
「大丈夫? 体の調子はどうだい?」
「……そうか、気を失ってしまったのか。すまない……。ああ、君の言う通りだったよ。あの針を身体に入れてから、朱い腐敗は蠢かなくなった。悪夢を見ることもなくなったし、まだ信じられぬことだが、しっかりと動くこともできる」
体を起こして立ち上がり、体の調子を確かめるように手をグーパーしているミリセントちゃん。
起き上がれないほど衰弱していた様子が嘘のようだ。
金色の瞳に喜色を浮かべたミリセントちゃんは、その涼しげな目をこちらに向けて来る。
「君が、私を救ってくれたんだな……。私はミリセント。君には感謝のしようもない。これは、せめてもの礼だ。どうか取っておいてくれ」
そういって渡して来たのは【義手剣士の伝承】というタリスマンだった。
確かこれは、武器の技量を高める効果があるんだったか。
俺も持っているが、本来の持ち主がまさかミリセントちゃんだったとは。
義手剣士なんだし、思えば沼地に現れたミリセントちゃん(腐)の剣技も相当なものだった。この先、義手をつけて戦うのかも知れない。
ん? そうなると、このタリスマンって未来を暗示する……。
……止めておこう。また深淵を覗きそうだ。
「ありがとう、有り難く受け取っておくよ。それじゃあ、ゴーリーのところに行こうか」
「ゴーリー?」
可愛らしく首をかしげるミリセントちゃんに微笑み返す。
やはり、まだ記憶が戻っていないみたいだ。
「君のお父さんだよ」
同じ記憶がない者として、どこか親近感を覚えた俺は、これを切っ掛けに記憶が戻るといいなと、胸中で呟くのだった。
1
「おお、貴方様。無垢金の針は……っ!」
ミリセントちゃんを連れてゴーリーの元ヘやって来ると、彼は驚いた表情を浮かべた。
愕然とした顔をしているが、何をそんなに驚いているのだろうか。
「ミリセント……」
「あなたが、私の義父なのか?」
どこか不安そうな面持ちで訊ねるミリセントに、ゴーリーは苦汁を飲まされたような表情で押し黙った。
……何で答えない?
「──何故、ミリセントを此処に……?」
「何でもなにも、育ての親なんでしょ?」
ミリセントから視線を外したまま問い掛けてくるゴーリー。子供が親に会うのに理由なんているのか、と訊ねると再び押し黙った。
彼のその姿から何かを察したのか、ミリセントは自虐的な笑みを浮かべる。
「……何故か、貴方に懐かしさを感じていたが、どうやら貴方にとっては苦い記憶らしい」
そう言って背を向け、去ろうとするミリセントにゴーリーが口を開くが、それも一瞬。
結局、その口から出る言葉はなく、背を向けているミリセントにもそれが伝わったのだろう。小さく肩を落とす様子が見て取れた。
……なんだか、見ていてイライラしてきた。ゴーリーにも何かあるんだろうが、この対応はねぇだろう。
「──っ! 君……?」
その場を去ろうとするミリセントの手を掴み、強引にゴーリーの前まで連れてくる。
椅子に座ったままのゴーリーは娘の姿に唇を震わせるも、すぐに視線を切って顔を背けた。が──。
「駄目よ。ちゃんと向き合いなさい」
人知れず背後に回っていたメリナがガッチリ頭を手で挟んで強引に向き直した。
残念だったなゴーリー! メリナの実体化タイムはまだ切れちゃいなかったんだよ!
「ゴーリーさんよォ。アンタ、言ったよな。幼い赤子だったミリセントちゃんを拾って育てたって。あれは嘘だったのか?」
「それは……」
「それに、針を取ってきてくれって言ったのは他ならないアンタだ。病で苦しむミリセントちゃんをどうにかしたくて色々と調べたんじゃないか?」
「……」
俺の言葉に押し黙るゴーリー。そんな彼を悲痛な面持ちで見つめるミリセントちゃんの姿に、我慢の限界を迎えた。
思わずゴーリーの頬を平手打ちし、唾を飛ばす勢いで捲し立てる。
「娘にこんな顔をさせんじゃねェ! 父親だろアンタは!」
「君……」
「アンタにどんな事情があるか知んないがな、ミリセントちゃんをここまで育てたのは他ならないアンタ自身だ! 娘の体を気遣う優しさがあるなら、もうちょっと寄り添ってやれよ!」
そういうのを親って言うんじゃないのか!
息を荒げる俺を茫然と眺めるゴーリーとミリセント父娘。ミリセントちゃんは驚かせちゃったかな。
すべての親がそうでないというのは分かっている。思想の押し付けが良くないことも。
だけど、真っ当な両親に愛されていた自覚のある俺には、ゴーリーの姿勢は到底受け入れがたいものだった。
ハッ、偽善だろうが思想の押し付けだろうが知ったことか。
子供を悲しませた時点で親として間違ってる。それを指摘して何が悪い!
「──年老いてから、改めて気付かされることもあるものですな……」
それまで苦虫を噛み潰したような顔だったゴーリーは大きく息を吐くと、その表情を和らげた。
皺のある顔を緩め、慈愛の眼差しを向ける。
「すまなかった、ミリセント。私のことを、覚えているかい?」
ゴーリーの言葉に力なく首を振った。
メリナから解放されたゴーリーは、自虐的な笑みを浮かべる。
「そうか……無理もない。お前に宿った腐敗は他の姉妹の比ではなかったからな。記憶が蝕まれても可笑しくない」
「姉妹? 私には、姉か妹がいるのか?」
「あぁ。長姉メアリー、次姉モーリーン、三姉エイミー、末妹ポリアンナ……そして、四女ミリセント。お前たちは五人姉妹なのだ」
これは驚いた。まさか三人の姉と一人の妹がいるとは。
しかし、これまでそれらしい女の子は一人も見掛けなかったぞ。
ていうか、赤獅子城の人たちを除いてまともな人はゴーリーだけだったし。
他の娘たちも、ミリセントと同じ捨て子だったのだろうか。
「姉妹たちは私のもとから巣だっている。皆、お前のことを心配していたよ」
「私に姉妹が……」
寝耳に水とはこのことだろう。目を丸くして驚くミリセントちゃん。
それを聞いていたメリナも視線を宙に彷徨わせて、どこか想いを馳せているような姿を見せる。メリナにも姉妹や兄弟がいるのかな。
……そういえば俺って、メリナのこと何も知らないな。
「記憶にないかもしれないが、私はお前たちに赦されざることをした。耄碌した同胞たちと同じ宿業を、お前たちに強いろうと……」
我らの悲願の果てに、お前たちはいないというのに。
そう言って小さく頭を下げたゴーリーは、何度もすまなかったという言葉を口にする。
一体何をしたのか、気にならないと言えば嘘になるが、俺の眼には心の底から後悔しているゴーリーの感情が見て取れて。
とてもではないが、言及出来そうにない。出来るとしたら人の心がない奴だけだな。
「貴方が過去に何をしたのか、今の私には分からない。だが、赦そう。きっと、記憶がある私でも同じことを言うだろう」
「お、おぉ……おぉ……っ! お前たち、姉妹は、なんという……! すまなかった……っ! 本当にすまなかった……っ!」
手で顔を覆い、涙声で謝罪を続ける父に、もういいからと優しい言葉を掛けて肩を撫でる娘。
擦れ違いそうになった家族が無事に結ばれて、メリナとボックもニッコリご満悦だ。
2
「私は旅に出ようと思う。あの針を体に入れてから、朧げに思い出してきたんだ。自分の宿命を」
義父との思い出を取り戻すように会話の花を咲かせたミリセントちゃんは、真剣な面持ちでそう話した。
娘の言葉を聞いたゴーリーは、噛み締めるように小さく頷き、朗らかな笑顔で言う。
「お前は自分の道を行きなさい。自分だけの道を」
自分の思いを尊重してくれたことが嬉しいのだろう。頬を緩めたミリセントちゃんは義父と別れの抱擁を交わすと、次いでこちらに視線を向けてきた。
「これもすべて、君と義父のおかげだ。いつかどこかで、また会おう」
「ああ、元気でな」
憂いのない爽やかな笑顔で握手を交わし、ボックやメリナとも握手をするミリセントちゃん。
なのたが、メリナとの握手だけ長くない?
「貴女は彼の指巫女のようだな」
「ええ」
「……この旅で、私は女とやらを磨くつもりだ。足元を掬われないように気を付けるんだな」
「……身も心も通わせた最も信頼されている女性ナンバーワンのこの私の足を掬うことが出来るのなら、やってみるがいいわ」
グッグッと固い握手を交わしたまま、バチバチに牽制し合うミリセントたち。
どうやら無事にミリセントフラグを建築出来たようだ。
ヒロインの仲間入りを祝して万歳賛唱したいところだが、俺の眼でも視ることが叶わない女の戦いを繰り広げる彼女たちの前でそれをすると、間違いなく俺の脳裏に『YOU DEAD』の文字が浮かぶため、ボックと一緒に避難するのだった。
エルデンリングはどこまで知っている?
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ストーリー考察含めて大体熟知している
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本編クリア済だが難しくてよく分からん
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本編未プレイだが、考察動画で大体履修済み
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大雑把な概要だけ知ってる
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タイトルは聞いたことがある