「……霧の森に入ったけど、全然聞こえねぇぞ遠吠え」
トレントを走らせてしばらく。カーレの言う霧の森とやらに入り、当てもなく彷徨い続けているのだが全然遠吠えが聞こえない。
恐らく遠吠えの正体はラニの従者の一人である狼男なのだろうが、そもそもどういうタイミングで鳴くのだろうか。
あれか、獲物を狩った時とか? それともイライラしている時? ダメだ、狼の生態に詳しくないから遠吠えの意味とかも分かんねぇ……。
もういっそのこと、こっちから遠吠えしてみるか。と我ながらナイスなアイデアが浮かんだ時――。
「おぉ? これは、廃墟か……?」
森に溶け込むような形で作られた廃墟を見つけた。
石造りのそこは風化されて久しく、形を保っている家屋などは存在しない。
随分昔にテレビで見た『エジプトで発見された黄金都市』特番のような感じ。
あれは実際に当時の家具や寝具なんかも出てきて、人が生活していた形跡が見られたけど、この廃墟にはそれがない。
人が暮らしていた痕跡は影もなく、廃墟というよりは遺跡と言った方がしっくり来るな……。
「ブルッ」
「ん? どうした、トレ……ント……」
オイ見ろよ、と言わんばかりに頭を振るう愛馬に視線を向け、その頭越しに見えたソレに思わず閉口した。
巨大な、あまりにも巨大な熊が超近くで眠っておられるのだ……!
(で、デケェ……! そして近けぇ……っ!)
伏した状態で眠っているのだが、まず横幅がエグい。俺の身長くらいはあるぞこれ……。
横幅で二メートルを超えるのだから、全長はどのくらいだろうか。八メートルとか?
そして、彼我の距離もエグい。五メートルもない。今の今まで気付かなかった俺も俺だが、この距離で起きないお前もお前だよ。
(そして、コイツの目の前にある階段……。ゲームとかなら絶対にお宝があるパターンだろこれ)
そんな大熊の隣には地下へと続く階段があり、石畳の壁に立て掛けられた松明が地下の存在感を浮き彫りにしている。
まるで番犬のように階段の近くで眠っている大熊。起こさないでどうにか地下に侵入したい。
(一度地下に潜れば大丈夫だ。大きさ的に奴は入ってこれない)
トレントから降りると愛馬が霊体化する。
粒子を散らしながら消えていくトレントを見送り、『が、頑張って……!』と言いたげに胸の前で拳を握る霊体化したメリナへと視線を移し、意を決して大熊を見据えた。
深く寝入っているのか、いびきのような寝息を立てて起きる気配はない。
(慎重に、一歩ずつ、踏み締めて……)
――パキッ
「あ」
静謐な森の中に小気味よい音が響き渡る。
大熊とバッチリ目が合った。
「う、うおおおおおおおおお――!」
刀を抜いた俺は雄叫びを上げながら大熊へと斬り掛かり――。
「やっぱ無理ぐふぉおおおッ!」
この後メチャクチャ殺されました。
「く、熊がこんなに強いだなんて聞いてねぇぞ……」
あの黄金騎士より強いわ。なんで眉間刺しても死なねぇんだよ。そこは死んどけよ生物として。
「しかも肝心のお宝はしけてるつーか、持ってるし」
何度も殺され、持てる技術を駆使してようやく討伐。
さっさと地下に避難すりゃ良かったじゃんと、後になって思うも時遅し。
まあ勝ったからいいかと結果オーライ精神で意気揚々と地下に向かい、それらしき宝箱をウキウキしながら開けた結果。
出てきたのは【斧のタリスマン】。効果、タメ攻撃の威力が上昇する。
もう持ってるし! つーか、タメ攻撃ってなんだよタメ攻撃って!
地団駄を踏む俺を霊体メリナがあやし「……カッコ悪いところ見せちゃったな」と賢者モードになって今に至る。
霊体だから喋れないメリナだが、その生暖かい目はどういう内心から生じたものなのだろうか。解析眼を持つ、この雷斗の眼を以てしても見抜けぬ。
「ていうか、さっさと狼男が来りゃこんな苦労しなくて済んだんじゃん! いい加減姿見せろやコラァああああああっ!!」
カーレから教えて貰った合図、指パッチンを鳴らす!
怒りの赴くまま、あらゆる物を両断する諸葛孔明の如く!
腱鞘炎で引き攣るまで、指を、鳴らす――!
パチンパチンパチンパチンパチンパチンパチンパチンパチンパチンパチンパチンパチンパチンパチンパチンパチンパチンパチンパチンパチンパチンパチンパチンパチンパチンパチンパチンパチンパチンパチンパチンパチンパチンパチンパチンパチンパチンパチンパチン――!
「ええぃ喧しい! そんなに鳴らさんでも聞こえておるわッ!」
そんな怒声とともに空から降って来たのは、件の狼男。
ようやくお出ましかと文句の一つでも言ってやろうと口を開けたが、すくっと立ち上がったその姿に思わず閉口した。
流麗な装飾が施された甲冑を身に纏い、ラニ様とは違った狼の毛皮のようなコートを羽織っている。
そして、大剣を背負ったその狼男の背丈は、身長二メートルの俺が見上げるほどの高さ。三メートルは優に超えている……。
犬種は分からないが、まんま狼顔の男は「まったく……」と大きな息を吐くと、じろっとその鋭い目を向けて来た。
「それで、誰だ貴様は」
「俺は雷斗。アンタと同じ主人に仕えることになったから、挨拶をと思ってな。それとこれ、カーレから」
カーレから渡された地図を狼男に渡す。
「ほぅ、新入りか。ラニが認めたのなら俺に異論はない。歓迎しよう」
俺の発言に驚いた顔をしていた狼男の表情が、幾分か和らいだ。気がした。
「俺はブライヴ。知っての通りラニに仕えている。今はダリヴィルという男を追っていてな。この地に逃げ込んだと聞いたのだが、未だ足取りを掴めてない。もし奴を見つけたら俺を呼べ。幾ばくかの礼も約束しよう」
「……呼ぶってどうやって?」
携帯とかないでしょこの世界。いや、携帯どころか電話すらなさそうだけど。
通信魔術とかあるのかと脳内リストを見直していると、ブライヴからあるものを渡された。
「これを使え。白い秘文字指輪という。これを使うことで、俺を召喚することができる。俺の名は既に刻んである」
その名の通り白い指輪。裏には『Blaidd』という文字が刻まれている。
なるほど、件の標的を見つけたらこれで召喚すればいいんだな。でも召喚タイミングとか大丈夫か? トイレや風呂のタイミングで呼ばれても知らないぞ俺……。
「ところでラニ様の従者なのに、何故ダリヴィルという男を?」
「……奴は裏切り者なのだ。相応の報いを与えねばならん」
眉間に皺を寄せて、低い声でそう口にするブライヴ。その話を最後に彼は立ち去って行った。
裏切り者、ということは元は仲間だったのだろう。浅はかならぬ関係なのかもしれない。
初対面かつメッチャ強そうな狼男なのだ、あまりセンシティブな話はしない方がいい気がした。
1
挨拶も済んだことだし、いい加減ストームヴィル城に向かうか――。
と、思ったのだが、よくよく考えたらブライヴは同じラニ様に仕える同僚となる。何かと顔を合わせる機会も増えるだろう。
今後の円滑なコミュニケーションのためにも、ここは恩を売っておくのも悪くない。そう考えた俺は、彼の探し人であるダリヴィルとやらの捜索に乗り出した。ブライヴの話によれば、この地域のどこかに居るらしいし。
「ということで、ダリヴィルを探そうと思うんだけど。メリナは知らないよね?」
「残念だけど聞き覚えがないわ」
祝福の光を受けて実体化したメリナに相談してみたが、やはり首を横に振るわれる。
この地に来てからごく一部の地域しか移動していないが、人がかなり少ない印象だ。というか、メリナとラニ様にカーレ、ブライヴ、あとヴァレーしか出会っていないし。
断片的な記憶でも話の通じる人間より、黄金騎士のような問答無用で襲ってくる奴が圧倒的に多いような。
そんなまともな人間が少ないんじゃねぇの疑惑が出ている、ここ狭間の地で人探しなんて難易度高過ぎるだろ……。
情報社会である現代でさえ、行方不明者が見つかるケースの方が珍しいというのに。
「商人たちから話を聞くといいと思う。彼らの横の繋がりは広く強いから、色々な情報を持っているはずよ」
「へー。そういやカーレもブライヴのこと知ってたし、カーレに聞いてみるか」
かなり有力なアドバイスをして下さったメリナさん。確かに商人は情報通なイメージがある。
メリナ曰くトレントの好物という【フローズン・レーズン】を与え、再びカーレの元へ向かう。
【フローズン・レーズン】効果なのか、いつもより三割増しの速度で野を駆ける愛馬。あっという間にカーレが拠点とする教会へ到着すると『もっと頂戴!』と言わんばかりに頭を押し付けて来た。
「どうどう。……なんかレーズンだけでも色んな種類があるんだな。スイート・レーズンとか美味しそうだけど、フローズンでいいんか?」
「ブルルッ」
「全部食うんかい! まあいいけどさ」
ポーチからレーズンの名を関する甘味?を取り出すと、まとめて食いやがったトレント。まあ視たところ、各種九九九個もあるから別にいいんだけど。
それと、大分ポーチの扱い方も慣れて来たな。念じながら手を突っ込むと目当ての物を一発で引き出せるのがコツだ。
満足したのか霊体化して隅で横になるトレントを尻目に、焚火を囲むカーレの元へ向かう。
「カーレ」
「おぉ、お前さんか。ブライヴとは会えたか?」
相変わらず定位置から動かないカーレだけど、それでちゃんと商売成り立っているのだろうか。
そんな心配を抱きながらも本題へと入る。
「お陰様でな。それはそうと人を探しているんだけど。ダリヴィルって人知らない?」
「ふむ?」
思案顔になったカーレは少しの間黙考していたが、やがて小さく首を振った。
「……いや、知らないな」
「そうかー。ブライヴが探しているみたいだから、手伝おうと思ってな。カーレたち商人って情報通なところもあるだろうから、何か知ってるのかと思ったんだけど」
「ほう。アイツの探し人か」
ブライヴの探し人と知り反応を示すカーレ。
物知りなカーレなら知っていると思ったんだけど、宛が外れたかー。
……どうしよう。他の知り合いなんて、ヴァレーくらいしかいないぞ。
「……俺の知り合いなら知ってるかもな。地図に印を書いておいた」
懐から取り出した巻物に筆を走らせたカーレ。
そうか、当然ながらカーレと同じく各地を放浪しながら商売している人がいるはず。
どのくらいの規模か分からないが、やはり横の繋がりは広いみたいだ。
「さっすがカーレ! 頼りになるわー」
「おっと。貰うもの貰わねぇとな」
「だよねー」
巻物を受け取ろうとすると、ひょいっと躱されてしまった。当然か。
しかし、情報量の相場なんて分かんないぞ。ブライヴの時は咄嗟に取り出したから、細かく見てないし。
「んー、相場が分からないけど、このくらいで足りる?」
ポーチから取り出したルーンの欠片。
ざっと一万分のそれをカーラに握らせると、驚いた様子で受け取ったルーンの大半を返して来た。
「おいおい、こりゃ多すぎる。千ルーンでいい」
「えっ、そんだけでいいの?」
「適正価格だ。俺は信頼を売りにしてるからな」
ニッと笑い、地図を投げて渡してくるカーレ。か、格好良すぎるだろアンタ……ッ!
この商人とは今後とも長いお付き合いになりそうだ。
2
カーレから受け取った地図には印が三ヵ所マークされていた。
どこもこの地域の範囲内で、トレントなら半日で回れる距離だ。
祝福で干し肉に齧り付きながら、回る順番とルートを頭の中で描いていると、同じく干し肉をハムハムしていたメリナが声を上げる。
「……この肉、中々の珍味ね」
「そうか? 俺的には結構旨いけど」
「口の中がヒリヒリするわ。お水を頂戴」
「はいよ」
この地にやって来てから何だかんだ半日ほど経っており、時計はないけど時刻的には丁度お昼頃。
不思議と空腹を感じないマイボディだが、食事は取るべきだと感じた俺は出立前の腹拵えと興じていた。
もはや娯楽の範疇に入っているけど、人間として食事は必要だと思うもの。心の栄養的な?
ポーチに入っていた竹製の水筒をメリナに渡し、二枚目の干し肉に齧り付く。やっぱリコレ旨いな。なんの肉かは考えないようにしてるけど、視たところ食用なのは間違いないからヨシ!
ちなみに俺たちが食べているのは【頑健の干し肉】というもの。味は韓国の調味料であるコチュジャンに近いから、俺的に覚えのある味で嬉しい。確かに辛いけどな!
フォークやナイフどころか皿すらないから、そのまま手で持って齧り付いています。ワイルドだろぉ~。
「――ふぅ。ありがとう、私の分まで」
「なんのなんの。一人だけ飯ってのもなんだし、食料もメッチャあるからな」
ホント、食料の確認のため一度ポーチの中のアイテムを整理したのだが、生で食べれる食材も含めてごまんとあった。
キノコなどの山菜に、エビやカニといった高級食材、さらには干し肉だけでも八種類はあるし、鹿を始めとした野生の動物もいる。
惜しむらくはパンや米がないのがなぁー。食材の味そのものを堪能するスタイルはまさにキャンプ飯ってか。
腹拵えが済み意気揚々と出立。気配が稀薄だから気付いていなかったけど、ちゃっかりメリナさん相乗りしてますね。
くっ、鎧を身に付けているからか、背中に押し付けられているであろうオッパイの感覚が伝わって来ない!
ていうか霊体でも俺には接触出来るのね。武器とかは持つことが出来ないのに。
……今度、霊体エッチをお願いしよう。
「ん? おっ、祝福か」
不意にメリナが頬を指でつついてきた。祝福を見つけたサインだ。
始めは普通に肩を叩いていたんだが、いつの間にかこうなった。こう見えて悪戯好きなのかもしれない。
ちなみに霊体化していると声は聞こえない。よくあるテレパシー的なことは出来ないようだ。
道中見掛けた祝福に触れて起動状態にする。祝福の光に触れるとメリナは実体化出来るんだが、逆にトレントは霊体化しちゃうんだよな。これも謎の一つだ……。
「さっき、エッチなことを考えていたでしょう?」
実体化したメリナが背後から抱き付いてくる。
クールビューティー系の美女なのに結構接触的ですよね!
あ、良い匂い……。
「な、なんのことかなー」
「隠さなくてもいいのよ、貴方って結構分かりやすいから。それに言ったでしょう?」
後ろから回された手が鎧の上を這い、妖艶な空気を醸し出すメリナさん。
触られてるっていう感覚はないが、視覚効果から何だかムラムラする。
そして、耳元で囁かれるASMR――。
「時間もあまりないからセックスは出来ないけど……お口でしてあげる」
アーマーをパージした。
誤字報告ありがとうございます。助かります。
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エルデンリングはどこまで知っている?
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ストーリー考察含めて大体熟知している
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本編クリア済だが難しくてよく分からん
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本編未プレイだが、考察動画で大体履修済み
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大雑把な概要だけ知ってる
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タイトルは聞いたことがある