60年ぶりに日本卓球男子がアジア金メダルを取ったので、毎日更新です。
主従の絆を深めた俺たちは引き続き先に進むのだが。
何故か敷地内に墓地があったり、生きる屍と化した亡者たちをスルーして道なりに進んでいくと、敷地を一旦出て渓谷に躍り出た。
一際目を引くのは、巨大な歯車だろう。バカでかいチェーンが巻かれ、台座がエンドレスで上下に行ったり来たりしている。この先で学院の敷地内に入るのだが、レアルカリアに通う学徒は毎回こんな冒険をしなければいけないのだろうか。
そして、これまたなんで居るんだと疑問を抱かずにはいられない生き壺たちを横目に、誰何されることなく【カッコウの教室】、【学び舎の一室】と祝福に触れて行き。
討論室の両扉を開けると、そこには巨大な赤毛の狼がいた。
討論室の中央に寝そべる赤狼。大きさはラティナの相棒であるロボを上回り、側には一目で業物と判る剣が転がっている。
俺たちの姿に気が付いた赤狼は低い唸り声を上げながら、横たえた身を起こした。
敵意バリバリでこちらを睥睨する様から、もしかしたらレアルカリアの学生ではないと見抜いているのかもしれない。
番犬ならぬ番狼か。
「あれは、ラダゴンの影狼だな」
「影狼?」
「二本指が遣わした従者だ。私がブライヴだったように、ラダゴンはこの赤狼なのだろう」
ミニラニ様の言葉に応えるように、起き上がった赤狼は傍らの剣を咥えると、有無を言わずに襲い掛かってきた!
「ちっ、いきなりかよ!」
「ラダゴンの影狼であるコヤツが此処にいるのは、恐らくレナラを守るためだろうな。如何なる理由で彼女を捨てたか分からんが、多少の情は残っているのやもしれん」
冷静にそう考察するミニラニ様だが、エネミー判定を食らった俺からすればたまったものではない。
元人妻系ヒロインであるレナラ様も攻略するつもりだ。つまり、彼女の不況を買ってはいけない。
離別したとはいえ病むほど未練を抱いているレナラ様にとって、この狼はラダゴンの形見。斬ったら即フラグが折れちゃう!
フラグ管理が本当に面倒だなこの世界は!
「待て! 俺たちはレナラ様に敵対するつもりはない!」
跳躍や旋回などで巧みに咥えた剣を振るう赤狼。さらには魔術も使って来る。流石はラダゴンの影狼なだけはある⋯⋯!
ていうか魔術を使ってる時点で、俺より頭良いんじゃないか説が出てきたんだけど!
ダイナミックな剣撃を太刀で受け流し、迫り来る魔術を斬り捨てながら説得コマンドを連打する俺は、ミニラニ様を手の平に乗せて印籠の如く突きつけた。
「このお方をどなたと心得る! レナラ様の愛娘であらせられる、ラニ様だぞ!」
「⋯⋯」
流石にこれは一考の価値があるのか、それまで野性味溢れる戦いっぷりを披露していた赤狼だが、その動きをピタッと留めた。
ちょこんと手の平に乗っかったミニラニ様と赤狼の視線が交わった──気がする。
返答は【魔術の三輝剣】だった。
魔力で構成された短剣が三本連続で飛んで来る。
「この犬畜生がっ!」
迫る輝剣を弾き飛ばした俺は、素早くバックステップで距離を取ると【黄金樹の祈祷】を使用。
顕現したメリナにミニラニ様を託し、次いで【はぐれ狼】の遺灰を取り出す。
「こうなったら、行け三郎たち! 同じ狼として分かり合えるはずだ!」
『ガウッ!』
威勢良く飛び出すはぐれ狼たち。
是非とも主人の意思を代弁してくれ、と期待の眼差しを向けるが剣呑な目で一瞥された途端ピタリと動きを止めた。
「⋯⋯」
『⋯⋯』
『わうわうわうぅぅ〜っ』
「ええい、情けない声を出すんじゃない! プールに飛び込めないハスキーか!」
無理ですぅ〜! なんて幻聴が聞こえてきそうな情けない声を上げる狼たちに、思わず頭を抱えてしまう。
勇ましく勇敢な狼たちがこうも尻込みするとは、流石はラダゴンの狼と言うべきか。
「奴は敵だぞ。何故戦うのを躊躇う」
「きっとレナラ様は大事にされていたと思うんです。いくら敵とはいえ、ラニ様のお母上が大切にされていたものを斬る剣は、生憎持ち合わせておりません!」
そんなことしたらフラグが折れてしまいますし!
「……我が王は、本当に」
「えぇっ、何ですか!? ちょっと聞こえないです!」
小さく首を振って「何でもない」と示すミニラニ様。
徐々に敵の攻撃も激しさを増していく。今のところ問題なく凌げているが、無傷で無力感するのは骨が折れるぞコレ。
多少の傷はやむなしということで、こっちも攻勢に出るべきか?
(いや、それだと敵意ありと見做されて収拾がつけられなくなる。だが、このままではキリが無いし)
いっそのこと振り切るか? でも狼だから鼻が利くだろうし、この番狼っぷりならどこまでも追いかけて来そうだ。
「……あーもう、面倒臭え! よくよく考えたら何でこんなことで頭悩ませにゃならねぇんだ!」
何だかイライラしてきた。
レナラ様とフラグを建てに来ただけなのに、何故こんなところで油を売ってるのか。
犬畜生を相手に骨を折らねばならない現状にイライラが募った俺は、剣撃を受け流すと赤狼の横っ腹に蹴りを入れた。
カンストステータスが叩き出す剛力により勢いよく吹き飛ぶ赤狼だが、空中で体勢を整えて壁に着地。
そのタイミングを狙って追従していた俺は、猟犬ステップで一気に間合いを殺すと、掬い上げるように返した峰を首元に入れて壁に押さえつける。
喉を刀の峰側で制圧された赤狼。弱点である腹を見せながら拘束から逃れようと暴れ回るが。
「敵じゃねぇって言ってんだろうが。それでも聞き分けがねぇってんなら……」
ポーチから取り出したのは、大型鈍器【積石の槌】。
石壁の積石をそのまま使った武器で、無骨ながら破壊力は抜群だ。
巨大なハンマーを片手に、殺気を漲らせながら視線を下げる。
「その粗末なもの、潰すぞ」
「…………」
この脅しが効いたのか分からないが、ピタッと動きを止める赤狼。
よし、ここはダメ押しだ!
「むんっ!」
赤狼から離れて長刀を鞘に収めると、ポーチから【積石の槌】をもう一つ取り出す。
両手に大型ハンマーを装備した俺は、思い切りそれらを打ち鳴らした。
重厚な金属音が鳴り響くと同時に火花が散る。
「続けるってんなら、コイツでプチっとやるが」
さあどうする?
そう問い掛けると、眉間に皺を寄せた赤狼はしばし逡巡した後、ゆっくりとした足取り出部屋の中央に戻ると横になった。
どうやら見逃してくれるらしい。
「なんだか無駄に疲れた⋯⋯」
メリナたちに良い子良い子してもらおう。
ミニラニ様に頰を抓られながらも、メリナたちによしよししてもらう俺であった。
1
討論室の祝福で一休みしていると、何処からともなくアレクトーの部下と思わしき黒き刃の一人が現れた。何かあったのかな?
片膝をついた彼女は「お求めの遺灰を発見致しました」と言って、懐から取り出した遺灰を差し出す。
「おぉ、ありがとう」
彼女たち黒き刃には情報収集の他、鳥系の遺灰を探してもらっていたのだ。今も円卓の自室で臥せているであろう、ネフェリ・ルーのために。
養父であるギデオンが犯した数々の悪行を知り、さらには使い勝手の良い駒扱いされていたことを知り、心がへし折れ鬱になった。
そんな彼女のために何かできないかと考えたのが、アニマルセラピーだ。
昔鷹を飼っていたらしいので、鳥類の遺灰をプレゼントしたいと思い黒き刃の皆さんに頼んでいたのだが、見事見つけてくれたらしい。
「……嵐鷹の古王か。誇り高いネフェリ・ルーにはピッタリだな」
解析眼で読み取った表面上の情報によると、かつて鷹たちの王として君臨した古王で、その誇り高さから誰の召喚にも応じないらしい。
体の至る所に傷跡がある、如何にも歴戦の戦士といった風貌の鷹が遺灰の中で眠っているのが視えた。
「丁度良い。ちょっとネフェリ・ルーの様子も見て来るわ」
メリナたちに断りを入れて円卓へ帰還する。
ほとんどのメンバーが所用で出かけているらしく、鍛治氏のヒューグ爺と二本指の翻訳者エンヤ婆、そしてローデリカとネフェリ・ルーしか居ないようだ。
「あっ、雷斗さん!」
「久しぶり。最近ご無沙汰になりがちで悪いな」
「いえ、雷斗さんも忙しいのは分かってますから」
健気にも微笑んで見せるローデリカを抱きしめる俺だが「また一人で遺灰探しに出かけたりしてないよな?」という言葉に視線を逸らしたものだから、少し強めにハグをするのだった。
ハートマークがついてそうな色っぽい呻き声を漏らすローデリカを離し、いよいよネフェリ・ルーの元へ。
扉をノックすると弱弱しいながらもちゃんと返事が返ってきたから、少し安心する。
「調子はどうだ?」
「雷斗か……」
ベッドに腰かけていたネフェリ・ルーが力なく笑う。前に見た時は目の下に隈があり、ろくに眠れていない様子だったが、今はちゃんと睡眠が取れているようだ。
しかし、未だ生気が抜けた顔つきをしており、鬱は回復していないように見える。
「今日はプレゼントがあるんだ」
「……それは、遺灰か? 古い、嵐の匂いがする……」
【嵐鷹の古王】の遺灰を受け取ったネフェリ・ルーは掻き抱くと、弱々しい声で呟く。
「……私は、ローデリカとは違う。霊を視ることも、感じることもできない……。それでも、この遺灰は……最初の鷹を思い出す。ありがとう……」
この出合いが彼女にとって少しでもプラスになるといいのだが。
(誰の呼び掛けにも応じない程プライドが高いみたいだけど、彼女の呼び掛けだけは応えてやってくれ)
そう願わずにはいられない。
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