討論室の先を進むと中庭のような場所に躍り出た。自然公園ほどの広さで中央には壊れた噴水がある。
中庭の外周には階段があり、その先も学院に繋がっているようだ。討論室があった校舎が本館で、あっちは別館かな?
みずぽらしい姿の学徒が草むしりに勤しんでいる。ご苦労様です。
「⋯⋯なんだありゃ?」
奥の方からカラカラと音を立てて現れたのは、異形なアイアンメイデン。
赤子を抱いた悲壮な面の女性姿。それだけなら「そんなアイアンメイデンもいるんだ」で受け止められるが、異形なのはアイアンメイデンの両腕。
鎖で繋がれた振り子鎌が天秤のように吊り下げられており、異様なテイストを醸し出している。
悪魔の芸術と称しても可笑しくないソイツはカラカラと音を鳴らしながら、まるで真面目に刑務に励んでいるか厳しく見て回る警察官のように、奴隷の如き働きを見せる学徒たちの間を移動する。
カロロス生に扮する俺はこっそりと脇を通ろうとしたが。
「うおぉっ!?」
眼前を振り子鎌が通過した。
進路上にいた奴隷学徒が鎌の餌食となり、胴体が真っ二つになる。
しかし、他の学徒たちは何事もないようにせっせと穴を掘り続けている。同僚が死んだというのに微塵も動揺しないとは、奴隷根性が魂の髄まで染み込んだのかな。
チェーンを巻き取り鎌を戻したアイアンメイデンは、見えないはずの顔をこちらに向ける。
俺の正体を推し量るようにジッと顔を向けたまま動かないアイアンメイデン。
「これは、バレたか⋯⋯?」
ここは、カロロス生である証を示すべきか。取りあえず【彗星アズール】でもブッ放すればいいかな?
そう考えた俺は武器を【アズールの杖】に切り替えて、明後日の方角に向けてアズール砲を放った。
「それ、彗星アズール!」
「──」
「なんでやねんっ!」
丁度そのタイミングで物陰からひょこっと出て来たのは、もう一体のアイアンメイデン。
振り子鎌とは違い、ソイツの両腕にはギザ刃が付いた巨大な車輪。俺のポーチの中にも収められている【ギーザの車輪】を両腕に装着しているのである。
そんな二体目のアイアンメイデンに気づかなかった俺のアズール砲は、物陰から出てきたタイミングでぶち当たり。
胴体をぶち抜かれたアイアンメイデンは、衝撃で爆発四散しつつ彼方へ吹き飛んで行った。
敵ではないことを証明するためのアズール砲だったのに、結果として明確な敵対行為を見せつけてしまうとは。
当然、同胞を目の前で木っ端微塵にされたアイアンメイデンは、直ぐに大鎌で攻撃してくるが。
「チェストォォォ!」
既に【アズールの杖】から愛刀の長刀へ切り替えていた俺は気合い一閃。
唐竹割りにて両断されたアイアンメイデンは、空間に溶け込むかのように消えた。
すると、それまで黙々と穴を掘っていた奴隷学徒たちが一斉に立ち上がり、まるでゾンビのような足取りで近付いて来る。
なんの罪もない学徒たちを斬り捨てるのはちょっとアレなため、スルーして先に進もうと階段へ向かうのだが。
「オィィィィ! インディージョーンズじゃねぇんだぞ!」
階段上から転がり落ちてくるのは銀色の大玉。
軌道を見切って回避するが、崩落した階段下から落っこちた鉄球は元の位置へ転移し、再びゴロゴロと転がり落ちて来る。エコなのは良いですが、訪問する立場の俺としてはメッチャウザいです!
しかもよく視るとこの鉄球、地下都市ノクローンに居た水銀スライムと同系統じゃん。
転がり迫る鉄球を正面から受け止めて担ぎ、中庭の方へ投げることで落下ループを防ぐ。
運悪く下敷きになった奴隷学徒に心の中で十字を切った俺は、ようやく静かになった階段を上るのであった。
1
「──曲者か。狙いはレナラ様だな」
別館に入った俺を待ち受けていたのは、カーリアの騎士。
甲冑の上から群青色のサーコートを着た騎士は、俺たちの姿を認めると腰のブロードソードを抜いた。左手には盾。
いぶし銀な渋い声で誰何した騎士はブロードソードを盾で隠しながら、慎重に間合いを測ってくる。
カーリア王家──つまりはレナラ様に忠誠を誓う騎士だ。ていうことは、御息女であるラニ様に対しても忠義を向けているはず。
そう考えた俺はジリジリと間合いを近づける騎士に、左肩へ乗せたミニラニ様を見せつけた。
「頭が高い! このお方を何方と心得る!」
肩にちょこんと座るミニラニ様を見たのだろう。今まさに先制攻撃を仕掛けようとしていた騎士の挙動がピタリと止まる。
「⋯⋯ラニ様の人形?」
訝し気に眉を顰める騎士にミニラニ様は、在りし日を懐かしむような声で呟いた。
「ムーングラムか」
「⋯⋯っ! 何故、私の名を⋯⋯」
ラニ様に名前を言い当てられたカーリアの騎士──ムーングラムに動揺が走る。
ラニ様を模したとはいえ、手のひらサイズの人形であることに不審を拭えないのだろう。
その後も猜疑に満ちた目で構えを解かないムーングラムだったが、ラニ様の記憶にある在りし日の出来事を伝えると、やがて剣を震わせながら切っ先を下げた。
「あの方にお仕えしていたのを知っているだと⋯⋯? まさか、本当に、ラニ様なのですか?」
「壮健なようでなによりだ」
「ぉ、ぉお⋯⋯ッ、再び貴女様と相見えることが叶うとは⋯⋯ッ! お久しゅうございます!」
片膝を付き頭を垂れるムーングラム。
そして、至って普通な疑問を投げ掛ける。
「そのお姿は一体⋯⋯それにこの者は?」
「まあ、色々あってな。彼は私の王だ。いずれエルデの王となる褪せ人だよ」
「私の王⋯⋯? まさか、ラニ様──!」
その言葉の意味を知っていたのだろう。勢い良く顔を上げたムーングラムから驚きに満ちた声が上がる。
というか、我が王=伴侶認定という図式は身近な人しか知らない隠語だと思うのだが、それを分かっているということは、この人って結構偉い人なのでは……?
ミニラニ様から語られた昔話ではレラーナという人に仕えていたみたいだし。
レラーナさんについては知らないが、多分レナラ様と近しい人物だと思われる。名前も似ているからもしかしたら親戚かもしれない。
「うむ。まあ、そういうことだ」
そういうことなんですね!? とでも言いたげなムーングラムの強い視線を前に、そっぽを向きながらも小さく頷くミニラニ様。照れていらっしゃるお顔も超キュート!
「おめでとうございます。此度はレナラ様にご一報を?」
「それも含めて、と言っておこう。⋯⋯母は相変わらずか?」
ラニ様の静かな問い掛けに、ムーングラムは僅かに俯き力なく首を振った。
「そうか」
未だ狂気に捕らわれて心が喪失したままなのだろう。ラニ様自身あまり期待していなかったのは、何でもないように呟き頷いたその様子から見て取れる。
再び俺の肩の上に戻り、定位置に座ったミニラニ様。
ムーングラムも立ち上がると「貴公、ラニ様を頼む。⋯⋯そして願わくば、レナラ様も」と言葉と共に願いを託してきた。
「言われずとも」
元より来世でもラニ様にお仕えする所存。末永い付き合いになるのだから、お義母さんとも良好な関係を築いていきたい。
なにより、千歳越えのババアであろうと美女なら大歓迎! 是非ともお義母さんのフラグも建築してベッドシーンを回収し、母娘共に美味しく召し上がるのだ!
まあ既にラニ様、メリナ、ローデリカ、ネフェリ・ルー、ミリセントちゃん、ラーヤちゃん、ラティナ、セレン師匠、アレクトーというヒロインが九人もいるんだけども。レナラ様も迎えると丁度十名、順調にベッドシーンを回収出来ているようで何よりです。
まあ、あと幾つ回収すればいいのか分かんないけどネ。
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