「……さて、我が弟子よ。既に気付いているかもしれないが、今お前の前でこうして喋っている私は、幻だ。私の身体は別のところにある。学院の制約により、そこを動くことが出来ないのだ」
師弟の絆がさらに深まり、改めてセレン師匠からのお願いを聞く。
此処に居る師匠が幻影なのはもちろん分かっていた。
机の上に一枚の地図を広げる師匠。地図には“啜り泣きの半島”と書かれている。
リエーニエからさらに南に下った先にある島で、まだ未探索の場所だ。
「狭間の南端、啜り泣きの半島に私の身体はある。霊廟が歩く平原の先、マリカ教会を下った廃墟に囚われている。我が弟子よ、そこまできてはくれないか? お前に、託したいものがあるんだ」
「イエッサー!」
他ならない本人からの『囚われの姫を救出せよ』との要請だ。寄り道なしの最短ルートで行くぜ!
自前の地図にセレン師匠が幽閉されている場所をマークした俺は、早速トレントで向かうことにした。
やたらと厳重警戒している大橋を渡り、なんか疲れ切った顔で石畳の上に座っている盲目の少女の姿に後ろ髪を引かれつつ振り切り、黄色い火を灯した両目を押さえて悶え苦しむ村人たちをスルーし、地鳴りと共に馬鹿デカい鐘を鳴らしながら歩く霊廟をほげーっと見届けながらトレントを走らせること一時間。
やたらと傀儡兵が巡回している廃墟にたどり着いた。地図だとこの辺のはずなのだが……。
「うぉっ、なんか出た!」
弓矢を飛ばして来る傀儡兵たちを解体しながら入り口を探していると、突如地面に浮かぶ魔法陣。
陣の中心からヌッと出て来たのは、輝石頭が寄せ集まって出来た球体。
通称、魔術師球と呼ばれているらしいソレは目をカッと輝かせると様々な輝石魔術を飛ばして来る。
「鬱陶しいっ」
猟犬ステップで回避すると同時に居合で魔術師球を両断。
塵と消える魔術師球。そいつの影に入口が隠れていたのを発見した俺は、刀の柄に手を置きながら慎重に階段を下っていく。
「師匠!」
部屋にはいくつもの檻があり、平民と思わしき人たちの遺体が横たわっていた。まるで監獄、にしては死に満ちている。
そんな様相を呈する部屋の中で、檻ではなく壁に拘束されているセレン師匠。
両の手には手枷として機能している魔力封じの魔法陣。
両手を拘束されてぐったりしている師匠は、俺の声に力なく頭を上げた。
「……我が弟子よ、よくきてくれたな。制約のせいで、手間をかけさせた」
「待っていてください師匠! 今すぐ拘束を解いて──」
「いや、いい。この拘束に見かけ以上の意味はない……私をこの場に留めているのは、この身に課せられた制約なのだ……」
確かに、師匠の体には呪いのような制約が課せられていた。
どうやら制約の対象を物理的にこの場から離れられないようにする仕様だ。しかも制約を破ると死ぬというオマケつき。
手枷の魔法陣に込められた魔力吸収術式はブラフで、本命は師に掛けられた制約か。
「お前に、託したいものがある……。受け取ってくれ、私の原輝石を」
嫌な予感がしてならない。
何時ぞやの授業で習った話を思い出し、必然と顔が引きつる。
「おい、まさか……」
「──星が落ちたとき、我が運命もまた動き出した。私は、殺されるかもしれぬ。その前に、お前に託したかったのだ……私自身を」
原輝石。魔術師を魔術師たらしめる最重要器官。
魔力を扱う中で自然と形成されるもので、その大きさと純度によって魔力効率や魔力量が左右されるとのこと。
魔術師であれば誰もが体内に有しており、もしかしたら俺の中にもあるかもしれない。
セレン師匠曰く、仮に肉体が滅んだとしても相性の良い体に移植すれば、再び魔術師として蘇るらしい。
すなわち、セレン師匠にとって文字通り魂そのもの。そんな最重要器官を俺に託すというのか……。
しかし、原輝石は心臓に宿ると言われている。
手術もなしに、それを取り出すということは──。
「受け取ってくれ、我が弟子よ……」
「──っ、南無三……!」
「ぐうっ! う、うああああああッ!」
手刀を突き立て、心臓と同化している輝石を抜き取った。
師匠の原輝石は濃紫色をしており大きさは拳程度。半ば生体化していて血管の類も見て取れる。
拳ほどの大きさがある輝石が心臓と同化していたとは……。
「ううぅ……はあっ、はあっ……ありがとう、我が弟子よ……。それは、私自身だ……どうか、宜しく頼む……」
そう言葉を残し、静かに息絶える師匠。
妖しい輝きを放つ原輝石を丁寧に布で包み、ポーチの中に収めた俺は、師匠の幻影がいた宿場跡へ戻るのだった。
1
やはりというべきか。研究室に師匠の書き残した手紙があった。
そこには原輝石をどの肉体に移植すべきか書かれている。
「セルブスの研究室か……」
そういえばセレン師匠に頼まれて素体を用意していたって言っていたな。この時のために依頼したのだろう。
祝福を経由してセルブスの地下研究室へ向かう。
「此処に来るのも久しぶりだな」
相変わらず趣味の悪い人形たちが放置されている。
ご主人様であるセルブスは既に俺が処したからなぁ、この人形たちは供養してあげた方がいいかもしれない。
まあ、それはやるべきことをやってからだ。
「えーっと、確かこの辺に……」
奥の部屋にある椅子に腰かけている、輝石頭を被った女性。
輝石頭をそっと脱がすと、黒髪の涼やかな美女の姿が。
目を瞑ったその姿は眠っているように見えるが、息はしていない。
師匠の依頼でセルブスが用意した、後継の体だ。
「うん、こっちの方も異常なしだな」
次いで壁側にある椅子へ視線を向ける。
俺個人がセルブスに依頼した素体が静かに眠っており、ざっと目を通して異常がないことを確認すると、ポーチから取り出した白い布で素体を隠した。
そう遠くない未来に必要となる時が来るだろう。来ないことが一番だけど。
「さて……」
後は原輝石を移植するだけなのだが、どうすればいいんだ?
物理的に心臓に同化なんて出来ないし……。
「……とりあえず、心臓付近に埋めて黄金樹の回復で治すか」
新たな器となるセレン師匠の体。そのままでは移植できないため、着ていた服を脱がし、ついでに輝石頭も外したままにしておく。
なんか、セレン師匠のラブドールを相手にしているような気分だ……。
メスの代わりに脇差を使って胸部を切開し、大切に保管していた原輝石を埋め込む。
心臓が動いていないためか、思っていたより出血もないけど【黄金樹の回復】でちゃんと治るだろうか。あ、治った。
それまでもぬけの殻だったセレン師匠に、生命が宿ったのが一目で分かった。
静かに瞼を開いた師匠は俺を認めると「……我が弟子よ。随分と久しい気がするな」と微笑みを向けてくれる。
「──ありがとう。お前のおかげで、また新しい身体を得ることができた。これは、よい身体だよ。若く、健康で、原輝石にもよく馴染む。セルブスは性格に難があるが、人形師として良い仕事をしたようだな。……裸なのは許せぬが」
側にあった服に手早く着替えた師匠が涼し気な目元を緩める。
「今や忌々しい制約も失われた。やっと、学院に戻ることができるよ。カーリアの王家を廃し、源流を復興するためにな」
我が弟子よ、すべてお前のおかげだ。
綺麗な群青色の目を細め、優しい声でそう囁く師匠にホッと安堵の吐息を漏らすのだった。
読者層調査のご協力ありがとうございました。
続いてのアンケートでは、とのくらいの読者がエロシーンを望んでいるのかの調査となります。
エロをもっと読みたい方が多かったら、本作を一般公開にして、エロシーンだけを抜き取ったR18版を別個で用意しようかなと考えております。
その場合、Rシーンの執筆は非常に遅れると予想されますのでご承知おき下さい。
エロシーンについて
-
入れてほしい(行儀の良いふりはもうやめだ
-
入れないで(褪せ人よ御照覧あれぃ!
-
作者のお好みで(褪せ人風情が不遜であろう