※この作品はR-18です。

悪魔の子と、悪魔になった姫   作:松本まつすけ

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前編

「あらあら、もうおしまいなのかしら? うふふ」

 

 グロッタの町にそびえ立つ塔の最上階。

 ほんの三ヶ月前には人々が賑わう闘技場があったはずのそこは、何故か今は魔物たちの賑わうVIP専用のルーレット台の並ぶモンスターカジノと化していた。

 

 見渡す限りの魔物たちが娯楽にどっぷりと浸かっているその中心。その場を取り仕切るバニーガールの姿をした何とも淫靡で魅惑的な魔物の前に、勇者たち一行がひれ伏していた。

 

 この魔物の正体は、かつて勇者と行動を共にしていたデルカダール王国の姫、マルティナだった。

 武術に長けていた彼女の力が今、かつての仲間たちに牙を剥いたのだ。

 

「情けない男どもね。そんな力でブギーさまに挑むつもりだったの? 呆れるわ」

「クックック……さすがはボクちんのかわゆい子ネコちゃんだよ」

 

 緑色をした爬虫類のような皮膚を持ち、三つの目玉と大きな二本角を持つ成金じみた格好をした魔物が、下品に笑う。

 この魔物こそ、このグロッタの町をモンスターカジノへと変貌させ、マルティナを自分好みの魔物に変えた張本人、妖魔軍王のブギーである。

 

「はい、ありがとうございますブギーさま。アタシの身も心もブギーさまのモノ。ブギーさまのためならなんだっていたします」

 

 醜悪な魔物へすりよるようにマルティナが甘い声で忠義の言葉を述べる。

 

「よちよち、そう、それでこそボクちんのしもべだ。さて……」

 

 ブギーがそこら辺に倒れる勇者たちを見下ろす。

 見た限りではまだ息があるようだった。

 

「まさか勇者がまだ生きていたとはねぇ、ビックリだじょ」

「ご安心をブギーさま。勇者はウルノーガの手によって力を失っております」

「ふっふ~ん、このまま魔物にしてコキ使ってやってもいいが、これでもボクちんは用心深いんでねぇ」

 

 ブギーがパンパンと手を叩いて合図を送る。すると、そこらにいた一匹の魔物が足早にブギーの下へと駆けつける。

 

「はい、なんでしょうかブギーさま」

「コイツにはまだ忌々しい勇者の力を感じる。封印のツボを持ってこい。今すぐにだ」

「はっ! かしこまりました、ただちに用意します」

 

 二つ返事で下っ端の魔物が大急ぎでバックヤードへと消えていく。

 

 見た目はチャラチャラした魔物だが、これでも妖魔軍王。

 このモンスターカジノを支配する者。いくら敗北したからといって、勇者と聞いて油断するほど浅はかさではない。相手を完全に無力化するまで徹底的に追い詰めるくらいの用心深さを持ち合わせていた。

 

「ブギーさま、お持ちしました」

 

「うむ」

 

 手下から大きめのツボを受けとる。一見してただの空っぽのツボだが、魔力を集めて封印する力を持つ強力な代物だ。過去にこのツボを使って人間たちから奪った魔力を自分のものにして魔王の右腕になろうとした魔物もいるくらいだ。

 

「よし、いくじょ! ギガ・マホトラ!」

 

 ブギーが奇怪な腰ふりとともに呪文を唱えると、勇者とその仲間たちから淡い光が身体の中から抜け出ていく。

 淡い光は煙のように宙を舞い、ツボの中へと吸引されていく。

 

「まだまだ! ギガ・マホトラ!」

 

 さらに呪文を重ねていく。もうマルティナとの戦いのキズで身動きも取れない勇者だったが、それでも諦めるものかとこぶしを握り締め、歯を食い縛り、抵抗する。だが、そんな抵抗など構わず、ブギーは魔力をぐんぐん吸いとっていく。

 

「抵抗しても無駄だよん。ボクちんは最強のキング・オブ・モンスター! ボクちんの楽園に土足で踏み入ってただで済ますもんか。力という力は根こそぎいただいちゃうもんね。そぉ~ら、ギガ・マホトラ!」

 

 ブギーの強力な呪文によって、ツボの中へと魔力が蓄積されていく。

 

 しかし、必死の抵抗をし続ける勇者の身体に異変が訪れる。十六歳ほどの青年だったはずの勇者の身体が見る見るうちに縮んでいく。あまりにも強力に吸われすぎたせいか、無理やり抵抗したせいか、魔力とともに年ごと吸い取られていったようだ。

 

 身体が小さくなっていくにつれ抵抗力もなくなり、勇者の中の魔力はすっかり空っぽになり、果てには小さな子供くらいまで縮んでしまう。

 

 ツボの中もパンパンになるほどに魔力で一杯だ。ブギーも勇者の力を感じなくなったことに気付くと、下品な笑みを浮かべて、小さくなった勇者をギュウと踏みつける。

 

「勇者もこれで終わりだな……へっへっへ」

 

 痛みにうめき声をあげるが、こうなってしまえば勇者にはもう何もできない。力も弱くなり、魔法も使えない。何より勇者としての素質さえも全て奪われてしまった。

 

「マルティナ、あとは好きにしていいよ。そっちの処理はキミに任せた。ボクちんはこのツボを処分しないといけないからね~」

 

「はい、分かりました。ブギーさま」

 

 そう言い残すと、ブギーは勇者の力を封じ込めたツボを担ぎ込み、モンスターカジノの奥へと姿を消していった。そして残されたマルティナは邪な笑みを浮かべ、床に倒れてもう身じろぎもしない小さな勇者にそっと視線を泳がせた。

 

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