この世界に異能者と呼ばれる存在が現れたのはおよそ100年前である。彼らは生まれつき特殊な能力を持っており、中には個人で軍隊と渡り合えるほどの強力な戦闘力を有する者もいた。僅か数年で異能者の数や質が国力に直結するようになると、各国は挙ってその育成に力を入れ始めたのだった。
だが、大国の中で唯一、異能者の扱いを間違えた国があった。日本である。
何故か強力な異能を持つのは女性ばかりであり、当時の日本とはどうしても相性が悪かった。女性が戦場に立つなど言語両断だという考え方や、女性の立場が男性を上回るかもしれないという懸念が政治家達の中にはあり、結局国の利益よりも古い考え方が優先されたのだった。
政府は巨大な人工島を作ると、扱いに困った異能者達をそこに集めて管理した。5つの学園を設立し、そこで異能の研究と開発を進めつつも、決して軍事利用はせず、特別な地位も与えることもなかった。研究によって異能は20代で失う事が分かっており、異能者達はそれまで学生として過ごすことを強制されたのだった。
当然、その後の大戦で日本は他国の異能者によって蹂躙され、それから100年が経った現在でも異能後進国から抜け出せずにいた。
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学園島は5つの学園からなる異能者育成機関である。100年前とは違い、現在は自ら希望した13歳から18歳までの子供達が集まり、己の能力を高める為に切磋琢磨している。各学園はライバル関係にあり、互いに競い合わせ、成長を促す事を目的としている。ここで優秀な成績を残した者が卒業後に国家に所属し、日本の為に様々な任務をこなしていく事になるのだ。
その学園島にある建物の一室にて、とある会話がなされていた。
「──さて、噂通りの実力は見せて貰いましたし、もし貴女が良ければ先程の依頼を正式に受けて頂きたいのですが、どうでしょう」
そう話すのはソファに座った初老の男性だ。顔には笑みを浮かべているが、どうにも胡散臭く、観察眼のある者には初見で警戒心を抱かせてしまうに違いない。
彼の名は海堂。この学園島の実質的なトップであり、学園内で起きる重大な事件の多くを裏で操る黒幕である。表向きは学園長という立場にいながら学生達を実験対象や兵器としてしか見ておらず、強力な異能者を誕生させる為に多くの悲劇を生み出して来た存在だ。
その海堂の対面に座っているのはブレザー姿の少女だった。年齢は17歳くらい。少し青みがかかった黒髪を腰の辺りまで伸ばしている。一見良いところのお嬢様にも見える可憐な容姿をしているが、纏う雰囲気は幾つもの修羅場を潜り抜けてきた歴戦の兵士のようであり、とてもではないが学園島という箱庭の中ではしゃいでいるだけの学生達に出せるモノではなかった。
彼女は中国のSランク異能者、
「ワタシに拒否権なんかないわよ。上層部が依頼を受けて、ワタシにやれと命じた。なら、その通りに行動するだけだわ。──ただ、ひとつだけ言わせて貰えるなら予想以上に簡単そうでビックリって事ね。他もあの子レベルなんでしょ?」
「本当にワタシと同ランクなのか疑いたくなるわ。これが平和ボケってヤツなのかしら。貴方がこんなおかしな依頼をしてくる気持ちも少し分かるわ」
「嘆かわしい事です。勿論、今の体制を続けている政府にも問題はあるのですが、それ以上に学生達の意識が低すぎるのですよ。井の中の蛙。学園の中で頂点に立ったくらいで調子に乗っているのを見ると腹が立ってきます」
「フフッ、なによそれ。もしかしてこの依頼内容、貴方の個人的な感情も含まれてるのかしら」
「さて。どうでしょうね」
海堂は
「貴女も大変ね、ユキムラ。上司はこんなだし、後輩は実力不足だなんて。今いくつだっけ? 異能消失までに後継は育つかしらね」
常人であれば腰を抜かすであろう凄まじい圧を浴びながらも、一切気にした様子もなく
「…………」
ユキムラと呼ばれた女性は、海堂へと視線をやり、発言の許可を取ると一つ溜息を吐いてから口を開いた。
「……あまり
「それが平和ボケだって言ってるのよ。向かい合って「よーいドン」じゃなければ闘えないとか、笑い話だわ」
「彼女はまだ学生よ。今はそれでいいの。然るべき時に闘い方を教えるだけよ。そしてそれが終われば簡単に貴女を超える存在になるでしょうね」
「あっそ。そんな日が来るといいわね」
「フフッ。どうして態々他国の人間にこんな依頼をするのかと疑問だったけど、よく分かったわ。どうやらユキムラは随分と甘い性格みたいね。この依頼もきっと貴女が断ったからワタシに回ってきたんでしょ。仕事を選り好みできるなんて羨ましいわ」
図星だったユキムラは何も答える事はせず、
「依頼内容の確認よ、Mr.カイドウ。ワタシはこの学園島にいるSランカーを全員叩き潰してそのプライドを圧し折る。再起不能にならない程度にね。その見返りとして日本は拘留中の我が国のAランカー2人を解放する。間違いないわね?」
「はいその通りです。ああ、犯罪者を解放したなんて知られては問題になりますので、それは表沙汰にしないで下さい」
「分かってるわ。その代わり日本のSランクを倒したって事実はプロパガンダに使わせてもらうわよ」
「ええ、構いませんよ」
2人が笑みを浮かべて頷き合う。
今、
今回、政府は
「
「分かりました。では、一週間後にまたいらして下さい。こちらも報酬の準備を進めておきますので」
「分かったわ。じゃ、また会いましょ、Mr.カイドウ。それと、ユキムラ」
そう言って
室内に無言の時間が流れる。
次に口を開いたのは海堂だった。
「幸村くん。この学園島のエース達は
「……それは……分かりません」
「ふふっ、本当に?
「………………」
海堂の言葉に、ユキムラ──幸村エリナは悔しげに唇を噛むと、この部屋の中に残るもう1人の人物へと目をやった。
実力の定かでない中国のSランク、
その為、海堂はこの場にSランクを1人呼び出し、
線賀セイラ。
糸を生み出し操る異能を持つSランクである。白久万学園の生徒会長を務める優等生で、学園上層部からの信頼も厚い。一番マトモなSランクという評価に偽りなく、学園島の顔として島外のメディアの対応を任される事も多かったりする。
そんな彼女を海堂は要件を告げずに呼び出しておき、
──その結果がコレだ。
天井から伸びた一本の糸に右足首を囚われたセイラは、逆さまの状態で吊るされていた。両腕はダラリと下げられ、足は大きく広がっており、彼女の秘すべき場所が丸見えになっている。身に付けていた制服と下着は
学生達が『聖女』と呼ぶ美しい顔は白目を剥き、口もだらしなく開いている。輝かしい金髪も逆立って床に触れていては台無しだろう。白い裸体には無数のアザが出来ており、この姿を見て興奮出来る男は少数に違いない。
早々に
「…………」
エリナはセイラを吊るす糸を異能で爆破して彼女を床に降ろすと、そっと服を掛ける。近くで見るセイラの顔は引き攣っており、目尻には涙の跡もあった。何も出来ず一方的に振るわれる暴力というのはそれほど恐ろしいものだ。エリナには目の前の少女が挫折を乗り越えて成長する姿が全く想像出来なかった。