5つの学園の一つ、青羽学園。その学園の校舎には美しい屋上庭園があった。緑に囲まれた空間には屋根付きのガーデンテーブルがあって、そこに1人の少女が座っている。英国の貴族が着るようなワンピースドレス姿の白髪の少女だ。人間離れした美貌をしており、彼女がいるだけでこの空間が神秘的な場所のように見えてしまう。この庭園は彼女の希望で作られ、彼女だけが私的に利用する事を認められていた。そんな特別扱いが許されるだけの実力が彼女にはあった。
源スノウは学園島最強のSランクである。勘違いしている学生も多いが、火神ランは最強の赤楽学園のトップではあるが、個人で戦った場合スノウの方が上だと目されており、序列も1位となっている。彼女の全てを凍らせる異能が強力だというのも大きな要因だが、それ以上に経験値の多さが評価されていた。
10年前弱冠6歳でSランクに認定されたスノウは飛び級で学園島に入学し、下剋上を狙う歳上の異能者達の襲撃を何度も経験してきた。また、海堂学園長が裏で行っている非合法の実験に巻き込まれた事もあった。潜り抜けてきた修羅場の数は並のプロよりも多いかもしれない。そんな事情もあって上層部から1番評価されている人物なのである。
スノウは紅茶を飲みながら本を読んでいる。学園で学ぶべき事を13歳の時点で全て修めてしまっている彼女には、授業に出る義務はなく殆どの時間をこの屋上庭園で過ごしていた。毎日のこの穏やかな時間を彼女は気に入っているのだ。
──だから、それを邪魔する侵入者の存在に、彼女は不快げに溜息を吐いた。
「────ここは部外者立ち入り禁止です。出て行ってくれますか?」
「……へぇ、驚いたわ。気配を消してたのにまさか気付かれるなんて」
本から顔を上げる事なく言葉を発するスノウ。それに対する返答は彼女の背後2.3メートルの位置に立つブレザー服姿の少女、
その発言通り少し驚いた顔をした彼女は、奇襲を諦め会話を続ける事を選ぶ。
「初めまして、スノウ。ここは良い場所ね。勝手に入って悪かったわ。少しワタシに時間をくれないかしら」
「──その顔。中国のSランク
「フフッ。それが分かっている割に落ち着いているのね。これから貴女も同じ目に遭うのよ?」
「──そうですか。それはお断りしたいですね」
笑みを浮かべて挑発する
だから彼女は慎重に勝率を上げようとする。
「それにしても、この国のSランクって大した事ないのね。実力はないし、精神も未熟だったわ。泣きながら相手に許しをこうなんて中国では考えられないわよ」
相手にどんな感情でも抱かせる事が出来れば有利になる。それが
「貴女相手では仕方がないかもしれませんね。彼女達を責める気はありませんよ」
──スノウは他人事のようにそう口にするだけで、一切感情を揺らがせる事はなかった。
「何だか上から目線ね。自分は違うとでも言いたいのかしら」
「──はい。その通りですよ」
「フフッ。良いわね。その顔を泣き顔に変えるのが楽しみになってきたわ」
「出来ませんよ。貴女には」
「………………」
「………………っ」
会話が途切れ、しばらく無言の時間が流れる。
先に仕掛けたのは
異能を発動しスノウの感情の幾つかを増幅させながら接近する。そして未だに椅子に座ったままの無防備な背中に攻撃をしかけた。
──ゴウッ!!
しかし、あと一歩のところで、地面から飛び出した氷の壁が彼女の目前に立ちはだかる。更に、スノウを中心として半径数メートル内の地面が一瞬で凍り付いた。
「くっ──」
しかし、スノウは全くお構いなしに異能を連続して発動させた。つまり、彼女はこれらの感情を微塵も抱いていない事になる。突然襲撃されても恐怖も混乱もせず、相手を攻撃する事に一切の躊躇がない。それはこの学園島の中では異常な存在に違いない。
「──よく躱しましたね」
ようやく椅子から立ち上がり、
「プロを舐めるなよ、素人が」
スノウに対する評価を数段上方修正した
★
2人の戦いが始まってから10分が経過していた。常人離れした身体能力で動き回る
一方のスノウは氷柱を絶え間なく地面から生み出し、
「………………!」
「………………っ」
お互いに無言のまま、相手を倒す事だけに全神経を注ぐ。学園島の誰も見た事がない最高峰の戦い。しかし、その決着の時は少しずつ近付いてきていた。
至る所が凍り付いた屋上の気温は10℃近く下がっていた。そんな中で10分間も動き回れば急激に体力を消費するのは当然であった。
「しまっ────」
最初に比べてパフォーマンスが落ちていた
国家からの依頼に失敗し、他国の異能者に敗北した者がどの様な処分が下されるか。その末路を散々目にしてきた
この時の
──だから、それを見たスノウは完全に油断してしまった。
強敵に勝利した事で浮かべた「安堵」の表情。それを最後の最後に
「────ッ!」
瞬間的に最高速に至った彼女は、無防備に晒されたスノウの顎を撃ち抜く。それで勝敗は完全に覆り、スノウは目を見開きながら地面へと崩れ落ちた。
「油断、しました…………」
「あ、あはは……。ビビらせるんじゃないわよ……ッ」
大国の精鋭をここまで追い詰めたスノウの実力は本物だろう。だが、過程はどうあれ敗北は敗北。これで学園島の4人のSランクが1人の中国人に全滅させられた事になる。それは日本の未来が暗い物になる事を決定付ける物だった。