円卓
「……円卓について、貴方に伝える」
体を拭い終えたメリナは、シワの寄った衣服を伸ばしながら、話す。
「円卓には今、貴方の他に、二人のデミゴッドが囚われている。
一人は、王配ラダゴンの外戚にして、カーリア王家の末裔、月の王女ラニ。
彼女については、謎が多い。黄金律が砕ける以前も、滅多に人前に現れなかった。
分かっているのは、破砕戦争の最中、姿を隠し……生来の肉体を棄てて、今では、冷たい少女人形に宿っている。
気をつけて。彼女には、黒い噂が絶えない。
デミゴッド最初の死、黄金のゴッドウィンが暗殺された陰謀の夜。
……彼女は、その首謀者の一人ではないかと、囁かれている。
自らを魔女と称するデミゴッド。近づくなら、相応の覚悟をするべき。
一人は、女王マリカの末息子、天賦の双子の片割れ、聖樹のミケラ。
永遠に幼く、美しい、分け隔てなく優しく抱く、無垢なる黄金。
……けれど、今の彼には、何もできない。円卓に縛られているから。
永遠の幼さとは、無力であること。一人きりでは、彼はただの幼子でしかない。
だからずっと、泣いている。偽りの甘美、上辺だけの華やかな祈祷室で、飾られるように。
……同情した? でも、それは止めた方がいい。
神の知恵、神の誘惑。ミケラこそ、最も恐ろしいデミゴッド。
何人も、その魅了には抗えない。きっと、貴方でも」
しゅるり、しゅるりと音を立て、衣服を纏うメリナ。
貪られた痕を色濃く残す肌を、厚い布地が擦るたび、先の記憶が嫌でも疼く。
いたずらに刺激を強めないよう、緩慢に動くメリナは、あらぬ方を向きながら言葉を続ける。
「二人は、デミゴッドにして神人。女王マリカを継ぐ次代の神、その幻視の器に選ばれている。
けれど、エルデンリングは砕かれ、世界は今も壊れたまま。エルデの王は、まだ現れない。
だから二人は、円卓に封じられた。これ以上の大過を、二本指は許さない。
……円卓の中央、閉じられた扉の先に、二本指はいる。
もし、二本指の導きを求めるなら、まずは大ルーンを手に入れて。
エルデンリングの破片、その君主。デミゴッドを、貴方が倒すの。
……きっと、辛い旅になる。だから、ルーンを力にしたい時は、私を呼んでね。
他にはもう、何もできないけれど。ずっと、貴方の側にいるから」
立ち上がるメリナは、外套を羽織り、男と向き合う。
意識して灯りに背を向ける彼女の頬は、まだ赤く、火照っていた。
まじまじと見つめる男。羞恥を感じ、顔を逸らすメリナ。
がばりと立ち上がった男は、強引にメリナを抱き寄せて、唇を奪った。
「んっ……!? え、あの、貴方……!?」
反射的に身を引くメリナを追い詰め、壁際へ。ドン、と壁に押しつけられ、逃げ場がなくなるメリナは、あわあわと言葉を連ねる。
「み、身を清めたばかりなのに、また……!? 私、もう、限界で……!」
キスの雨を降らせる男に、いやいやと首を振るメリナ。
「立っているのが、やっとで……! 貴方が望むなら、受け入れたいけれど、今は……!」
抵抗を簡単に剥ぎ取られ、小さく縮こまるしかないメリナ。
せめて、両手を胸に当てて。ドクドクと高鳴る鼓動に、気づかれないようにして。
「だめ……」
口先ばかりの否定を、舌で転がし。熱を孕んだ瞳だけを、男に向ける。
揺らめく火、重なる影。男が再び、メリナの衣服に手を掛けた、その時。
コン、コン、コン、と。大粒の、水を差すようなノックの音が、二人の動きを止めた。
「……犬のように盛るのは構わないがな。四六時中は止めてくれないか。
隣人の迷惑も、少しは考えろ。言葉も分からぬほど、色惚けていないのであればな」
驚く男と、限界まで顔を赤くするメリナの視界に、雪のような魔女帽子が揺れ動く。
ずっと開いていた扉からはみ出る魔女帽子は、呆れるように動いた後、スッと消えた。
遠ざかっていく、小さな足音。機を逸した男は毒気を抜かれてメリナを離し、ふと、問いかける。
>【仲介を頼めるか聞く】
「……できるわけ、ないでしょう……!? こんな、こんな……! 気づかれるのも恥な痴態を、散々に晒した後で……!!」
怒りか羞恥か分からない激情で耳まで赤くなるメリナは、涙目で震え逃げるように消えた。
一人取り残された男は目を瞬き、ベッドに座って頭を掻く。
やはり、扉は閉めるべきだったろうか。
その気づきをメリナに知られなかったのは、紛れもない僥倖であった。
>【探索する】
円卓に取り残された男は、とりあえず色々見て回ることにした。
まずは円卓に乗っかっている大祝福。土足で円卓の上に飛び乗り、食器類を蹴散らしながら観察する。
でっかいこと以外何も変わらないただの祝福だったので、各部屋を見て回る。
積み上げられた本の類を蹴り飛ばしながらズカズカと探索する男。
ならば予測するまでもなく、再会は必然だったのだろう。
「……騒音の苦情を入れた側から、この在り様か。
蛮地の作法を誇るのは勝手だが、限度というものがあるだろうに」
大量の本が積み上がった暖炉前でローリングしながらはしゃいでいると、大きな執務机の上に、いつの間にか誰かが座っている。
見覚えのある雪帽子。冷たくも柔らかな衣装に身を包む少女人形は、呆れ果てたように男を見下していた。
「お前のような男を選ぶとは、姉上もついに耄碌した、と言いたいが……ふむ。奇人ではあるが、見処もあるのか?
まあ、良い。私には関わりのない事だ。
さあ、出て行きたまえ。招待もなく女の部屋に上がり込むなど、死に値する粗相であることくらいは、理解できよう?」
鋼のように冷えたラニの視線が男を貫く。男の方は、ラニを見つめ、呆けている。
雪魔女を模した少女人形。肌の蒼、四つ腕の異形、閉じた目を共有する幽玄の
――欲しい。美しく、儚さを宿すラニの前で、男の股座は怒張し、天を衝いた。
ラニの視線が、極寒まで冷え込む。男の獣性は熱く、まるで衰えない。
けれど、男は残念そうにラニとの邂逅を切り上げ。
がっくりと肩を落としながら、ラニの部屋から出ていった。
「……機を見るに敏、と評するべきか。天性の勘でも備えているのか?
耄碌の疑いは、撤回しよう。姉上は、王の器を見つけたやもしれんな」
今、手に入らないから、後回しにする。
男の行動の真意を見たラニは、人知れず、口元にゆるりと孤を描いた。
スゴスゴと退散した男は、耳を引く音の根源を探していた。
階段を下り、開かない扉を蹴破って、先へ。
広間でよく分からん侵入霊を殴り殺した男は、奥まった所に暖炉のある一室を発見する。
豪奢な飾り布、数多ある祈りの彫像、繊細に整えられた祈祷室。
優しいだけの黄金に包まれた、虚飾の牢獄。男は本能的に、二本指の欺瞞を感じ取った。
「――誰か、そこにいるのですか?」
不意に、声を掛けられる。視線を向ければ、一際豪奢な寝台に、誰かが横たわっている。
幾重にも重なった無垢金のレースの奥、美しい白の上に広がる、黄金の髪。
編み込まれた幾筋もの三つ編みが、主の動きに追従する。
黄金の泉から浮き上がるように体を起こしたその人物は、緩慢に、焦らすような仕草で男に顔を向けた。
「ああ……もしや、円卓の騎士様、なのですか……?」
鈴を転がすようなその声は、魔性であった。
耳朶を超えて、脳を揺らし、蕩かすような幼い声。
いたいけで純粋、澄み切った少年の、蠱惑を孕んだ音色。
中性的な、けれど少年の面影が艷やかな、絶世の美貌。
幼年の無垢、清純、天真。触れれば戻れなくなってしまいそうな、危うい儚さ。
大粒の涙でしとしとと頬を濡らす彼は、何処までも美しく、背徳の庇護を誘っていた。
「ああ、騎士様……どうか、私の願いを聞き届けて下さい……
私の体を縫い絡む、二本指の戒めを、断ち切ってほしいのです……」
涙に濡れて、艶っぽく掠れた声で、ミケラは両手を合わせ、真摯に願う。
「ええ、分かっています……円卓の虜囚を解き放つなど、大いなる意志への大逆も同じ……
祝福に導かれ、エルデの王を目指す騎士様に、縋るべきではないのでしょう……
けれど、けれど、私には、どうしても果たさねばならない、約束があるのです。
苦しく、迷い、辛くとも、旅立たねばならぬ路があるのです。
だから、どうか、お願いします……私を解放して下さい……
私にできる事ならば、何でもしますから……どうか、お願いします……」
潤んだ瞳で懇願し、男を見つめるミケラ。
無垢なる黄金、無力の祈り。逆らえる愚者など在ろうものか。
>【何もしない】
が、ミケラの誘惑を真正面から浴びせられるこの男、そもそも願いを叶える手段がない。
出来ないことは出来ないので、頭を掻く男は、サッと出口に身を翻す。
「え……?」
信じられないと言わんばかりの息遣いが聞こえたが、気のせいだろう。
男は振り返ることもなく、祈祷室から出ていった。
「……ああ、ああ……ようやく、機会が訪れたと、そう思ったのに……」
両手で顔を覆い、寝台に伏せるミケラ。
ずっとずっと啜り泣き、疲れ果て、眠りに落ちてなお、ミケラの涙は止まらなかった。
一通り円卓を見て回った男は、メリナの言う通り、住人が二人しかいないことを確認した。
大祝福の前で考え込む男は、何となくもう一度ミケラに会いに行ってみる。
再び祈祷室を訪れる男。幾重にも垂れる無垢金のベールを不躾に払い、寝台を覗き込む。
そこに眠っていたのは、無垢なる黄金ではなく。
淡い薄紫に微睡む、眠りの聖女だった。
男は首を傾げる。辺りを見渡しても、蝋燭の火が昏く消えているだけで、ミケラの姿はない。
少女に話しかけても、反応はない。頭を掻く男は、少女の目から滴るものが涙でないことに気づいた。
>【蜜を吸う】
触れて、拭い、指に乗せる。顔に近づけると感じる、甘やかな香り。
これは蜜だ。何度も頷く男は、そのまま指を口に含んで、蜜を吸った。
何とも優しく、得も言われぬ甘さだ。気に入った男は、滔々と流れる蜜涙を拭っては吸うを繰り返す。
艷やかな蜜涙を拭うたび、少女の顔が網膜に焼き付く。
儚い眠り、枯れ落ちる寸前の、静かに映える花の美しさ。
指で拭う白磁の頬の柔らかさが心地良い。
閉じた目を飾る長い睫毛の、花弁のような細やかさが美しい。
ミケラが、一度の微笑で万人を虜にする、逆らえる者なき黄金の魔性ならば。
この少女は、気づかぬままに底なし沼に沈むような、理性を麻痺させる仄暗い聖女である。
しかし、ただ泣き疲れ、微睡んでいるならば、何者も誑かすことはできない。
他者を虜にし、夢中にさせ、狂わせる肢体を、無防備に差し出しているも同じだ。
ゴクリと、男の喉が鳴る。とろ火で熱された油が、いずれ弾けて燃えるように。
知らぬ間に情欲を刺激され続けた男は、理性の糸がとっくに断ち切れている事に、今気づいた。
不可侵の寝台に、無遠慮に踏み込む男。
幼年の主の軽やかさしか受け止めたことのない寝台が軋み、悲鳴のように主に知らせる。
けれど、少女は起きる気配を見せない。立ち上るのは、静かな寝息ばかり。
沸々と煮える情欲に身を任せる男は、這うような姿勢で少女に迫った。
蜜涙で濡れる少女の頬に、手のひらを伸ばし、はっきりと触れる。
絹のような柔らかさ、幼子特有の高い体温。一頻り楽しんだ男は、ゆっくりと顔を近づける。
頬に流れる蜜涙へ、直接の口づけ。二度、三度と繰り返し、舌を這わせて舐め取りにかかる。
頬を、鼻筋を、閉じられた
男は蜜涙を舐め取りながら、一方で指で掬い、少女の唇に塗り拡げた。
たっぷりと蜜で濡れた、柔く幼い、小さな唇。
誘蛾のように、男は顔を近づける。熱に焼かれ、獣臭を放つ、渇いた舌。
何の遠慮もなく、それを少女と重ね。
見ず知らずの聖女の、誰にも許したことのない純潔を、男は一方的に奪った。
小さな唇の、柔さと体温を堪能する。舌を差し入れ、無理やりこじ開け、口腔へ侵入。
並びの良い歯を舐め回し、小さな吐息を吸い込み、奥の舌を絡め、引っ張り、深く交じる。
堪らぬ、背徳の味だ。たかが口づけ、されど脳を蕩かすような、退廃的淫靡に彩られた一瞬。
時を忘れ、蜜涙を掬っては塗り、少女の唇をひたすら貪る。
やっと、男が離れた時。少女の頬は赤く染まり、その唇は蜜と唾液で濡れていた。
少しばかり熱を帯びる呼気が、少女の口から漏れている。
蜜涙で化粧を施され、粘度の高い唾液を垂らす、少女の唇は肉壺にも似ている。
……この肉壺に棒を突っ込めば、さぞ温かく絡んで心地良いだろう。
男の理性はとうに飛んでいる。不道徳など、背中を押すスパイスにしかならない。
滾りに滾った一物を握る男は、その矛先を少女の唇に定め。
体に男を刻むよりも先に、男の味を、眠る少女に覚えさせた。
先端の
ゆっくりと、けれど止まることなく。片手で少女の髪を撫で、固定しながら、男は腰を前へ突き出す。
背徳を犯す獣欲は、痺れるような驚きに変わった。
蜜に濡れる少女の唇は、何の抵抗もなく、男の長く、太い肉棒を、最奥まで飲み込んだのだ。
――デミゴッドは皆、只人と近しい姿をしている。
それはエルデの神、永遠の女王マリカが、元は狭間の地の外にあった稀人だからだ。
黄金律の幻視を宿した後も、マリカの肉体は人であった。その形質は当然、子たるデミゴッドにも引き継がれている。
だが、人と近しい姿であることは、人と同じであることを意味しない。
デミゴッドとは半神であり、脆弱な人の器など当たり前のように超越している。
見た目は人に近しくとも、それはもはや名残であり、マリカの血を受け継ぐ象徴に過ぎない。
故に、デミゴッドの肉体は、人と同じ生命活動を必要とせず。
――ただの名残である外見は、色情に耽るための快楽器官でしかないのだ。
欲に塗れた男の肉棒を、一切の抵抗なく飲み込む少女。
デミゴッドの肉の内は、外面とは比ぶるべくもない神秘。
少女の体ではとても受け入れられない怒張だろうと、根本までしっかり包み込み。
……人には過ぎた禁断の蜜、神に近しき極上を、魂の髄まで刻み込む。
ぶるりと、男は大きく震えた。
今まで体験してきた快楽が、一瞬の内に色褪せていくよう。
小さな舌も、狭い咽道も、奥の奥の行き止まりも、確かに感じるのに、初めからその形であったかのように滾った肉棒と完全に一致する。
挿れただけで精を搾り取られるような、蜜壺という言葉も生温い少女の淫口。
込み上がる射精感をどうにか耐えた男は、しかし次の瞬間、苦悶の声を上げた。
眠ったままの少女の体は、主の意志とは無関係に、不躾な訪問客に応対する。
窄んだ唇が勝手に吸いつき、小さな舌は悦ばせ方を熟知しているかのように裏筋を刺激し、喉奥は人体にあり得ない蠕動で亀頭を包み、労り、限界へ導く。
慌てて引き抜こうとすれば、吸いつきは最大まで強くなった。味わうように、逃さぬように、下品な水音を立てて眠りながらもしゃぶりつく。
男の動きは無理やり止まる。突くも引き抜くも、許容以上の快楽を与えられ、ままならない。
その間も少女の淫口は、堕落を誘う神性で男の絶頂を促し。
ついに耐えきれず、吐精。漏らすかのような勢いで、肉欲の全てを、少女の口へ流し込んだ。
息を噛み締め、震える手で少女の頭を掴み、噴き上がる快楽に耐える男。
脈動する竿は口腔内で何度も跳ね上がり、都度どろりとした精液が溢れ、際限なく奥へ飛び散る。
少女は、全てを受け入れた。小さな手が独りでに男の腰へ回され、
限界以上に、男は射精した。魂まで抜き取られるような、信じがたい快楽だった。
やがて、やっと、落ち着いた男は、少女の口から一物を引き抜く。
ずろっ……ろろろろっ……柔らかくなった肉棒が、終わりがないと錯覚するほどに引き出される。
惜しむような口づけが、緩んだ暈にリップ音を咲かせ。
ようやく、少女の口から男の獣欲が離れた後。
残されたのは、どっぷりとこそがれて唇から垂れる、白濁とした背徳の痕だった。
荒い息を繰り返す、男の血走った目が、少女の下半身へ向けられる。
想定以上に絞られて、少し萎えてしまっているが、この程度で男の欲は収まらない。
触り心地の良い薄紫の髪を撫でると、眠る少女の口から舌が這い出て、ぺろりと、ドロドロの精液を無意識に舐め取る。
このまま最後まで貪り尽くしたとて、誰も咎める者はいまい。
眠りの神性を帯びる聖女、蛮地の如く蹂躙するは、男をさぞ満足させるだろう。
だが、頭を掻いて、堪えるように息を吐く男は。
名残惜しそうに少女の髪を梳きながら、後始末に移った。
別に、大した理由があるわけでもない。
眠れる聖女を欲望で穢す、それもまた一興であるが。
最初の交わりであれば、体よりも、むしろ心をこそ犯したい。
何ともくだらないこだわりである。力任せの強姦に、何の美学があるというのか。
そう糾弾しても、男にはまったく響かないだろう。
男は死ぬほど諦めが悪く、己を曲げられぬほど頑迷だった。
祝福の力も利用して完璧に事前へ戻した男は、最後に一度、少女を撫で。
次に会った時、目を覚ましていたら、必ず犯すと勝手に決意し、祈祷室を後にした。
思わぬ誘惑に時間を食ってしまったが、そろそろ円卓を立つべきだろう。
放置された鍛冶道具を勝手に使ったり、置物みたいな双子の老婆と取引したり。
準備を終えた男は、ふと二本指に続くという閉じられた扉に目を向けた。
メリナの言葉通りであれば、開かないらしい。とりあえず、開くかどうか試してみる。
しかして扉は、予想に反し、あまりにも呆気なく開いた。
男は特に驚かなかった。お、開いてんじゃーん、とズカズカ奥へ上がり込む。
そこには大いなる意志の使い、巨大な二本指が座している、筈が。
「ほう……蛮勇よな。開かぬと聞いていただろうに、土足で荒らすに躊躇いはないか」
黄金に満ち満ちた閨、その中心で尊大に横たわる神は、嘲弄するように唇を歪めた。
「よくぞ妾の前に参った、褪せ人よ。
我が名はマリカ。狭間の地を律する黄金の幻視、エルデンリングを宿す神である」
目を見開く男に嘲りを深め、マリカは端的に目的を問う。
「つまらん問答は要らんだろう。横紙破りとはいえ、妾の前に立ったのだ。
褪せ人よ。お前は何を望む?
力であれば、抱えきれぬ程のルーンをくれてやろう。
物であれば、黄金樹に刻まれし追憶を一つ、特別に融通してやろう。
だがもし、苦難を求めるのであれば……王の道に相応しい、艱難辛苦に落としてやろうぞ。
さあ、どうする? 生憎と、妾は気紛れでな……次はもう、無いやもしれぬ。
ああ、だが、遅々と愚図る薄弱者は要らぬか……心せよ、答えなければ――」
指先一つで生き死にを定めるようなマリカの言葉は、遮られた。
苦難を。開闢以来並ぶものなし、未曾有の地獄を、ただひたすらに。
断言する男は、笑っていた。飢え渇いた狂熱に浮かされる、爛れ切った戦士の顔だった。
驚いたように男を見つめるマリカは、やがて耐え切れぬと言わんばかりに、笑声を零す。
「クックックッ……! 褪せ人風情が、苦難を望むか! 未だ死に切れぬだけの弱人が!
――良かろう。それでこそ、王の故と云うものよ。
行くが良い、褪せ人よ。戦を求め、生き、死ぬがよい。
死と共に強くあれ。地を這う蛆の如きお前は、果たして猛き竜となるや?」
マリカが指を振ると同時に、男の体が祝福される。
英雄さえも盲目にする、マリカの光。
男が祝福に塗り潰され、ついに消えた後、マリカの哄笑だけが残響していた。
暗がりから、男は立ち上がる。
いずれ何処ぞの通路、階段に設置された祝福。とりあえず触れて、先に進む。
幾重にも打ちつけられた板を剥がし、錆びついた扉を開く。
隧道を抜けると、そこは渺々たる
聖別雪原
果てしない視界不良と極寒に、呆然としながら男は悟る。
これ絶対流れ着いたばかりの褪せ人が来る所じゃないだろ。
頭に鳴り響く、女王マリカのせせら笑い。
クソァ!! 殺してやる!!
戦利品である黄金のハルバード(能力不足)を振り回し、我武者羅に駆け出す。
男は死んだ。
エロゲー仕様なのにエロ要素のない回とか萎えるので一話ごとにエロ描写を入れていく所存です。