聖樹の高枝→聖樹の大舞台
光なき夜空を思わせる転送門の通路。
暗闇の中の浮遊感が消えた直後、男の視界は一気に開けた。
いずれ黄金樹にも匹敵するであろう、聖樹が聳えている。
その頂上に近い高枝に、気づけば男は立っていた。
聖樹の高枝
雄大極まりない聖樹を前に圧倒されているのか、無言のまま立つ男。
やがて、幼い疑問を浮かべるように、男は首を傾げた。
臭くね? つーか腐ってね?
腕を組んで立つ男の裸足は、腐れ特有の粘ついた柔らかさを感じ取っていた。
舞っている葉は枯れている。
広がる高枝は中折れが目立ち、萎びて垂れ下がっているのも珍しくない。
巨大な幹はどうと一本筋ではなく、呪いのように節くれ、捻じ曲がっている。
木肌は黒く苔むしり、黄金樹へ届かんとする若さすらなく、どうしようもない老醜を感じさせた。
無数に生える茸群は、聖樹がすでに苗床に成りつつある事を示していた。
聖樹のミケラ。
滴る血さえ黄金に輝くという、永遠に幼く、美しい神人。
ならばミケラの揺籃たる聖樹は、あらゆる穢れを寄せつけぬ、最も神聖な姿となる筈なのに。
もはやそこに聖なる輝きはなく、ただ儚い生命と同じように、ゆっくりと腐れゆく枯れ木だけが残っていた。
当然だが、そんな詩人の哀咽みたいな考え方を男はしない。
男の行動指針は基本的に闘争と略奪である。ひたすらに戦いを求め、目についた物はとりあえず拾う。
その根底には、ずっと冷めぬ、飢えて、渇き切った衝動が渦巻いている。
ただ、苦難を。聖樹の腐れなど気に留めない男は、強敵を求め一歩踏み出し。
ふわりと飛んできたシャボン玉にぶつかり、
男は死んだ。
知っているかい? シャボン玉にぶつかると、人は死ぬんだぜ……
その驚くべき知見は、だが男の理解の及ぶ領域ではなかったようだ。
腐れつつある高枝の上で猛ダッシュをかます男は、急に地面から生えてきたシャボン玉にぶつかって血煙になる。
シャボン玉は子どもの遊びだ。衣服を洗う石鹸の泡立ちに、息を吹き込み空へ飛ばす。
大きくなれよと送り出されるシャボン玉は、日に照らされて虹を帯び、儚く散るまでが遊びの肝だ。
そう、散るのはシャボン玉の方である。断じて人体をシャボン玉のように散らす遊びではない。
しかし現実に塵と化すのは男の方だった。何故か追尾してくるシャボン玉から必死で逃げるも、普通に追いつかれ即死する。
ならばとフェイントを挟み躱す男。惰性の追跡は驕りを生むものよ。
これでシャボン玉対策は完璧だ。再び走り出す男に、三人から同時に放たれた無数のシャボン玉が壁となり、過ぎ去った後、何も残ってはいなかった。
男はしゃがんで背後から接近し、笛を吹くまん丸白布頭に蹴りを見舞う。
ふわりと一瞬の間を置いて、底の見えない聖樹の根へと落下する白ターバン。
怒りとも侮蔑ともつかぬ含み笑いで男は見送る。素敵な笛の音だ、地獄でも吹いていろ。
血の気に満ちた顔で背後からのしゃがみ蹴りを繰り返す男。その背後から、ヌッと影が差した。
あぁん!? メンチを切って振り返る男。一回りデカい巨躯の使者に、満ちた血の気は即座に引いた。
ド、ドーモ。ビビりながら慌てず騒がず、挨拶する男。挨拶はジッサイ大事、蛮地でも通用する。
しかして返答は、振り下ろされる長笛だった。宮廷的殴打、男は破裂する。
神託の使者(おそらく親)に
全滅させようかとも思ったが、止めた。そもそも使者どもは男の求める強敵ではない。
人ならざる神託の使者は、新たなる神、あるいは時代の予兆として、神託の笛を吹き鳴らす。
それは祝福であり、讃歌であり、
あれらは、戦う者ではない。いくら強くとも、意志なき者を殺したとて、男の飢えは満たされない。
フッ、俺の敵でなくて良かったな。血管ビキビキの男は不細工に痙攣するキメ顔で前を見た。
そこにいたのは、人を遥かに超える巨大蟻の群れ。
ガチガチと鳴る顎は、現実を受け入れられぬ男を、頭から捕食した。
聖樹街
聖樹の高枝から全力ダッシュで一分程度に近しい祝福で、男はボロ雑巾となっていた。
男も人だ、道端を歩いていれば蟻を踏み潰した事くらいある。だが蟻に踏み潰されるなんて初めての経験だった。
無駄に硬く、集団で襲いかかる。試しに食い千切ってやっても、死ぬほど臭みがひどくて死んだ。
頭上に朱い花粉をばらまく、動く巨大花も気に入らない。触れるとグズグズに腐るとは、どういう了見であるのだろう。
腐れゆく聖樹に適応した、生命の形。ただ生きる、それだけの生存競争は、男の求める苦難とはやや位相がズレていた。
まあ、愚痴を連ねても仕方ない。立ち上がる男は、拳を鳴らして前に進む。
掲げた両手の指を組み、祈りを捧げる異形。
生まれながらの奴隷、穢れ者。溶けた瞳を向ける混種は、鉄の鉈を握って吼える。
ああ、そうだとも。武器を取り、殺意に漲り、勝利のために時に命すら捨てる。
生存本能さえ塗り潰す戦意こそ、男の求める苦難。歯を剥き出しに笑い、飛びかかる混種へ拳を振るう。
男は死んだ。
聖樹街、広場
祝福で聖杯瓶をガブ飲みし、男は一服していた。
まあ、悪くはなかった。こちらは一撃で死に、相手は千撃与えても致命には事足りぬ。
傷に塗れ、血泡の混じった涎を垂らし、なおも獰猛に食らい合う。
ああ、実に良い。惜しむらくは男にとって、混種との戦いは馳走にすらならなかった事か。
確かに強かった。だが強敵と呼べる程ではなかった。沸々とした戦意を慰める、クズ野菜程度の獲物だった。
道中の茸人やミランダフラワーの妨害も合わさり、収支はトントンと言ったところ。
可もなく不可もない、だが少しだけ晴れやかな気分を味わう男は、更に先へと進む。
なんか半透明のかたつむりおるな……まあ害もなさそうやし無視するか……
ファッ、なんか蒼い結晶みたいな奴出てきよった! まあ遠距離くさいし近づいて殴るか……
アイエエエッ!? 三人!? 三人ナンデ!? 馬鹿野郎お前俺は勝つぞお前!!
遠中近揃えてジェットストリームアタックとか恥ずかしくないんか? タイマン張れやぁ!!(遺言)
あまりにも殺意が高すぎる。癒やしなのはかたつむり君だけや。
愚直に三対一など馬鹿のする事です、地形を利用して一人一人処理しましょう。
まずは優雅に誘導して……茸人ゥ! クッソ邪魔や! ポコポコポコポコ生えてくんなや!!
茸人を放置しているとせっかくのタイマンが邪魔されてしまいます。
だから、事前に撲殺しておく必要があったんですね。
はい、用意スタート。結晶人をボコボコにする一部始終、はーじまーるよー!(計測終了)
やりました! やったんですよ! 必死に! その結果がこれなんですよ!
何度も死んで、やり直して、やっとの思いで一人倒したら、復活したんですよ!
これ以上何をどうしろって言うんです! どうやって倒せって言うんですか!
ワァ……あ……命がもったいない……ろうそくみたいできれいだね……
かたつむり君、ありがとうやで……君だけが癒やしやで……まだ頑張れるで……
ああ、かたつむり君!? 戦いに巻き込んで落としてもうた!?
そんな、かたつむり君……殺してやる、殺してやるぞ二本指……!
……ん? 結晶人足らんくね? 二人しかおらんくね?
なんで一人消えたんや……? 今までとの違いはかたつむり君落としたくらいしか……
……結晶人は三人、かたつむり君も三匹……
…………かたつむり君…………?
とくと見よ。お前たちの血の穢れたるを。
こんなものが、まともな生命に流れるものか。
聖樹の大舞台
戦いに錆びつき、荒んだ心は、男を修羅と駆り立てた。
茸人、混種、戦魔術師。道中の敵を殴りに殴り、気が済んだら蹴り落とした男は、大舞台にたどり着く。
聖樹を支える壁の中心に、抱き合う少年と隻腕の女性、彼らを包む母の像が、儚い蝋燭で飾られる場所。
明らかなる祈りの場に、全裸の男は無遠慮に踏み込む。
その蛮行を阻むように、猛々しい蹄の音と共に、彼女は現れた。
「侵入者よ。聖樹を踏み荒らし、邪なる下卑で貞潔を穢さんとする痴者よ」
堂々たる戦馬、輝ける銀鉄。
聖樹街の門番、不埒な侵入者の死神。
「ミケラ様の騎士、ローレッタが、貴様を許しはしない」
男の眼前で戦馬と共にふわりと飛び上がり、「聖樹の騎士、ローレッタ」は戦鎌を掲げ、魔術を展開した。
死にはもう慣れたものである。
尋常の死は男にとって、もはや恐怖の戒めにすらならない。
だがそれは、名高き強敵に討ち勝てる事を意味しなかった。
綺羅びやかな輝石の輝きが、また一つ、男の命を奪う。
「聖樹の騎士、ローレッタ」。男からすれば名も知らぬ、だが遥か格上の強敵だ。
洗練され、鍛え上げられた人馬一体。高い技量を求められる戦鎌を完璧に扱い、更に魔術まで修めている。
それが有象無象に及ばぬか弱い褪せ人、一人の排除のみに振るわれるのだから堪らない。
戦鎌の一撫でで殺されるのは茶飯事。
放たれる輝石魔術に掠ろうものなら体の過半が消し飛ばされる。
戦馬の激走、蹄、体当たり。嘶きさえ、男の脳を破壊した。
強い。何処までも、今まで戦ってきた誰よりも。
男は笑う。飢えは変わらず、渇いたまま。それでも、芯に響いてくる。
実に楽しい時間になりそうだ。吼える男は拳を握り、飛びかかる。
男は死んだ。
褪せ人に与えられる祝福は、何度でも死から遠ざけ、再戦の機会を与える。
時の回帰、とは少し違うだろう。自らも、そして相手も、戦いの記憶を引き継いでいる。
限りなく圧縮された一戦を繰り返すようなものだ。
強敵が倒れるか、褪せ人が心折れるまで、時間は存在意義を失う。
それを呪縛と呼ぶ者もいるだろう。概ね、男も同意する。
死んで敗けるまで戦いを強要されるとは、なんとも哀れな結末じゃないか。
まあ、現時点で死に続けているのは男の方だ。まだ無様を笑うべきではないだろう。
それに祝福は、その性質上、相手にも有利に作用する。
経験を積んで強くなるのは男に限った話ではない。当然相手にも蓄積する。
初戦を繰り返しているような物なので、油断、侮り、驕りも当然ない。
全盛の、より強化されていく強敵に、丸裸にされながら戦う。
素晴らしいじゃないか。それを望んで鬱陶しい衣類を纏わない男は、雄叫びを上げながら戦いを続けた。
何千かも、何万かも知らぬ、幾度の初戦でまた男が死ぬ。
散り果てる肉体、死する心。砕かれてもただ男の眼だけが、最期まで強敵を見つめ続ける。
そうして祝福に戻った男は、一度座り込んで考えをまとめた。
喉元を食い破る算段はできた。あと数百回は死ぬだろうが、施行を重ねればいずれ届くだろう。
相手の手札も見切り尽くしている。当然こちらも見切られているが、裸一貫の武器一つ、そもそも手札に限りがある。
一の手段しかない者と、百の手段を知られてしまった者。相対的に言えば、軍配は男に上がっている。
だから、ああ、狂熱はもう過ぎ去ってしまった。
男の顔にもう笑みはなく、満ち足りぬ荒涼ばかりが表れている。
先が見えるのは辛いことだ。未来を理解する知性を、男は本能的に唾棄している。
どんな生命であれ、いつかは死ぬ。だが生きる者は
いずれ死に絶え、消え去るものに、意味なんてものがなかったとしても。
生き足掻き、抗う一瞬には、確かなる価値がある。
それを追い求める男にとって、終わりに向かって進む
銀鉄と輝石の輝きであんなに美しかったのに、色褪せてしまった世界。
肌を舐る荒涼に男が耐えていると、冷え切った頭にふと疑問が浮かぶ。
「聖樹の騎士、ローレッタ」。遥かなる強者、類稀なる強敵。
それは間違いなく、死闘は実に素晴らしかった。だからこそ思考の端に、引っかかる何かがある。
戦馬への騎乗? そんなもの、戦地では珍しくあるまい。
魔術による遠距離攻撃? 卑怯などと、所詮は敗者の戯言だろう。
組み合わせたところで、強みを生かしているだけだ。不自然など、何もない。
不自然など、何も……不自然? 騎乗? 遠距離? ……白?
がばりと、男は立ち上がる。その気づきは突然だった。
雪原にて主と共に駆ける、狼の群れを幻視する
正確無比に撃ち貫く、魔法矢の雨、その幻痛が走る。
屋根上で見下し、嘲笑する、女どもの幻聴が耳に障る。
――まさかローレッタさんもしろがねじゃないだろうな?
全裸の男、その何処とも知れぬ収納の中、一つの遺灰がぶるりと震え。
男の中で、何かが切れた。
大舞台に褪せ人が現れ、何千も繰り返された初戦に、ローレッタは立ち向かう。
祝福された褪せ人は、厄介だ。二本指に呪われて戦う彼らは、敵が死するまで何度でも蘇る。
倒すには、心を折るしかない。たった一度の諦めが、褪せ人から祝福の導きを奪う。
その一度を、今度こそ。戦鎌を掲げるローレッタは、心折るべく全力で臨んだ。
愛馬と共に駆け、魔法を展開し、戦鎌を振るう。
一度、当たりさえすればいい。この褪せ人は、おそらくルーンを力にしていない。
二本指の壊れの表れ、巫女無しなのであろう。だが油断はしない、確実に仕留める。
ローレッタの強みは人馬一体の機動力、卓越した戦鎌の技量、学び研鑽した魔術の粋だ。
それぞれが持つ必殺を組み合わせ、十全に振るうことで、ローレッタは強者へと登り詰めた。
数多難敵を屠りし作法、お見せしよう。たかが褪せ人にはもったいない熟達を以て、ローレッタは心殺を決行する。
しかし、今回の男はしぶとかった。
掠るだけで死ぬ必殺を悉く避ける。戦鎌、輝石魔術、魔法弓、戦馬の激突。
その全てを、ギリギリの紙一重でありながら、凌いでいる。
成程、多少は学んでいるようだ。だが力の差を理解していない。
拙い反撃を鎧で受けながら、ローレッタは必殺を放った。
ふわりと高く飛び上がり、巨大なる魔法弓に四本の大矢を番え、発射。
魔力の大矢は敵を追尾し、四方から接近し、着弾する。
ローレッタの長き戦い、その旅にて研ぎ澄まされた魔術。
輝石の輝きに男は塗れ、残ったのは魔力の残滓のみだった。
これで心折れれば良いのだが。警戒が僅かに緩むローレッタ、その心中にノイズが生じる。
弱き褪せ人への哀れみ、称賛、僅かな油断。
強者ゆえにどうしても抱いてしまう驕り、その代償は即座に支払わされた。
「なっ……!?」
ガクリと、ローレッタの体勢が崩れる。目を向ければ跨る愛馬が、息も荒く膝を折っている。
その異常を理解する間もなく、ローレッタは愛馬に振り落とされた。驚愕し、無意識の反応で着地し、そして理解する。
ずっと旅を共にしてきた愛馬が、殴られていた。鎧越しに、何度も、何度も、無骨な素手で。
金属を叩く独特の響きは、鎧通しの原理。衝撃をより響かせ、脳を揺らし、昏倒させる手法。
ついに崩れ去った愛馬は、頭を足蹴にされ、力なく横たわった。
下手人たる男、褪せ人は、ゆらりと黒目をローレッタに向ける。
「……済まない。不徳を許せ、我が半身よ」
一瞬の自責と、研ぎ澄ます戦意。
油断と驕りが招いた喪失、決して無駄にはしない。
両足で大舞台を踏み締めたローレッタは、戦鎌を構え、全霊で男を排除する。
そして、理解した。
ルーンの力なき褪せ人が、なおも生き抜いた、その秘密を。
「馬鹿、なっ……!?」
素手で戦鎌をパリィされ、拳を叩き込まれるローレッタは、血の味を感じながら驚倒していた。
悉く。振るう戦術の悉くが、この男に通用しない。
輝石魔術は避けられる。刃に魔力を乗せてもいなされる。大弓の絶技さえ見切られる。
違う。同じ姿、同じ力、同じ弱さ。何も変わりはしないのに、何もかもが違っている。
対峙するローレッタは理解する。理解するしかない。
何処までも冷静で、何処までも冷酷。冷え切って擦れ果てた、蛮地に
「それ程に研ぎ澄まされた刃を、なぜ今まで……!」
努めて冷静に振るう戦鎌は、男に届かない。
見切られ、踏み込まれ、パリィされ、体勢を崩す。無防備な鎧に、素手の致命が叩き込まれる。
ジリジリと、僅かに、だが確実に蓄積するダメージに、ローレッタは焦っていた。
黒目を見開く男は、先の男とはまるで別人だ。蛮地らしく、ケダモノのように、滾る熱意をもう感じない。
ローレッタは理解する。猛々しい戦意は、男がそうと望んだ姿。そう在りたいと願う姿勢。
本質はずっと、鏡合わせの真逆。厳正に選択し、執行し、実現する、知性の怪物。
見誤った――それが、ローレッタの最後の思考であり。
パリィ、そして致命。叩き込まれた拳の衝撃が、ローレッタから戦う力を奪い去った。
「お許し下さい、ミケラ様……どうか、しろがねの民に、優しい安住を……」
胴体と股隠しを外して投げ捨てた後、力任せに肌着を引き裂く。
白日に晒される、鍛え上げられた、損なわれぬ女体の美しさ。
股座を
銀糸の髪、白い肌、瞳。似ている。だがしろがね人ではない。
首を傾げる男を眺め、横たわるローレッタは見透かしたように冷笑した。
「ハッ、覚えのある眼だ……腐肉漁りにも劣るカッコウの同類め……
救いを求めて、何が悪い……ただ造られた、それだけで劣等と蔑まれるなど、あって良い筈がない……」
手を差し伸べるその背に、悪意ある嘲笑が突き刺さろうと、ローレッタは汚れなかった。
苦難の旅と知って、自らの意志で、ただ弱者のためにあろうとした。彼女は高潔なる騎士である。
だから男に、嗜虐の火が灯ったのも無理ならぬこと。遺灰を取り出した男は、ローレッタの前に彼女たちを呼び出し、口端を曲げる。
典礼街オルディナを守ったしろがねの射手たち。気まずそうに目を逸らす彼女たちに、ローレッタは悟り、憤った。
「貴様……! 守り手を
辱めるならば、私だけにすればいいだろうに……!」
手足を震わせる怒りは、だが力尽きたローレッタの体を動かさない。
けれど、その高潔な意志の輝きを瞳に宿すローレッタに、男は口端を動かし、命令した。
顔を見合わせる、しろがねの射手たち。しばらく逡巡していた彼女たちは、男に景気よく尻を叩かれ、顔を赤らめながら諦めたように動き出した。
いそいそと小瓶を取り出す彼女たちは、ドロリと垂れる優しい黄金の蜜で両手を濡らし、ローレッタの暴かれた裸体に次々と触れる。
「あ、貴方たち、何を……――お゛っ!?」
柔肌に直に蜜を塗られた、ローレッタの変化は劇的だった。
「ミケラの蜜」の破壊力を、射手たちはイヤと言うほど体感している。どんなに色恋を知らない純潔だろうと、一滴これを垂らせば淫らに喘ぐ娼婦に堕ちる。
蔑視に憤りしろがね人を救おうとする生真面目なローレッタには、きっと過ぎたる毒であろう。それを分かって射手たちは、男の命令に逆らえなかった。
「あ゛っ、はっ……!? ん゛っ、ひっ……!?」
必死に声を噛み殺そうとするローレッタの唇から、甘やかな喘ぎが零れている。
両手を使えればまだ耐えられただろう。だが力尽きたローレッタに、そんな余力はない。
射手たちのたおやかな手で体をまさぐられながら、ローレッタは必死で羞恥と快感に耐えていた。
そんなローレッタを気遣うように、射手たちの動きは緩慢だった。
「ミケラの蜜」への恐れから、射手たちの動きはぎこちなく、敏感な箇所を避けるように触っている。それが返って焦らす結果となり、耐えるローレッタの性感を高めるとも知らぬまま。
淫猥な水音を立てて行われる優しい責め苦は、数十分続けられる。
「あ゛……ぁ゛……ん゛、ぁ゛……」
やがって、ぐったりと力の抜けたローレッタは、意味を為さない甘い吐息で唇を濡らしていた。
頬は上気し、快楽に火照り、だらりと抵抗の余地を奪われた体を、射手たちはなおも命令されるがまま、執拗に優しく撫で回す。
その時、苛立ち混じりの男の声が、射手たちの動きを止めた。蜜の効果で発情する彼女たちはびくりと震え、色情の混じった目で男を窺う。
やれ。顎で使う男の命令はシンプルだった。射手たちは迷いを見せるものの、足を踏み鳴らす男に、顔を赤らめて従う。
しろがね人の彫刻のような手が、ローレッタの性感帯に及んだ。
「あ゛んっ!? な、なぜ、今更ぁっ、ひん゛っ!」
首筋が、唇が、柔乳が、蕾のような突起が、秘所が、その内側まで、丹念に蜜を塗り込まれる。
ローレッタの反応は劇的だ。じっとりと湿らせるような愛撫のあと、突然に性感帯を刺激される。
その高潔さゆえに、男を知らぬ、初心な乙女に耐えきれる所業ではない。盛大に喘ぐローレッタは、せめても、しろがねの射手たちに訴えかける。
「た、頼む、ぅん゛っ! こ、こんな真似、しないでくれ、あ゛っ!」
ぬるぬると動く六つの手。とても無視できない快楽に、負けじとローレッタは舌を動かす。
「あ、貴女たちは、悪く、ない、ひん゛っ! わ、悪いのは、あの男だ、お゛ん゛っ!
だ、だから、忘れないで、くれ、あ゛っ! し、しろがねの、民としての、誇りを、お゛っ!」
虐げられ、なお優しく、正しくあろうとした、しろがね人の矜持を取り戻させようとするローレッタ。
コシコシと乳首を擦られ、クチクチと秘裂を撫でられ、甘さのたっぷり乗った声で、快楽によがるしかない姿で、それでもローレッタは諦めない。
きっと、必ず、届くはずだと……もはや男の従順な雌でしかない射手たちの顔を見ようともせず、ローレッタは訴え続け。
「あ゛っ!? やっ、ま、待って、あ゛~~~っ!?」
刺激を受け続けた体が耐えきれず、絶頂。迸る初めての快楽に、ローレッタはぶるりと大きく痙攣した。
しろがねの女たちに抱かれて、腰を跳ね上げながら絶頂する女騎士。眺める男からすれば、実に小気味良い見世物である。
だが、まだ終わらない。指先での男の指示に、しろがねの女たちは諾々と従い、ローレッタを激しく嬲った。
「あ゛っ!? な、なんで、いきなり、ん゛お゛~~~っ!?」
余韻冷めやらぬ体を弄られ、下品な嬌声を上げるローレッタ。
ガクガクと膝を震わせ、力の入らない腕で抵抗を試みるも、射手たちのそっと添えられた手に押さえつけられる始末。
ローレッタはただ、与えられる快楽によがることしかできない。抵抗を封じられた女騎士は、立て続けに絶頂する。
「お゛ん゛っ!? ひん゛っ!? あ゛っ、ひぁ゛っ、あ゛~~~っ!?」
二度、三度、四度五度六度。女たちの手は止まらない。畳み掛けるように、ローレッタの体に快楽を教え込む。
「あ゛~~~っ! あ゛~~~っ! あ゛あ゛~~~っ!!」
ローレッタの体が一際大きく跳ね上がり、秘裂から大量の潮が一気に噴き出る。
ぷしぃいいいッ! と淫猥な水音を立てて、眺める男の足先まで潮で濡らすローレッタ。
はくはくと動く唇からは舌が飛び出て、垂れ下がり、紅潮した
一頻り痙攣したあと、ぐっ……たり、と、動かなくなるローレッタ。
散々な痴態を晒した女騎士は、しろがねの女たちの手が止まったのを感じ、無意識に、責め苦が終わったと勘違いした。
甘く熟れて食べ頃の体は、まだ誰も満足させてないと言うのに。
ゆるりと気を抜いてしまった代償を、ローレッタはすぐに味わうこととなる。
女たちの痴態を眺め、獣欲を滾らせていた男の腕が、遠慮無しにローレッタの股ぐらを開かせた。
「あ゛っ!? な、何を、お゛っっ――――」
心の準備も覚悟も全く出来ていなかったローレッタは、胎の奥底に響く衝撃に一瞬意識が飛ぶ。
「お゛っ、ほぉ゛っ……? ……――お゛ぉ゛お゛~~~っっ!?」
呆気なく男の剛直に貫かれた女騎士は、疑問符ばかりの顔を快楽に染め上げ、今日一番の絶頂に達した。
「お゛~~~っ!? お゛~~~っ! お゛お゛~~~っ!!」
女性のものとはとても思えない、はしたない嬌声を叫びながら、ローレッタはガクガクと痙攣する。
胎の奥にずっしりと感じる、熱気を帯びた男の剛直。内臓が押し上げられ苦しい筈なのに、多幸感が溢れて止まらない。
「ミケラの蜜」の誘淫作用、それはしろがねの女たちの愛撫によって何倍も高められ、色を知らないローレッタの体を完全に染め上げている。
男に犯されても、媚を売り、受け入れる娼婦の身に堕とされた女騎士に、できることはもうなかった。
ただただ男に貪られ、淫らに濡れた雌の顔を晒すのみである。
「お゛んっ! お゛ひぃっ! あ゛っ! んあ゛っ!」
力強く腰を突き込まれる度、艶かかな声でローレッタは啼いた。
抵抗はしろがねの女たちに絡め取られ、強引に開かされた股を閉じることもできない。
なす術のないローレッタは、それでも、気丈さを見せつける。
「ま、敗けて、なるもの、か、あ゛んっ! ミ、ミケラ様の、騎士、として、お゛んっ!
しろがねの、安住のため、んお゛っ! 敗ける訳、には、いかぬのだ、あ゛はぁ゛っ!」
甘く爛れ切った矜持の発露は、男の興奮を誘うスパイスにしかならない。
更に加速する腰打ちに、懸命に耐えようとするローレッタは、不意に気づいた。
この責め苦のような快楽の、その終わりとは、即ち――
ズドンッ! 一際強く打ち込まれたローレッタは甘く啼いて、思わず叫ぶ。
「や、やめろぉ、お゛ん゛っ! やめてくれ、んあ゛ぁ゛っ!
き、貴様、何をしているのか、分かって、あ゛あ゛~~~っ!?」
男の動きは止まらない。ローレッタの抵抗を、むしろ楽しむように、顔影に嗜虐を浮かべている。
その眼光に見下され、不自然に胸を高鳴らせるローレッタは、無意識にしろがねの女たちへ目を向けた。
言葉はなく、だが、助けてほしい。懇願するようなその視線は、けれどすぐに、凍りつく。
女たちは、ローレッタの情事を見つめながら、股に手を差し入れていた。
濡れそぼった水音と、甘く湿った幽かな吐息。頬を火照らせ、艶めく女たちは、一斉にローレッタへ顔を向ける。
快楽に蕩けた笑みだった。男を待ち望む笑みだった。
ローレッタの行き着く先を、暗示するような笑みだった。
「ぃ、あ、やめ、て……お゛お゛~~~っ!?」
ぞわぁ、と肌を粟立たせる怖気は、叩きつけられる快楽に塗り潰される。
犯されて、罅割れたローレッタの矜持が、ついに決壊した。
「やだ、やだぁ!? やめて、助けて、助けてミケラ様ぁ!!
お゛んっ!? ひっ、あ゛っ、やめ、あ゛~~~っ!?」
凛とした気位をかなぐり捨てて助けを求めるローレッタに、男が重くのし掛かる。
女を絶対に逃さない姿勢。抱き潰されるローレッタは、いやいやと首を振って甘く泣き喚く。
「お゛んっ! お゛んっ! お゛っひぃ゛っ! お゛へぇ゛っ!」
そんな幼く逆行した逃避さえ、男は許さなかった。丹念に、分からせるように、限界まで奥底をえぐる。
そしてローレッタが、ついに限界を迎えた瞬間。
「お゛お゛お゛~~~~~っっ…………」
ドロドロに白濁した精液が最奥で放たれ、決壊した心ごと、ローレッタを呑み込み、果てさせた。
ビクビクと断続的に、ローレッタの体が揺れる。
女騎士を抑え込みながら、思い出したように腰をゆすり、何度か秘裂をえぐって、残った精を吐く男。
されるがままのローレッタは、痙攣する手を、しろがねの女たちにそっと握られ。
満足した男が離れた時、残されていたのは、汗と蜜に濡れ、白濁に汚れた、騎士だった女の蕩けた笑みだった。
「……なぜ、私を生かした」
弱々しく座る愛馬にもたれかかるローレッタは、ひどい隈で縁取られた目で、男を睨む。
祝福の前に座る男は何も答えず、渇いた顔で、揺れる灯を見つめていた。
返事を期待していなかったのか、ローレッタは馬毛に体を埋め、顔を寄せる愛馬を撫でる。
理由など、明白だ。強姦した女を生かす理由など、これからも同じ用途で使うためだ。
「――後悔するぞ」
だからローレッタは、怨念渦巻く眼で睨み、座る男に吐き捨てた。
「どのように穢されようと、私の信念は揺らがない。
ミケラ様は、しろがねの安住を約束して下さった。ならば果たされるその日まで、私が決して屈しない。
乱暴なる痴者よ、覚悟しろ。ローレッタの戦鎌が、必ずや貴様の息の根を止めてやる」
今は愛馬に縋るのみでも、ローレッタの高潔なる意志は健在だった。
それをちらりと一瞥した男は、思い出したように、どうでも良さそうに口を開く。
>【ミケラの居場所を伝える】
言葉の終わりを待つ事もなく、ローレッタは鼻で笑った。
「従順とならぬと見るや、今度は言葉で愚弄するか。
カッコウの同類などではなかったな。貴様の卑劣の前には、比べられるカッコウが哀れというものよ」
病んだ眼で睨むローレッタは取り合わない。当然だと男は判断する。
ならば物証を手に入れよう。祝福から立ち上がった男は、円卓に移動した。
次回、催眠ショタガキ囁きASMR株価大暴落ミケラくんちゃんとの濃厚ホモセックス回!!!
苦手な人は事前に避けろ!!! 避けなかった読者はまんじりともせず受け入れろ!!!