※この作品はR-18です。

竜の理を打ち壊したる先に見しもの   作:狗狼

1 / 1
 行く当てのないヒューゴを〈薔薇の宮殿〉へ斡旋した〈覚者〉。
 高級娼館で働くことになりある種の覚悟を決めていたヒューゴだったが、自分に手を出そうとしない〈覚者〉にしびれを切らして……。

 〈覚者〉にとっては〝二度目〟の初夜話となります。

※この話はPixivに同じものを投稿しています。


根源

「あんた、結構抜けてるよな」

 いまだ少年らしさの残る顔で、ヒューゴが屈託なく笑った。

 

 掃き溜めに鶴などともいうが、掃き溜めの弱者がどんな目に遭うかは、私もよく知っている。

 悪名高き赤蛇団の中で、子供がひとりで生き抜くにはどれだけの辛酸を舐めたことだろう。想像に難くはないが、その苦難が解るのは本人だけだ。

 それでも、似たような境遇で育った自分と重ね、掃き溜めから連れ出したいと思った。そんな私はヒューゴに総てを告げておきながら、先手を打って復讐の芽を摘み取ったのだ。

 復讐などしなくとも、人は生きて行ける。

 

「復讐をしようと来てみたら、復讐相手は全員死んでいた。こんな喜劇があってたまるかよ……」

 

 眉間に深い皺を刻み、行き場をなくした怒りと憎しみを噛み締めたヒューゴが、吐き捨てるように云った姿はいまだに印象的だ。

 しかしヒューゴはそこで心折れたりはせず、ふたたび前を向いて歩き出せるほどに純粋だった。その前向きさになによりも好感を持った私は、ヒューゴに仕事を斡旋することにした。

 盗み以外で身を立てられそうな仕事。いま自分が紹介出来る場所は〈薔薇の宮殿〉くらいだ。

〈薔薇の宮殿〉オーナーであったヴィルヘルミナは、アロルド暗殺の件で姿をくらましてしまったが、彼女が私と懇意にしていたことは周りに知られていた。おかげでヒューゴを用心棒兼案内(ホール)係として推薦することに問題はなかった。

「オーナーがいなくなってからタチの悪い連中が来るようになったとかで、腕の立つ人間が欲しいってことで雇ってはもらえたけどさ……」

 と、ここまでがヒューゴの今回の境遇を説明するものである。

 

 

 

 そしていま、私はヒューゴに組み敷かれていた。

「……ヒューゴ?」

「で? あんたはいつ俺を買うんだ? どうせ客を取るなら……初めてはあんたがいい」

 全く予想をしていなかった訳ではない。寧ろ、そう仕向けたのは私だ。手探りだった前回に比べれば、ヒューゴが私の手の中に落ちてくるように仕向けるのは容易かった。

「それが、用心棒だって云われて……少し拍子抜けした」

 どこか不貞腐れたように唇を尖らせるヒューゴ。

 前回、私はヒューゴの斡旋先として〈イサク用具店〉を紹介した。しかしそれはイサク自身の不幸があって初めて成り立つものであり、後味の悪さに今回は他の結末を選んだのだ。その結果、イサクが家族を失うことはなく、いまもバクバタルにて道具屋を営んでいる。

 この世界が箱庭の中で繰り返されているものであるとは私だけが知っており、ポーンたちは私の再訪を歓待してくれている。

 総てがやり直しになると解っていても、より良い結果を求めてしまった。私はせっかく〈竜の理〉の外へ出たというのに、結局戻ってきてしまったのだ。

「おい、聞いてるのかよ」

 物思いに耽る私の姿は、ヒューゴの目に気もそぞろに映ったのだろう。膨れっ面をしたヒューゴが私の顔を覗き込んでいた。

 結果を知っている私が選択肢を変え、歴史を操っているのだとも云える。そんな自分に対し、半ば呆れもする。

 本当は、独りで生きるための術を教えてやれば良い。この先、ふたりで共に生きる選択肢がないことを私は知っている。共に生きる時間は、繰り返すことでしか得られない。

 繰り返すたび新しい発見があり、私はそれを寄る辺にしてより良い結末を手繰り寄せようとしているのだ。

「聞いている。お前の声が好きだ、ヒューゴ。もっと好い声を聞かせてはくれないか?」

 ヒューゴが私だけに見せる表情は年相応の少年らしさにあふれており、思わず頬が緩む。そのまま真っ直ぐに目を凝視(みつ)め返すと、ヒューゴは悔しそうに唇を噛んだ。

「あんたのそんな顔、初めて見た。……いくらでも、聞かせてやるよ」

「良い子だ」

 そうして、私はヒューゴと上下を入れ替える。その背をベッドに沈み込ませながら、閉ざされた唇へと口付ければ、びくんと一瞬身を竦ませた。

「怖気付いているのかね?」

 ヒューゴはいままで耐え忍ぶことが多かったはずだ。笑えば年相応にも拘らず、口許は常に引結ばれている。

「違っ……そんなんじゃねえよ」

 両手で私を押し除けるようにして顔を背けるヒューゴ。

「あんたの周り、いろんな人がいるから……。人の良さそうなエルフとか、綺麗な女の人とか、鍛治師の姐さんとか……。だから、俺なんかでいいのかって……」

「あぁ、彼らか。よく見ているな」

 たまたま持っていた弓を進呈しただけのエルフに、以前の私を知っていたと思しき女領主、そしてドワーフの術を知る鍛治師。私としては彼らに縁(ゆかり)ある者の助力を得るため、必要最低限の手伝いをしただけにすぎないというのに。

「困っている人間を見ると放ってはおけない性質(たち)でね」

「……俺も、そのうちのひとりだろ?」

 不貞腐れたように頬を膨らませ、眉間に皺を寄せたヒューゴが私を見上げていた。まるで捨てられ掛けた大型犬の仔犬のようだ。

「私がこういうことをしたいと思う相手はお前だけだよ、ヒューゴ」

 再び唇を奪う。もう逃す気はない。

 舌をそっと伸ばし、形の良い唇を撫ぜる。処が勝手の解っていない子供はなかなかにガードが固く、唇は硬く閉ざされたままだった。

 致し方なく、厚みのある唇を甘噛みする。反射的に開いた隙間に舌を差し込み、少々強引に歯列を割る。口腔に忍ばせた私の熱さに驚き逃げるヒューゴの舌を絡め取って、ちゅくちゅくと吸い立てた。

「ん……ふ、う……んっ、はっ……はぁ」

 初めは引け腰で辿々しく動いていたヒューゴの舌が次第に大胆さを増し、私に合わせるようにして深く絡み付いてくる。

「……ふぁ、あ…………んんっ、ふ。……あ」

 年若いヒューゴが性的なことに興味がない訳などないのだ。一度そのたがを外してしまえば、あとは本能に従ってただ貪欲に求めてくる。

 男とはそういう生き物だ。況してや、好いた相手を目の前にして理性を保てる訳がない。私も然り。

「はっ、ん……っ、んぁ。ふっ……ぁ、はっ……あっ」

 ヒューゴの口腔を思う存分貪りながら、襟許に手を伸ばすとクラバットを弛めて抜き取った。もう、火は燻り始めた。ヒューゴが身を引くこともない。ひとつひとつボタンを外し、胸許へと手を滑り込ませれば、服の下には赤い蛇が這っている。

 赤蛇団に属することを示す蛇の刺青だ。

「んっ、はぁ……な……に? ど、した?」

 キスを止めた私を、息も絶え絶えに見上げてくるヒューゴ。胸を大きく上下させ、だらしなく開かれた口端からは呑み込みきれなかった唾液が垂れている。

「高級娼館の男娼にしては、やや色気が足らんな」

 濡れた口端を舐め取って、ヒューゴに笑い掛ける。バクバタルの強い日差しに晒された小麦色の肌は、健康的ではあるが野生みが強すぎる。

「あんた以外……はぁ、相手にする気、なんか……ねェ、し……ふ、ぅ」

 ヒューゴが私に向けて両手を差し出してくる。肩に手が回って身体を引き寄せられ、ヒューゴの指が私の前身頃へ伸びてきた。私がするのを見倣って、ヒューゴも私の服を脱がせに掛かる。

「用心棒が客の相手をしている間に、素行の悪い輩が増えては困るしな。確り励むと良い」

 冗談めかしながら、私は愛撫を再開した。まずは首筋に口付け、それから肩口、右胸、脇腹へと、今度は指でなく唇を押し当て、ゆるゆると舌を滑らせてゆく。

 ヒューゴの身体を覆う赤い蛇が、ふるりと震えた。

「な、ぁ……これっ。……消した、ほ……が、いい?」

 まだ他人に触れられ慣れていないヒューゴは、ちょっとした刺激にも敏感に反応する。吐息にこもった熱の鎮め方を知らず、目端には涙を溜めていた。

「これ?」

「だって……あんた、刺青ばっ、か……触ってる……じゃんッ。あ……ふッ、ァ……」

 云われて初めて気が付いたが、私は存外この蛇が気に食わないらしい。刺青がいつどのようにして彫られたものかは、前回ヒューゴから聞いて知っているというのに。

 無垢な子供を体(てい)の良い道具さながらに扱き使っておきながら、簡単には足抜け出来ないよう成人を迎える前に身体に墨を入れさせる。

 身を飾るために墨を入れる者もいるが、ヒューゴのそれは烙印に他ならない。

 赤蛇団の悪名はバタルどころかヴェルンワースにまで轟いている。赤蛇団自体は私が壊滅させたが、悪事は千里を走る。当然、この膚を他人に晒す訳にはいかない。真っ当に生きようとするのであれば、こんなものは消してしまうほうが良い。

 とはいえ、一度入れてしまった墨はそう簡単には落とせるものではない。整形するにしても、一般人には到底稼げないような大金が必要だ。

「私よりも先に、ヒューゴに触れた者がいるのだと思うと悔しくてな」

 赤い蛇に舌を這わせて誤魔化すように云うと、ヒューゴが涙目で訴える。

「仕方ない、だろ……ッ。よ……やく、仲間になれるって……思っちまった、んだから……あっ、は」

 実際、いまとなっては泣きたいほど悔しく惨めな過去だろう。赤蛇団の頭領ランゾはヒューゴの両親を殺し、なにも知らぬ幼いヒューゴを保護すると見せ掛けて、散々扱き使ってきた。その上でトカゲの尻尾切りとして、ヒューゴに罪を擦り付けようとした。

 ヒューゴは真実を知らぬままそんな男に心酔していたのだ。先日までの愚かだった幼い自分自身に忸怩(じくじ)たる想いを抱いているのだろう。

 さらには総てを告げ、復讐を遂げようとしたヒューゴの目的を奪ったのは誰でもなく、この私だ。

「赤蛇団の名を知っていれば、これを目にしただけで大抵の人間は畏れを為すだろうな」

 残党や騙りが現れる可能性はあるが、目に付く限りは私が潰してやるつもりだ。とはいえいつまでも私が護ってやれる訳ではない。

「……俺みたいなのと関わりがあるって知れたら……あんたの立場、悪くなるんじゃ……?」

「ヒューゴ、自分を蔑むような言葉は良くない。口にした言葉は己を縛る呪いと化す。自分の居場所を脅かす存在は自分で排除出来るようになれ」

 諭すように笑み掛ければ、ヒューゴはおとなしく頷いた。会話の間、止まっていた手の動きが再開される。私の上着はようやく肩から滑り落ちていった。

「……俺、がんばる。あんたに迷惑、掛けられねえから」

「良い子には、褒美をやらねばな」

 先を続けようと微笑みかければヒューゴの指先が竜の爪痕に触れ、気恥ずかしげに目を逸らしたヒューゴの視線が私の胸許に落ちた。

「気になるか?」

 いままでとは一変して物珍しそうな瞳で胸の疵を凝視(みつ)め、物思いに耽るように指先で疵の形を撫ぜるヒューゴ。

「あんた本当に〈覚者〉なんだ……って、いまさら実感してる。心臓が、動いてない……」

 貴様モ鼓動ナシカ。

 ふと、ドレイクに遭遇するたび、脳内に響く言葉が過ぎる。

「心臓がない故に鼓動がない。にも拘らず、この身体は生きている人間となんら変わりがなく、普通に動いている。〈竜〉に奪われた心臓を取り戻すまで、歳を取ることもなく、屍人と違って朽ち果てることもないのだよ。気味が悪いだろう?」

 別段、気にしてなどいないが、私はことさら戯けて口にする。

「そんなこと、思わねえよ! だって、あんたが〈覚者〉じゃなかったら、俺はここにいない。なにも知らないまま、良いように使いっ走りにされたまま、あそこにいたはずだ……」

 ヒューゴが重々しく言葉を紡ぐ。

「それに、もしかしたら……役人に捕まったあと、牢から出れずに死んでたかもしれない……」

 そうだ。私はそんなお前を助けるために戻ってきたのだ。

 後半、涙目になっているのは、まだ心の奥底ではランゾのことが吹っ切れないからだろう。ヒューゴにとって赤蛇団での出来事はまだ新しい疵だ。

「ヒューゴ、泣くのはおやめ」

「泣いてなんかない。あんたはちゃんと生きてるし!」

 慰めようと手を伸ばせば、私が触れるよりも早くヒューゴが顔を上げて、私の股間を握った。

「生きてないなら、なんであんたはこんなんなってるんだよ!」

 半分怒った顔で私を睨み付けながら、熱を持ってガチガチに張り裂けそうな逸物の形を撫ぜるヒューゴ。私は溜まりに溜まった慾を吐き出したくて疼いていた。

「こんなんで、屍人と変わりないなんて云わせねえよ」

 そうだ。喩え〈竜〉に心臓を奪われようとも、私は生きている。

「……ヒューゴ、お前が欲しい。お前の中にぶちまけたい」

 ヒューゴを真っ直ぐに凝視(みつ)め、私は己の慾を正直に伝える。ヒューゴはふんわりと微笑みながら頷いた。

 

「っ……ふ、あッ。……ん……あっ」

 いままでに何度も耳にした、少年らしさを残す恥じらいの声。打てば響くといった、甘やかで凛とした鐘のような声。

 ヒューゴが生贄として選ばれてから、どれだけ耳にしたことだろう。この子供が己の意思の根源なのだと突き付けられてからは、どうにも抑えが効かなかった。

〈加護なき世界〉での限りある時間の中で、生き残った人々を救うべく世界を駆け回りながら、眠りに就く前には必ずヒューゴを傍に置いた。野晒しの自室で、周りの目も気にせず、眠りに落ちるまでこの身体を離さなかった。

 目が醒めればヒューゴは部屋から姿を消していたが、毎夜、衆人環視の中で両腕に抱え、他の人間に見せ付けるようにして部屋まで連れ帰った。顔を真っ赤に染めながらも、ヒューゴが逃げ出すことは一度たりともなかった。

 このヒューゴは、まだ誰の手垢も付いていない。これから私の手で初めての悦楽を味わうのだ。

「ヒューゴ、なぜ目を逸らすんだい?」

 足の間に陣取り、恥じいるヒューゴを見下ろしながら、ふたたび首筋に唇を這わせた。しなやかな筋肉に覆われた若い肢体を舌でなぞれば、ヒューゴは慣れぬ快楽に身を震わせる。

 指先を秘められた場所に滑り込ませれば、本来固く窄まっているはずのそこに滑らせた指先は、たいした抵抗を受けずつぷりと沈み込む。

「確りと準備をしてあるじゃないか」

 本人が抱かれる覚悟を決めていたこともあり、娼館という場所柄道具にも事欠かない。きっと手練れの娼婦たちに教えを請うたのだろう。ヒューゴの後孔は潤滑剤など使わなくとも私の指をやすやすと呑み込んでいった。

「あんたが、いつ来ても……いい、ようにッ……ふ、ぅ。あッ……」

 前回とは違うこの展開に、私の心はどうしようもなく昂っていた。ヒューゴが自ら選んで、行動した結果なのだ。そう思うだけで、滾る。

「んぁッ……」

 小さく喘ぐヒューゴの中へ潜り込ませた指先に、こりりとした小さな器官が触れた。ゆるゆると撫でていた指を曲げ、くるみ大のそれを強く押し上げてやる。

 未知の快楽を恐れるように強張っていたヒューゴの身体が弓形に跳ね、押し殺したようなくぐもった声が漏れる。

「ひァ、ァ……あ、ふ……」

 続くのは悲鳴にも似た喜悦の声。ますます顔を赤らめ、先ほどまでとは違う理由で目尻に涙が溜まる。まだ自ら深い部分へ触れたことはなかったのだろう。ヒューゴは初めて感じる悦と、思いの外大きな自分の声に戸惑いの表情を見せた。

「あッ! あぁ……ンッ、はッ!」

 喉許に手を差し入れて顔を上げさせ、目縁にそっと口付ける。感情に関係なく自然にあふれてくる生理的な涙をつっと吸い上げてやる。

「大丈夫だ。ヒューゴ、顔をもっとよく見せてごらん」

「や、だ…………あ゛あッ」

 かろうじて顔は上げたが、自身の意思では止められない涙を見られた気恥ずかしさから、目をきゅうっと瞑るヒューゴ。目縁に溜め込まれた雫がほろりと頬を伝い落ちる。

「厭? ここはそう云っていないぞ」

 人差し指と中指を根本まで潜り込ませて、ゆるゆると中を寛げながら、親指と薬指で睾丸を揉みしだく。ヒューゴの若い雄は、直接触れずとも天を向いてそそり勃っていた。

「ふ、ぁ……だ、って……あんたの指、気持ち、好いっ……ん゛、あッ!」

 熱く熟れた体内を弄んでいた指先をつるりと抜けば、ヒューゴは名残惜しそうな喘ぎを上げる。小刻みに震える腹筋に合わせて、張り詰めた肉茎が揺れた。

 抜いたばかりの指先をヒューゴの竿に絡ませれば、ぬるりとした粘液質の液体で濡れる。肉茎を伝い落ちる先走りの蜜は止むことがなく、ヒューゴの息遣いに合わせて次から次へとあふれ出していた。

「指だけで、良いのかい?」

 入り口が裂けぬよう確り解してあるとはいえ、自身で奥に触れたことはないのだろう。初めて味わう感覚に戸惑うさまが伺える。

「解、んねえ……よ。こんっ……なん、初めてなんだしッ。……あっ、は!」

 ヒューゴの屹立した陰茎の先には目縁と同じように透明な雫が溜まっていた。

 これ以上焦らすのは酷だろう。ヒューゴは、私に初めてを捧げようと一杯一杯なのだから。

「ヒューゴ……中に入るぞ?」

 指を失ってもほんの少しだけ口を広げたままの媚肉は、ヒューゴの息遣いに合わせて物欲しげにぱくぱくと開閉している。

 こくりと小さく頷くヒューゴに上から覆い被さるようにして、私は自身の逸物を後孔へと押し当てた。私自身、熱を持ちヒューゴと同じように熱り勃っている。

「あっ……」

 改めて私の慾を目の当たりにしたヒューゴが上擦った声を上げる。肉輪が先端に吸い付いてはいるが、自身のモノと同等かそれ以上の質量を持つモノが、身体に触れるのは初めてだろう。

 未経験者に痛みを与えず絶頂へと導くのは難しいが、受ける苦痛を少しでも紛らわせてやりたい。腹の上で張り詰めているヒューゴの若い肉茎に触れ、右親指の腹で膨れた亀頭を捏ね回し、先端に溜まる蜜を塗り込めてやる。

「……んッ、あ……あ゛ぁ!」

 私は刺激に腹を震わせるヒューゴを見下ろしながら、両足でヒューゴの腰を挟み込み、ゆっくりと自身を押し進めていった。快楽と苦痛の入り混じった声を抑えられず、ヒューゴは右手の甲を額に当て顔を隠す。腕の下で目はきゅうっと固く閉じられている。

 その姿を見て、顔を隠すのならばその聴覚と触覚に訴え掛けてやろうと、意地の悪い想いが沸き起こる。視覚を閉ざせば、代わりに情報を得ようと聴覚と触覚が鋭敏になる。

 私はヒューゴの頭の脇に左手をついて己の上半身を支えると、背を丸めて耳朶に熱った吐息を吐き掛けた。

「あぁ、ヒューゴ……。とても、愛らしいな……はっ、あ!」

「……ひぅ! あっ……」

 吐息に当てられてヒューゴがぶるりと身を震わせ、先走りの蜜があふれる。ヒューゴの肉茎を包み込んだ私の指先は先走りに塗れ、滑らかさを失うことがなかった。にゅるにゅると滑る粘液の助けを借りて指の動きを早め、亀頭を重点的に攻めながらヒューゴの中に押し入る。

「……あ、っ……あ、はァ!」

 私の手に収まったヒューゴ自身を愛おしさに任せて扱くたび、耐え忍ぶような掠れ声が上がる。

 小刻みに震える腹筋に、押し殺した喘ぎ。ヒューゴが快楽よりも、肉体的には苦痛を受けているのだと解る反応だ。肉茎に愛撫を加えることで多少は相殺させているが、本来こんなものを受け入れる場所ではないのだ。そう簡単に快楽を得られるはずもない。

 しかし苦痛を上回るのは、ひとつに繋がるという喜び。心で受ける愉悦と肉体が受ける苦痛の狭間で押し流されまいと、ヒューゴが必死で耐えている。

「あっ、はぁ……あ、ぅ」

 一番太い先端が熱い肉のうねりに包み込まれ、私はゆっくりと時間を掛けてヒューゴの中へ自身を埋め込んだ。粘膜に包み込まれた先端に小さなしこりが当たり、前立腺がごりっと私を撫でてゆく。と、同時に媚肉がきゅっと締まる。

「あ゛っ、ゔ……」

 なるべく丁寧に、優しく扱おうと思っていたはずが、結局は耐えきれずに押し入ってしまった。ヒューゴをどんな角度で貫けばどんな反応が返ってくるのか、私は知っている。

「ひぁッ!! ……あぁ……ぁ。ん゛んッ!」

 悲鳴と共に、ヒューゴの身体が大きく弓形に仰け反った。虐げられていたにしては肉付きの良い胸許がそり返り、大人と変わりのない喉仏が晒される。

 同時に手の中に収めた亀頭がぶわりと膨らみ、びゅくびゅくと熱い飛沫が噴き出した。私の手があふれ出す白濁に塗れる。

「ふ……まだ、入っただけだというのに、もう気をやってしまったのかい、ヒューゴ?」

「は、あぁ……。はぁ……だって、気持ち……好くって……はっ、あ……」

 互いの膚が触れあっただけでも気持ちが昂ってしまったのだろう。たいして触れてもおらず、入れただけだというのにヒューゴはそうそうに果ててしまった。しかしまだ若いのだから体力は有り余っているはずだ。

「たっぷり出たな、ヒューゴ。どれだけ溜め込んでいたんだね?」

 どろりとした粘液質の白濁に塗れた手をヒューゴ自身に見せ付けながら、己の口許へと運ぶ。指先に付いた精液をちろりと舐めてみせれば、顔を真っ赤にしたヒューゴが肘を突いて上体を起こし、私の手首を掴もうと手を伸ばす。

「なに舐めてんだよッ! 拭け、って……あ゛、う゛ん!」

 その手を避け、顔が近づいたのをよしとして、私はヒューゴを抱き寄せた。後孔は私の逸物を丸ごと呑み込んだままで、中途半端に起き上がったヒューゴが呻く。まだ受け入れることに慣れていない身体は、痛みしか感じていないはずだ。

「私は、お前の総てを味わいたいんだよ。ヒューゴ」

 上手く動けないヒューゴの耳許に顔を寄せ、柔らかな声音で囁く。怒りも悲しみも、喜びも苦しみも、総て私が与えたい。

 私がそんな自分勝手なことを思うのは、この子供を相手にしたときだけだ。

「ッ……はッ、ァ……。俺は……あんたのものだから、好きにしてくれていいよ……」

 中途半端な姿勢で、苦しげに喘ぎながらも健気に答えるヒューゴ。

 半ば力の抜けた腕を私の首に掛けさせ、深く繋がったままヒューゴの尻を支えながら、私は足を崩して胡座を搔いた。しがみ付くようにして私の頭を抱え込むヒューゴは、体位を変えることによって中のモノの位置が変わり、その刺激に声を殺して喘ぐ。

「ふ、ぁ……んぅ」

「恩に着せる積もりはないのだがな」

 盗賊上がりとはいえ、ヒューゴは根が真面目で素直すぎる。汗で額に張り付く髪を退けてやり、私はヒューゴの唇を啄んだ。

「あんたが、さ……俺に、生きる道を示してくれたんだよ……〈覚者〉さん」

 ヒューゴは私を真っ直ぐに見て、花が綻ぶように微笑む。

 ああ、やはり笑っているほうが良い。

「おいで」

 促すとヒューゴは膝を突き、自重を支える。私はほんの少し重さを感じさせなくなったヒューゴの腰を膝上に乗せて、確りと抱え直した。

「このほうが互いに触れ合えるだろう?」

 耳朶に口付けながら囁き、ヒューゴと胸を合わせる。ヒューゴが私の鼓動を感じることはないだろうが、私には力強く脈打つ鼓動が感じられる。それがヒューゴがひとりの人間としてこの世界で生きている証なのだと感じられ、喜ばしい。

 確りとヒューゴを抱きかかえる私とは逆に、ヒューゴの手が遠慮がちに背を這う。膝上に安定したことで両足を私の腰に絡めたヒューゴは、顔を外向きにして私の肩口に横たえた。

「だったら……もう少しこのまま……。っ……ん、ふぅ」

 本当に、まだ子供なのだ。

 私はヒューゴがまだ目にしたことのない世界を見せたくて、何度もあちらこちらへと連れ歩いたが故に知っている。この子供が、どれだけ好奇心旺盛ながらも臆病なのかということを。

 繰り返すが、ヒューゴが大人になるまで待つ時間が、私にはない。

「……なぁ〈覚者〉さん」

 とくりとくりと心音が響き、そこに混じるヒューゴの柔らかな声が心地好い。

「なにかね?」

 そして私の背に回っていた腕に力が込められた。

「あのさ……。俺がときどき、こうして抱き締めてやるよ」

 耳朶に唇を押し当て、ゆっくりと悪戯を仕掛けようとしていた私の耳に飛び込んで来た言葉に、私は驚きを隠せなかった。

「そしたら、あんたも生きてるって感じられるだろ?」

 ヒューゴがこちらを向いていないのが幸いといえよう。私が鼓動の話をしたのは初めてだ。しかもほんの気まぐれにすぎない。ヒューゴがこんな返しをするなどとは、まったくもって予想をしてなどいなかった。

「ヒューゴ……済まない。私にはもう、耐えられそうにない……」

「な、なんだよ……どうしたんだよ?」

 ほんの少し大袈裟に、眉間に皺を刻んで辛そうな演技をしながら口にすれば、ヒューゴは私を心配して顔を覗き込んでくる。

「お前の中にぶちまけたいと、云ったろう?」

「え゛ぅ゛、ん゛ッ! おっ、き……」

 私の変化に動揺したヒューゴが大きく仰け反った。目の前に晒された喉に目を奪われた私には抑えが効かず、後ろ頭を支えるように指を添えるとヒューゴの喉へ口付けた。飛び出た喉仏に舌を這わせながら、腰をぐずぐずに突き動かしてめちゃくちゃにしたい衝動に、かろうじて耐えていた。

 この子供をもっと好い声で啼かせたい。もっともっと声を聴きたい。ヒューゴに対する欲望には限りがない。

 腕の中にある若い肉体は、ちょっとした刺激にも過敏な反応を示す。いまもまるで逸物が喰いちぎられそうなほどに締め付けてきている。そんな貪欲さを持っている。

「ヒューゴ、腕を首に回してごらん」

「?? こ、う……?」

 一度背から離した腕を首に回させ、私はヒューゴの尻を両手で抱えた。

「そう、良い子だ。動くぞ」

「ぇ……あっ!」

 腕と膝を使ってヒューゴの身体を持ち上げる。ヒューゴの体内の奥深くまで入り込んでいた私の肉棒が抜け落ちるのではないかと思えるくらい引き上げ、一旦動きを止める。急な刺激にヒューゴは驚き、内壁がさらにきゅうっと私を締め上げた。

「ふ、ぅ……は、ぁ」

「あ゛ッ、あッ……あ゛あ゛ッ! ひぁっ……」 

 ヒューゴの両腕が私の首にきつく巻き付き上半身は身動きもままならないが、私の腕はヒューゴの尻肉を鷲掴みにしている。膝と両腕を使えば、ヒューゴの身体を支えて上下に揺さぶることに支障はない。

 逸物はすでにヒューゴの体内をみっしりと埋めているが、潤滑液は足りていない。一度でも抜け落ちてしまえば、痛みを伴わずに挿入し直すのは難しいだろう。私は深いストロークを描きながら、丁寧な抽送を開始した。

 ずん、ずんと一定のリズムでヒューゴの奥を突き上げる。

「んあ、あっ……ああ゛、んっ! ん゛ぁ! あぁッ! あ゛ぅ……」

 ヒューゴは熱く激った肉塊に体内を掻き回される感覚に翻弄されていた。ぎゅうっと目を瞑り、悲鳴とも歓喜とも付かない嬌声を上げる。絡み付いてくるのは腸壁だけでなく、腕と足まで使い全身で私に縋り付いている。

 雁字搦めにされ、身動きが取れなくなるほど必死な抱擁を受けながら、私はヒューゴを労い慈しむどころか、熱くうねる体内へ己の子胤を吐き出したい慾に駆られていた。ヒューゴの内も外も穢して己だけのものにしたいと、ただただ絡み付いてくる肉壺へと腰を穿つ。

「ふ、ぅ……ゔ、ぁ……あッ! ん゛ぅ……ひ、ぁ……あ゛ん」

 ヒューゴの尻肉が私の内腿に当たり、ぱんぱんと汗で湿った打擲(ちょうちゃく)音が響く。それに合わせて途切れがちに漏れる喘ぎと、獣じみた息遣い。ヒューゴの額には玉のような汗が浮かんでいた。拭って遣りたいが、ヒューゴに掻き抱かれたままでは思うようには動けない。

「ヒューゴ……はっ、あぁ。……ん」

 ただ、眼前の首筋に口付け、流れ落ちてくる汗を舐め取って、膚をちゅっと吸い立てた。響くリップ音に気付いたヒューゴが薄らと目を開ける。

「辛いか?」

「あ゛ッ、ふ……ん゛ぅ……」

 そう問い掛けるが、淺ましくも腰を打ち付けるのは止められない。私の激しい突き上げに耐えきれなくなったヒューゴの腕から力が抜ける。ようやく顔が動かせるようになった私は、その目縁に溜まる生理的な涙を吸い上げてやった。

「だい、じょうぶ……。……っ、ふぅ……あんたと繋がるのもっ、触れ合うのもっ、気持ち好い……し」

 目が合うとヒューゴは悩ましげに息を吐き、口端を煽情的に吊り上げる。

「ん、ふぅ……。ねえ、あんたはっ……?」

「あぁ。お前の中は熱くて、キツくて……最高だ、ヒューゴ」

「よかっ、た……あ、はぁ」

 動きを阻害しない程度の力で、ふたたび腕を巻き付けてきたヒューゴが、私の耳許で囁く。

「腹ん中……あんたで、いっぱいでっ……苦、しいのにっ、むずむずして……あッ、は……おかしくなりそ、で……」

 後ろで達するというのは、女性を相手にしているだけではまず経験することのない感覚だ。強がってはいるが、ヒューゴが期待と共に不安を感じていた。

「愛しているよ、ヒューゴ」

 心音は母胎内にいたときの記憶を呼び醒まし、人に安らぎを与えるものでもある。心臓さえあれば、私にもヒューゴへ安心感を与えてやることが出来ただろう。

 しかしそれはないものねだりだ。

 いまの私には誠心誠意心を込めた言葉と行動で示すことしか出来ない。

「あっ、ん? ……あっ、は……っ、あ!」

 私の言葉にヒューゴの内壁が、きゅうっと締まる。言葉も態度もあまり素直ではないヒューゴだが、嘘が吐けないことも私は知っている。狡いとは思いつつもそれを利用して、搦手でヒューゴを手に入れたのだ。そう知ったとき、この子供はいったいどんな反応をするだろうか。

 これから先、一生告げる気はないが、想像はしてしまう。

「お前の乱れる姿が見たい」

 額を突き付けて鼻を擦り合わせ、ヒューゴの顔を覗き込む。

「俺だって……あっ、ふ……あんたのこと……あ……」

 ヒューゴが顔を真っ赤にして、なにかを伝えようとしている。我慢を強要される人生を歩んできたヒューゴが、自らの言葉で想いを告げようとしていることが、私にはなによりも嬉しい。

「……愛、してる……。こう……して、るのもっ……はぁ、厭なんかじゃ、ない……ん、だってば!」

 肝心なセリフを口にするとき、ヒューゴは顔を背けてしまっていた。揶揄(からか)ってやろうと思い声を掛けようとしたそのとき、私の身体に回された腕へと力が込められた。

「なのにっ! なんで、あんたはいつもっ……自分が全部責任取らなきゃいけない! みたいな顔してんだよっ」

 その言葉に息を呑む。悟られぬようにしていたつもりだった。

「俺は、あんたと一緒にいられて……すっげえ、嬉しい。あんたのやり方で、いっぱい愛してくれよ……遠慮なんて要らねーからッ」

 この子供はなにも知らないはずなのだ。にも拘らず、私の胸に刺さる言葉を残す。

「手加減などしないぞ。今夜は精魂果てるまで、付き合ってもらおうか」

「へへっ、望む処だって」

 それから私は、意識を失うまで容赦なくヒューゴを愛し、抱き潰したのだった。

 

 

 

 目が醒めて私は傍らで眠るヒューゴの手を取る。ヴェルンワースでの生活で、多少目立たなくはなったが、元々の荒くれた生活のせいで小さな疵がたくさんある。

 それでも、いまこの手は汚れていない。

 前回、私はヒューゴを牢獄から出すために看守に賄賂を渡した。しかし、ヒューゴはバクバタルの牢獄から自力で抜け出し、赤蛇団のブレフトを殺害していったのだ。自分はブレフトのことなど、気に留めてすらいなかった。それ以上ヒューゴの手を汚させまいとして首領であるランゾの命を先に摘み取った。

 しかし今回はヒューゴのあとに捕縛されたブレフトを私が先に殺しておいた。

 だからこの手は、まだ血に染まってなどいない。

「ん……」

 綺麗なままの手を取り上げ、そっと口付ける。

「なにしてんだよっ!」

 指先に落ちた唇の感触に目を醒ましたヒューゴは、顔を朱に染めながら飛び起きた。

「なにを恥ずかしがっているんだ。眠る前にはもっといろんな処に触れているだろう、ヒューゴ。お前の中の熱さもキツさも、総て知っている」

 私の腕の中で快楽を享受し、羞恥に喘ぐ若い肢体。その痴態を思い返しながらしれっと口にすれば、ヒューゴの手が飛んできて口を塞ぐ。くっと喉を鳴らしながら口を塞ぐ手を押さえて掌を舐めると、ヒューゴは身を捩って踠くが逃す気はさらさらない。

「やっ……め、こんの変態エロジジイ!」

「じじいと云われるような歳ではないのだがね」

 藪から棒に睨み付けてくるヒューゴの掌を上に向け、そこに小さなものをふたつ押し付ける。ものが目に入らぬよう、手の中で指を一本一本折って握らせた。

「ヒューゴ、お前にこれをあげよう」

 中身をまだ目にしていないヒューゴは、不思議そうに瞳を瞬かせる。

「なんだ?」

 ゆっくりと拳を開いたヒューゴが驚きに目を瞠った。

 くるくると表情の変わるさまが愛らしい。思わず自分の頬も緩んでいるのだろうと解る。

「……これ。なんで、ふたつ?」

 ヒューゴが不思議そうに首を傾げる。

「解らないのかい?」

 察しの悪い子供に対し、私はやや呆れたように肩を竦めてみせた。

「なんだよ、それ!」

 ムキになって眉を吊り上げるヒューゴ。

「では、お前が好ましいと思った相手に贈ると良い」

 そこへしれっと提案する。

 ヒューゴは不服そうに唇をへの字に結び、俯く。

「……そんなの、あんたしかいないって」

「ならば、お前が嵌めてくれ」

 間髪入れず、俯いた顔の下に左手を差し出す。察しの悪い子供でも、こうまですれば解るだろう。

「…………あ……あぁ!」

 いくぶん長い間のあとに、頬を朱に染めたヒューゴがゆっくりと居住まいを正した。そして私の薬指に、その指輪を嵌める。

「もうひとつは私に嵌めさせてくれるかね?」

「!! もちろん!」

 さらに真っ赤になったヒューゴが顔を上げた。その表情が照れくさそうなのを目にして、私のにやけも止まらない。

 おずおずと差し出された指に〈契りの指輪〉を嵌めてやる。

「この先、どんな未来を選ぶとしても、お前と共に生きることは難しいだろう……。だが、心だけはこの指輪に込めて、お前の元に置いてゆくよ、ヒューゴ」

 私はほんの少し厳かな声音で云うと、指輪の嵌った薬指の根元に恭しく口付けた。

「そんなに心配しなくったって、大丈夫……」

 ヒューゴの声は微かに震えていたが、私は気付かないふりをする。

「解ってる……ちゃんと、解ってるって。なんてったって、あんたは〈覚者〉なんだし、王様になるんだからさ……」

 自分に云い聞かせるようにして、ヒューゴが無理矢理微笑んだ。この子供が、本当はとてもとても臆病なのだと私は知っている。

 

 

 私には王座に付いた記憶があった。

 それをどのように為し遂げたのかまでは、憶えていない。

 その記憶があったからこそ、二度目の王座で〈観る者〉の存在に気が付けたのだ。

〈安寧〉を捨て〈観る者〉を追った先で、私は見た。世界の真実を。

 そして世界を〈竜の理〉から解放した。

 

 

 しかし、私は戻ってきてしまった。

 私がこの世界に干渉出来るのは、私の記憶が定かなあの場所からだ。ヒューゴと出逢う前のことは覆せない。

 遣り直しは発掘現場で声を掛けられる処から始まる。

 王座を目指すのであれば、なにも考えずただ目の前に用意されている道を進むだけで良い。そのまま歩き進めば難なく辿り着けるのは〈安寧〉だ。

 だが、自分は隠された世界から目を背けることを善しとはしなかった。

 故にヒューゴにも事実を伝えることを選んだ。なにも知らせぬまま、復讐相手であるランゾを消し、ヒューゴに〈安寧〉の道を歩ませることも出来たというのに、私はそれをしなかった。

 私は前回の記憶を辿りつつ、より良き結末へ幾つもの布石を散りばめながら、最速でヒューゴに出逢う道を選んだ。

 この先、ヒューゴは〈安寧〉に抱かれたままでなく、私と同じように自ら選び取った道を往くだろう。喩え、共に歩むことが出来なくとも。

「俺、いつでもここにいる……。いつ、あんたが帰ってきてもいいようにしとく……」

 微かに震える腕が伸びてきて、私の首に絡み付く。

 ヒューゴが呑み込んだ言葉の意を汲んで、私は頷きながら癖のある黒髪を撫で付けてやる。

 平素であれば子供扱いするなと突っぱねられる処だが、ヒューゴはそれ以上なにも云わなかった。しかし、この日は一日中私から離れようとしなかったのである。

 

 これから私が歩むのは、真実から目を背けずに、受け入れ、抗う道。

 愛する者のために、私は再び往こう、その道を。




 基本ポン覚派なので、この話の〈覚者〉はいわゆるうちの子ではありません。〈覚者〉の人物像は、ヒューゴより年上の男性、生い立ちは元盗賊とだけ決めています。見た目ほぼ描写なしですのでお好きに想像してください。
 ヒューゴ、覚者の性別年齢に拘らず「お前」呼びのようですが、年上おっさん認定相手にはあんたが良いかな、と。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。