※この作品はR-18です。

狩りの終焉 二部   作:伊駒辰葉

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エロシーンはないです!
裸ですけども!w


どうしてこうなるのよー!(by呉羽) 2

「全く、どうしてそう相変わらずなのかねえ」

 

 呆れたような、それでいてどこか懐かしむような顔で呉羽が言う。おや、と目を見張って順は呉羽をまじまじと見た。ゆらりと腕を伸ばした呉羽が潰れた順の右の目に触れる。眼球のない瞼にそっと触れた呉羽の目に僅かに哀しそうな色が宿る。

 

 今の順は左の目しか見えなくなっている。元々、右目は先の戦いの折に潰れてしまっていた。だがそんな順に力で目を作ってはめ込んだのが水輝だった。その結果、順は右の目も見えるようになったが同時に水輝の監視から逃れることは出来なくなった。

 

 だがそんな水輝の力も人間に使えばまた別の働きをする。順は微かに笑って呉羽の胸に触れた。水輝の力を埋め込んだ場所に触れた順の手を呉羽は拒絶しなかった。

 

「ちょっと安心したよ。いっくら水輝ちゃんの力でもね。やっぱ、オレが使うって段階でヤバいかもって思うし」

 

 独り言のように呟いてから順は呉羽の胸から手を離した。呉羽はまだ順の瞼に触れたままだ。その手がゆっくりと滑って頬を撫でる。情欲とは違う感情を読み取って順は口許に浮かべていた笑みを消した。細い指先が頬を滑って唇を撫でる。順は目を閉じてため息を吐いてから呉羽の手をやんわりと退けた。

 

「ダメだって。ウチにはものすごーく嫉妬深いコが居てねえ」

 

 いつものように気軽に笑って順はつかんでいた呉羽の手をそっと下ろした。じっと順を見上げていた呉羽がやがて嫌そうな顔をしてふん、と鼻を鳴らす。

 

「なに勘違いしてるのさ」

「そだよねー。呉羽ちゃんって優一郎くん一筋だもんね」

 

 あはは、と笑ってから順は静かに呉羽を横たえた。血の汚れはもう落としてあるし、傷は癒してある。後は心配はないだろう。順は軽々とベッドを降りて椅子に引っ掛けてあった服を着始めた。

 

「だったら最初から優一郎の使い魔にしてくれればいいのに」

 

 渋い顔でぼやいて呉羽が順を睨む。順はその気配を感じて振り返った。アロハシャツのボタンを留めながら軽く笑う。

 

「キミの場合、どっちかって言うと性質がオレに近かったからねぇ。優一郎くんの使い魔はムリだと思うよん。カレ、光の標、空の主だもん」

 

 今現在はだけど。そう付け足して順はジーンズに足を通した。怪訝そうな声を出して呉羽が顔をしかめる。椅子に腰掛けて靴下を穿いたところで順はああ、と呉羽を振り返った。

 

「あのさあ。今度ヒマな時でいんだけど、ちょっと仕事を一つ頼まれてくれないかなあ」

「どうせなら命令にすれば? 逆らえないんだから」

 

 冷ややかな声で言った呉羽にまあまあ、と笑ってから順は言葉を継いだ。

 

「ちょっと診て欲しいヒトがいるんだよ。人間用の医者にはもう診て貰ったんだけどさ」

 

 やっぱりデータ足りないから。そう付け足してから順は立ち上がった。スリッパから靴に履き替えてテーブルに置いてあった煙草をさらう。

 

「……まあ、それは構わないけど」

「そんじゃ、ヒマな日に連絡ちょーだいね。オレの番号は」

 

 そう言ってから順は呉羽の服の中から細身の電話を取り上げた。それを放ると呉羽が渋い顔で受け止める。どうぞ、と呉羽が嫌そうに促したところで順は自分の電話番号を教えた。

 

「もし、繋がらなかったら自宅の方にかけてくれてもいいからさ」

「じゃあ、わざわざ番号を教えることもなかったでしょうに」

 

 呆れたように言った呉羽に順はあはは、と笑った。すると露骨に呉羽が嫌そうな顔をする。

 

「何で元の性格とか思考とか残したのよ。使い魔にするならリセットも出来たでしょうに」

 

 不服のこもった呉羽の言い方に順は軽く肩を竦めてみせた。人を使い魔に変える術はあるが、順はこれまで使ったことはない。使い魔を必要と思ったこともないし、作りたいと考えたこともない。呉羽を使い魔に変えようと思ったのは単なる気紛れだ。それに水輝の力がなければ呉羽を使い魔には出来なかっただろう。

 

「オレねえ。自分が痛いのも好きだけど、人が痛がるのも好きなんだよねぇ」

 

 だらしない笑いを浮かべて順はのんびりと言った。すると呉羽がぴくりと眉を上げる。順は財布から紙幣を数枚取り出してテーブルに乗せた。呉羽は感情の見えない目で順の動きを追いかける。

 

「キミがキミでなくなったらつまんないじゃん。報われない想いってヤツにせいぜい苛まれてくんなきゃ」

 

 ねえ、と笑みかけて順は狭い部屋を横切った。悪党、と呟いた呉羽に片手を上げてその場から転移しようとする。だがその直前に気配を感じて順は発しようとしていた力をするりと引っ込めた。空気が揺らいだその場所に見知った顔が現れる。鋭い目をした桜を見て取って順は口笛を吹いた。

 

「これはこれは……木龍神殿が御自らお出ましとは」

 

 慇懃な口調で言ってから順は優雅に身を折った。胸に手を当てて礼をした順を桜が横目に睨む。口許に薄い嗤いを刻んで順は顔を上げた。胸にあてがっていた手の中に素早く龍宝珠を現す。一瞬で宝珠が大きな鎌と化す。踏み込んで切りかかった順の腕が強く震え、鎌の刃が軋みを上げる。

 

「いきなり切りかかるとは無礼ですね」

 

 ベッドに身を起こした呉羽が目を見張っている。順はちらりとそちらを見てから腕に力をこめた。桜は右手に握った扇子で鎌の刃を止めていた。いや、正確に言うと扇子に纏わせた結界で刃を阻んでいるのだ。

 

「桜ちゃんなら止められると思ったしね」

 

 へらへらと笑ってから順はおもむろに鎌を引いた。不快そうに眉を寄せて桜が軽く右手を振る。握られていた扇子はその一振りで消えてしまった。順は鎌の柄を肩に持たせかけてのんびりと呉羽を見た。唐突に刃を交えたことによほど驚いたのか、呉羽は唖然としている。順は視線を戻して桜の右手を見下ろした。今日の桜は動きやすそうなラフな格好をしている。

 

「破邪の扇、かあ。桜ちゃん、面白いもの持ってるね」

 

 ちょっと見せてよ、と気軽に笑って順は首を傾げてみせた。だが桜は厳しい顔で順を睨んだままだ。

 

「ただの封魔具です。それにこれはあなたには触れることはかなわぬ品。興味を持つ必要性もないと思いますが?」

「そのただの封魔具を何で桜ちゃんが持ってるのさ」

 

 にやにやと人の悪い嗤いを浮かべて順は桜をなめるように見つめた。桜は先日までは全く感じられなかった気配を纏っている。奈月に付き従い、使い魔と言い張っていた先日までとはまるで違う。今の桜が使い魔と言い張ろうとしても無理だろう。だが木龍神として覚醒しきっていないのも確かだ。もしも完全に覚醒していたら、桜のことだ。きっと気配そのものを隠してしまうに違いない。

 

「出所を聞いてどうなさるおつもりですか?」

 

 ゆらりと桜が片腕を上げる。順は目を細めて素早く力を織った。唐突に放たれた桜の力が力なく座る呉羽に向かって飛ぶ。悲鳴を上げた呉羽の手前で桜の力は順の築いた結界に弾かれた。力が結界にぶつかった拍子に発生した衝撃が部屋を揺らす。

 

「ちょっとお……。危ないっしょ? いきなり撃たないでよ、もう」

 

 顔をしかめて言いながら順はのんびりと桜と呉羽の間に割って入った。唐突に攻撃をされたことを漸く自覚したのか、呉羽が驚きの目で桜を凝視する。だが桜は顔色一つ変えず、じっと順を見つめた。

 

「何ゆえ、今さら青龍王に力を貸しているのですか?」

 

 問うた桜の声は酷く冷たい。それに、と呟いて桜が順の背後で硬直している呉羽を一瞥する。その視線は言葉以上に冷ややかだ。

 

 呉羽には桜に抵抗する術がない。使い魔にはなってはいるが、自分の身を守る結界すら展開出来る状態にまで力が定着していないことは判っている。順は両手に鎌の柄を握り直して唇を歪めた。

 

「なに? キミの大事な大事なお姫様には何もしてないよ、オレは」

 

 桜が動く理由はただ一つ。奈月の身に何事かがあった時、若しくは何事かが起こると予想される時だけだ。そして奈月に危害を加えようとする者に恐らく桜は容赦しないだろう。

 

「結果的に姫様に害をなす可能性のある者を見逃す訳には参りません」

「その論法で行くと、ウチの可愛い子供にも手ぇ出しそうだね、アンタ」

 

 低い声で告げて順は軽く床を蹴った。後ろに飛んだ順はベッドに着地して片腕に呉羽を抱き寄せた。焦った声を上げた呉羽が順を見上げる。順はそんな呉羽に笑みかけてからその場から転移した。




順VS桜ですかね。
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