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道代に通された部屋は、以前に優一郎が使っていた部屋だった。今ではすっかり部屋の様子も変わっている。所狭しと置かれていた端末の殆どは部屋から失せ、替わりに並んでいるのは本棚やオーディオセット、ダブルサイズのベッドにソファセットなどだ。リノリウム張りの床にはきっちりとじゅうたんが敷き詰められている。佑は不思議な気分で部屋を見回した。
壁には何枚かの地図が貼られている。佑は何の気なしに貼られた地図に近づいた。赤いペンで印が書かれている部分を見て眉を寄せる。地図にはたくさんの印がつけられているのだが、どういう理由で印がされているのかがよく判らない。赤い小さな丸は見た目には不規則にばらけているのだ。
続いて佑は小さな机を見た。机には数冊の本が置かれている。どうやら機械に触れると壊してしまうという性質は渚も水輝も変わらないらしい。この部屋には機械らしいものは殆どなく、唯一あるオーディオセットは旧式のタイプで大きなダイアルが幾つもついている。
佑がぐるりと部屋の様子を見回したところで道代が茶を運んできてくれる。佑は道代に会釈をしてからソファに腰掛けた。道代が恭しく礼をして部屋を出る。それを見送って佑は深々と息を吐いた。
最初は一体のヒューマノイドだった。初めてヒューマノイドを造った時のことを思い出して佑は遠いところを見つめた。少しずつ増えていたヒューマノイドは今はもう、自分の手を離れて増え続けている。ざっと数えただけでも保美の仕切るあの城に百体、この吉良瀬トータルソリューションに百体の計二百体は居るだろう。今はもう、優一郎の命令を受けなくてもヒューマノイドは勝手に増えている。
保美からの報告は毎日入ってくる。佑の使用する端末にはヒューマノイドのログが送られて来ているのだ。だがそのログを見なくても保美がしっかりと彼女達を管理していることはよく判る。同時にこの吉良瀬トータルソリューションでは道代や波絵がヒューマノイドを管理しているのだろう。今ではもう、吉良瀬トータルソリューションのヒューマノイドについてははっきりと知ることは出来ないが、増え続けていることは確かだ。それは吉良瀬トータルソリューションが企業として成長しているのを見れば明らかだろう。
しばし感慨に耽ってから佑はふと表情を曇らせた。今日、多輝に押し倒されて強引に抱かれた後、佑はしばらくぼんやりとしていた。だが多輝とのことに思いを馳せていた佑の思考を水輝の声が叩いた。驚いて慌てて部屋を駆け出そうとした佑はそこで思い止まったのだ。
佑に届いた水輝の声は情欲に満ちていた。渚に抱かれながら水輝は深い快楽に溺れていた。水輝と渚の間にはひと言では言い表すことの出来ない絆がある。ある一時期を姉弟として過ごしたというだけではない。彼らの絆については佑もまだはっきりと理解出来ない何かがあるような気がするのだ。
結局、思い悩んだ末に佑は足を止めた。やがて水輝が意識をなくして眠りにつくまでの間、佑は一人で考え続けていた。このところ、水輝が不安定な理由について考えを巡らせてはみたが、結局は答えが出なかった。
渚は水輝が立城の帰還を望んでいないと言った。水輝の強固な防御壁を超えて思考を読んだとも言っていた。だが水輝にとっての立城は特別な筈だ。佑はそう思いながら軽く唇を噛んだ。
不意にドアが開く。考えに没頭していた佑はドアの開く音に慌てて目を上げた。ごめんなさいね、と微笑んで渚が入ってくる。
「お待たせしたかしら」
笑顔で会釈をして渚が言う。
「いいえ」
笑顔で答えて佑は首を横に振った。そう、と頷いて渚が静かに佑の正面に腰掛ける。佑は何気なく目で渚の動きを追った。不思議と渚の動きは静かなのにどこか荒く見える。だがよく見るとそれは水輝の動き方にとても似ているのだ。
水輝が初めて男の性を纏った時、身近には渚が居た。水輝はその記憶を封じて人の子供としてとある家族に紛れたのだ。龍神としてそれまで生きていた記憶を完全に封じた水輝はまるで人の子と同じように乳飲み子から幼児に、そして児童にと成長した。その過程で水輝は自分でも気付かない内に渚の性質を真似るようになったのではないだろうか。
「水輝さんとあなたは、真に姉弟なんですね」
感慨を込めて呟いてから佑は少し俯いた。あら、と微笑んで渚が首を傾げる。
「姉弟と言ってもほんの少しの間だから」
そう告げた時の渚は不思議なほど優しい笑みを浮かべていた。もしかしたら水輝と共に育っていた頃のことを思い出したのかも知れない。そう思いながら佑はつられたように微笑んだ。
まあ……渚と一緒に生活していた頃の話はあるんですけど、手元にないんですよね(物理)